この記事のポイント
- 補償金は対価・収益・経費・移転・その他の5区分です(No.3555)
- 特例の対象は原則、対価補償金だけ。総額から5,000万円を引くのは誤りです
- 移転補償金は使った額は非課税、残った額は一時所得になります
- 引き家なのに取り壊した場合など4つの例外は対価補償金として扱えます
まず結論:特例の対象になるのは「対価補償金」だけです
収用等で受け取る補償金は、名目によって課税のされ方が変わります。収用等の課税の特例の対象になるのは、原則として「対価補償金」だけです。
収用等の課税の特例とは、最高5,000万円の特別控除と、代替資産を取得した場合の課税の特例です。国税庁は次のように説明しています。
これらの補償金のうち収用等の課税の特例の適用がある補償金は、原則として、対価補償金だけですが、課税上の取扱いは、次表のとおりです。(国税庁タックスアンサーNo.3555「収用等により取得する各種補償金の所得区分」)
「補償金の総額から5,000万円を引けばよい」という理解は、正しくありません。内訳書に並んだ名目のうち、どれが対価補償金なのかを先に見分けます。
特例そのものの要件や期限は公共事業で土地を売ったときの5,000万円特別控除 収用等の特例と4つの要件で解説しています。
補償金は名目で5つに分かれます
国税庁は補償金を5つに分類しています(国税庁タックスアンサーNo.3555)。軸は「何の埋め合わせとして払われるお金か」です。
| 名目 | 何の補償か | 原則の取扱い |
|---|---|---|
| 対価補償金 | 収用等された資産の対価 | 譲渡所得・山林所得の計算上、課税の特例の対象 |
| 収益補償金 | 事業の減収や損失の補てん | 不動産所得・事業所得・雑所得の総収入金額に算入 |
| 経費補償金 | 事業上の費用の補てん | (イ)不動産・事業・雑所得、(ロ)山林・譲渡所得の総収入金額に算入 |
| 移転補償金 | 資産の移転に要する費用の補てん | 支出した額は非算入。残った分は一時所得 |
| その他の補償金 | 原状回復費、協力料など | 実態に応じ各種所得に算入。非課税に当たるものは課税されません |
この表のうち、収用等の課税の特例が働くのは1行目だけです。2行目から下は譲渡所得ではない場面が多く、5,000万円の特別控除は当たりません。
収益補償金と経費補償金は「事業の側」の所得になります
収益補償金は、事業の減収や損失の埋め合わせです。事業の態様に応じ、不動産所得・事業所得・雑所得の総収入金額に算入します(国税庁タックスアンサーNo.3555)。アパートなら不動産所得、店舗なら事業所得で、譲渡所得ではないため特別控除の対象にはなりません。
経費補償金は、事業上の費用の埋め合わせで、次の2つに分かれます。
- (イ) 休廃業等により生ずる事業上の費用の補てん…不動産所得・事業所得・雑所得の総収入金額に算入
- (ロ) 収用等の対象以外の資産(棚卸資産を除く)に実現した損失の補てん…山林所得・譲渡所得の総収入金額に算入
一定の前提を置いた目安です。事業用の土地建物が収用され、内訳書が次のようになっていたとします。
| 内訳の名目 | 金額 | 入る所得 | 特例の対象 |
|---|---|---|---|
| 土地の対価補償金 | 40,000,000円 | 譲渡所得 | ○ |
| 建物の対価補償金 | 8,000,000円 | 譲渡所得 | ○ |
| 収益補償金(休業に伴う減収の補てん) | 3,000,000円 | 事業所得の総収入金額 | × |
| 経費補償金(休業期間中の費用の補てん) | 1,200,000円 | 事業所得の総収入金額 | × |
| 移転補償金(建物等の移転費用の補てん) | 5,000,000円 | 総収入金額に算入されません | × |
| 合計 | 57,200,000円 | ― | ― |
補償金の総額は57,200,000円ですが、収用等の課税の特例の対象になり得るのは、対価補償金の48,000,000円だけです。残る9,200,000円は別の所得として計算します。
移転補償金は「使ったかどうか」で扱いが変わります
移転補償金は、建物や機械などを移すための費用の埋め合わせです。ほかと決定的に違うのは、受け取っただけでは所得にならないという点です。
その交付の目的に従って支出した場合は、その支出した額については各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されません。その交付の目的に従って支出されなかった場合または支出後に補償金が残った場合は、一時所得の金額の計算上、総所得金額に算入されます。(国税庁タックスアンサーNo.3555)
つまり、使った分は所得にならず、残った分だけが一時所得になります。建物等の移転費用として移転補償金5,000,000円を受け取り、実際の支出額が3,800,000円だったとします(目安です)。
| 項目 | 金額 | 取扱い |
|---|---|---|
| 受け取った移転補償金 | 5,000,000円 | ― |
| 交付の目的に従って支出した額 | 3,800,000円 | 総収入金額に算入されません |
| 支出後に残った額 | 1,200,000円 | 一時所得の総所得金額に算入 |
注意
「移転補償金だから課税されない」と考えて何も申告しないと、残った1,200,000円の一時所得が抜け落ちます。一時所得の金額の計算方法は生命保険の満期保険金に確定申告は必要?一時所得の50万円控除と2分の1課税で整理しています。支出内容が分かる資料を残してください。
名目が違っても「対価補償金として取り扱う」ことができる場合があります
ここまでは名目ごとの原則です。対価補償金として取り扱うことができる例外もあります。
| 名目 | 場面 | 取扱い |
|---|---|---|
| 収益補償金 | 建物の対価補償金が再取得価額に満たないとき | 満たない部分を対価補償金として取り扱えます |
| 経費補償金 | 事業を廃止する場合等で機械装置等を他に転用できないとき | 対価補償金として取り扱えます |
| 移転補償金 | 建物等の引き家・移築のための補償金を受けたが、実際には取り壊したとき | 対価補償金として取り扱えます |
| 移転補償金 | 移設困難な機械装置の補償金を受けたとき | 対価補償金として取り扱えます |
| 借家人補償金 | ― | 対価補償金とみなして取り扱われます |
とくに次の2つは見落とされやすいところです。
引き家の補償金を受けたが、実際には取り壊した
「引き家」や「移築」のための補償金を受け取ったものの、結局は建物を取り壊した、という流れです。名目は移転補償金ですが、実際にどうしたかが結論を分けます。
借家人が受け取る補償金
借家人補償金は、対価補償金とみなして取り扱われます。土地や建物を所有していない借家人でも、収用等の課税の特例の土俵に乗る場面があります。収用によらない立退きで受け取る立退料は別の整理になります。あわせて立退料をもらったとき・支払ったときの税金 3つに分かれる所得区分と、譲渡費用になる場合もご覧ください。
その他の補償金と、内訳書を受け取ったらすること
原状回復費や協力料などは、実態に応じ各種所得の総収入金額に算入します。ただし、改葬料や精神的補償など所得税法上の非課税に当たるものは課税されません(国税庁タックスアンサーNo.3555)。
ポイント
内訳書を受け取ったら、次の点を確かめてください。
- 補償金の名目と金額が項目ごとに書かれているか
- 対価補償金がどれで、いくらか(特例の対象になり得る部分です)
- 建物の対価補償金が再取得価額に満たないという事情がないか
- 移転補償金について実際にいくら支出したか(領収書・見積書を残します)
- 引き家・移築の補償金なのに実際には取り壊したという事情がないか
- 機械装置の補償金について他に転用・移設できるか
- 借家人として受け取った補償金が含まれていないか
実際の内訳書のどの項目がどれに当たるのかは、補償の積算根拠と、そのお金を何に使ったかを見なければ決まりません。内訳書を受け取った段階で名目ごとに分けておけば、入れ忘れも入れすぎも防げます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 補償金の総額から5,000万円の特別控除を差し引いてよいですか?
できません。特例の対象は原則として対価補償金だけです(国税庁タックスアンサーNo.3555)。内訳書で対価補償金がどれかを確かめてください。特例そのものの要件は公共事業で土地を売ったときの5,000万円特別控除 収用等の特例と4つの要件で解説しています。
Q2. 店舗の休業に伴う補償金を受け取りました。どの所得になりますか?
収益補償金に当たる場合は、事業の態様に応じ不動産所得・事業所得・雑所得に算入します(国税庁タックスアンサーNo.3555)。店舗なら事業所得、賃貸不動産なら不動産所得です。譲渡所得ではないため特例は当たりません。ただし建物の対価補償金が再取得価額未満なら、満たない部分は対価補償金として扱えます。
Q3. 移転補償金を受け取りましたが、全額は使いませんでした。残った分はどうなりますか?
交付の目的に従って支出した額は総収入金額に算入されず、支出されなかった分・残った分は一時所得になります(国税庁タックスアンサーNo.3555)。移転補償金5,000,000円を受け取り支出が3,800,000円なら、残る1,200,000円が一時所得です。詳しくは生命保険の満期保険金に確定申告は必要?一時所得の50万円控除と2分の1課税をご覧ください。
Q4. 借家人として立退きに伴う補償金を受け取りました。土地も建物も持っていませんが、特例と関係はありますか?
関係する場合があります。借家人補償金は対価補償金とみなして取り扱われます(国税庁タックスアンサーNo.3555)。所有者でなくても特例の対象になり得ます。通常の立退料は別の整理です。立退料をもらったとき・支払ったときの税金 3つに分かれる所得区分と、譲渡費用になる場合で解説しています。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3555は、収用等により取得する各種補償金の所得区分を説明したものです。本記事は補償金の名目ごとの所得区分だけを扱っており、収用等の課税の特例(最高5,000万円の特別控除・代替資産を取得した場合の課税の特例)の要件、適用を受けるための期限、代替資産の取得期間、添付する証明書の名称は扱っていません。これらは別記事で解説しています。また、補償金の額の相場や施行者との交渉の進め方、収用に伴う登録免許税・不動産取得税・固定資産税の取扱い、法人が収用等を受けた場合の取扱い、一時所得の金額の具体的な計算方法、移転補償金を「交付の目的に従って支出した」といえるかどうかの判定基準や支出の期限についても扱っていません。本記事の数値例は、補償金の名目による所得区分の違いを示すために一定の前提を置いた目安であり、税額を計算したものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3555「収用等により取得する各種補償金の所得区分」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3555.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3552「収用等により土地建物を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3552.htm
- e-Gov法令検索 所得税法(9条 非課税所得)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
補償金の内訳書を受け取った段階でご相談ください
収用の申告は、補償金を名目ごとに分けるところから始まります。対価補償金がどれか、移転補償金のうちいくらを実際に支出したか、名目は違っても対価補償金として取り扱える場面に当たらないか。内訳書と支出の記録があれば、申告の姿を先にお示しできます。代表税理士が直接ご対応します。
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