この記事のポイント
- 相手が会社なら時価の2分の1未満で「時価で売った」とみなされます(所得税法59条1項2号)
- 相手が個人なら、時価との差額に贈与税がかかることがあります(相続税法7条)
- 時価5,000万円の土地を子に2,000万円で売ると、贈与税は10,355,000円という試算です
- 親族間の売買は、3,000万円特別控除も住宅ローン控除も使えないのが原則です
まず結論:親族間の売買は「値段の決め方」がすべてです
親族や自分の会社との不動産売買は、値段の決め方ひとつで、かかる税金と使える特例のすべてが変わります。税務では払った値段が時価に見合っているかどうかが問われます。ポイントは次の3つです。
- 相手が会社(法人)なら、時価の2分の1未満で売ると時価で売ったものとみなされる(所得税法59条1項2号)
- 相手が個人なら、著しく安い値段で買った側に贈与税がかかることがある(相続税法7条)
- 親族間の売買では、3,000万円特別控除や住宅ローン控除が使えないことが多い
相手が会社なら「時価の2分の1未満」で、みなし譲渡
「みなし譲渡」とは、実際に受け取った値段ではなく時価で売ったものとして税金を計算する仕組みです。所得税法59条1項は次のように定めています。
次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
(中略)二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
「著しく低い価額の対価」は、所得税法施行令169条により時価の2分の1に満たない金額です。国税庁タックスアンサーNo.3217では、時価1億円の土地を4,000万円で売った例で、4,000万円ではなく1億円が収入金額になるとしています。
数字で見る:自分の会社に安く売った場合
時価5,000万円・取得費3,000万円の土地を自分の同族会社に2,000万円で売ったとします。時価の2分の1(2,500万円)を下回るため、みなし譲渡の対象です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入金額(実際の対価ではなく時価) | 50,000,000円 |
| 取得費 | 30,000,000円 |
| 譲渡所得 | 20,000,000円 |
| 所得税・復興特別所得税・住民税(長期20.315%) | 4,063,000円 |
手元に入ったのは2,000万円ですが、5,000万円で売ったものとして課税されます。買い取った会社側にも、差額の法人税問題が生じます。
相手が個人なら「みなし贈与」(相続税法7条)
個人どうしの売買では所得税法59条1項2号は適用されず、代わりに買った側に贈与税の問題が生じます。国税庁タックスアンサーNo.4423は次のとおりです。
個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合には、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます(相法7)。
「著しく低い」の基準は、法人向けの2分の1ではありません
著しく低いかどうかは個々の事案で判定され、法人への譲渡で使う「時価の2分の1未満」という基準とは別物です。時価は土地・家屋等なら通常の取引価額、それ以外は相続税評価額を指すため、「相続税評価額なら安全」とは言えません。
数字で見る:時価5,000万円の土地を子に2,000万円で売った場合
時価5,000万円の土地を18歳以上の子に2,000万円で売り、差額3,000万円がみなし贈与と判定された場合です。
計算例
みなし贈与額(時価5,000万円-対価2,000万円)= 30,000,000円 基礎控除110万円後の課税価格 = 28,900,000円 贈与税(特例税率45%-控除265万円)= 10,355,000円2,000万円を実際に払っているのに、さらに約1,035万円の贈与税がかかる計算です。
例外もあります。財産を失い返済が難しい人が扶養義務者から安く譲り受けた場合、返済困難な部分は贈与とみなされません。
売った側に損が出ても、その損は切り捨てられます
個人間で安く売る場合、もうひとつ見落とされやすいのが所得税法59条2項です。
居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
注意
親が3,000万円で買った土地を子に2,000万円で売れば、形は1,000万円の損です。しかしこの損はなかったものとみなされ、ほかの売却益と相殺できません。
個人間で安く売ると、買った側に贈与税がかかり、売った側の損は使えない。両方に不利な結果になり得ます。
親族間売買では使えない特例があります
マイホームの3,000万円特別控除
国税庁タックスアンサーNo.3302は「親子や夫婦など『特別の関係がある人』に売ったものでないこと」を条件のひとつとし、生計を共にする親族や同居親族も対象とします。
住宅ローン控除
住宅ローン控除にも「生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないこと」という条件があり、親族や知人からの借入金も対象になりません。親から借りて親から買う形は、控除面で二重に不利なうえ、銀行の住宅ローン審査も通りにくくなります。
実務では「時価をどう説明するか」が勝負どころです
時価の把握
ポイント
大事なのは、売買の値段が時価とかけ離れていないと後から説明できる状態にしておくことです。鑑定評価・取引事例・複数業者の査定書など、根拠資料は売買の時点で残します。
売買の実在性
売買の実在も確認されます。契約書・振込記録・登記・固定資産税負担者の変更が揃っているかです。契約書だけで代金が動いていなければ、贈与と評価される要因になります。
売買以外の選択肢も含めて比較する
相続への備えが目的なら、贈与(相続時精算課税を含む)・遺言・信託など手段は他にもあります。売買ありきで決めず、税負担と手続きの総額で比較することをおすすめします。値段の根拠づくりから比較まで、当事務所にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親から子へ、相場より安く不動産を売ることはできますか?
売買契約自体は自由です。ただし著しく安い値段で財産を買うと、時価との差額は売った人からの贈与とみなされることがあります(相続税法7条)。
Q2. 「著しく低い価額」とは、時価の2分の1未満という意味ですか?
個人間の売買にその基準は当てはまりません。著しく低いかどうかは個々の事案で判定するとされ、法人への譲渡で使う「時価の2分の1未満」とは別の基準だと明示されています。
Q3. 同族会社に不動産を売る場合はどうなりますか?
相手が法人で、値段が時価の2分の1未満なら時価を収入金額として計算します(所得税法59条1項2号)。時価1億円の土地を4,000万円で売っても、収入金額は1億円になります。
Q4. 親族間売買でも3,000万円特別控除や住宅ローン控除は使えますか?
使えないことが多いです。3,000万円特別控除は「特別の関係がある人」に売ったものでないことが条件で、住宅ローン控除も生計を一にする親族等からの取得でないことが条件です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。「著しく低い価額の対価」に当たるかどうかは個々の具体的事案に基づいて判定されるものであり、本記事の数値例は一定の前提を置いた試算にすぎません。実際の親族間売買では時価の評価が結論を左右しますので、具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3217「時価より低い価額で売ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4423「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4423.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1211-1.htm
- 所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)、所得税法施行令169条、相続税法7条https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁 法令解釈通達「法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
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