この記事のポイント
- 財産分与で不動産を渡すと、渡した側に譲渡所得の課税が行われます(国税庁タックスアンサーNo.3114)
- 収入金額は分与時の時価。現金を1円も受け取っていなくても納税が生じます
- 婚姻中の分与は配偶者への譲渡となり、3,000万円特別控除は使えません
- 受け取った側に贈与税は原則かかりませんが、取得費・取得時期は引き継がず分与時の時価で取得したものとして扱います
財産分与でも「売った」ことになります
財産分与で不動産を渡すと、税務上は「時価で売った」ものとして扱われ、渡した側に税金がかかります。現金を1円も受け取っていなくても、です。
国税庁タックスアンサーNo.3114は、土地や建物などで分与した場合には分与した人に譲渡所得の課税が行われるとしています。収入金額は分与した時の時価です。
なぜ現金を受け取っていないのに課税されるのか
財産分与は「財産分与請求権」という債務を不動産で支払ったものと整理され、不動産を手放す代わりに債務が消えるため、経済的には対価を受け取ったのと同じと考えられるのです。「ただで渡したから贈与」という理解のままだと、翌年に想定外の納税に直面します。
計算例:時価4,000万円の自宅を分与した場合
婚姻中に夫名義で取得した自宅を妻へ分与。取得費2,000万円、時価4,000万円、長期譲渡所得(税率20.315%)、3,000万円特別控除は適用しない前提です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入金額(分与した時の時価) | 40,000,000円 |
| 取得費 | 20,000,000円 |
| 譲渡所得 | 20,000,000円 |
| 所得税・住民税(20.315%) | 4,063,000円 |
(課税譲渡所得金額の1,000円未満切捨てなどの端数処理は考慮していません。)
注意
自宅を渡したうえに、約406万円の納税が生じます。納税は分与した年の翌年3月。この負担を織り込まずに条件を決めると、納税資金が用意できない事態になりかねません。
3,000万円の特別控除は使えるのか
居住用財産の3,000万円特別控除(国税庁タックスアンサーNo.3302)が使えれば、上の例の税額はゼロになります。ここが最大の分かれ目です。
この特例には「特別の関係がある人」に売ったものでないことという要件があり、配偶者や直系血族などが含まれます。したがって、婚姻関係が続いている間に分与すると配偶者への譲渡となり、この特例は使えません。
注意
離婚成立後の分与なら相手は配偶者ではなくなりますが、住んでいた家であること、住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までの譲渡であることなど他の要件も必要です。「順番」ひとつで数百万円の差が出るため、条件確定前に必ずご確認ください。
受け取った側の税金
贈与税は原則としてかかりません
ポイント
国税庁タックスアンサーNo.4414は、離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税がかかることはないとしています。夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づくものと考えられるためです。
ただし分与された財産の額が多過ぎる場合や、贈与税・相続税を免れるための離婚と認められる場合には、例外的に贈与税がかかります。
取得費と取得時期は引き継ぎません
相続や贈与では前の持ち主の取得費・取得時期を引き継ぎますが、財産分与は違います。分与を受けた人は、分与を受けた日にその時の時価で取得したことになります。将来売るときの長期・短期の判定も、分与を受けた日を基に行います。
| 項目 | 財産分与で取得した場合 |
|---|---|
| 取得の日 | 分与を受けた日 |
| 取得費 | 分与を受けた時の時価 |
| 長期・短期の判定 | 分与を受けた日から起算 |
受け取る側は、分与時の時価を証明できる資料(査定書・取引事例・固定資産税評価額など)を分与時に保管してください。数年後に売るとき、取得費として主張できる金額が変わります。
離婚の条件を決める前に確認したいこと
税務の観点から、条件を確定させる前に整理しておきたい項目です。
- 誰の名義の不動産を、いつ(離婚成立の前か後か)、誰に渡すのか
- 分与時の時価はいくらか
- 渡す側の取得費を裏づける資料はあるか
- 居住用財産の3,000万円特別控除の要件を満たせるか
- 渡す側の納税資金をどう確保するか(翌年3月に納期限)
離婚の条件は当事者の合意で決まりますが、税金は合意では動きません。「渡す側に納税が生じる」という前提を入れずに決めると、後から調整するのは容易ではありません。合意書を交わす前にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 現金や預金を財産分与した場合も譲渡所得税がかかりますか?
お金の分与では譲渡所得の課税は生じません。問題になるのは、土地・建物や株式など値上がり益が生じ得る資産を分与した場合です。
Q2. 離婚が成立する前に自宅の名義を変えると、どうなりますか?
婚姻中の名義変更は配偶者への譲渡になり、3,000万円特別控除は使えません。財産分与として扱われず贈与と判断される可能性もあるため、時期は事前にご確認ください。
Q3. 分与した側は確定申告が必要ですか?
譲渡所得が生じる場合は必要です。特別控除で税額がゼロになる場合でも、特例を受けるには分与した日の属する年の翌年2月16日から3月15日までに申告してください。
Q4. 分与した時の時価は、どうやって決めればよいですか?
法令で一律の方法は決められていません。不動産業者の査定価格、近隣の取引事例、固定資産税評価額からの推計などを組み合わせ、評価資料を分与のタイミングで作成・保管しておくことが大切です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。財産分与の課税関係は、離婚の成立時期・分与の内容・居住の実態などによって結論が異なります。記載した計算例も端数処理を省略した簡略なものです。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3114「離婚して土地建物などを渡したとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3114.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4414「離婚して財産をもらったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4414.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3102「譲渡所得の申告期限」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
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