この記事のポイント
- 実家を売って分けるのが換価分割、1人が家をもらい金銭を払うのが代償分割です
- 分け方で誰が譲渡所得を申告するかと特別控除を何人分使えるかが変わります
- 代償金は取得費になりません。取得費は被相続人から引き継ぐためです(国税庁タックスアンサーNo.3270)
- 分け方は売る前に決めるべきです。売却後では選択の余地がほとんど残りません
遺産分割の3つの方法と、税金が変わる理由
実家の分け方で「誰が売ったことになるか」が決まり、税金の負担も決まります。利益にかかる税金は所有者に課されるため、分け方は誰がいくら払うかを選ぶことでもあります。
3つの分け方
| 方法 | 内容 | 実家を売る場合のイメージ |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産をそのままの形で分ける | 実家は長男、預金は次男、というように分ける |
| 換価分割 | 財産を売却し、その代金を分ける | 相続人全員が持分を相続し、共同で売って代金を分ける |
| 代償分割 | 1人(数人)が現物を取得し、他の相続人に金銭などを支払う | 長男が実家を相続し、次男に代償金を支払う |
譲渡所得は「売った人」に課税されます
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
換価分割は相続人全員が持分をもらって売るため全員が売主、代償分割は実家をもらった1人だけが所有者のためその1人だけが売主です。ここが分かれ道になります。
取得費は被相続人から引き継ぐ ― 代償金は取得費になりません
「代償金3,000万円=取得費3,000万円」と誤解されがちですが、それは誤りです。
相続で取得した不動産の取得費と取得時期
国税庁タックスアンサーNo.3270は、取得費は亡くなった方の代金や手数料を基に計算し、時期も引き継ぐとしています(所得税法33条・38条・60条等)。代償金を払っても取得費は増えません。相続人が払った登記費用・不動産取得税は取得費に含まれ、代償金とは扱いが違います。
取得費が分からない実家では、影響がさらに大きくなります
契約書が残っていない実家では概算取得費(譲渡価額の5%)を使うことが多く、売った代金のほぼ全額が課税対象になります。この状態で代償分割を選ぶと、実家をもらった1人に負担が集中します。
数字で見る:同じ実家でも手取りがここまで変わります
次の前提で比較します。
- 相続人:兄と弟の2人
- 実家の売却代金:6,000万円/譲渡費用(仲介手数料等):200万円
- 購入時の契約書がなく、取得費は概算取得費5%=300万円
- 相続開始から3年目の年末までに売却し、空き家の3,000万円特別控除の要件を満たすとします
- 長期譲渡所得の税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
ケースA:換価分割(2人が2分の1ずつ相続して共同で売却)
| 項目 | 兄 | 弟 |
|---|---|---|
| 収入金額 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 取得費(概算5%) | 150万円 | 150万円 |
| 譲渡費用 | 100万円 | 100万円 |
| 特別控除前の譲渡所得 | 2,750万円 | 2,750万円 |
| 空き家の特別控除 | △2,750万円 | △2,750万円 |
| 課税される譲渡所得 | 0円 | 0円 |
| 税額 | 0円 | 0円 |
2人とも特別控除の枠内に収まり税額は0円です。手取りは6,000万円−譲渡費用200万円=5,800万円、1人あたり2,900万円です。
ケースB:代償分割(兄が実家を相続し、弟に代償金3,000万円を支払う)
| 項目 | 兄 |
|---|---|
| 収入金額 | 6,000万円 |
| 取得費(概算5%) | 300万円 |
| 譲渡費用 | 200万円 |
| 特別控除前の譲渡所得 | 5,500万円 |
| 空き家の特別控除 | △3,000万円 |
| 課税される譲渡所得 | 2,500万円 |
| 税額(20.315%) | 5,078,750円 |
特別控除は1人分しか使えず、5,078,750円の税額が生じ、しかも負担するのは兄だけです。
手取りの比較 ― 不公平はここで生まれます
| 項目 | ケースA 換価分割 | ケースB 代償分割 |
|---|---|---|
| 兄の手取り | 29,000,000円 | 22,921,250円 |
| 弟の手取り | 29,000,000円 | 30,000,000円 |
| 2人の合計 | 58,000,000円 | 52,921,250円 |
注意
「不動産の価値の半分」として代償金3,000万円を決めても、兄の手取り2,292万円・弟3,000万円と約707万円の差が生まれます。代償金に税金を織り込んでいないと不公平になり、分割協議書に署名したあとでは直すのが困難です。
換価分割・代償分割それぞれの注意点
換価分割:特例の適用は「一人ずつ」判定します
共有で売った場合、税金の計算も特別控除の判定も共有者ごとに行います。誰か1人が要件を満たさなければ、その人だけが控除を使えません。空き家の特別控除は、家と敷地をもらった相続人の数によって1人あたりの控除額が変わる場合があります。
換価分割:遺産分割が終わる前に売ってしまった場合
国税庁の質疑応答事例では、分け方が決まる前の遺産を売った場合、その利益は各相続人が法定相続分どおりにもらったものとして扱うと整理されています。遺産分割が決まったときの申告の扱いは事案によって分かれるため、売る前に分割協議を整えておくのが最も安全です。
代償分割:代償財産が「金銭以外」のときは要注意
注意
代償金の代わりに自分の不動産を渡すケースがあります。国税庁タックスアンサーNo.4173は、渡した人は時価で売ったものとして所得税が課税され、受け取った人は時価で買ったことになると説明しています。現金を1円も受け取っていなくても税金が生じるため、納税資金まで含めた事前検討が必要です。
代償分割:相続税の課税価格も調整されます
同じNo.4173によれば、相続税の課税価格は次のとおりです。
- 代償財産を交付した人:取得した現物の財産の価額から、交付した代償財産の価額を控除した金額
- 代償財産の交付を受けた人:取得した現物の財産の価額と、交付を受けた代償財産の価額との合計額
相続税の計算では調整されますが、譲渡所得の計算では代償金が取得費にならない点は変わりません。
実務の進め方 ― 分け方は「売る前」に決めます
ステップ1:売るかどうか、いつ売るかを先に決める
売るなら換価分割、誰かが住み続ける・貸すなら代償分割が現実的です。まず出口を決めてから、分け方を選ぶのが順序です。
ステップ2:税金を織り込んだ「手取りベース」で分割案を作る
評価額を2で割るだけでは不公平が生じます。当事務所は想定売却価額・概算取得費・特例の適用可否から税額を試算し、税引後の手取りがつり合う代償金の額をお示しします。
ステップ3:特例の要件を売却前に確認する
空き家の特別控除は確認事項が多く(建築時期・区分所有・売却期限・売却代金の上限など)、要件を満たさなければ有利な分け方も変わります。
ステップ4:分割協議書と申告の前提を合わせる
「換価分割のつもりが登記の手間で1人名義にした」場合、後から課税関係が争いになることがあります。分割協議書の記載と実際の売却・分配の流れを一致させておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 代償金を払った人は、その代償金を譲渡所得の取得費に入れられますか?
入れられません。代償金は他の相続人への支払いであり、不動産取得の支出ではないためです。取得費は亡くなった方の代金・時期を引き継ぎます(国税庁タックスアンサーNo.3270)。
Q2. 換価分割にすると税金の総額は必ず安くなりますか?
そうとは限りません。譲渡所得の税率は一定のため、特別控除を使えなければ税額の合計は基本的に変わりません。差が出るのは特別控除を1人あたりで判定する場面で、上の設例も2人分使えたことが理由です。
Q3. 遺産分割が終わらないうちに売却してしまいました。誰が確定申告をしますか?
国税庁の質疑応答事例では、分け方が決まる前の遺産を売った利益は各相続人が法定相続分どおりにもらったものとして扱うとされています。遺産分割後の申告の扱いは事案により異なるため、売る前にご相談ください。
Q4. 代償金として、自分がもともと持っていた不動産を渡す予定です。税金はかかりますか?
かかる可能性があります。国税庁タックスアンサーNo.4173では、代償財産として自分の不動産を渡した場合、渡した人は時価で売ったものとして所得税が課税され、受け取った人は時価で取得したことになるとされています。現金を受け取っていなくても課税されるため、事前の検討が欠かせません。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。遺産分割の方法と課税関係は、相続人の数・財産の構成・特例の適用可否によって結論が大きく異なります。本記事の設例は説明のための仮定であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.4173「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4173.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/09/01.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
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