この記事のポイント
- 原則は家屋の所有者が対象。土地だけの人は原則使えません(タックスアンサーNo.3311)
- ①同時に売る ②親族で生計を一にする ③一緒に住む、の3要件すべてを満たせば敷地の所有者も使えます
- 控除は2人合わせて3,000万円まで。差し引く順序は家屋の所有者が先、敷地の所有者は残りです
- 家屋の所有者の譲渡益が3,000万円以上なら敷地の所有者に残る控除はゼロ。共有名義とは結論が違います
まず結論:この特例の主役は「家屋」です
「建物は夫、土地は妻」「建物は子、土地は親」。こうした名義の自宅を売ったとき、土地だけを持っている人も3,000万円の特別控除を使えるのでしょうか。
この特例は原則として家屋の所有者が家屋とその敷地を譲り渡した場合に受けられるものです。しかし、家屋の所有者と敷地の所有者が異なるときでも、次の要件のすべてに当てはまるときは、敷地の所有者もこの特例の適用を受けることができます。(国税庁タックスアンサーNo.3311「家屋と敷地の所有者が異なるとき」)
この特例(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)が想定しているのは、家屋の所有者が家屋と敷地をまとめて手放す形です。土地だけを持っている人は、原則としてこの特例の外にいます。
ただし、3つの要件をすべて満たすときに限り、敷地の所有者も適用を受けることができます。特例の全体像はマイホーム売却の3,000万円特別控除と取得時期の落とし穴をご覧ください。
敷地の所有者も使える3つの要件
国税庁が挙げる要件は次の3つです。いずれか1つではなく、すべてに当てはまる必要があります。
(1)敷地を家屋と同時に売ること。
(2)家屋の所有者と敷地の所有者とが親族関係にあり、生計を一にしていること。
(3)その敷地の所有者は、その家屋の所有者と一緒にその家屋に住んでいること。(国税庁タックスアンサーNo.3311)
要件① 敷地を家屋と「同時に」売ること
家屋と敷地を同時に売ることが必要です。土地だけを先に売って、家屋はあとから売る形は外れます。売買契約の組み方そのものが要件に関わります。
要件② 親族関係にあり、生計を一にしていること
親族関係と生計を一にしていることの2つがそろって初めて満たされます。夫婦や親子というだけでは足りず、生計を一にしているかは暮らしの実態で判断されます。
要件③ 家屋の所有者と一緒に、その家屋に住んでいること
敷地の所有者自身が、家屋の所有者と一緒にその家屋に住んでいることが必要です。土地を持っているだけで住んでいない形は満たしません。
ポイント
名義の話と、実際に誰がどこに住んでいるかの話は、別々に確かめてください。
いちばん誤解されるところ:控除は合わせて3,000万円です
3要件を満たしても、2人で6,000万円は控除できません。上限は2人合わせて3,000万円です。
この場合の特別控除額は、家屋の所有者と敷地の所有者と合わせて3,000万円までです。特別控除額を差し引く順序は、まず家屋の所有者、続いて敷地の所有者です。したがって、敷地の所有者が受けることができる特別控除額は、3,000万円から家屋の所有者が受ける特別控除額を差し引いた残りの額になります。(国税庁タックスアンサーNo.3311)
| 順序 | 誰が | いくら差し引けるか |
|---|---|---|
| 1番目 | 家屋の所有者 | 3,000万円(その人の譲渡益が限度) |
| 2番目 | 敷地の所有者 | 3,000万円から家屋の所有者が受ける控除額を差し引いた残り |
注意
敷地の所有者は「あまり」しか使えません。家屋の所有者の譲渡益が3,000万円以上あれば、3要件をすべて満たしていても敷地の所有者の控除はゼロです。
数字で見る:順序があると、どこで差がつくか
家屋の所有者の譲渡益の大きさで、敷地の所有者の税額は大きく変わります。次は一定の前提を置いた目安で、実際の税額ではありません。
夫が家屋、妻が敷地の所有者とします。売った年の1月1日で所有期間5年超の長期譲渡所得とし、税率は所得税及び復興特別所得税15.315パーセント・住民税5パーセントの合計20.315パーセントです。
ケース1:夫の譲渡益2,000万円・妻の譲渡益2,500万円
| 項目 | 家屋の所有者(夫) | 敷地の所有者(妻) |
|---|---|---|
| 譲渡益 | 20,000,000円 | 25,000,000円 |
| 特別控除額 | 20,000,000円 | 10,000,000円 |
| 課税される譲渡所得 | 0円 | 15,000,000円 |
| 税額(20.315パーセント) | 0円 | 3,047,250円 |
計算例
ケース1の内訳
夫:3,000万円 − 譲渡益2,000万円 = 残り1,000万円(妻に回る) 妻:25,000,000円 − 10,000,000円 = 15,000,000円 妻の税額:所得税2,250,000円 + 復興特別所得税47,250円 + 住民税750,000円 = 3,047,250円妻が3要件のどれかを欠けば控除はゼロで、課税される譲渡所得は25,000,000円、税額は5,078,750円。差は2,031,500円です。
ケース2:夫の譲渡益3,500万円・妻の譲渡益2,500万円
| 項目 | 家屋の所有者(夫) | 敷地の所有者(妻) |
|---|---|---|
| 譲渡益 | 35,000,000円 | 25,000,000円 |
| 特別控除額 | 30,000,000円 | 0円 |
| 課税される譲渡所得 | 5,000,000円 | 25,000,000円 |
| 税額(20.315パーセント) | 1,015,750円 | 5,078,750円 |
夫が3,000万円を使い切るため、3要件をすべて満たしていても妻の控除はゼロです。2人合わせた税額は6,094,500円です。
ポイント
ケース1とケース2で違うのは、夫の譲渡益の大きさだけです。要件を満たすことと、実際に控除が残ることは別の話です。
「共有名義」とは結論が違います
1つの家屋を複数人で共有している「共有名義」の場合は、本記事とは結論が違います。共有のマイホームの特別控除は共有者1人につき最高3,000万円ですが、家屋と敷地で所有者が異なる場合は2人合わせて3,000万円が上限です。詳しくは共有名義の不動産を売却したときの確定申告をご覧ください。
ポイント
分かれているのが1つの家屋の持分なのか、家屋と土地という別々の財産なのかで、結論は正反対になります。
3要件を外してしまう典型パターン
要件から外れるのは、たいてい次の3つです。いずれも売ったあとでは直せません。
①土地だけ先に売って、家屋はあとから売った
要件①の「同時に売る」から外れます。買主の資金や解体の段取りで契約を2回に分けることがあります。売り方を決める段階で、この要件を思い出してください。契約が済んでからでは動かせません。
②親名義の土地に子が家を建てているが、親は別の場所に住んでいる
要件③から外れます。土地を持っていることと、そこに住んでいることは別です。家屋の所有者ご本人が住んでいないときは、単身赴任中のマイホームを売ったときで整理しています。
③同居しているが、生計は完全に別
要件②の「生計を一にしている」から外れる可能性があります。同居していれば当然に生計を一にしている、という理解は危険です。
注意
要件を欠けば、敷地の所有者は特別控除の適用を受けられず、譲渡益の全額が課税の対象になります。
3要件のほかに、特例そのものの要件もあります
3要件とは別に、特例そのものの要件も満たす必要があります(国税庁タックスアンサーNo.3302)。
- 所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます
- 住んでいた家屋、または家屋とともにその敷地を売ること
- 以前に住んでいた家屋・敷地は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売った年の前年および前々年に、この特例(またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例)の適用を受けていないこと
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別の関係でないこと
- 確定申告をすること
注意
2人のうち一方が前年や前々年にこの特例を受けていれば、その人は今回使えません。家族の誰かに売る形も、そもそも対象外です。
ここから先は個別判断です
敷地の所有者が控除を使えるか、いくら残るかは、2人の譲渡益と暮らしの実態を並べてみないと決まりません。順序が決まっている以上、「どちらが得か」を選ぶ余地はありません。
できるのは、要件を満たす形で売却を組み立て、満たさない場合の税額を把握しておくことです。名義は登記事項証明書を見ればすぐに分かります。売る前にご相談いただければ、契約の組み方から一緒に検討できます。
家と土地で名義が違う自宅の売却について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 建物は夫、土地は妻の名義です。2人とも3,000万円ずつ控除できますか?
いいえ。2人合わせて3,000万円までです(タックスアンサーNo.3311)。差し引く順序も家屋の所有者が先です。共有名義の場合は結論が異なります(共有名義の不動産を売却したときの確定申告)。
Q2. 夫の譲渡益が3,000万円を超えます。妻はまったく控除を受けられないのですか?
奥様に残る特別控除額はゼロです。順序は「まず家屋の所有者、続いて敷地の所有者」で、敷地の所有者は3,000万円から家屋の所有者の控除額を引いた残りしか使えません(No.3311)。3要件を満たしていても同じです。
Q3. 親名義の土地に子の名義で家を建てています。親も控除を受けられますか?
親御様がその家に一緒に住んでいるかで変わります。①同時に売る ②親族で生計を一にする ③一緒に住む、の3要件すべてが必要で(No.3311)、別の場所にお住まいなら③を満たしません。売却前にご相談ください。
Q4. 先に土地だけを売り、建物は翌年に売る予定です。特例は使えますか?
敷地の所有者は、要件①「敷地を家屋と同時に売ること」を満たしません(No.3311)。署名後は組み直せません。前年・前々年に特例を受けていない、売手と買手が特別の関係でないなどの共通要件(No.3302)もあります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3311は、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除について、家屋の所有者と敷地の所有者が異なる場合の取扱いを示したものです。本記事はこの3つの要件と、控除額の上限および差し引く順序を中心に扱っており、次の論点は扱っていません。1つの家屋を複数人で共有している場合の共有者ごとの取扱い、10年を超えて所有していた場合の軽減税率の特例、買換えの特例、譲渡損失についての特例、住宅ローン控除との併用の可否、相続により取得した被相続人の居住用家屋に係る特別控除(空き家の特例)の要件、「生計を一にする」の細かな判定基準、借地権が設定されている家屋の場合、家屋の所有者が法人である場合、使用貸借に関する取扱いです。これらは別記事で解説しているものもあります。本記事の数値例は、控除を差し引く順序による違いを示すために一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。実際の納付額には端数処理があります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3311「家屋と敷地の所有者が異なるとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3311.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(第35条)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
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家屋と敷地で所有者が違う自宅の売却は、要件を満たすかどうかで税額が大きく変わります。しかも控除を差し引く順序は決まっており、あとから選び直すことはできません。登記事項証明書をお手元にご相談いただければ、それぞれの譲渡益の見込みを試算し、要件に収まる売り方をご一緒に組み立てます。代表税理士が直接ご対応します。
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