この記事のポイント
- 日本の居住者は海外不動産の譲渡益も国内と同様に課税されます(タックスアンサーNo.3560)
- 譲渡所得と取得価額は、原則取引日のT.T.M(仲値)で円に換算します
- 相場の違いで現地通貨では損でも円では利益が出ることがあります
- 現地の納税分は外国税額控除で調整しますが、控除限度額までです
まず結論:日本に住んでいる方が海外の不動産を売ったら、日本でも申告が必要です
日本の居住者が海外の不動産を売って利益が出た場合、その利益には日本でも税金がかかります。
日本の居住者は、原則として国内で生じた所得および国外で生じた所得のいずれについても、日本で課税されることとなります。したがって、日本の居住者が海外の不動産を売却したことにより得た譲渡益に対しても、国内にある不動産を売却した場合と同様に、課税されることとなります。(国税庁タックスアンサーNo.3560「居住者が海外の不動産を売却した場合の課税関係等」)
海外の物件だからといって、別の計算方法があるわけではありません。
そもそも「居住者」とは
「居住者」とは、日本国内に住所を有しているか、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する人をいいます。(同上)
生活の本拠が日本にあれば、物件がどの国にあっても課税対象です。
いちばんの落とし穴は為替換算です
国内の不動産と違い、金額が外国通貨で決まっているため、申告書の円換算が必要です。
原則はT.T.M(仲値)
外国通貨で行われた不動産の譲渡所得の金額および不動産を取得した際の取得価額の金額は、原則として、その取引日における対顧客直物電信売相場(T.T.S)と対顧客直物電信買相場(T.T.B)の仲値(T.T.M)によることとされています。(国税庁タックスアンサーNo.3560)
原則は、売った日と買った日それぞれのT.T.Mを使います。
例外:直ちに両替した場合
ただし、不動産を売却して外国通貨を直ちに本邦通貨とした場合には対顧客直物電信買相場(T.T.B)で、本邦通貨を外国通貨として直ちに海外不動産を取得した場合には対顧客直物電信売相場(T.T.S)で譲渡所得を計算することができます。(同上)
| 場面 | 使う相場 |
|---|---|
| 原則(取得時・売却時とも) | 取引日のT.T.M(仲値) |
| 売却代金の外貨を直ちに円にした場合 | T.T.Bで計算できます |
| 円を外貨に換えて直ちに取得した場合 | T.T.Sで計算できます |
「直ちに」がポイントです。現地口座に置いたままの場合は当てはまりません。
数字で見る:現地通貨の損益と、円での損益は別物です
次の前提で計算します。取得費の細目・譲渡費用・特例を考慮しない、単純化した目安です。
- 取得:50万米ドル。取得時の相場を1米ドル110円と仮定
- 売却:55万米ドル。売却時の相場を1米ドル150円と仮定
| 項目 | 米ドル | 円換算 |
|---|---|---|
| 取得価額 | 500,000米ドル | 5,500万円 |
| 譲渡収入 | 550,000米ドル | 8,250万円 |
| 差額 | 50,000米ドル | 2,750万円 |
米ドルでは5万ドルの利益ですが、申告で使う金額は換算した差額、2,750万円です。
計算例
長期譲渡所得(税率20.315パーセント=所得税15パーセント+復興特別所得税0.315パーセント+住民税5パーセント)の場合
円換算の差額2,750万円での税額 = 5,586,625円「5万ドルの儲け」を750万円と見込んだ場合の税額 = 1,523,625円開き = 4,063,000円現地通貨では損なのに、円では利益が出ることもあります
同じ前提で48万米ドルで売却すると、米ドルでは2万ドルの損です。しかし円では譲渡収入7,200万円・取得価額5,500万円で1,700万円の利益となり、税額の目安は3,453,550円です。
「損をしたのだから申告は不要」と思い込むと、申告漏れになります。
現地でも税金を払った場合は、外国税額控除で調整します
国外所得について外国の法令で所得税に相当するものが課税される場合、日本およびその外国の双方で二重に所得税が課税されることとなります。この国際的な二重課税を調整するために、一定額を所得税額から差し引くことができます。これを外国税額控除といいます。(国税庁タックスアンサーNo.3560)
現地で納めた税金が全額戻るわけではなく、差し引ける金額には上限があります。
控除限度額の算式
(1)所得税の控除限度額 = その年分の所得税額 ×(その年分の調整国外所得金額 ÷ その年分の所得総額)
外国所得税額が所得税の控除限度額を超える場合には、(2)復興特別所得税の控除限度額 = その年分の復興特別所得税額 ×(その年分の調整国外所得金額 ÷ その年分の所得総額)を限度として、その超える金額をその年分の復興特別所得税額から差し引くことができます。(国税庁タックスアンサーNo.1240「居住者に係る外国税額控除」)
分離課税の譲渡所得も「所得総額」に入ります
「その年分の所得総額」とは、各種繰越控除の適用前のその年分の総所得金額、分離長(短)期譲渡所得の金額(特別控除前の金額)……の合計額をいいます。(同上)
数字で見る控除限度額
- 総所得金額(給与など):550万円
- 分離長期譲渡所得の金額(特別控除前):2,750万円
- 調整国外所得金額:2,750万円
- その年分の所得税額:仮に480万円
計算例
控除限度額の計算
所得総額:550万円 + 2,750万円 = 3,300万円控除限度額:480万円 × 2,750万円 ÷ 3,300万円 = 400万円添付書類がないと受けられません
外国税額控除を受けるためには、不動産を売却した年分の確定申告の際に一定の書類を添付する必要があります。(国税庁タックスアンサーNo.3560)
売却手続きの直後に、現地の担当者から納税を示す書類一式を受け取っておいてください。
外国で払った税金でも、控除の対象にならないものがあります
国税庁は、外国所得税に含まれないもの、控除の対象とならないものを列挙しています。
- 納付後に任意に還付を請求できる税
- 納付猶予の期間を任意に定められる税
- 附帯税に相当する税その他これに類する税
- 租税条約により軽減・免除の限度を超えて課税された部分に相当する金額(いずれも国税庁タックスアンサーNo.1240)
現地で「税」と名の付くものでも、すべてが対象になるとは限りません。
賃貸に出していた海外不動産を売る場合の注意点
海外の物件を賃貸に出し不動産所得として申告してきた方は、建物の取得費(購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額)の確認も必要です。
(注2)「国外中古建物の不動産所得の損益通算等の特例」の適用を受けた国外中古建物を売った場合には、この建物の毎年の減価償却費の合計額から、この特例により生じなかったものとみなされた損失に相当する部分の金額の合計額を控除します。(国税庁タックスアンサーNo.3261「建物の取得費の計算」)
差し引く減価償却費の合計額が小さくなり、取得費は大きくなります。賃貸用物件の売却の論点は賃貸用マンション・アパートを売却したときの譲渡所得でも整理しています。
「日本に住んで海外を売る」と「海外に住んで日本を売る」は別の話です
この2つはよく混同されますが、方向が逆で論点も違います。
| 本記事のケース | 逆のケース | |
|---|---|---|
| 売る人 | 日本の居住者 | 非居住者 |
| 売る不動産 | 海外にある不動産 | 日本にある不動産 |
| 主な論点 | 為替換算・外国税額控除 | 買主による源泉徴収・納税管理人 |
海外在住のまま日本の不動産を売る場合は海外在住のまま日本の不動産を売却したら?で、日本を離れるときは国外転出時課税という別の制度もあります。
特例が使えるかどうかについて
「居住用財産の3,000万円特別控除は海外の物件でも使えるのか」――特例の適用可否は要件ごとの個別判断が必要です。ご相談ください。
ここまではご自身でできること/ここからは個別判断です
ポイント
売買契約書と現地の納税書類を集め、取得日と譲渡日を確定させるまでは、ご自身で進められます。相場・取得費・外国税額控除の金額は――資料の中身を見ないと決められません。
海外不動産の売却について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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初回相談は無料です。相談だけで終えていただいて構いません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 現地で税金を納めました。それでも日本で確定申告が必要ですか?
必要です。日本の居住者は海外不動産の譲渡益も国内と同様に課税されます(タックスアンサーNo.3560)。現地の納税分は外国税額控除で調整するもので、申告が不要になるわけではありません。
Q2. 為替はどの時点の相場で換算するのですか?
原則は取引日のT.T.M(仲値)で換算します。ただし外国通貨を直ちに円にした場合はT.T.B、直ちに外貨で取得した場合はT.T.Sで計算できます(タックスアンサーNo.3560)。
Q3. 現地通貨では売却損でした。申告しなくてよいですか?
円に換算し直すまでは判断できません。50万米ドル取得・48万米ドル売却でも、1米ドル110円→150円なら取得価額5,500万円・譲渡収入7,200万円で1,700万円の利益になり得ます。
Q4. 現地で納めた税金は、全額を日本の税金から差し引けますか?
全額とは限りません。控除限度額は所得税額×(調整国外所得金額÷所得総額)で計算します(タックスアンサーNo.1240)。還付請求できる税や附帯税なども対象外で、確定申告時に書類の添付が必要です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は日本の居住者が海外にある不動産を譲渡する場合を前提としており、国別の税制(現地での源泉徴収制度を含みます)、租税条約の個別の条項や限度税率、非永住者に係る課税所得の範囲、国外にある財産についての各種調書の提出義務、国外中古建物の不動産所得の損益通算等の特例(租税特別措置法41条の4の3)の適用要件そのものは扱っていません。居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除など各種特例の適用可否についても、本記事では判断を示していません。数値例は税率20.315パーセントを前提とし、取得費の細目・譲渡費用・特別控除を考慮しない単純化した計算上の目安であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.3560「居住者が海外の不動産を売却した場合の課税関係等」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3560.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1240「居住者に係る外国税額控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm
- 所得税法2条、7条、33条、57条の3、95条、120条、租税特別措置法31条、32条、所得税基本通達57の3-2(国税庁タックスアンサーNo.3560の根拠法令等)e-Gov法令検索
- 所得税法33条、38条、所得税法施行令85条、租税特別措置法41条の4の3(国税庁タックスアンサーNo.3261「建物の取得費の計算」の根拠法令等)e-Gov法令検索
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