この記事のポイント
- 役員貸付金は会社が社長に貸すお金、役員借入金は社長が会社に貸すお金。正反対の科目です
- 役員貸付金に利息をつけないと、通常の利率との差額が役員に対する経済的利益として課税されます
- ただし差額が1年間で5,000円以下である場合など、課税しなくてもよい3つの場合があります
- 役員借入金は社長から見れば会社への貸付金債権。残したままだと相続財産に加わります
まず結論:どちらも「置いておくと損をする」科目です
役員貸付金は会社が社長に貸すお金、役員借入金は社長が会社に貸すお金で、決算書では正反対の場所に載ります。
| 科目 | お金の流れ | 決算書のどこに載るか |
|---|---|---|
| 役員貸付金 | 会社が社長に貸している | 貸借対照表の資産の部 |
| 役員借入金 | 社長が会社に貸している | 貸借対照表の負債の部 |
役員貸付金は、利息を取っていないと社長個人の給与の問題になります。役員借入金は、社長から見れば会社に対する貸付金債権です。返してもらっていないだけで社長の財産として残り続け、相続が起きたときにこの残高が相続財産に加わります。
どちらも「気づいたときには残高が大きくなっている」のが共通点です。毎期少しずつ増え、10年たつと数千万円という規模になっていることも珍しくありません。金融機関がこれらの科目をどう見るかは各行の判断によりますが、この記事では税金の話に絞ってご説明します。
役員貸付金:利息を取らないと給与になります
会社が社長に無利息または低率でお金を貸すと、本来取るべき利息と実際の利息との差額が役員に対する経済的利益として扱われます(国税庁タックスアンサーNo.5202)。無利息であれば、本来取るべき利息の全額が差額になります。
給与として課税しなくてもよい3つの場合
国税庁タックスアンサーNo.2606は、役員または使用人に無利息または低い利息で貸し付けた場合でも、次の(1)〜(3)のいずれかに該当すれば給与として課税しなくてもよいとしています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| (1) 臨時の生活資金 | 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員・使用人に、合理的な金額・返済期間で貸し付ける場合 |
| (2) 合理的な利率 | 会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定めて貸し付ける場合 |
| (3) 少額 | 差額が1年間で5,000円以下である場合 |
ポイント
実務でいちばん現実的なのは(2)です。会社の借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率を定めて貸せば、給与の問題は生じません。
注意
利率は「いくら」と決め打ちできません。会社に借入れがあるか、貸付けの経緯や返済の見込みがどうかによって考え方が変わるため、具体的な決め方は個別の検討が必要です。
「毎月おおむね一定」だと役員給与になります
利息を取らない状態が毎月続くと、その経済的利益は定期同額給与に該当し、会社側は損金に算入されますが、社長側では給与として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.5202)。役員報酬が増えたのと同じことになり、所得税・住民税・社会保険料に影響します。役員給与の3つの類型は役員報酬と役員退職金の組み立て方で整理しています。
債権を放棄しても解決しません
貸付金を放棄して決算書から消しても、放棄した金額そのものが経済的利益として扱われます(国税庁タックスアンサーNo.5202)。決算書の見た目は整いますが、役員給与の問題に置き換わるだけで、一度に全額が動くぶん影響は小さくありません。
役員貸付金が生まれる典型パターン
役員貸付金は、意図して作られるより処理の結果として自然に生まれるケースがほとんどです。代表的な3つをご紹介します。
1. 使途が分からない出金
領収書がなく行き先を特定できない出金は、社長が持ち出したものとして役員貸付金に振り替えるほかありません。金額が小さくても毎月あれば1年で相当な額になります。
2. 私的な費用の立替え
会社のカードでの個人的な買い物や家族の食事代は役員等の個人的費用の負担額にあたり(国税庁タックスアンサーNo.5202)、会社の経費にはできません。社長がすぐ返せば終わりますが、返さなければ積み上がります。
3. 仮払金の精算漏れ
出張前の現金が精算されずに残ると、決算の際に役員貸付金へ振り替えられます。仮払いの都度、いつまでに精算するかを決めておけば防げるパターンです。
役員借入金:社長の相続財産になります
資金繰りが苦しいとき、社長が個人のお金を会社に入れると役員借入金という負債になります。会社は金融機関と違って返済を急かされないため、そのまま残りやすいところに落とし穴があります。
役員借入金は、会社から見れば負債でも社長個人から見れば会社に対する貸付金債権という財産です。財産評価基本通達204は、貸付金債権を元本の価額と利息の価額との合計額で評価すると定めており、社長に相続があれば会社に貸したままのお金は相続財産に加わります。
注意
「会社が赤字だから財産にならない」と自己判断しないでください。回収が難しい状況の取扱いは要件の確認が必要で、状況により結論が変わるため、必ず個別にご確認ください。
役員借入金が数千万円あるまま相続が起きると、相続人は現金を受け取っていないのに財産だけ増える状態に置かれます。相続税は原則として現金で納めるため、事業承継を考えるなら早い時期から計画的に減らしていくべき対象です。
数値例で見る
数字にすると、影響の大きさが分かりやすくなります。
計算例
例1:役員貸付金3,000万円に利息を計上する場合
前提:残高3,000万円、利率は説明のため年1パーセントと仮定(実際は会社の借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率で個別に決めます)。
3,000万円 × 1パーセント = 30万円(年間の受取利息)会社の益金が30万円増えるため法人税等の負担も増えます。利息を取らなければ社長側で給与の問題が生じるため、どちらにしても放置したままで済む話ではありません。
計算例
例2:1年間で5,000円以下かどうか
前提:同じく年1パーセントを仮定した場合。
残高3,000万円 → 差額30万円(5,000円の60倍)残高50万円 → 差額5,000円(ちょうど基準額)残高10万円 → 差額1,000円(5,000円以下)残高が大きい会社ほど、(2)の合理的な利率を定めるという対応が現実的になります。
計算例
例3:役員借入金2,000万円を残したまま相続が起きた場合
前提:社長が会社に貸したまま返済されていない残高2,000万円。
貸付金債権2,000万円(財産評価基本通達204では元本と利息の合計額で評価)相続が起きると2,000万円が相続財産に加算手元の現金は1円も増えていないのに、財産の額だけが2,000万円増えるのが実態です。相続税は現金納付が原則のため、納税資金の準備も必要になります。
解消するときに注意すること
解消の方法にはいくつかありますが、それぞれ別の税金が生じます。実行前に必ず個別に検討してください。
| 方法 | 押さえておくべき点 |
|---|---|
| 役員貸付金を放棄する | 放棄・免除した債権の額が経済的利益として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.5202)。決算書は整いますが役員給与の問題に置き換わります |
| 役員報酬を上げて返済に充てる | 社長個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。定期同額給与など役員給与のルールにも沿う必要があります |
| 役員借入金を免除してもらう | 会社側の課税関係はこの記事では扱いません。実行前に個別の検討が必要です |
| デット・エクイティ・スワップ(借入金の資本への振替え) | 複数の税目にまたがる検討が必要です。安易に手を出す方法ではありません |
| 社長個人の資産を会社に売って返済に充てる | 売却する資産の種類によって社長側に譲渡所得などの問題が生じます |
共通するのは「決算書から消す」ことだけを目的にすると、たいてい別の税金にぶつかるということです。どの方法が向いているかは残高の大きさ、会社の利益水準、社長の年齢、後継者がいるかどうかで変わります。設計は個社ごとです。弊所で組み立てます。
決算前にやっておく3つのこと
解消の方法を決める前に、決算の3か月前くらいから着手できると理想的です。
1. 残高の中身を洗う
役員貸付金・役員借入金の残高は何年も分の積み重ねです。いつ発生したか、使途不明の出金か、私的費用の立替えか、精算漏れの仮払金かを分解します。決算前の準備全般は決算前3か月にできる法人の決算対策4つもご参照ください。
2. 利息の計上ルールを決める
利率は会社の借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率で決め、その内容を書面にして残します。口頭の取り決めは、あとから説明できません。
3. 返済計画を書面にする
金銭消費貸借契約書を作り、返済期間と毎回の返済額、役員報酬の水準と返済に回せる金額の整合を確認します。期限のある計画に落とし込むこと。これが解消の実質的な第一歩です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員貸付金に利息をつけていません。すぐに問題になりますか?
無利息や低い利率での貸付けは、本来の利息との差額が経済的利益として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.5202)。ただし差額が1年間で5,000円以下など、No.2606の要件に該当すれば課税されません。まず残高と利息の有無をご確認ください。
Q2. 利率は何パーセントに設定すればよいですか?
会社の借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率で決めます(国税庁タックスアンサーNo.2606)。一律の数値はなく、具体的な決め方は個別の検討が必要です。貸付けの経緯と会社の借入状況をお持ちのうえでご相談ください。
Q3. 社長への貸付金を放棄すれば、決算書はきれいになりますか?
放棄・免除した債権の額が経済的利益として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.5202)。決算書は整いますが、役員給与の問題に置き換わるだけです。実行前に必ず個別の検討をしてください。
Q4. 役員借入金は、返さないまま相続まで置いておいてよいですか?
会社への貸付金債権として、元本の価額と利息の価額の合計額で評価されます(財産評価基本通達204)。返済されないまま相続が起きれば、その残高が相続財産に加わります。事業承継を考えるなら早めに残高を減らす計画を立ててください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.2606およびNo.5202は、いずれも令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。本記事の数値例に用いた年1パーセントという利率は、説明のための仮定であり、実際に適用すべき利率を示すものではありません。実際の利率は、会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率により個別に検討する必要があります。役員貸付金の放棄、役員借入金の債務免除、デット・エクイティ・スワップを行った場合の法人側および個人側の課税関係、ならびに貸付金債権が回収困難な場合の評価の取扱いについては、本記事では扱っていません。相続税の税率および基礎控除についても本記事では扱っていません。金融機関による決算書の評価は各金融機関の判断によります。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.2606「金銭を貸し付けたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2606.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5202「役員等に対する経済的利益」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5202.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 204(貸付金債権の評価)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm
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