この記事のポイント
- 🔴 法人税法上の役員には、登記されていない人も含まれます(国税庁タックスアンサーNo.5200)
- 使用人以外で経営に従事する人(相談役・顧問など)はみなし役員です
- 同族会社の使用人は、3つの持株要件を全て満たすと役員になります
- 持株要件は50パーセント超・10パーセント超・5パーセント超の3段階です
まず結論:登記されていなくても、税務上は役員になることがあります
「うちの長男は部長です。登記はしていません」。中小企業でよく聞く話です。
法人税法上は、登記されていない人が「役員」として扱われることがあります。国税庁は、役員に含まれる者として次の2つを示しています(タックスアンサーNo.5200)。
- ① 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人
- ② ①以外の者で、次のいずれかに該当する者(いわゆるみなし役員)
- 使用人以外の者で、その法人の経営に従事しているもの
- 同族会社の使用人のうち、持株割合の要件を全て満たし、経営に従事しているもの(使用人としての地位のみを有する者に限ります)
①は登記されている人で、書類で分かります。問題は②です。肩書きが部長でも平社員でも、税務上は役員になり得ます。
役員に当たれば、給与の扱いが変わります。使用人の給与は原則経費になりますが、役員給与には別のルールがかかります。「誰が役員か」を間違えると、経費として認められない金額が生じます。
補足
この記事が扱う範囲
本記事は「誰が税務上の役員に当たるか」に絞って解説します。役員給与の損金算入ルールそのもの(定期同額給与・事前確定届出給与などの制度の細目)は扱いません。そちらは役員報酬と役員退職金の組み立て方をご覧ください。
法人税法上の「役員」は3つに分かれます
法人税法上の役員は、次の3つに分けて考えると分かりやすくなります。
| 誰が当たるか | 判断のポイント | |
|---|---|---|
| ア 法定の役員 | 取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人 | 登記・選任の事実で分かる |
| イ 経営に従事している者 | 使用人以外の者で経営に従事しているもの(総裁・会長・理事長、相談役・顧問など) | 実質で判断される |
| ウ 同族会社の使用人で持株要件を満たす者 | 持株割合の要件を全て満たし、経営に従事している使用人(使用人としての地位のみを有する者に限る) | 持株と経営への従事の両方を見る |
アは形式で決まります。イとウが、いわゆるみなし役員で、会社の実態を見に行く必要があります。
共通しているのは「経営に従事している」という要件です
イとウに共通するのが、その法人の経営に従事しているという要件です。国税庁のタックスアンサーも、この言葉を細かくは定義していません。
会社での役割、決定への関与の度合いなど、個別の事実関係によって結論が変わります。机の上だけで「大丈夫」と決めるのは危険です。
ウには持株要件という「数字の入口」があります
もっとも、ウには持株割合という数字の入口が置かれています。まず持株を確認し、要件に当たるなら経営への従事を検討する。この順番が実務的です。
パターン① 肩書きが役員でなくても経営に従事していれば役員
まず、イのパターンです。国税庁は、使用人以外の者で経営に従事しているものを役員に含めています(タックスアンサーNo.5200)。
例として挙げられている人
- 総裁、会長、理事長などの職にある者
- 相談役、顧問などで、実質的に経営に従事している者
会社を息子に譲った先代が、相談役として毎月一定額を受け取る。中小企業ではよくある形です。実質的に経営に従事しているのであれば、税務上は役員として扱われます。
「登記していないから使用人」ではありません
「登記から外したので、もう役員ではありません」という説明をよく聞きます。しかし法人税法上の役員は、登記の有無だけで決まりません。登記を外したあとも重要な意思決定に関わり続けていれば、形式と実質がずれてしまいます。
ではどこで線を引くのか
ここに一律の線引きはありません。個別の事実関係で判断することになります。実務では、次のような点を確認します。
- 会社の重要な事項を決める場に加わっているか
- その人の判断がなければ物事が進まない状態か
- 取引先や金融機関に対してどのような立場で接しているか
- 受け取っている金額が職務の内容と見合っているか
注意
迷う場面が出てきたら、支払を始める前にご相談ください。始めてしまってからでは戻せません。
パターン② 同族会社の使用人 3つの持株要件
次に、ウのパターンです。ここが本記事の中心になります。国税庁は、同族会社の使用人のうち、次の3つの持株要件をすべて満たし、経営に従事しているものを役員に含めています(タックスアンサーNo.5200)。使用人としての地位のみを有する者に限られます。
3つの要件
ポイント
(イ) 50パーセント超の最初のグループに属していること
株主グループを所有割合の大きい順に並べたとき、50パーセントを超える最初のグループのいずれかに属していること
(ロ) 属するグループが10パーセント超であること
その使用人が属する株主グループの所有割合が10パーセントを超えていること
(ハ) 本人等が5パーセント超であること
その使用人(配偶者、および所有割合50パーセント超の他の会社を含みます)の所有割合が5パーセントを超えていること
3つのうちひとつでも欠ければ、このパターンには当たりません。すべてを満たすことが必要です。
要件を順番に読み解きます
(イ)は支配側のグループに入っているかを見る要件、(ロ)はそのグループ自体に力があるかを見る要件です。(ハ)は本人自身に力があるかを見る要件で、本人だけでなく配偶者の分も含める点が重要です。本人名義だけを見て判断すると、見落としが起きます。
数値例で判定してみます
計算例
例:発行済株式のすべてを4者が保有する同族会社
社長40パーセント・配偶者20パーセント・長男(部長。取締役ではない)15パーセント・取引先25パーセント (イ) 社長を中心とするグループ 40パーセント+20パーセント+15パーセント=75パーセント(50パーセント超の最初のグループに該当→充足) (ロ) 長男が属するグループの割合 75パーセント(10パーセント超→充足) (ハ) 長男本人の割合 15パーセント(5パーセント超→充足)3つの要件をすべて満たしました。あとは長男がその会社の経営に従事していると認められるかどうかです。認められれば、長男は税務上「役員(みなし役員)」として扱われます。部長という肩書きは関係ありません。
持株が少ない場合との対比
同じ会社で長男の持株が3パーセントなら、5パーセントを超えないため(ハ)を満たしません。3つすべてを満たす必要があるため、このパターンには当たりません。わずかな差で結論が変わるため、株主名簿を正確に把握しておくことが税務の安全につながります。
注意
持株が5パーセント以下であっても、前章のパターン①(経営に従事しているもの)に当たる可能性は別に検討する必要があります。持株要件を外れたことだけで「役員ではない」と結論づけないでください。
みなし役員になると何が変わるのか
税務上の役員に当たると、給与の扱いが変わります。
役員給与の損金算入ルールが適用されます
国税庁は、役員に対する給与について次のように説明しています(タックスアンサーNo.5211)。定期同額給与、事前確定届出給与または業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は、損金の額に算入されません。
使用人であれば支給した給与は原則経費になりますが、役員だとこの枠に当てはまるかどうかを毎回確認することになります。
補足
定期同額給与・事前確定届出給与などの制度の中身は、本記事では扱いません。役員報酬と役員退職金の組み立て方 社長個人の手取りまで考える出口設計をご覧ください。
「給与」から除かれるものもあります
もっとも、次のものは「給与」から除かれます(同No.5211)。
- ① 退職給与で業績連動給与に該当しないもの
- ② 使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するもの
- ③ 事実を隠蔽し、または仮装して経理することにより支給するもの
①と②は不相当に高額な部分が、③はそのすべての金額が損金の額に算入されません。使用人兼務役員に当たるかどうかの判定は別の論点のため、本記事では踏み込みません。
影響は「これから」だけではありません
役員かどうかの判定は、過去に払った分にも影響します。「今期から気をつけます」で済む話ではないからこそ、早い段階で確認しておくことに意味があります。
経済的利益も「給与」に含まれます
役員の範囲と並んで見落としやすいのが、給与の範囲です。国税庁は、役員および特殊関係使用人に支給する給与について、金銭によるもののほか、債務の免除による利益その他の経済的な利益も含まれると説明しています(タックスアンサーNo.5202)。
例として挙げられているもの
同じタックスアンサーで例に挙げられているもののうち、3つを取り上げます。
- 資産を無償または低い価額で譲渡した場合の、資産の価額と譲渡価額との差額
- 居住用の土地・家屋を無償または低い価額で提供した場合の、通常の賃貸料と実際の賃貸料との差額
- 役員等の個人的費用を負担した額
このほか、無利息または低い利率で貸し付けた場合の利息の差額なども挙げられています。いずれも現金を渡していない点が共通しており、見落とされやすいのです。
毎月おおむね一定なら定期同額給与に該当します
継続的に供与される経済的利益で、その額が毎月おおむね一定であるものは、定期同額給与に該当し、損金の額に算入されます(同No.5202)。
みなし役員と組み合わさると影響が大きくなります
使用人だと思っていた家族に経済的な利益を与えていたところ、その家族が税務上は役員だった。この場合、役員に対する給与として扱われます。社用車の私的使用、社宅、個人的費用の負担がないか、役員の範囲とセットで確認してください。
よくある失敗
実務でよく見かける4つのつまずきを挙げます。
1. 家族に自由に賞与を出していた
最も多いのがこれです。利益が出た期末に、家族の従業員へまとまった賞与を支給する。その家族が税務上は役員だったとなると話が変わります。支給を決める前に、役員に当たるかどうかを確認する。順番が逆になると取り返しがつきません。
2. 親族の持株を把握していない
次に多いのが、株主名簿が整っていないケースです。相続や贈与で株式が動き、誰が何株持っているのか正確には分からない状態では、持株要件の判定ができません。特に配偶者名義の株式は見落としがちです。株主名簿を最新の状態に保つことが必要です。
3. 「登記していないから大丈夫」と考えていた
法人税法上の役員は、取締役等に限られていません(タックスアンサーNo.5200)。「登記していないから使用人」という理解のままだと、判定が抜け落ちます。登記は出発点であって、終着点ではありません。
4. 相談役・顧問への支払を役員給与と考えていなかった
先代や創業者への支払も同様です。タックスアンサーNo.5200は、相談役、顧問などで実質的に経営に従事している者を役員の例に挙げています。「役職から退いたので相談役として渡している」という支払が役員給与として扱われる可能性を、あらかじめ検討しておく必要があります。
ポイント
いま確認していただきたい4点
① 株主名簿が最新か。配偶者名義を含め、誰が何パーセント持っているか
② 登記されていない親族の従業員がいないか。いる場合、その持株は何パーセントか
③ 相談役・顧問への支払がないか。ある場合、経営に関わっていないか
④ 会社が負担している個人的な費用・社宅・貸付などがないか
決算前ではなく、期首前に確認してください
決算のときでは遅いことがあります
決算を組む段階で「この人は役員に当たるのでは」と気づく。実務ではよくある展開です。しかしその時点では1年分の支給がすでに終わっています。払ってしまったものは戻せません。
期首前に見ておくべきこと
そこで、事業年度が始まる前に次を確認しておくことをおすすめします。
- 株主名簿の最新版を用意し、株主グループごとの所有割合を計算しておく
- 親族の従業員が3つの持株要件に当たるかを確認する
- 当たる場合、経営に従事していると評価される状況かを確認する
- 相談役・顧問への支払が実質的に経営に従事していないかを確認する
- 会社が負担している経済的な利益の有無と内容を洗い出す
組織を動かす前が最良のタイミングです
子に株式を移すとき、役職から退くとき、新しく家族を入社させるとき。組織や株主構成が動く前であれば、選択肢があります。動かしたあとでは、事実を前提に判断するしかありません。迷ったら、動かす前にひと声かける。それだけで防げることが多い論点です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 取締役として登記していない家族社員でも、税務上の役員になることがありますか?
あります。取締役等以外でも、一定の要件を満たせば法人税法上の役員に含まれます(国税庁タックスアンサーNo.5200)。同族会社の使用人は3つの持株要件と経営への従事で判定し、登記の有無だけでは決まりません。詳しくは税理士にご確認ください。
Q2. 同族会社の使用人についての3つの持株要件とは、どのようなものですか?
(イ)株主グループを所有割合順に並べ50パーセント超の最初のグループに属すること。(ロ)属するグループが10パーセント超。(ハ)本人等(配偶者を含む)が5パーセント超。全て満たし経営に従事する場合に役員です(同No.5200)。
Q3. 相談役や顧問に払っている報酬は、役員給与になりますか?
なることがあります。相談役・顧問で実質的に経営に従事している者は役員に含まれます(同No.5200)。経営への従事は実質で判断されますので、支払を始める前に税理士にご相談ください。
Q4. 会社が負担した個人的な費用も、役員に対する給与に含まれますか?
含まれます。役員給与には金銭のほか、資産の低額譲渡や個人的費用の負担など経済的な利益も含まれます(同No.5202)。ただし毎月おおむね一定額であるものは、定期同額給与として損金に算入されます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.5200およびNo.5202は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。「その法人の経営に従事している」かどうかは実質で判断されるものであり、個別の事実関係によって結論が変わります。本記事に記載した確認の着眼点は判定基準そのものではありません。役員給与の損金算入ルール(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与などの制度の細目)および使用人兼務役員の判定については、本記事では扱っていません。本記事の数値例は、株主構成を仮定して持株要件の当てはめを示したものであり、実際の判定結果を保証するものではありません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.5200「役員の範囲」(令和7年4月1日現在法令等/根拠法令等:法法2、法令7・71、法基通9-2-1)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5202「役員等に対する経済的利益」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5202.htm
支給を始める前に、役員の範囲を確認してください
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