この記事のポイント
- 中小企業の設備投資で使える税制は投資促進税制と経営強化税制の2つです
- 投資促進税制は認定不要。特別償却30パーセント・税額控除7パーセントです(No.5433)
- 経営強化税制は経営力向上計画の認定が前提。そのかわり即時償却まで使えます(No.5434)
- 令和8年度改正で、工具・器具備品の金額基準が30万円から40万円に引き上げられました
まず結論:設備を「買う前」に決めておくことが2つあります
機械の入れ替えや基幹システムの刷新など、設備投資には中小企業向けの税制が用意されています。使えば、その事業年度の税負担を大きく変えられます。
ところが決算後に「使える制度はなかったのか」と聞かれることが少なくありません。設備投資の税制は、買う前に決めておかないと選択肢が消えるタイプの制度です。決めておくべきことは2つあります。
- ① どちらの税制を使うか。中小企業投資促進税制か、中小企業経営強化税制か
- ② 特別償却と税額控除のどちらを選ぶか。性格がまったく違います
①は経営強化税制が経営力向上計画の認定を前提とし、認定に時間がかかるためです。②は特別償却が課税の先送りにすぎないのに対し、税額控除は税額そのものが減るためです。
補足
この記事が扱う範囲
本記事は法人が設備を取得する場合を前提に解説します。経営力向上計画の申請手続や対象設備の細かな分類は扱いません。適用にあたっては個別にご確認ください。
中小企業投資促進税制 計画の認定がいらない使いやすい制度
中小企業投資促進税制(国税庁タックスアンサーNo.5433)は計画の認定が要らない制度です。要件に当てはまる設備を買って事業に使えば適用できます。
誰が使えるか
特別償却を使えるのは青色申告書を提出する中小企業者、農業協同組合等、商店街振興組合です。中小企業者とは資本金の額または出資金の額が1億円以下で大規模法人に支配されていない法人、または従業員1,000人以下の法人をいいます。
ただし税額控除を使えるのは資本金の額もしくは出資金の額が3,000万円以下の中小企業者等です。資本金が3,000万円を超えて1億円以下の会社は特別償却しか選べません。
どんな設備が対象か
対象設備と取得価額の要件は次のとおりです。
| 設備の種類 | 取得価額の要件 |
|---|---|
| 機械及び装置 | 1台または1基160万円以上 |
| 測定工具及び検査工具 | 1台または1基120万円以上(1台30万円以上かつ合計120万円以上を含む) |
| ソフトウエア | 一の取得価額が70万円以上(合計70万円以上を含む) |
| 貨物運送用の普通自動車 | 車両総重量3.5トン以上 |
| 内航海運業の用に供される船舶 | ― |
表の「30万円以上」は令和8年度改正で40万円以上に見直されています(後述)。
いくら償却できるか、いくら控除できるか
ポイント
特別償却:基準取得価額の30パーセント相当額 税額控除:基準取得価額の7パーセント相当額(どちらか一方を選択)
税額控除には上限がありその事業年度の調整前法人税額の20パーセント相当額です。控除しきれなかった金額は、1年間の繰越しができます。
いつまでに買えばよいか
適用期限は令和9年3月31日までに取得等して事業の用に供した場合です。「取得」だけでは足りず、事業の用に供していることが必要です(詳細は後述)。
中小企業経営強化税制 経営力向上計画の認定を受けると即時償却まで使えます
中小企業経営強化税制(国税庁タックスアンサーNo.5434)は手間がかかるぶん、効果は大きくなります。
誰が使えるか
対象は中小企業者または農業協同組合等もしくは商店街振興組合で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法に規定する特定事業者等に該当するもの、つまり経営力向上計画の認定を受けたものです。ここが投資促進税制との決定的な違いです。認定を行うのは中小企業庁で、手続の詳細は中小企業庁のホームページでご確認ください。
どんな設備が対象か
- 第1類型:機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエア
- 第2類型:上記に加えて建物を含む生産等設備で、経営の向上・規模の拡大に著しく資する一定のもの
投資促進税制と比べ、器具備品・建物附属設備が入ってくるのが大きな違いです。
いくら償却できるか、いくら控除できるか
ポイント
特別償却:取得価額から普通償却限度額を控除した金額(=即時償却)。建物は基準取得価額の15パーセント(特定建物等は25パーセント)
税額控除:7パーセント(特定中小企業者等は10パーセント)。建物は1パーセント(特定建物等は2パーセント)
普通の減価償却で計上できる金額との差額を、まとめて上乗せできるため、その事業年度で取得価額の全額を損金にできます。これが即時償却と呼ばれる理由です。税額控除の上限は投資促進税制と同じ調整前法人税額の20パーセント相当額です。
いつまでに買えばよいか
適用期限は平成29年4月1日から令和9年3月31日までの期間です。投資促進税制と同じ日で切れるため、この日付を全社で共有しておくことをおすすめします。
注意
令和8年度改正で創設された「特定生産性向上設備等投資促進税制」の投資計画の確認を受けた法人は、その計画期間内の各事業年度において中小企業経営強化税制を適用できません(繰越税額控除制度は適用可)。両方を同時には使えません。
2つの税制の違いを表で比べる
| 中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 | |
|---|---|---|
| 計画の認定 | 不要 | 必要(特定事業者等に該当) |
| 対象設備 | 機械装置、測定・検査工具、ソフトウエア、貨物運送用普通自動車(車両総重量3.5トン以上)、内航海運業の船舶 | 第1類型=機械装置・工具・器具備品・建物附属設備・ソフトウエア/第2類型=上記+建物 |
| 特別償却 | 基準取得価額の30パーセント | 取得価額-普通償却限度額(即時償却)/建物15パーセント(特定建物等25パーセント) |
| 税額控除 | 7パーセント(資本金3,000万円以下) | 7パーセント(特定中小企業者等10パーセント)/建物1パーセント(特定建物等2パーセント) |
| 控除上限 | 調整前法人税額の20パーセント。繰越1年間 | 調整前法人税額の20パーセント |
| 適用期限 | 令和9年3月31日までに取得等して事業の用に供した場合 | 平成29年4月1日から令和9年3月31日までの期間 |
読み取り方
手間をかけずに使いたいなら投資促進税制です。認定が要らないため、決算直前でも間に合う場面があります。効果を最大にしたいなら経営強化税制です。即時償却に加え、器具備品・建物附属設備など投資促進税制では対象外の設備もカバーされます。ただし認定という関門があり、間に合うかどうかが実務上の分かれ目です。なお同じ設備で両方の制度を重ねて使うことはできず、どちらか一方を選ぶことになります。
特別償却と税額控除はどちらが有利か
次に決めるのが特別償却か税額控除かです。名前が似ているだけでまったく別のものですので、まず押さえてください。
特別償却は「課税の先送り」です
特別償却は減価償却費を通常より多く計上できる制度で、当期の損金が増え税負担は下がります。ただし先に多く償却した分だけ、翌期以降の償却費は減ります。設備の取得価額は決まっているため、耐用年数の全期間を通じた損金の合計額は変わりません。つまり特別償却は課税の先送りであり、トータルで税金が減るわけではない点は誤解されがちです。
税額控除は「税額そのものが減る」ものです
税額控除は計算した法人税額から直接差し引く制度です。損金の額や減価償却は変わらず、税額だけが減ります。翌期以降にツケが回ることもありません。
数値で見てみます
前提:資本金1,000万円の中小企業者等が機械装置800万円を取得して事業の用に供した場合。
計算例
例1:特別償却を選んだ場合
8,000,000円 × 30パーセント = 2,400,000円この240万円を普通償却限度額に上乗せして損金に算入できます。
例2:税額控除を選んだ場合
8,000,000円 × 7パーセント = 560,000円 調整前法人税額 2,000,000円 × 20パーセント = 400,000円(控除上限) 560,000円 - 400,000円 = 160,000円(1年間繰越し)当期に控除できるのは400,000円。残る160,000円は1年間繰り越せます。
どう考えて選ぶか
- 当期の資金繰りが厳しいか。抑えたい事情が強ければ特別償却の効果は大きくなります
- 翌期以降も安定して利益が出る見通しか。先送りした課税が翌期以降に効いてきます
- 当期の法人税額。税額控除は調整前法人税額の20パーセントが上限で、税額が小さいと使いきれません
- 繰越しの1年で使いきれるか。翌期の利益見通しとあわせて確認します
一般論では安定して利益が出ている会社なら税額控除、資金を厚くしたい会社なら特別償却という整理になりますが、実際の有利不利は当期と翌期の利益見通しを置かないと判断できません。経営強化税制では特別償却が即時償却になるため、投資促進税制のときとは結論が変わることがあります。
令和8年度改正で工具・器具備品の金額基準が40万円に上がりました
中小企業経営強化税制
令和8年4月1日以後に取得等をする工具及び器具備品の取得価額要件が、30万円以上から40万円以上に引き上げられました。
中小企業投資促進税制
工具の取得価額要件も見直され、「1台又は1基30万円以上の工具の合計額が120万円以上」から「40万円以上の工具の合計額が120万円以上」に変わりました。令和8年4月1日以後に終了する事業年度から適用されますが、施行日をまたぐ事業年度には経過措置があるため、3月決算以外の会社は個別確認が必要です。
少額減価償却資産の特例も40万円未満に
ポイント
少額減価償却資産の特例(令和8年度改正後)
① 令和8年4月1日以後取得分の取得価額基準を30万円未満から40万円未満に引上げ
② 適用期限3年延長
③ 常時使用する従業員数400人超の法人を除外
④ 取得価額の合計額は年300万円が上限(据置き)
1台40万円未満の資産ならこの特例で全額を損金にできます。認定も特別償却・税額控除の判定も不要ですが、年300万円という上限を超える投資は投資促進税制・経営強化税制の出番です。
注意
🔴 国税庁タックスアンサーNo.5433・No.5434は令和7年4月1日現在の法令等に基づく表示で、工具・器具備品の金額基準は30万円のまま記載されています。40万円への引上げは反映されていないため、国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」もあわせてご確認ください。
よくある失敗
実務で多いつまずきは、いずれも事前に相談があれば防げるものです。
1. 決算が終わってから相談される
最も多いパターンです。投資促進税制なら間に合うこともありますが、経営強化税制は認定が前提のため事後対応には限界があります。設備投資の話が出た時点でひと声かけていただくだけで選べる幅が変わります。
2.「1台または1基」の判定を誤る
機械及び装置は1台または1基の取得価額が160万円以上が要件で、合計額での判定はできません。一方、測定工具・検査工具とソフトウエアには合計額での判定が認められる部分があります。設備の種類でルールが違うため、まとめて考えると間違えます。
3. 事業の用に供した日が翌期になる
投資促進税制の期限は「令和9年3月31日までに取得等して事業の用に供した場合」で、買っただけでは足りません。期末に納品されても稼働が翌期なら適用も翌期に回るため、納品日ではなく稼働開始日を意識してください。
4. 認定が間に合わない
経営強化税制は認定を受けていることが前提で、認定は中小企業庁が行います。手続の詳細と所要期間は中小企業庁のホームページでご確認ください。設備の発注前に手続の見通しを立てることが必要です。
5. 税額控除の上限を見落とす
税額控除は基準取得価額の7パーセントですが、控除できるのは調整前法人税額の20パーセントまでです。利益が小さい年度は控除枠を使いきれず、繰越しも1年間だけです。当期の法人税額がいくらになるかを先に見積もることが大切です。
6. 資本金の額で税額控除が使えない
投資促進税制の税額控除は資本金の額もしくは出資金の額が3,000万円以下が対象です。特別償却は資本金1億円以下で使えるため両方使えると誤解しがちですが、3,000万円を超える会社は特別償却のみです。
ポイント
設備投資の前に確認していただきたい5点
① 資本金の額(3,000万円以下か、1億円以下か)
② 設備の区分と取得価額要件
③ 経営力向上計画の認定を受けるか、手続の見通しは立つか
④ 事業の用に供する日は当期中か
⑤ 当期の調整前法人税額はいくらか
ひとつでも「分からない」があれば、設備の発注前にご相談ください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制は、どちらを使えばよいですか?
違いは認定の要否です。投資促進税制は認定不要で特別償却30パーセント相当額。経営強化税制は経営力向上計画の認定が前提ですが、即時償却まで使えます。認定が間に合うかが分かれ目です。
Q2. 特別償却と税額控除は、どちらが有利ですか?
特別償却は将来の償却費を前倒しするだけの課税の先送りで、損金の合計額は変わりません。税額控除は法人税額から直接差し引き、税負担そのものが減ります。資金繰り優先なら特別償却、総額を抑えたいなら税額控除ですが、結論は利益見通し次第です。
Q3. 税額控除を当期に使いきれないときはどうなりますか?
税額控除限度額は基準取得価額の7パーセントですが、調整前法人税額の20パーセントが上限です。超えて控除しきれない金額は1年間繰り越せるため、控除枠が完全に消えるわけではありません。ただし翌期の利益見通しもあわせて確認が必要です。
Q4. 令和8年度の改正で、工具や器具備品の金額基準はどう変わりましたか?
経営強化税制は令和8年4月1日以後取得の工具・器具備品が30万円以上から40万円以上に引き上げ。投資促進税制も30万円以上・合計120万円以上の工具要件が40万円以上に見直され、少額減価償却資産の特例も40万円未満に。タックスアンサーは令和7年4月1日現在のため30万円のままなのでご注意ください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.5433およびNo.5434は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。令和8年度の改正により、中小企業経営強化税制の工具及び器具備品の取得価額要件は30万円以上から40万円以上に、中小企業投資促進税制の工具に係る合計額判定の金額基準は30万円以上から40万円以上に、中小企業者等の少額減価償却資産の特例の取得価額基準は30万円未満から40万円未満に、それぞれ引き上げられていますが、上記タックスアンサーの表示は30万円のままとなっています。実際の適用にあたっては、国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」もあわせてご確認ください。本記事の数値例は、資本金1,000万円の中小企業者等が機械装置800万円を取得して事業の用に供し、その事業年度の調整前法人税額が2,000,000円であると仮定した計算上の目安であり、実際の税額を保証するものではありません。経営力向上計画の認定手続の詳細、対象設備の細目、特定生産性向上設備等投資促進税制の内容、および地方税の取扱いについては、本記事では扱っていません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.5433「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5433.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5434「中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5434.htm
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」(令和8年5月27日現在公布されている法令に基づき作成)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2026/01.htm
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設備投資の税制は、買う前に決めておかないと選択肢が狭まります。とくに中小企業経営強化税制は認定が前提です。どちらの制度を使うか、特別償却と税額控除のどちらを選ぶかまで、当期と翌期の見通しを置いて一緒に検討します。顧問契約のご相談も歓迎です。代表税理士が直接ご対応します。
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