法人税・節税

社長の土地に会社の建物を建てるとき
借地権の認定課税と土地の無償返還に関する届出書

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 権利金を収受する慣行があるのに収受しないと、権利金の認定課税が行われます(タックスアンサーNo.5730)
  • 認定課税を避ける方法は2つ。①相当の地代を収受無償返還に関する届出書を提出のいずれかです
  • 相当の地代は更地価額の年6パーセント程度3年以下ごとに見直しが必要です(同No.5732)
  • 届出書は連名で提出。相続時は貸宅地を自用地価額の100分の80で評価します

まず結論:届出書1枚の有無で、多額の課税が生じることがあります

社長個人の土地に会社の建物を建てるとき、何も手を打たないまま建ててしまうと、会社に多額の課税が生じることがあります。

原因は「借地権」です。他人の土地に建物を建てて使う権利は、それ自体が値段のつく財産で、ふつうは権利金を払って手に入れます。

国税庁はこう説明します。「通常、権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を収受しないときは、権利金の認定課税が行われます」(タックスアンサーNo.5730)。

回避策は2つ。①その土地の価額からみて相当の地代を収受している場合②契約書で将来無償返還を定め「土地の無償返還に関する届出書」を連名提出している場合です。実務で多いのは②で、その1枚を出し忘れているだけで大きな課税リスクを抱え続けます

補足

この記事が扱う範囲
本記事は個人が所有する土地を、自分の会社(法人)に貸す場合に限定して解説します。個人間の賃貸や個人地主・個人借地人のケースは扱いません。

社長個人の土地に建つ会社の建物
社長の土地に会社の建物を建てる前に、借地権の扱いを決めておきます

なぜ権利金の認定課税が起きるのか

「タダで貸しただけ」なのに課税される理由を整理します。

借地権は値段のつく財産です

土地を借りて建物を建てると、借りた側は長期間その土地を使い続けられます。この強い権利が借地権で、地域によっては土地の値段の6割から7割にもなる財産として取引されます。だからこそ設定時には権利金をやりとりする慣行があるのです。

もらった側に利益が生まれます

権利金を払わなければ、借りた側は値段のつく財産をタダで手に入れたことになります。会社がタダで財産を得れば、それは会社の利益であり、これに課税されるのが権利金の認定課税です。国税庁の説明は法人所有の土地を賃貸する場面が前提ですが(タックスアンサーNo.5730)、社長個人の土地に会社が建物を建てる場面でも考え方は同じです。

怖いのは現金が動いていないことです

この課税のやっかいな点は、お金が1円も動いていないのに財産が移転したものとして課税されうることです。納税資金の当てがないまま課税だけが生じかねません。しかも影響は建てた年だけでなく、その後の相続まで続きます

認定課税を避ける2つの方法

国税庁が示す出口は2つです。表で比べます。

① 相当の地代を収受する② 無償返還の届出書を出す
やること土地の価額からみて相当の地代を収受する契約書に無償返還の定めを置き、届出書を連名提出する
地代の水準更地価額のおおむね年6パーセント程度当事者の合意で決められる
その後の手間おおむね3年以下の期間ごとに見直しが必要契約内容が変わらなければ出しっぱなし
個人側の負担地代収入が大きく、不動産所得が増える地代の設定次第で負担を抑えられる
会社側の負担地代が損金になるが資金負担は重い地代が損金になる。資金負担は軽め

①はお金で解決する方法、②は約束で解決する方法です。中小企業の実務では②が主流です。①は地代の金額が大きく、資金繰りを圧迫するためです。

どちらを選ぶかの目安

  • 会社が地代を払い続けられるか。相当の地代は毎年発生する固定費です
  • 社長個人の所得がどこまで増えてよいか。地代収入は不動産所得として毎年かかります
  • 3年ごとの見直しを続けられる体制があるか。①を選ぶならこの事務が続きます

会社にも社長にも余力があり地代を実際に動かしたい事情があるなら①、そうでなければ②という整理になることが多いですが、実際にどちらが合うかは会社の状況を見ないと決められません

相当の地代とは 更地価額のおおむね年6パーセント

相当の地代の額は、その土地の更地価額のおおむね年6パーセント程度の金額です(タックスアンサーNo.5732)。

更地価額はどう求めるか

基準となる更地価額は、原則としてその土地の更地としての時価です。ただし国税庁は、次の方法によることもできると示しています(同No.5732)。

  • 近くにある類似した土地の公示価格などから合理的に計算した価額
  • その土地の相続税評価額、または過去3年間の平均額

実務では、時価より低めに出やすく資料も揃えやすい相続税評価額の過去3年平均を使う場面がよく出てきます。

3年以下ごとの見直しを忘れないでください

相当の地代は、土地の値上がりに応じておおむね3年以下の期間ごとに改訂する必要があります(同No.5732、タックスアンサーNo.5730)。設定して10年も放置していた、という状態は避けてください。ここが①の実務上の弱点です。

土地の無償返還に関する届出書と賃貸借契約書
契約書の定めと届出書は、必ずセットで整えます

無償返還の届出書はどんな書類か

いつ出す書類か

国税庁の手続案内では、この届出は借地権の設定等に係る契約書において、将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に提出する届出とされています(C1-63 土地の無償返還に関する届出)。先に契約書へ定めを置き、そのうえで届出書を出す順序が前提です。

連名で出します

この届出書は土地の所有者と借地人の連名で提出します。社長個人の土地に会社が建てる場合なら、社長個人と会社の2者が連名で出すことになります。どちらか一方だけが出す書類ではありません。

補足

提出時期・提出先・部数は必ず手続案内でご確認ください
細目は国税庁の手続案内「C1-63 土地の無償返還に関する届出」に記載されています。実際に提出する際は、必ず国税庁の手続案内ページでご確認ください。

地代はどう決めるか

この方法では地代は当事者の合意で決められ、相当の地代のような高い水準は求められません。ただし地代が固定資産税相当額以下になると使用貸借と扱われ取扱いが変わるため、その点は別途検討が必要です。

相続のときの評価が変わります

相続時の土地評価を確認する打ち合わせ
届出書の有無は、相続税の土地評価にも影響します

届出書を出しておくと、社長に相続が起きたときの土地の評価が変わります。

借地権の価額は零、貸宅地は100分の80

昭和60年6月5日付の個別通達は、届出書が提出されている場合、借地権の価額は零として取り扱い、貸宅地(底地)の価額は自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価すると定めています。

何が起きるか

  • 会社側の借地権はゼロ評価。会社に借地権という財産があるとは扱われません
  • 社長側の土地は自用地価額の80パーセントで評価されます

更地のまま持てば100パーセントで評価される土地が80パーセントになるということです。相続税は評価額に対してかかるため、税額も変わってきます。

注意点が2つあります

1つ目、借地人が同族会社の場合、その会社の株式の評価でも別の調整が必要になることがあります。2つ目、この土地に小規模宅地等の特例が使えるかどうかは別途検討が必要です。いずれも個社ごとの事情で結論が変わる論点です。

評価が下がることだけを目的にしないでください

届出書は相続税の評価を下げるための道具ではありません。本来の目的は権利金の認定課税を避けることで、評価の話は結果としてついてくるものです。まずは会社と社長のあいだの土地の使い方をどう決めるかから考えてください。

数値例:更地価額1億円の土地

前提:社長個人が所有する更地価額(自用地としての価額)1億円の土地。その土地に、社長が経営する会社が建物を建てて使います。

① 相当の地代を収受する方法

計算例

例1:相当の地代の計算

1億円 × 6パーセント = 年600万円 月額に直すと 50万円 3年分では 1,800万円

会社は毎年600万円の地代を負担し、社長側は不動産所得が年600万円増えます。加えて、おおむね3年以下の期間ごとに評価し直し地代を改訂する必要があります。

② 無償返還の届出書を出す方法

契約書に無償返還の定めを置き、社長と会社の連名で届出書を提出します。地代は当事者の合意で決められ、年600万円という水準に縛られません。ただし固定資産税相当額以下の地代にすると使用貸借となるため、その点は別途検討が必要です。

③ 相続が起きたときの評価

計算例

例2:貸宅地の評価

自用地としての価額 1億円 届出書提出あり = 1億円 × 80パーセント = 8,000万円 自用地のままなら1億円のため、評価は2,000万円下がります

この2,000万円の差が相続税の計算に影響します。ただし実際の影響は他の財産・法定相続人の数・適用できる特例によって変わり、この土地だけを見て結論は出せません。

よくある失敗

実務でよく見かける4つのつまずきを挙げます。

1. そもそも届出書を出していない

最も多い失敗です。建築の話は工務店や銀行と進むため、税務の論点が抜け落ちがちです。建てる前にひと声かけるだけで防げます。すでに建ててしまった場合も、まずは現状確認から始めます。

2. 契約書に無償返還の定めがない

届出書は出しているのに、肝心の契約書に「将来無償で返還する」という定めがないケースです。市販のひな形をそのまま使うと条項が入っていないことがあるため、契約書と届出書はセットで確認してください。

3. 相当の地代を長年見直していない

①を選んだのに設定したときの地代のまま何年も放置しているケースです。相当の地代の改訂はおおむね3年以下の期間ごとに行う必要があり(タックスアンサーNo.5732)、見直しが止まっていると水準を満たしているか判断できません。3年ごとの棚卸しを仕組みにすることが大切です。

4. 代替わりで書類の所在が分からなくなる

先代が届出書を出したはずなのに控えがどこにあるか分からない、契約書も見当たらない。相続や税務調査の場面で説明に苦労するため、契約書と届出書の控えは決算書と一緒に保管してください。この一手間が次の世代を助けます。

ポイント

いま確認していただきたい4点
① 社長個人の土地に会社の建物が建っていないか
② その土地の賃貸借契約書に将来無償で返還する定めが入っているか
③ 「土地の無償返還に関する届出書」の控えが手元にあるか
④ 相当の地代でいっている場合、直近3年以内に地代を見直しているか
ひとつでも「分からない」があれば、確認から始めることをおすすめします。

役員会議
役員会議

社長の土地と会社の建物について小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 社長個人の土地に会社の建物を建てます。何も手を打たないとどうなりますか?

権利金を収受する慣行があるのに収受しないと、権利金の認定課税が行われます(タックスアンサーNo.5730)。回避には相当の地代の収受か、無償返還に関する届出書の提出が必要です。建物を建てる前にご相談ください。

Q2. 相当の地代はいくらになりますか。土地の値段はどう決めますか?

相当の地代は更地価額のおおむね年6パーセント程度です(タックスアンサーNo.5732)。相続税評価額の過去3年間の平均額などで計算でき、おおむね3年以下の期間ごとに見直しが必要です。

Q3. 「土地の無償返還に関する届出書」は誰が提出するのですか?

土地の所有者と借地人の連名で提出します(国税庁「C1-63 土地の無償返還に関する届出」)。契約書に将来無償で返還する定めがあることが前提です。提出時期等の細目は手続案内でご確認ください。

Q4. 届出書を出していると、相続のときの土地の評価はどうなりますか?

届出書が提出されている場合、借地権の価額は零、貸宅地は自用地価額の100分の80で評価します(昭和60年6月5日付の個別通達)。借地人が同族会社の場合は株式評価も別途調整が必要になることがあります。

免責事項

本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.5730およびNo.5732は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。本記事は、個人が所有する土地を自分の会社(法人)に貸す場合を対象としており、個人が個人に土地を貸す場合の取扱いは扱っていません。「土地の無償返還に関する届出書」の提出時期・提出先・部数などの細目は国税庁の手続案内でご確認ください。使用貸借に該当する場合の取扱い、小規模宅地等の特例の適用可否、および借地人が同族会社である場合の株式評価上の調整については、本記事では扱っていません。本記事の数値例は、更地価額(自用地としての価額)を1億円と仮定した計算上の目安であり、実際の評価額・税額を保証するものではありません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・判例出典

建てる前に、借地権の扱いを決めてください

建物が建ってしまってからでは、選べる方法が限られます。契約書の条項と届出書は、必ずセットで整える必要があります。すでに建てている場合も、現状の確認からお手伝いします。顧問契約のご相談も歓迎です。代表税理士が直接ご対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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