この記事のポイント
- 在庫の値下がりは原則として損金になりません(法人税法33条1項)
- 例外は災害による著しい損傷・著しい陳腐化・これらに準ずる特別の事実の3つ
- 単なる物価変動・過剰生産・建値の変更では評価損を計上できません
- 実際に廃棄したときは、評価損ではなく損失として損金になります
まず結論:在庫の値下がりは、原則として損金になりません
売れ残った在庫の価値が下がっても、その値下がり分を経費にすることは原則としてできません。
根拠は法人税法33条1項です。
内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(法人税法33条1項)
「評価換え」とは、帳簿に載っている金額を時価などに引き直すことです。
ただし、例外が同じ33条の2項に置かれています。災害による著しい損傷など「政令で定める事実」が生じた場合に限り、評価損を損金にできます。
ポイント
評価損が認められるには、次の3つがそろう必要があります。(1)政令で定める事実が生じていること(2)その事業年度の決算で帳簿価額を減額していること(損金経理)(3)減額した金額が、評価換え直前の帳簿価額と期末の時価との差額の範囲内であること。「損金経理」とは、会社自身の決算書のなかで費用として処理しておくことをいいます。

棚卸資産で認められる「3つの事実」
棚卸資産について評価損を計上できるのは、法人税法施行令68条1項1号に並んだ3つの事実だけです。
一 棚卸資産 次に掲げる事実
イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと。
ハ イ又はロに準ずる特別の事実(法人税法施行令68条1項1号)
これら以外の理由で在庫の値段が下がっても、評価損の対象にはなりません。
| 区分 | どんな場合か |
|---|---|
| イ 災害による著しい損傷 | 水害・火災などで商品そのものが傷んだ |
| ロ 著しい陳腐化 | 物としては無傷だが、経済的に価値が落ちた |
| ハ 準ずる特別の事実 | 破損・型崩れ・たなざらし・品質変化など |
損金にできる金額には上限があります
損金になるのは、減額した金額の全部ではありません。評価換え直前の帳簿価額と、期末の時価との差額に達するまでの金額が限度です。
計算例
例:帳簿価額800万円の商品が、期末に時価300万円まで下がった場合
評価換え直前の帳簿価額=8,000,000円 期末の時価=3,000,000円 差額=8,000,000円-3,000,000円=5,000,000円 決算で400万円を減額 → 損金算入は4,000,000円(全額) 決算で550万円を減額 → 損金算入は5,000,000円まで、超える500,000円は損金になりません※金額は一定の前提を置いた目安です。実際の時価の把握方法は個社ごとに異なります。
「著しく陳腐化した」とは何か
陳腐化とは、物としては壊れていないのに、経済的な環境の変化で価値が落ちて戻らない状態をいいます。
国税庁の法人税基本通達9-1-4が、次のように示しています。
「当該資産が著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいうのであるから、例えば商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当する。…
(1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。
(2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。(法人税基本通達9-1-4)
大切なのは「今後回復しないと認められる」という部分です。
一時的に売れていないだけでは足りません。
(1)季節商品の売れ残り
季節が過ぎた商品が対象です。ただし条件が付いています。
今後は通常の価額で売れないことが、既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。過去の年度に同じ商品をどう処分したかという記録が、この判断を支えます。
(2)新製品の発売
型式・性能・品質が著しく異なる新製品が出たために、旧型が通常の方法では売れなくなった場合です。
用途が同じでも、性能差が小さければあてはまりません。

「準ずる特別の事実」に含まれるもの
現場でいちばん使いやすいのが、施行令68条1項1号ハの「準ずる特別の事実」です。
法人税基本通達9-1-5は、次のように例示しています。
「イ又はロに準ずる特別の事実」には、例えば、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれる。(法人税基本通達9-1-5)
「たなざらし」とは、長く店頭や倉庫に置かれて商品価値が落ちたものをいいます。
注意
4つの言葉のどれかに当てはめれば済む、というものではありません。通達は「通常の方法によって販売することができないようになったこと」を条件として書いています。長期間在庫にあるという事実だけでは足りず、その状態になった経緯を説明できる記録が必要です。
ここが分かれ目 ― 認められない場合
値段が下がった理由が相場や生産計画にあるときは、評価損を計上できません。
法人税基本通達9-1-6が、はっきりと否定しています。
棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、令第68条第1項第1号《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に掲げる事実に該当しないことに留意する。(法人税基本通達9-1-6)
「建値」とは、メーカーなどが定める基準となる販売価格のことです。
| 値下がりの理由 | 評価損の可否 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相場(物価)が下がった | 計上できない | 通達9-1-6 |
| 作りすぎて在庫が余った | 計上できない | 通達9-1-6 |
| 建値が改定された | 計上できない | 通達9-1-6 |
| 季節商品が売れ残り、今後も通常価額で売れない | 検討できる | 通達9-1-4(1) |
| 性能が大きく違う新製品が出た | 検討できる | 通達9-1-4(2) |
否認の場面では、この線引きが争点になります。
「売れないから下げた」ではなく「なぜ通常の方法では売れなくなったのか」を、事実で説明できるかどうかが分かれ目です。

廃棄したときは「評価損」ではありません
在庫を実際に処分したときは、評価損ではなく、その事業年度の損失として損金になります。
根拠は法人税法22条3項3号です。
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(法人税法22条3項3号)
評価損は「持ったまま帳簿価額を下げる」処理です。廃棄は「もう持っていない」ことによる損失です。入口が違います。
補足
税法が保存すべき資料の様式を定めているわけではありません。もっとも、後から廃棄の事実を説明できる状態にしておくことが実務上は重要です。品目・数量・処分した日、処分を依頼した先の伝票などを、決算書類とあわせて残してください。なお回収できない売掛金は貸倒損失として処理できる場合があり、使わなくなった設備については有姿除却という別の考え方があります。

期末までにやること、ここから先は個別判断
評価損は決算で帳簿価額を減額して初めて成立するため、事業年度が終わってからでは間に合いません。
ご自身で進められるのは、次の3つです。
- 期末までに実地棚卸を行い、品目ごとの数量と滞留年数を一覧にする
- 値下がりしている品目について、下がった理由を1行ずつ書き出す(季節・新製品・破損・相場など)
- 実際に処分するものは期末までに廃棄し、日付・数量・処分先の記録を残す
ここから先、つまりその理由が施行令68条1項1号のイ・ロ・ハのどれに当たるかの判断は、資料を見ないと決められません。
同じ「売れ残り」でも、根拠づけて計上できるものと、できないものが混ざっています。
小松公認会計士・税理士事務所では、在庫の一覧を拝見しながら、計上できるものと見送るものを一緒に仕分けしています。決算前にできることを早めに整理しておくと、判断の幅が広がります。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 売れ残った在庫の値段を下げただけで評価損にできますか?
できません。法人税法33条1項は評価換えによる減額を損金不算入としています。施行令68条1項1号のイ・ロ・ハのいずれかの事実が必要です。
Q2. 仕入れた相場が下がって在庫の時価が落ちました。評価損になりますか?
なりません。法人税基本通達9-1-6は、単に物価変動・過剰生産・建値の変更で時価が低下しただけでは該当しないと明示しています。
Q3. 季節商品が売れ残りました。何を残しておけばよいですか?
通達9-1-4(1)は「既往の実績その他の事情に照らして明らか」であることを求めています。過去に同種商品をいくらで処分したかの記録が判断材料になります。
Q4. 在庫を捨てました。評価損として申告してよいですか?
廃棄は評価損ではなく、法人税法22条3項3号の損失にあたります。品目・数量・廃棄日・処分先などを説明できる資料を残してください。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法33条1項・2項、法人税法22条3項、法人税法施行令68条1項1号、法人税基本通達9-1-4・9-1-5・9-1-6の範囲を扱っています。棚卸資産の評価方法(原価法・低価法)の選定や届出、会計基準上の簿価切下げ、有価証券の評価損、固定資産の評価損の細目、補修用部品在庫調整勘定、消費税の取扱いは扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 法人税法(第22条 各事業年度の所得の金額の計算・第33条 資産の評価損の損金不算入等)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(第68条 資産の評価損の計上ができる事実)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第1節第2款「棚卸資産の評価損」(9-1-4・9-1-5・9-1-6)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm
在庫の評価損は、決算を締める前にご相談ください
評価損は期末までに帳簿価額を減額していなければ計上できません。在庫の一覧と滞留状況を拝見して、計上できるものと見送るべきものを代表税理士が仕分けします。法人顧問として、翌期以降の在庫管理までご一緒に整えます。
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