この記事のポイント
- 退職金はまだ辞めていない人に払っても、3つの場面なら支給年度の損金になります(①打切支給9-2-35 ②使用人が役員9-2-36 ③法人成り9-2-39)
- 打切支給には「相当の理由」と「既往の在職年数を加味しない」の2要件が必要。未払金に計上しただけでは含まれません
- 法人成りの退職金は、設立後相当期間経過後なら全額が法人の損金。そうでなければ個人時代分は個人事業の必要経費です
- 要件を外すと退職給与ではない給与扱いに。使用人兼務役員でなくなったときの支給(9-2-37)は原則が逆です
結論:在職中の人に払う退職金でも、3つの場面なら損金になります
退職金は辞めた人に払うものですが、法人税の通達は、まだ辞めていない人への支払いも支給年度の損金にしてよい場面を定めています。いずれも制度や立場が変わり、勤務に区切りをつける場面です。
場面は3つ。①打切支給(9-2-35)②使用人が役員になったとき(9-2-36)③法人成り(9-2-39)です。
要件を満たさなければ、退職給与ではない役員給与や、その人への給与として扱われます。
場面① 打切支給(法人税基本通達9-2-35)
まず原文です。
法人が、中小企業退職金共済制度又は確定拠出年金制度への移行、定年の延長等に伴い退職給与規程を制定又は改正し、使用人(定年延長の場合にあっては、旧定年に到達した使用人をいう。)に対して退職給与を打切支給した場合において、その支給をしたことにつき相当の理由があり、かつ、その後は既往の在職年数を加味しないこととしているときは、その支給した退職給与の額は、その支給した日の属する事業年度の損金の額に算入する。
(注) この場合の打切支給には、法人が退職給与を打切支給したこととしてこれを未払金等に計上した場合は含まれない。(法人税基本通達9-2-35)
- きっかけは退職給与規程の制定・改正。対象は使用人(定年延長なら旧定年到達者のみ)
- 要件は2つ。①相当の理由があること ②既往の在職年数を加味しないこと
②は、実際の退職時の退職金を打切り前の勤続年数を含めず計算する約束。規程そのものを直しているかが確認点です。(注)の通り、未払金計上だけでは打切支給になりません。中退共の仕組みは中退共で従業員の退職金を準備するをご覧ください。
場面② 使用人が役員になったとき(9-2-36)
社員を取締役に登用する場面です。
法人の使用人がその法人の役員となった場合において、当該法人がその定める退職給与規程に基づき当該役員に対してその役員となった時に使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額を支給したときは、その支給した金額は、退職給与としてその支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入する。
(注) 9-2-35の(注)は、この取扱いを適用する場合について準用する。(法人税基本通達9-2-36)
要点は3つ。退職給与規程に基づく支給であること。金額が使用人期間分であること。(注)で9-2-35の(注)が準用され未払金計上は含まれないことです。
役員退職金をいくらまで損金にできるか、分掌変更の場合は役員退職金の適正額と分掌変更にまとめています。
場面③ 法人成りのとき(9-2-39・タックスアンサーNo.5220)
個人事業のころからの従業員が退職したとき、問題は「誰の経費になるか」です。
個人事業を引き継いで設立された法人が個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その退職が設立後相当期間経過後に行われたものであるときは、その支給した退職給与の額を損金の額に算入する。(法人税基本通達9-2-39)
タックスアンサーは裏返しも書いています。
個人事業を引き継いで設立された法人が、……個人時代を含めた勤務実績を基に退職金を算定し支給した場合は、個人時代の勤務に対応する部分の金額は法人の損金の額には算入されず、個人事業の最終年分の事業所得の計算上、必要経費になります。しかし、その退職が法人設立後相当の期間が経過した後であるときは、その支給した退職金の金額が法人の損金の額に算入されます。(国税庁タックスアンサー No.5220)
数値で見るとどうなるか
勤続20年(個人時代8年・法人後12年)、退職金600万円を年数按分した目安です。
| 区分 | 設立後相当期間経過後の退職 | そうでない場合 |
|---|---|---|
| 法人の損金 | 6,000,000円 | 3,600,000円 |
| 個人事業の最終年分の必要経費 | ― | 2,400,000円 |
| 合計 | 6,000,000円 | 6,000,000円 |
ポイント
金額は消えませんが、どちらの申告の経費になるかが変わります。「相当期間」の年数・按分方法の定めはなく、区分は個別判断です。
注意点① 使用人兼務役員でなくなったときは原則が逆です(9-2-37)
使用人兼務役員だった人が使用人兼務役員に当たらなくなったときの支給は、原則として退職給与になりません。
使用人兼務役員であった役員が、法第34条第1項《役員給与の損金不算入》に規定する使用人としての職務を有する役員に該当しないこととなった場合において、その使用人兼務役員であった期間に係る退職給与として支給した金額があるときは、たとえその額がその使用人としての職務に対する退職給与の額として計算されているときであっても、その支給した金額は、当該役員に対する給与(退職給与を除く。)とする。(法人税基本通達9-2-37)
部長を兼ねた取締役が専務になり使用人分を払う場面です。次の全てに該当するときだけ使用人としての退職給与として扱われます。
- (1) 昇格時に使用人期間分の退職給与を支給していないこと
- (2) 使用人の規程に基づき両期間を通算し、相当な金額であること
昇格の時に一度払っていると、このただし書きは使えません。場面②と続けて考える論点です。
注意点② 規程を作って過去の分をまとめて払うとき(9-2-38)
「役員になった人に精算したい」場合の定めが9-2-38です。
法人が、新たに退職給与規程を制定し又は従来の退職給与規程を改正して使用人から役員となった者に対して退職給与を支給することとした場合において、その制定等の時にすでに使用人から役員になっている者の全員に対してそれぞれの使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額をその制定等の時に支給し、これを損金の額に算入したときは、その支給が次のいずれにも該当するものについては、これを認める。
(1) 既往において、これらの者に対し使用人であった期間に係る退職給与の支給(9-2-35に該当するものを除く。)をしたことがないこと。
(2) 支給した退職給与の額が、その役員が役員となった直前に受けていた給与の額を基礎とし、その後のベースアップの状況等を参酌して計算されるその退職給与の額として相当な額であること。(法人税基本通達9-2-38)
読み落としやすいのは「全員に対して」の一言。一人だけの支給は想定外で、「相当な額」の目安も示されていません。
受け取る側 個人事業当時の勤続年数は通算できるのか
受け取る側には、勤続年数をどこから数えるかという論点があります。
個人事業当時の勤続期間を含めて退職金の額を計算することが退職給与規程等において明らかとなっている場合には、勤続期間の通算が認められます。……ただし、青色事業専従者であった者の場合は、あくまでも法人設立の日から退職するまでの期間が勤続年数となるので、個人事業当時の勤続期間を通算することはできません。また、退職給与規程等により、退職金の支払額の計算の基礎とする期間が、法人成りしてからの期間によるものとされている場合には、個人事業当時の勤続期間との通算は認められません。(国税庁 質疑応答事例《源泉所得税》)
規程の文言ひとつで結論が変わります。法人成り直後の規程整備の有無で、何年も先の退職に差が出ます。退職所得の計算は退職金をもらったときの確定申告をご覧ください。
「相当の理由」「相当期間」に数字の目安はありません
注意
「相当の理由」「相当期間」「相当な額」に、年数や金額の目安はありません。いずれも個別に判断されます。実務でつまずきやすい点を挙げます。
- 規程を直さずに支給する。3つの場面はいずれも退職給与規程が土台です
- 未払金に計上して済ませる。9-2-35でも9-2-36でも含まれません
- 将来の退職金の計算式が昔のまま。既往の在職年数を加味しない形に直す必要があります
- 役員になった一部の人だけに払う。9-2-38は全員への支給を前提にしています
ここから先は、規程・議事録・就任履歴・過去の支給実績を見ないと判断できません。一般論としてお伝えできるのは、ここまでです。
在職中の従業員・役員への退職金について小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 退職していない従業員に退職金を払っても、本当に損金になるのですか?
規程を改正し、相当の理由があり在職年数を加味しない打切支給に限り損金になります(9-2-35)。未払金計上は含まれません。
Q2. 決算までに資金が用意できないので、打切支給の退職金を未払金に計上してもよいですか?
できません。9-2-35の(注)は未払金計上を打切支給に含めないと定め、9-2-36にも準用されます。支給時期を検討してください。
Q3. 部長だった取締役が専務になります。使用人だった期間分の退職金を払えますか?
払えますが原則は給与扱いです(9-2-37)。昇格時未払・両期間通算・相当額の全要件を満たす場合だけ退職給与と認められます。
Q4. 法人成りしています。個人事業のころからいる社員の退職金は、会社の経費になりますか?
設立後相当期間経過後の退職なら全額が法人の損金(9-2-39・No.5220)。そうでなければ個人時代分は個人事業の必要経費になり、「相当期間」の年数基準はありません。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は、在職中の使用人・役員に退職給与を支給した場合の法人税の取扱いについて、法人税基本通達9-2-35から9-2-39までの定めと、個人事業当時の期間を通算する場合の勤続年数の考え方を扱っています。退職所得控除額の計算方法、退職所得の課税の仕組み、支給時の源泉徴収税額の計算、役員退職金の適正額の判定や分掌変更に伴う退職給与の取扱い、中小企業退職金共済制度や企業型確定拠出年金の掛金の損金算入時期、退職給与規程の条文の作り方、打切支給をした場合の社会保険料の取扱いについては、本記事では扱っていません。また、通達にいう「相当の理由」「相当期間」「相当な額」について、年数や金額の目安は示されていないため、本記事でも示していません。記事中の数値例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額と区分は会社の沿革・規程・支給の内容によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第7款「退職給与」(9-2-35 打切支給・9-2-36 使用人が役員となった場合・9-2-37・9-2-38・9-2-39 個人事業当時の在職期間)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5220「個人事業当時からの使用人に対する退職金」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5220.htm
- 国税庁 質疑応答事例《源泉所得税》「個人事業当時の期間を通算して退職給与を支給する場合の勤続年数」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/04/04.htm
支給する前に、規程と要件を一緒に確かめませんか
在職中の方への退職金は、支給してしまってから扱いを組み直すことができません。退職給与規程を直したか、既往の在職年数を加味しない形になっているか、支給の相手は全員かといった点で結論が変わります。退職給与規程・直近の申告書・その方の入社と役員就任の履歴をお手元にご用意いただければ、どの通達の場面に当たるのかを整理してお伝えします。代表税理士が直接ご対応します。
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