この記事のポイント
- 成年後見人でも家庭裁判所の許可なしには売れません
- 保佐・補助でも同じ許可が必要になります
- 3,000万円控除は住まなくなって3年が期限です
- 手続に時間がかかるため、期限から逆算して動きます
まず結論:家族でも、勝手には売れません
親が認知症になったあと、家族が代わりに自宅を売ることはできません。
売買契約を結ぶには、本人に判断能力が必要だからです。
そこで成年後見の制度を使うことになりますが、後見人になっても自由には売れません。
民法859条の3は、次のように定めています。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
許可のない処分は、効力が認められません。

保佐・補助でも、同じ許可が要ります
成年後見には、判断能力の程度に応じて3つの類型があります。
許可が必要なのは、後見だけではありません。
| 類型 | 支援する人 | 居住用不動産の処分の許可 |
|---|---|---|
| 後見 | 成年後見人 | 必要(民法859条の3) |
| 保佐 | 保佐人 | 必要(民法876条の5第2項が859条の3を準用) |
| 補助 | 補助人 | 必要(民法876条の10第1項が859条の3を準用) |
「まだ軽いから大丈夫」という区別はありません。
本人の住まいを失わせる処分だからこそ、家庭裁判所の判断が入ります。
売る必要性や、代金の使い道が問われることになります。
税金の側には、3年という期限があります
ここから税金の話です。
自宅を売って利益が出ても、居住用財産の3,000万円特別控除が使えれば税金は大きく下がります。
国税庁は、この特例の対象となる家屋について、現に自分が住んでいる家屋のほか、以前に住んでいた家屋を「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限ります」としています。
計算例
親が令和5年4月10日に施設へ入り、自宅が空き家になった場合
住まなくなった日 令和5年4月10日 3年を経過する日 令和8年4月10日 その日の属する年の12月31日 令和8年12月31日この日までに売らなければ、3,000万円の特別控除は使えません。
後見の申立てから売却まで、数か月かかることは珍しくありません。
3年は、思っているほど長くありません。
期限の数え方は住まなくなった自宅の3年の期限で詳しく扱っています。
数字で見る:間に合うかどうかで、これだけ変わります
期限を過ぎると、控除も税率の特例も使えなくなります。
計算例
譲渡益3,500万円・所有期間10年超の自宅を売った場合の所得税(復興特別所得税を含む)
【特例が使える】35,000,000円 − 30,000,000円 = 5,000,000円 所得税 5,000,000円 × 10% = 500,000円 復興特別所得税 500,000円 × 2.1% = 10,500円 合計 510,500円 【期限を過ぎた】課税譲渡所得 35,000,000円 所得税 35,000,000円 × 15% = 5,250,000円 復興特別所得税 5,250,000円 × 2.1% = 110,250円 合計 5,360,250円 差 5,360,250円 − 510,500円 = 4,849,750円このほかに住民税がかかります。所有期間10年超の10%の税率は、マイホームを売ったときの軽減税率の特例によるものです。
手続の遅れが、そのまま数百万円の差になります。

「住んでいた家」といえるかも問われます
もうひとつの論点は、その家が本人の生活の拠点だったかどうかです。
国税庁の措置法関係通達31の3-2は、「その居住の用に供している家屋」の意義を次のように定めています。
その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(中略)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する
住民票の住所だけで決まるものではありません。
また、同通達は、特例の適用を受けるためだけの目的で入居したと認められる家屋などは該当しないとしています。
補足
ご本人が亡くなったあとに相続人が売る場合は、別の特例(空き家の3,000万円特別控除)の話になります。要件も期限も異なります。老人ホームに入所していた方の実家については老人ホーム入所後の実家の売却をご覧ください。生前に売るか、相続後に売るかで、使える特例が変わります。
つまずく典型は、この5つです
実務で問題になるのは、順番と期限です。
- 3年の期限が迫ってから後見の申立てをした ― 手続が間に合いません
- 家庭裁判所の許可を取らずに契約した ― 効力が認められません
- 後見人になった親族が自分で買った ― 親子など特別の関係がある人への譲渡は特例の対象外です
- 空き家のまま人に貸した ― 利用状況が変わると判断に影響します
- 購入時の契約書が見つからない ― 取得費が分からず、税額が跳ね上がります
とくに多いのが、3つ目の親族による買取りです。
国税庁も、この特例の要件として「親子や夫婦など『特別の関係がある人』に対して売ったものでないこと」を挙げています。
取得費の資料がない場合の進め方は取得費が分からないときをご覧ください。
売却代金も納税資金も、本人の財産です
売れたあとのお金の扱いにも、考え方があります。
民法859条の3が家庭裁判所の許可を求めているのは、本人の住まいを失わせる処分だからです。
同じ理由から、売却代金は本人の財産として管理することになります。
ご家族の生活費や、相続を見越した分配に使うことはできません。
納める税金も、本人の財産から支払います。
譲渡所得の申告と納付は、売った年の翌年に行います。
売却代金をすべて施設の費用などに充ててしまうと、納税資金が残らないことがあります。
売る前に税額を試算しておく理由は、ここにもあります。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご家族で確認できるのは、次の4点です。
- ご本人が自宅に住まなくなった日を、施設の入所日や住民票で特定する
- その日から数えて、3年を経過する日の属する年の12月31日を出す
- 自宅の購入時の売買契約書が残っているかを探す
- 家庭裁判所への申立てに、どれくらいの期間がかかるかを確認する
ここから先は個別判断です。
その家が生活の拠点だったといえるか、いつの時点で住まなくなったといえるかは、事実関係で決まります。
売却の許可が下りるかどうかは、家庭裁判所の判断です。
税の特例が使えるかどうかとは、別に判断されます。
税理士が入ると変わるのは、期限の逆算と資料の準備です
ひとつめは、住まなくなった日の特定です。入所の記録や公共料金の使用状況から、根拠のある日を決めます。
ふたつめは、期限の逆算です。3年の期限から、契約と引渡しの時期を決めます。
みっつめは、取得費の調査です。契約書がなくても、使える資料がないかを探します。
よっつめは、特例の選び方です。3,000万円控除と軽減税率、買換えの特例を比べ、税額の少ない組合せを選びます。
いつつめは、申告です。譲渡所得は本人の所得となるため、本人の名義で確定申告を行います。
税額の試算は、後見の申立てより前にできます。
引渡しの日と契約の日のどちらで判定するかは譲渡の日は引渡日か契約日かをご覧ください。
小松公認会計士・税理士事務所では、売却前の試算から必要資料のご案内、申告まで続けて担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 親が認知症です。子どもが代わりに自宅を売れますか?
売れません。売買契約には本人の判断能力が必要です。成年後見人が選任されても、民法859条の3により、居住用の建物やその敷地を売るには家庭裁判所の許可が必要です。保佐人・補助人が代理して処分する場合も、民法876条の5第2項・876条の10第1項により同じ許可が必要になります。
Q2. 施設に入ったあとでも、3,000万円の特別控除は使えますか?
国税庁は、以前に住んでいた家屋について「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限ります」としています。令和5年4月に住まなくなったなら、令和8年12月31日が期限です。その家が本人の生活の拠点だったといえるかも、あわせて判断されます。
Q3. 後見人になった子どもが、その家を買い取ってもよいですか?
税の面では不利になります。国税庁は、この特例の要件として「親子や夫婦など『特別の関係がある人』に対して売ったものでないこと」を挙げており、親族への売却では3,000万円の特別控除は使えません。また、後見人が本人の財産を自分で買うことは利益が対立する行為にあたるため、家庭裁判所にご確認ください。
Q4. 確定申告は、だれの名前で行いますか?
譲渡によって所得が生じるのは本人(成年被後見人)ですので、申告も本人の所得として、本人の名義で行います。手続は後見人が代理して進めます。売却代金や納税資金の管理も、本人の財産として後見人が行うことになります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。民法859条の3・876条の5第2項・876条の10第1項(e-Gov法令検索)、国税庁タックスアンサーNo.3302(マイホームを売ったときの特例)、同No.3305(マイホームを売ったときの軽減税率の特例)、同No.3208(長期譲渡所得の税額の計算)、租税特別措置法関係通達31の3-2(居住用家屋の範囲)の内容を扱っています。なお、成年被後見人が施設に入所している場合に居住用財産の特別控除が適用されるかどうかを正面から明示した国税庁の公表資料は確認できませんでした。本記事の記載は、条文および上記の通達・タックスアンサーの要件に当てはめた一般的な整理であり、個別の事案における適用を保証するものではありません。成年後見・保佐・補助の申立ての手続、家庭裁判所の許可の判断基準、後見人と本人の利益が対立する場合の取扱い、相続開始後の空き家の3,000万円特別控除(措置法35条3項)の要件、住民税の税率は扱っていません。記事中の計算例は所得税(復興特別所得税を含む)についてのものであり、住民税は含んでいません。具体的な判断は必ず税理士に、後見の手続については家庭裁判所または弁護士・司法書士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「民法」859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)・876条の5・876条の10https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁「措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係」31の3-2(居住用家屋の範囲)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti31/06.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
売る前に、期限と税額を確かめませんか
ご家族の自宅を売るとき、成年後見の手続と税の期限は別々に進みます。居住用財産の3,000万円特別控除は住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日が期限で、家庭裁判所の許可を待っているうちに過ぎてしまうことがあります。期限を過ぎるかどうかで、税額が数百万円変わることも珍しくありません。代表税理士が、住まなくなった日の特定、期限の逆算、取得費の資料の調査、3,000万円控除と軽減税率・買換えの特例の比較、ご本人名義での確定申告まで、通して対応します。
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