不動産譲渡所得

清算型遺贈の譲渡所得は誰が申告する?
遺言で不動産を売って分けるときの税金

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 遺言執行者が売った遺産の譲渡所得は、法定相続分に応じて各相続人が申告するとの国税庁の事例があります
  • 代金を受け取らない相続人にも、申告と納税が必要になることがあります
  • 取得費と取得時期は被相続人から引継ぎ(限定承認を除く)、取得費加算は相続税額があることなどが要件です
  • 法人に不動産そのものを遺贈すると、被相続人が時価で譲渡したものとみなされます(例外あり)

まず結論:国税庁の事例では、売った不動産の譲渡所得は相続人が申告します

遺言で「不動産を売って、その代金を分ける」と定めることがあります。

「清算型遺贈」や「換価遺言」と呼ばれる遺言です。

ここでは、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が売る場合を扱います。

国税庁の質疑応答事例は、遺言執行者が遺産を売った事例でこう答えています。

遺産の換価処分に係る譲渡所得については、法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります。

(国税庁 質疑応答事例「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」)

換価処分は財産を売ってお金に換えること、法定相続分は民法が定める相続の割合です。

代金を受け取らない相続人にも、法定相続分に応じた申告が必要になることがあります。

ポイント

この事例で相続人が遺贈で受け取る額は各200万円ですが、申告の割合は法定相続分です。事例には、事案によって異なる課税関係が生ずることがあると注記されています。

相続人の話し合いで売って分ける方法は、換価分割と代償分割の記事で扱っています。

遺言で不動産を売るときは、まず遺言書と相続人を確かめます
遺言で不動産を売るときは、まず遺言書と相続人を確かめます

相続人が申告するのは、遺言執行者が売った効果が相続人に生じるからです

遺言執行者が売った効果は、民法の定めにより相続人に生じます。

遺言執行者には、遺言の内容を実現するための権利義務があります(民法1012条1項)。

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

(民法1015条)

質疑応答事例も、この2つの条文を理由に挙げています。

  1. 遺言執行者が財産を管理し、遺言に従って売る
  2. 遺言執行者が、代金を受遺者(遺言で受け取る人)に渡す(遺贈の履行は遺言執行者のみが行えます。民法1012条2項)
  3. 売った年の翌年2月16日から3月15日までに、各相続人が確定申告をする(所得税法120条1項)

確定申告をした相続人が、その所得税を納めます(所得税法128条)。

準確定申告は、1月1日から死亡日までの所得の申告です(タックスアンサーNo.2022)。

亡くなった後に遺言執行者が売った分は、各相続人の確定申告で申告します。

不動産そのものを法人に遺贈すると、原則として被相続人の譲渡所得になります

法人に不動産そのものを遺贈するときは、扱いが変わります。

法人への遺贈などがあると、その時の時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項1号)。

これを「みなし譲渡」といい、被相続人の準確定申告に含めます。

遺言の内容誰の譲渡所得か根拠
遺言執行者が不動産を売り、代金を分ける各相続人(法定相続分に応じて)国税庁 質疑応答事例
不動産そのものを法人に遺贈する被相続人(相続人が準確定申告で申告)所得税法59条1項1号

同じ号には、公益信託の受託者である個人への遺贈(信託財産とするもの)や限定承認なども含まれます。

例外もあります(タックスアンサーNo.3105)。

国や地方公共団体への遺贈は、寄附がなかったものとみなされます。

公益を目的とする事業を行う法人等への遺贈も、国税庁長官の承認を受ければ同じです。

代金を法人に渡す遺言にみなし譲渡が及ぶかは、遺言の内容に即して個別に判断します。

法人への遺贈の基本は、みなし譲渡の記事をご覧ください。

取得費は、被相続人が買ったときの資料から組み立てます
取得費は、被相続人が買ったときの資料から組み立てます

取得費と取得の時期は、被相続人から引き継ぎます

相続人が申告するとき、取得費は被相続人から引き継ぎます。

取得費は、買った代金や手数料などから、建物の減価償却費相当額を引いて計算します。

所得税法60条1項は、相続で取得した資産を、引き続き所有していたものとみなします。

ただし、限定承認に係る相続は除かれます。

相続や贈与によって取得したときは、被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま取得した相続人や受贈者に引き継がれます。

(国税庁 タックスアンサー No.3270)

被相続人の取得から売った年の1月1日までが5年を超えれば、長期譲渡所得です(措置法31条1項)。

計算例

例:相続人は子2人だけ(法定相続分は各2分の1)。遺言執行者が自宅を3,000万円で売り、代金は相続人でない姪に渡す

譲渡所得 3,000万円 -(取得費1,200万円 + 譲渡費用100万円)= 1,700万円 子1人分 1,700万円 × 2分の1 = 850万円 所得税 850万円 × 15% = 127万5,000円 復興特別所得税 127万5,000円 × 2.1% = 2万6,775円 住民税 850万円 × 5% = 42万5,000円 子1人あたり 約173万円(受け取る代金は0円)

公益信託の事例の考え方を当てはめた目安で、受遺者が申告するとの見解もあります。

被相続人の所有は5年超、令和8年中の売却で、特例は使わない前提です。

令和9年分以後は、復興特別所得税が1.1%に下がり、防衛特別所得税1%が加わります。

取得費加算の特例は、相続税額がある人が対象です

相続税がかかった人が期限内に売ると、相続税の一部を取得費に加える特例があります。

措置法39条1項の主な要件は、次の3つです。

  • 相続や遺贈で財産を取得した個人であること
  • その相続や遺贈について、相続税額があること
  • 期限内に、その相続税の課税価格の計算の基礎に入った資産を売ったこと

清算型遺贈では、譲渡所得を申告する人と、代金を受け取る人がずれることがあります。

相続税額がない相続人は、この特例の要件を満たしません。

相続税額がある相続人も、売った不動産がその人の課税価格に入っているかを確かめます。

期限の数え方は、相続した不動産の売却期限の記事をご覧ください。

代金を受け取らない相続人にも、申告が必要になることがあります
代金を受け取らない相続人にも、申告が必要になることがあります

つまずきやすいのは、申告する人と取得の時期の取り違えです

次の取り違えは、申告漏れや税額の誤りにつながります。

  • 代金を受け取っていないので申告しない ― 相続人の申告漏れとして指摘を受けるおそれがあります
  • 遺言を確かめずに、受遺者が申告するものと考える ― 質疑応答事例では、申告するのは相続人です
  • 被相続人の準確定申告に入れる ― 法人への遺贈などのみなし譲渡と混同しています
  • 相続した日を取得の日として短期と判定する ― 取得の時期は被相続人から引き継ぎます
  • 資料を探さずに売った金額の5%を取得費にする ― 購入時の資料があれば、実際の取得費で計算できます

注意

遺言に、売るときの税金を代金から差し引く定めがあるかを確かめます。定めがないまま代金を全額渡すと、代金を受け取らない相続人が自分のお金で納税することになりかねません。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

資料をそろえるところまではご自身でできますが、申告する人と割合の判断は個別です。

  1. 遺言書で、売る財産・遺言執行者・受遺者・費用や税金の扱いを確かめる
  2. 戸籍などで、相続人と法定相続分を確かめる
  3. 遺言執行者から、売買契約書・精算書・仲介手数料の領収書の写しを受け取る
  4. 被相続人が買ったときの契約書や領収書を探す

ここから先は、遺言の書き方と事実関係で結論が変わることがあります。

遺産の全部や何分の一という割合で与える遺贈は、一般に包括遺贈といわれます(民法964条)。

包括遺贈を受けた人は、相続人と同一の権利義務を持ちます(民法990条)。

質疑応答事例はこの場合を扱っていないため、申告する人と割合は個別の判断です。

補足

国税庁のサイトには、税務大学校の論文「換価遺言が行われた場合の課税関係について」も載っています。論文は執筆者の個人的見解と明記したうえで、受遺者が納税義務者になるとの考え方を示しています。

遺言書と売買の資料をそろえるまでは、ご自身で進められます
遺言書と売買の資料をそろえるまでは、ご自身で進められます

税理士が入ると変わるのは、申告する人・割合・取得費の根拠です

申告する人と割合を資料で固めることが、各相続人の申告の出発点です。

  • 遺言書と戸籍から、申告する人と割合を一覧にします
  • 遺言執行者に必要な資料を伝え、売却の資料をそろえます
  • 被相続人の購入資料から取得費を組み立て、取得の時期を確かめます
  • 取得費加算の要件を、相続人ごとに判定します
  • 各相続人の確定申告書と譲渡所得の内訳書を作り、相続税の申告との食い違いを防ぎます

小松公認会計士・税理士事務所では、資料の読み取りから各相続人の確定申告書の作成まで担当します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 代金を受け取らない相続人も、譲渡所得の申告が必要ですか?

遺言執行者が遺産を売った国税庁の質疑応答事例では、法定相続分に応じて各相続人が申告するとされます。代金の分け方とは別に考えます。ただし、事案によって異なる課税関係が生ずることがあると注記されています。

Q2. 亡くなった人の準確定申告に入れるのではないのですか?

準確定申告は、1月1日から死亡日までの所得の申告です(タックスアンサーNo.2022)。亡くなった後に遺言執行者が売った分は、各相続人が申告します。法人への遺贈などのみなし譲渡は、被相続人の所得として準確定申告に含めます。

Q3. 清算型遺贈で、取得費加算の特例は使えますか?

相続や遺贈で財産を取得し、相続税額がある人のための特例です(措置法39条1項)。期限内に、その課税価格の計算の基礎に入った資産を売ることも要件です。相続税額がない相続人は要件を満たしません。相続人ごとに確かめます。

Q4. 受遺者が法人の場合はどうなりますか?

不動産そのものを法人に遺贈すると、時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項1号)。被相続人の所得になり、国などへの遺贈には例外があります。代金を法人に渡す遺言は、税務大学校の論文でも両方の見解が紹介されており、個別に判断します。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国税庁の質疑応答事例「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づくもの)、民法900条・964条・990条・1012条・1015条、所得税法59条・60条・120条・125条・128条、租税特別措置法31条・39条、地方税法附則34条、復興財源確保法13条、我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法5条の5・5条の9、財務省「令和8年度税制改正の大綱」、国税庁タックスアンサーNo.2022・No.3105・No.3208・No.3267・No.3270、税務大学校の論文「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(執筆者の個人的見解)の内容を扱っています。遺言の解釈(包括遺贈か特定遺贈か)、包括受遺者や法人が受遺者である場合の申告者と割合、代金を法人に渡す遺言へのみなし譲渡の適用、公益信託の課税関係、措置法40条の承認の要件、相続税の課税価格の計算、取得費加算の計算と期限の数え方、建物の取得費から差し引く減価償却費相当額の計算、遺言執行費用などの譲渡費用の範囲、登記の手続、遺留分、居住用財産や空き家の特別控除などの特例の適用、加算税・延滞税は扱っていません。記事中の計算例は質疑応答事例の考え方に当てはめた一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は取得費・譲渡費用・所有期間・売却の年・特例の有無によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

遺言で不動産を売って分けるときは、申告する人と割合を先に確かめませんか

清算型遺贈では、代金を受け取る人と、譲渡所得を申告する人が一致しないことがあります。代表税理士が、遺言書・戸籍・売却の資料から、申告する人と割合を整理します。被相続人の購入資料から取得費を組み立て、各相続人の確定申告書まで作成します。遺言執行者による売却が決まった段階で、資料をそろえてご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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