この記事のポイント
- 同居していた親族が取得した自宅の土地は、申告期限まで保有し住み続けることが要件です
- 配偶者が取得した自宅の土地には、申告期限までの保有・居住の要件はありません(分割と申告の要件は必要)
- 家なき子は保有、亡くなった方の事業用・貸付用は保有と事業の引継ぎ・継続が申告期限まで必要です
- 売るなら、取得費加算(申告期限の翌日以後3年)と空き家特例の期限も並べます
まず結論:同居の子などは、申告期限まで持ち続けることが要件です
相続した土地をすぐ売ると、小規模宅地等の特例を使えなくなる場合があります。
この特例は、亡くなった方の自宅などの土地を相続税の計算で減額します(租税特別措置法69条の4)。
自宅の土地を配偶者が取得した場合を除き、申告期限まで持ち続けることが要件です。
申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。
売る前に、だれが、どの区分で特例を使うかを確かめます。

減らせる割合と面積は、土地の使い道で決まります
割合と面積は、亡くなった方などの土地の使い道で決まります。
| 土地の区分 | 限度面積 | 減額の割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅の土地) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等(貸付け以外の事業用の土地) | 400㎡ | 80% |
| 特定同族会社事業用宅地等(亡くなった方などが株の過半数を持つ会社が、貸付け以外の事業に使う土地) | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(アパートなど貸付けに使う土地) | 200㎡ | 50% |
(国税庁 No.4124)
課税価格とは、相続税を計算するもとになる財産の額です。
自宅の土地で特例を使えば、330㎡までの部分は評価額の20%を課税価格に入れます。
貸付事業用宅地等も選ぶときは、面積を算式で調整します。
申告期限までに必要なことは、取得した人で変わります
要件は取得した人で違います。主な区分は次のとおりです。
| 取得した人・土地 | 申告期限までの要件 |
|---|---|
| 配偶者(自宅の土地) | 保有・居住の要件はありません |
| 同居していた親族(自宅の土地) | 保有し、住み続ける |
| いわゆる家なき子(自宅の土地) | 保有する |
| 亡くなった方の事業用の土地 | 事業を引き継ぎ、保有し、事業を続ける |
| 亡くなった方の貸付用の土地 | 貸付事業を引き継ぎ、保有し、貸付けを続ける |
(租税特別措置法69条の4第3項、国税庁 No.4124)
同居していた親族の要件は、次のとおりです。
相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。
(租税特別措置法69条の4第3項2号イ)
家なき子は、亡くなった方に配偶者も同居の相続人もいない場合の区分です。
相続開始前3年以内に自分や配偶者、三親等内の親族などが国内に持つ家に住んでいないことなどが要件です。
要件の「申告期限」は申告書の提出期限です。早く申告しても、この日は変わりません。
ポイント
配偶者が取得した自宅の土地は保有の要件がないため、申告期限前に売ってもそれで特例を失いません。遺産分割と申告の要件は、配偶者にも必要です。

特例を失うと、相続税はこれだけ変わります
特例を失うと、減額されるはずの分だけ課税価格が増えます。
同居していた長男が、申告期限の前に自宅を売った場合で比べます。
計算例
例:父が令和8年1月6日に死亡。相続人は同居の長男1人。自宅の土地の評価額6,000万円(300㎡)、その他の財産3,000万円
基礎控除 3,000万円+600万円×1人=3,600万円 特例あり 土地 6,000万円×20%=1,200万円 → 課税価格 4,200万円 相続税 (4,200万円-3,600万円)×10%=60万円 特例なし 課税価格 9,000万円 相続税 (9,000万円-3,600万円)×30%-700万円=920万円 差 課税価格 4,800万円・相続税 860万円特例ありは、申告期限まで保有して住み続け、ほかの要件も満たす前提です。
数値は、一定の前提を置いた目安です。税率は国税庁 No.4155 の速算表によります。
この例では、売ったのが申告期限の前か後かで、相続税が860万円変わります。
売る時期は、3つの期限を並べて決めます
3つとは、申告期限と、売るときに使う2つの特例の期限です。
取得費加算は、相続税の一部を、土地の取得費(もとの買値など)に足せる特例です。
空き家特例は、亡くなった方が1人で住んでいた一定の家などを売ったときに、利益から差し引ける控除です。
| 期限 | 例:令和8年1月6日に死亡 | 根拠 |
|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例の保有などの要件 | 申告期限の令和8年11月6日まで | 措法69条の4 |
| 取得費加算の特例 | 令和11年11月6日までに売る | 措法39条1項 |
| 空き家特例 | 令和9年12月31日までに売る | 措法35条3項 |
取得費加算の期間は次のとおりで、相続税額がある人が対象です。
その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
(国税庁 タックスアンサー No.3267)
申告期限の翌日から数えても、取得費加算の期間は3年あります。
空き家特例は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件です。
現行の条文では令和9年12月31日までの譲渡が対象で、この例ではこちらが先に来ます。
空き家特例と取得費加算は、どちらか一方を選びます(措法35条3項)。
相続の直前に同居の親族がいた家は、空き家特例の要件を満たしません(No.3306)。
数え方は相続した不動産の売却期限の記事、特例の比べ方は相続した実家の売却の記事で解説しています。

特例を失うのは、次のような場面です
次の場面では、申告期限までに満たすべき要件を欠きます。
- 同居の長男が、申告期限より前に売買契約と引渡しを済ませた ― 保有の要件を欠きます
- 同居していた親族が、申告期限より前に引っ越して住まなくなった ― 住み続ける要件を欠きます
- 家なき子が、申告期限より前に売って引き渡した ― 保有の要件を欠きます
- アパートの土地を申告期限より前に売った、または貸付けをやめた ― 貸付事業用の要件を欠きます
- 申告期限までに遺産分割がまとまらなかった ― その時点の申告では特例を使えません
事業用の土地の一部だけを売った場合、残りは要件を満たす限り対象です(措置法通達69の4-18)。
国税庁の質疑応答事例に、同居の相続人が申告期限前に海外へ転勤した例があります。
家族が住み続け、本人の生活の拠点といえる家なら該当するとし、こう続けます。
なお、相続人Aの配偶者及び子が、相続税の申告期限前に当該宅地の上に存する家屋に居住しないこととなった場合には、当該宅地は特定居住用宅地等である小規模宅地等に該当しません。
(国税庁 質疑応答事例「特定居住用宅地等の要件の一つである『相続開始時から申告期限まで引き続き当該建物に居住していること』の意義」)
注意
分割がまとまらないときは、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。申告期限から3年以内に分割されれば、更正の請求で特例を受けられます。請求は分割の日の翌日から4か月以内です(No.4208)。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
日付と土地の使い道を書き出すまでは、ご自身でできます。
- 亡くなったことを知った日から、申告期限(10か月)を計算する
- 土地ごとに、自宅・事業・貸付けのどれに使っていたかを書き出す
- 取得する人と、その人の住まいの状況を書き出す
- 売買契約と引渡しの予定日を、申告期限と並べる
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
家なき子に当たるかの判定、老人ホームに入っていた方の自宅、複数の土地の選び方です。
売買契約だけを申告期限より前に結ぶ予定があるときも、契約の前に確認が必要です。
補足
特例には、申告書に適用を受ける旨の記載と、明細書などの添付が必要です(措法69条の4第7項)。申告が必要かは、特例を使う前の価額で判定します(No.4205)。

税理士が入ると変わるのは、区分の判定と売る日程です
ひとつめは、土地ごとに区分と要件を当てはめ、特例を使う土地の案を作ることです。
ふたつめは、特例の有無で相続税を試算し、取得費加算・空き家特例の額と並べることです。
みっつめは、申告期限と売買の契約日・引渡日を照らし、売る日程の案を作ることです。
よっつめは、遺産分割協議書の写しなどをそろえ、相続税の申告書に反映することです。
いつつめは、売却後の確定申告で、取得費加算か空き家特例かを選ぶことです。
小松公認会計士・税理士事務所では、相続税の申告から売却後の確定申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 申告期限より前に売ると、小規模宅地等の特例は使えなくなりますか?
取得した人と土地の区分によります。配偶者が取得した自宅の土地には、申告期限までの保有・居住の要件がありません。同居していた親族は保有と居住、家なき子は保有が要件です。亡くなった方の事業用・貸付用の土地は、保有と事業の継続などが要件です(措法69条の4第3項)。
Q2. 申告書を早めに出せば、その後に売ってもよいですか?
要件の「申告期限」は、条文上申告書の提出期限のことです(措法69条の4第3項)。亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内という期限は、早く申告しても変わりません。自宅を配偶者が取得した場合を除き、この日までの保有などが要件です。
Q3. 同居していた子が、申告期限の前に転勤で家を出ました。特例は使えますか?
国税庁の質疑応答事例は、家族が住み続け、その家が本人の生活の拠点といえるなら該当するとしています。家族も申告期限前に住まなくなった場合は、特定居住用宅地等に該当しません。実際の判断は、住まいの状況を確かめて行います。
Q4. 申告期限の後に売れば、取得費加算の特例は使えますか?
申告期限の翌日から3年以内なら、期間内です。対象は、相続開始の日の翌日から申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡です(措法39条1項)。相続税額がある人が対象で、空き家特例とはどちらか一方を選びます。そのほかの要件も確認が必要です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法69条の4第1項〜第4項・第7項、39条1項、35条3項、相続税法15条・16条・27条1項、措置法関係通達69の4-18、国税庁タックスアンサーNo.4124・No.4205・No.4208・No.4155・No.3267・No.3306、国税庁の質疑応答事例「特定居住用宅地等の要件の一つである『相続開始時から申告期限まで引き続き当該建物に居住していること』の意義」の内容を扱っています。特定同族会社事業用宅地等の要件、生計を一にしていた親族の宅地等の要件と判定、家なき子の要件の細目、老人ホーム等に入居していた方の自宅、二世帯住宅・区分所有建物の扱い、限度面積の調整計算、相続開始前3年以内に事業や貸付けに使い始めた宅地等の扱い、取得した親族が申告期限までに死亡した場合、売買契約を申告期限前に結び引渡しが申告期限後になる場合の扱い、宅地等の評価額の計算(令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれた貸付用不動産の評価の見直しを含む)、取得費加算の額の計算、空き家特例のその他の要件と添付書類、相続人ご自身の居住用財産の3,000万円特別控除、譲渡所得の税額の計算は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は財産の内容・評価額・相続人の数などによって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
- 国税庁 質疑応答事例 特定居住用宅地等の要件の一つである「相続開始時から申告期限まで引き続き当該建物に居住していること」の意義https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/10/08.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(第69条の4・第39条・第35条)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
相続した土地を売る前に、小規模宅地等の特例と売る時期を確かめませんか
小規模宅地等の特例は、取得する人と土地の使い道によって、申告期限までに必要なことが変わります。代表税理士が、土地ごとの区分と要件を確かめ、特例の有無で相続税を試算します。取得費加算と空き家特例の期限を並べ、売る日程の案までお示しします。売買契約を結ぶ前にご相談ください。
無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り