この記事のポイント
- 確定申告を先に出し、その期限後に相続税を期限内申告したら、更正の請求で特例を受けます
- 請求の期限は、相続税の申告書を出した日の翌日から2か月を経過する日までです
- 加算額はその人の相続税額×売った財産の評価額÷取得財産の価額などで、譲渡益が上限です
- 相続税の修正申告や更正があれば、原則としてその後の相続税額で計算し直します
まず結論:相続税の申告が後になったら、更正の請求で取得費加算を受けます
相続した実家や土地を早めに売ると、所得税の確定申告期限が先に来ることがあります。
譲渡益は、売った金額から取得費と譲渡費用を引いて計算します。
取得費加算は、相続税額のうち一定の金額を、この取得費に足せる特例です(租税特別措置法39条)。
ただ、相続税の申告前には、加算額のもとになる相続税額がまだ確定していません。
そこで措置法39条4項1号は、更正の請求で特例を受ける道を設けています。
対象は、確定申告を先に出し、その期限の後に相続税を期限内申告した人です。
更正の請求は、納めすぎた税金を返してもらう手続です。
請求の期限は、相続税の申告書を出した日の翌日から2か月を経過する日までです。

特例の対象は、相続税の申告期限の翌日以後3年までの売却です
相続開始の翌日から期間が始まるので、相続税の申告前の売却も入ります。
要件は次の3つです(国税庁 タックスアンサー No.3267)。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。
相続税が課税されていない人は、この特例の対象になりません。
期限の数え方は相続した不動産を売る期限の記事にまとめています。
空き家の特別控除と比べるときは相続した実家の売却の記事をご覧ください。
確定申告期限が先に来たら、相続税の申告後に更正の請求をします
確定申告は、相続税の申告を待たずに期限までに出します。
期限は、売った年の翌年3月15日です(所得税法120条1項)。
相続税の期限内申告の後は、次の日まで更正の請求ができます。
当該相続税の期限内申告書の提出をした日の翌日から二月を経過する日
(租税特別措置法39条4項1号)
請求できるのは、特例を当てはめると所得税が納めすぎになる場合などです(同項)。
| 相続税を期限内に申告した時期 | 取得費加算の受け方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 確定申告期限までに申告 | 確定申告書に記載し、明細書などを添付 | 措置法39条2項 |
| 確定申告期限の後、相続税の申告期限までに申告(確定申告は提出済み) | 申告書の提出日の翌日から2か月を経過する日までに更正の請求 | 措置法39条4項1号 |
| 確定申告期限の後に相続税を申告し、その後に確定申告書を提出 | 4項1号の対象外。期限後申告書に記載・添付 | 措置法39条2項、所得税法2条1項37号 |
更正請求書にも、特例を受ける旨の記載と、明細書などの添付が要ります(措置法39条5項)。
計算例
例:令和8年6月20日に父が亡くなり、同日に知った。実家は令和8年11月10日に引き渡した
令和8年分の確定申告期限 令和9年3月15日(特例なしで提出) 相続税の申告期限(翌日から10か月) 令和9年4月20日 相続税の期限内申告書の提出 令和9年4月14日 更正の請求の期限(4月15日から2か月) 令和9年6月14日期間は、最後の月の応当日の前日(応当日がなければ月末)に満了します(国税通則法10条1項)。
期限が土日・祝日などに当たるときは、休み明けの日が期限です(同条2項)。
日付は一定の前提を置いた目安です。
やむを得ない事情の定めもありますが、認めるかは税務署長の判断です(措置法39条5項・3項)。

加算額は「相続税額×その財産の割合」で、譲渡益が上限です
加算額は、その人の相続税額に、売った財産の割合を掛けて計算します(措置法施行令25条の16第1項)。
割合の分母は、その人の取得財産の価額に、相続時精算課税などの贈与財産の価額を足した額です。
分母は、債務を差し引く前の金額です(同項2号)。
計算例
例:相続税額900万円。取得財産の価額の合計9,000万円のうち、実家の評価額が3,000万円
算式 その人の相続税額×売った財産の評価額÷取得財産の価額など(No.3267) 加算額 900万円×3,000万円÷9,000万円=300万円 譲渡益 4,000万円−取得費200万円−譲渡費用150万円=3,650万円 譲渡所得 3,650万円−300万円=3,350万円数値は、贈与の加算がないなど、一定の前提を置いた目安です。
加算額は、特例を使わずに計算した譲渡益が上限です(No.3267)。
同じ例で譲渡益が250万円なら、加算額は250万円が上限で、譲渡所得は0円です。
売った金額が取得費と譲渡費用の合計に満たないと、加算額はありません(措置法施行令25条の16第1項ただし書)。
ポイント
2つ以上の財産を売ったときは、財産ごとに計算します(措置法39条8項)。損失が出た財産の分を、ほかの財産の取得費に回すことはできません(措置法関係通達39-5)。
相続税を直したら、取得費加算も計算し直します
相続税の修正申告や更正があると、原則としてその後の相続税額で計算し直します。
前項第一号に掲げる相続税額は、同号に規定する納税義務の成立する時後において、当該相続税額に係る相続税につき修正申告書の提出又は国税通則法第二十四条若しくは第二十六条に規定する更正があつた場合には、同号の規定にかかわらず、その申告又は更正後の相続税額とする。
(租税特別措置法施行令25条の16第2項)
国税庁の質疑応答事例も、修正申告後の税額によってよいとしています。
計算し直した所得税は、修正申告書の提出がある場合を除き、税務署長が更正します。
更正できる期間(国税通則法70条)を超える更正はできません(措置法関係通達39-10)。
相続税法32条1項の更正の請求で所得税が増えたときは、延滞税の特例があります(措置法39条9項)。
注意
計算し直さない場合もあります。所得税の納税義務は、原則として売った年の終了の時に成立します(措置法関係通達39-2)。この時と相続税の申告期限のうち遅い日の後に、相続税の申告や決定があった場合です。その修正申告・更正では、再計算しません(措置法関係通達39-8)。
遺産分割の後に相続税を直す場面は遺産分割前に売った場合の記事で扱っています。

つまずきやすいのは、この4つの場面です
どれも、納めすぎや申告の直しにつながります。
- 相続税の申告で一段落し、2か月を過ぎる ― 期限は申告書を出した日の翌日から数えます
- 確定申告期限までに相続税を申告したのに、特例を書かない ― 4項1号の更正の請求の対象外です
- 相続人全員の相続税の合計で計算する ― その人の相続税額で、財産ごとに計算します
- 相続税を直したのに、譲渡所得を見直さない ― 加算額は計算し直します
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
日付を並べて、どの手続になるかを確かめるところまでは、ご自身でできます。
- 亡くなったことを知った日から、相続税の申告期限を書き出す
- 売った財産の引渡しの日と、その年分の確定申告期限を書き出す
- 相続税の申告書を出した日(出す予定の日)を書き出す
- 相続税の申告書から、ご自身の相続税額と売った財産の評価額を拾う
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
生前の贈与がある場合の相続税額、代償金を払った場合、相続税を直した後の手続などです。
補足
国税庁の計算明細書は、相続開始の時期で様式が分かれています。令和8年9月24日時点の国税庁の一覧では、新しい様式の公開は令和8年12月頃です。書面で出すときは、最新の様式かを確かめます。

税理士が入ると変わるのは、期限の管理と加算額の根拠です
ひとつめは、相続税と所得税の期限を並べ、手続の順番を決めることです。
ふたつめは、相続税の申告書の数字から、加算額を財産ごとに計算することです。
みっつめは、計算明細書を作り、更正請求書を期限までに出すことです。
よっつめは、相続税を直したときに、譲渡所得への影響を確かめることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、相続税の申告書の数字から加算額を計算し、更正の請求まで担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 相続税の申告前に家を売りました。確定申告で取得費加算は使えますか?
相続税の期限内申告が確定申告期限までなら、確定申告書で受けます。確定申告を先に出し、その期限の後に相続税の期限内申告をした場合は、更正の請求ができます。期限は、相続税の申告書を出した日の翌日から2か月を経過する日までです(措置法39条4項1号)。
Q2. 更正の請求では、何を出しますか?
更正請求書に、特例の適用を受ける旨を書きます。計算の明細書などの添付も要ります(措置法39条5項)。明細書には、相続の開始日と相続税の申告書を出した日を書きます。加算額の計算の明細なども書きます(措置法施行規則18条の18)。
Q3. 取得費に足せる金額は、どう計算しますか?
算式は、その人の相続税額×売った財産の相続税評価額÷Aです(No.3267)。Aは、その人の取得財産の価額と、相続時精算課税適用財産の価額の合計です。純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額も足します。譲渡益が上限で、財産ごとに計算します。
Q4. 取得費加算を受けた後に、相続税の修正申告をしました。どうなりますか?
原則として、修正申告や更正の後の相続税額で計算し直します(措置法施行令25条の16第2項)。国税庁の質疑応答事例も同じ回答です。所得税は、修正申告がなければ税務署長が更正します(措置法関係通達39-10)。例外は同通達39-8です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法39条1項・2項・3項・4項1号・5項・8項・9項、同法施行令25条の16第1項・第2項、同法施行規則18条の18、措置法関係通達39-2・39-5・39-8・39-10、相続税法27条1項・32条1項、所得税法2条1項37号・120条1項、国税通則法10条・70条、国税庁タックスアンサー No.3267、国税庁の質疑応答事例「相続税の修正申告があった場合における譲渡所得の取得費加算」、国税庁「国税システムの更改について」と様式の公開時期の一覧(令和8年9月24日時点)の内容を扱っています。措置法39条と同法施行令25条の16は、令和8年度税制改正の前後と、e-Govに登録された令和12年1月1日施行分までの改正で、条文に変更がないことを確認しています。措置法39条4項2号・3号(被相続人の所得税に国外転出時課税の取消しや遺産分割等の事由があった場合)、贈与税額控除・相続時精算課税・暦年課税の贈与の加算がある場合の相続税額の計算、代償金を払って取得した財産・第二次相続・株式を売った場合、やむを得ない事情として認められる具体的な場面、4項1号の期限を過ぎた後の手続、相続税を期限後に申告した場合、延滞税の計算の細目、取得費の中身、所得税・住民税の税率と税額、空き家の特別控除の要件と選び方、相続税の申告書の作り方は扱っていません。記事中の計算例と日付は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額と期限は、相続税額・各財産の評価額・取得費・譲渡費用・贈与の有無・申告の日によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(第39条)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令(第25条の16)https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043
- 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 質疑応答事例「相続税の修正申告があった場合における譲渡所得の取得費加算」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/20/03.htm
- 国税庁 措置法第39条関係通達(相続税額に異動が生ずる更正であっても再計算をしない場合)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti39/03.htm
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