この記事のポイント
- 売る時に代金の分け方が決まっていなければ、原則は法定相続分で申告します
- 確定申告期限までに遺産分割で代金を分け、相続人全員がその割合で申告すれば認められます
- 期限後に分割が決まっても、そのことを理由に更正の請求等はできません
- 取得費加算は相続税の修正申告などで計算し直すことがあり、期限は分割を待ちません
まず結論:分割前に売ると、原則は法定相続分で申告します
相続人が複数いると、分割前の遺産は相続人全員の共有です(民法898条1項)。
分割前に売った場合の申告は、国税庁の質疑応答事例が示しています。
譲渡所得とは、売った金額から取得費と売る費用を引いたもうけのことです。
売る時に代金の分け方が決まっておらず、確定申告期限までに分けていなければ、法定相続分で申告します。
法定相続分は民法900条が定める取り分で、相続人が子2人なら各2分の1です。
期限後に分割が決まっても、そのことを理由に更正の請求等はできません。
更正の請求は、納めすぎた税金を返してもらう手続きです。

換価分割でも、売る前に代金の分け方を決めたかで申告の割合が変わります
売る時までに代金の分け方を決めていれば、その割合で申告します。
遺産を売り、その代金を分ける分け方を換価分割といいます。
遺産分割の一形態である換価分割には、換価時に換価代金の取得割合が確定しているものと、確定しておらず後日分割されるものとがあります。
(国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」)
| 売る時の状況 | 申告する割合 |
|---|---|
| 代金の分け方を決めていた(分割済み) | 決めた割合 |
| 決めておらず、代金を後の分割に含める合意なども無い | 法定相続分 |
| 決めておらず、家庭裁判所の審判による換価分割や、代金を後の分割に含める合意がある | 原則は法定相続分(期限までの分割は次の節) |
1行目は、代金の取得割合と同じ所有割合で売ったことになるためです。
2行目は、合意が無ければ代金を法定相続分で取得するためです。
期限後に分割が決まっても、申告の割合は変わりません
後から分けた割合を申告に使えるのは、所得税の確定申告期限までです。
ただし、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は認められます。
(同事例)
確定申告期限は、売った年の翌年3月15日です(所得税法120条1項)。
認められるのは、相続人全員が分けた割合で申告した場合です。
法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではありませんから、更正の請求等をすることはできません。
(同事例。関係法令は国税通則法23条2項)
後で分けても法定相続分で申告する理由として、事例は次の3点を挙げます。
- 譲渡所得は資産が手を離れる時に清算して課税し、収入の時期は引渡しの日であること
- 共有だった遺産を相続人全員で売った事実は、なくならないこと
- 分割の対象は、売った不動産ではなく、売って得た代金であること
ポイント
相続税は、分割で税額が過大になった人が更正の請求ができます(相続税法32条1項1号)。期限は、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内です。分割前に売った不動産の譲渡所得は、同じようには直せません。
取得費と取得の時期は、限定承認を除き、被相続人から引き継ぎます(所得税法60条1項)。
計算例
例:子2人が分割前の実家を令和8年に6,000万円で売り、代金を兄4分の3・弟4分の1で分けた
譲渡所得 6,000万円 -(取得費900万円 + 譲渡費用300万円)= 4,800万円 期限後に分けた(法定相続分で申告) 兄・弟とも 2,400万円 × 20.315% = 4,875,600円 期限内に分け、全員がその割合で申告 兄 3,600万円 → 7,313,400円/弟 1,200万円 → 2,437,800円 期限後だと弟が多く負担 4,875,600円 - 2,437,800円 = 2,437,800円令和8年分の長期譲渡所得の税率は、所得税15%・住民税5%です(No.3208)。
復興特別所得税は所得税額の2.1%です。令和9年分からは1.1%になり、所得税額の1%の防衛特別所得税が加わります。
合計はどちらも9,751,200円で、変わるのは誰が負担するかです。
長期譲渡所得で特例を使わず、費用も同じ割合とした、一定の前提を置いた目安です。

つまずきやすいのは、この4つの場面です
どれも、割合・期限・相続税との連動の見落としから起きます。
- 分割がまとまるまで申告しない ― 未分割でも、法定相続分で期限までに申告します
- 一部の相続人だけが、分けた割合で申告する ― 全員がその割合で申告することが前提です
- 登記の持分に合わせて申告する ― 売る前に分け方を決めていれば、その割合が基準です
- 相続税の見直しだけで終える ― 取得費加算の額が変わることがあります
未分割の売却なので収入はまだ確定していない、という主張を退けた裁決があります。
法定相続分により、売った年分の収入金額が確定するとしています(昭和55年4月24日裁決)。
登記の持分が法定相続分でも、申告の割合がそれで決まるとは限りません。
注意
平成17年5月18日の裁決は、売る前に代金の分け方を合意していた事例です。代金の約7割を受け取った相続人が、登記の持分と同じ3分の1で申告しました。受け取った代金で計算し直す更正と、過少申告加算税の賦課が適法とされました。過少申告加算税は、期限内の申告の後に、修正申告や更正で増えた税額にかかる税金です。
1人の名義で登記して売り、代金を分けるときの贈与税は売却代金を家族に分ける記事で扱っています。
取得費加算は、分割後の相続税の見直しで計算し直すことがあります
取得費加算は、相続税がかかった人が相続税額の一部を取得費に足せる特例です(No.3267)。
相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ることなどが要件です。
足せる額は、その人の相続税額をもとに計算します(措法39条1項)。
未分割の財産は、民法の相続分(寄与分を除く)で取得したとして相続税を計算します(相続税法55条)。
分割後に相続税の修正申告や更正があると、その後の相続税額で計算し直します。
根拠は措置法施行令25条の16第2項で、計算し直さない場合も通達39-8にあります。
補足
分割後の更正の請求で相続税額が減ると、足せる額が減り、所得税が増えることがあります。その所得税は、法定納期限の翌日から修正申告の日などまでを延滞税の計算に入れません(措法39条9項)。
取得費加算は、被相続人の居住用財産(空き家)の特例(No.3306)と同じ物件で併用できません。
空き家特例の売却代金1億円以下の判定には、ほかの相続人が売った部分も含めます。
どちらの期限も分割を待たずに進みます。数え方は相続した不動産の売却期限の記事にまとめています。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
期限と割合を書き出すまではご自身でできますが、申告の判断は個別です。
- 戸籍で相続人を確かめ、法定相続分を書き出す
- 売買契約書で引渡しの予定日を確かめ、確定申告の期限を書き出す
- 代金の分け方が決まったら、日付と割合を書面にして全員で控えを持つ
- 相続税の申告書で、各人の相続税額を確かめる
ここから先は、事実関係と書面で結論が変わります。
代金を後の分割に含める合意の有無、全員の申告の一致、相続税の見直しとの連動の確認です。
質疑応答事例にも、事案で異なる課税関係が生じうると注記されています。
分け方そのものの比べ方は換価分割と代償分割の記事をご覧ください。

税理士が入ると変わるのは、期限までの段取りと全員の申告の一致です
要は、売る前の段取りと、全員の申告をそろえることです。
ひとつめは、期限までに分け方が決まる見込みかを、売る前に確かめることです。
ふたつめは、法定相続分と分けた割合の両方で、各人の税額を試算することです。
みっつめは、取得費加算と空き家特例の要件・期限・有利不利の確認です。
よっつめは、相続人全員の申告書を、同じ割合と同じ前提で作ることです。
いつつめは、分割後の相続税の見直しと、取得費加算の計算し直しの確認です。
小松公認会計士・税理士事務所では、売る前の段取りから申告書の作成と適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺産分割の話し合いが終わらないまま、相続した家を売りました。誰がどの割合で申告しますか?
売る時に代金の分け方が決まっていなければ、原則として各相続人が法定相続分で申告します。代金を遺産分割の対象とし、確定申告期限までに分けた場合は例外があります。相続人全員がその割合で申告すれば、その申告は認められます(国税庁の質疑応答事例)。
Q2. 法定相続分で申告した後に、遺産分割がまとまりました。更正の請求はできますか?
質疑応答事例は、確定申告期限までに分割されなかった場合、更正の請求等はできないと回答しています。法定相続分による譲渡に異動は生じないためです。相続税には分割後の更正の請求の定めがあり(相続税法32条1項1号)、扱いが異なります。
Q3. 相続登記を法定相続分の共有にしました。申告も法定相続分でよいですか?
登記の持分だけで決まるとは限りません。平成17年5月18日の裁決は、売る前に代金の分け方を合意していた事例です。受け取った代金で計算し直す更正と、過少申告加算税の賦課が適法とされました。分け方を決めた時期を先に確かめます。
Q4. 分割前に売った場合、取得費加算はどうなりますか?
相続税がかかった人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ることなどが要件です。分割後に相続税の修正申告や更正があると、その後の相続税額で計算し直します。根拠は措令25条の16第2項で、例外は措通39-8です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国税庁の質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」と「相続税の修正申告があった場合における譲渡所得の取得費加算」、国税通則法23条・65条、所得税法60条1項・120条1項、相続税法32条1項1号・55条、民法898条1項・900条、租税特別措置法35条3項・6項・39条1項・9項、同法施行令25条の16第2項、措置法関係通達39-8、国税庁タックスアンサー No.3208・No.3267・No.3270・No.3306、東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条(令和8年法律第12号による改正後。令和9年分以後に適用)、我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法5条の9、国税不服審判所の平成17年5月18日裁決(裁決事例集No.69)と昭和55年4月24日裁決(裁決事例集No.20の要旨)の内容を扱っています。質疑応答事例には、照会の事実関係を前提とした一般的な回答であり、事案によって異なる課税関係が生ずることがあると注記されています。遺言がある場合(相続分の指定や清算型遺贈を含む)、相続税の計算(換価した代金を分けたときの課税価格の配分、未分割の場合の各種特例を含む)、換価分割と代償分割の選び方、代金を分けた後の贈与税、相続登記の手続、遺産分割協議書の書き方、取得費加算額の具体的な計算、所得税の確定申告期限後に相続税の申告をした場合の更正の請求(措法39条4項1号)、取得費加算の再計算に伴う延滞税の計算の細目(措置法関係通達39-15)、限定承認をした場合、空き家特例の家屋・耐震・取壊しなどの要件と未分割で売った場合の相続人の数の数え方、遺産分割審判の手続、端数計算と住民税の申告は扱っていません。記事中の計算例は令和8年分の税率による一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は売却代金・取得費・譲渡費用・特例の適用と相続人の状況によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/09/01.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平17.5.18裁決、裁決事例集No.69 93頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/69/08/index.html
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨 所得税法関係(譲渡所得)https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0302050000.html
- 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 質疑応答事例「相続税の修正申告があった場合における譲渡所得の取得費加算」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/20/03.htm
遺産分割の前に売るなら、申告の割合と期限を先に確かめませんか
分割が決まる前の売却は、代金の分け方を決めた時期で、各人の申告の割合が変わります。確定申告期限までに分けた場合も、相続人全員がその割合で申告することが前提です。期限を過ぎてから分割が決まっても、そのことを理由に更正の請求等はできません。代表税理士が、相続人と法定相続分、売買の予定、相続税の申告の状況を伺います。そのうえで、全員の申告の割合と税額の見込みを整理します。売買契約の前の段階でご相談ください。
無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り