この記事のポイント
- 譲渡所得を申告するのは、売った不動産の持ち主です
- 持ち主が代金を渡すと原則として贈与税の対象で、もらった人が年110万円超なら申告します
- 他の人の名義で不動産を買うと、原則として贈与として扱われます
- 相続した不動産は、遺産分割の中で代金を分けたかで扱いが変わります
まず結論:売却代金を家族に配ると、贈与税の対象になることがあります
不動産を売った代金を、配偶者や子、兄弟に分けたいと考える方もいます。
税金は、次の3点で考えます。
- 譲渡所得(売ったもうけ)は、売った不動産の持ち主が申告します
- 持ち主が代金を家族に渡すと、もらった人に贈与税がかかることがあります
- 相続した不動産は、遺産分割の中で代金を分けたかで扱いが変わります
確かめるのは、登記の名義、購入時のお金の出し方、遺産分割の書面の3つです。
この記事は、売った後の「代金の行き先」に絞って整理します。

譲渡所得は持ち主が申告し、家族に渡すと贈与税の問題になります
売った不動産の譲渡所得は、その不動産の持ち主が申告します。
国税庁の質疑応答事例は、譲渡所得の課税を、資産が持ち主の手を離れる機会に行う清算と説明しています。
登記の名義が1人なら、原則としてその人が申告します。共有なら、持分に応じて各自が申告します。
共有の注意点は共有名義の不動産を売ったときの記事にまとめています。
持ち主が受け取った代金を家族に渡すと、今度は贈与税の問題になります。
贈与税は、個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金です(No.4402)。
以下は、相続時精算課税を選ばない場合(暦年課税)の説明です。
暦年課税では、もらった人ごとに1月1日から12月31日までの合計から110万円を差し引きます。
1年間にもらった合計が110万円以下なら、贈与税はかからず申告も不要です。
超えるときは、もらった人が翌年2月1日から3月15日までに申告と納税をします。
税率は、兄弟間や夫婦間なら一般税率です。
その年1月1日に18歳以上の子や孫が、父母や祖父母などからもらうときは特例税率です。

名義とお金の出し方がずれていると、購入時の贈与が問題になります
夫婦で出し合ったのに夫だけの名義にすると、妻の出した分は原則として夫への贈与として扱われます。
国税庁の通達は、次のように定めています。
不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取り扱うものとする。
(相続税法基本通達9-9)
売った代金を「妻が出した分」として渡すと、夫から妻への贈与と見られるおそれもあります。
名義を実際にお金を出した人に直すと、贈与がなかったものとする取扱いが個別通達にあります。
ただし、名義人が名義を知らず使ってもいないことや、過誤によることなどの条件があります。
直す時期にも決まりがあり、売った後は名義を直せないため、使えるかどうかは個別判断です。
お金を出した割合どおりの共有名義なら、売ったときも持分ごとに各自が申告します。
相続した不動産は、遺産分割の中で代金を分けたかで扱いが変わります
長男の名義で売った代金を兄弟で分けるときは、遺産分割の中で分けたかどうかが分かれ目です。
遺産を金銭に換えて、その代金を分ける方法を換価分割といいます(相続税法基本通達19の2-8)。
1人の名義で売る場合は、次の質疑応答事例があります。
共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものであり、その代金が、分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはありません。
(国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」)
ポイント
この事例は、遺産分割の調停で換価分割と決めたケースです。前提は2つです。1人の名義が換価のための便宜にすぎないことと、代金が調停の内容どおりに実際に分配されることです。協議で分ける場合も、書面と実際の分配をそろえておくことが大切です。相続税がかかるかどうかは、別に確かめます。
一方、協議書に「長男が取得する」とだけ書き、売った後で弟妹へ配ることがあります。
分割のやり直しで配り直した財産は、分割による取得にならないとする通達があります。
(相続税法基本通達19の2-8。配偶者の税額軽減の規定での「分割」の意味を示したものです)
分割の後で配った代金は、贈与税の対象になり得ます。
売る時までに取り分を決めた換価分割なら、譲渡所得も各相続人がその割合で申告します。
これは、未分割遺産の換価と譲渡所得に関する国税庁の質疑応答事例の考え方です。
| 代金の分け方 | 弟妹が受け取る代金 | 譲渡所得の申告 |
|---|---|---|
| 遺産分割の中で分ける(換価分割) | 贈与税は問題にならない(事例の前提を満たす場合) | 取り分に応じて各相続人 |
| 長男が取得した後で配る | 贈与税の対象になり得る | 持ち主の長男が全体を申告 |
長男が代償金を払う代償分割との違いは、換価分割と代償分割の記事で比べています。

分割の後で1,000万円ずつ配ると、贈与税はこうなります
贈与と扱われると、弟と妹に合わせて462万円の贈与税がかかる計算です。
計算例
例:長男が単独で相続した実家を売り、分割の後で弟と妹に1,000万円ずつ渡した
課税価格 1,000万円 - 基礎控除110万円 = 890万円 弟の贈与税(一般税率) 890万円 × 40% - 125万円 = 231万円 妹も231万円で、2人の合計は 462万円 参考:父から18歳以上(その年1月1日時点)の子へ1,000万円なら特例税率 890万円 × 30% - 90万円 = 177万円弟と妹は、その年にほかの贈与がない前提です。数値は国税庁の速算表(No.4408)による、一定の前提を置いた目安です。
この場合、譲渡所得も持ち主の長男が、売却代金の全体で申告する前提です。
失敗につながるのは、次のような場面です。
- 協議書に「長男が取得する」とだけ書いて売り、後で代金を配った ― 配った分が贈与税の対象になり得ます
- 夫だけの名義の家を売り、代金を夫婦で半分ずつ分けた ― 妻に渡した分が贈与税の対象になります
- 購入時に妻も資金を出したのに、夫だけの名義にしていた ― 購入時の贈与の問題が残ります
注意
毎年その都度贈与の約束をして渡し、各年の合計が110万円以下なら、贈与税はかかりません。ただし、毎年渡すことを最初に約束していると、扱いが変わります。約束した年に、定期金の権利の贈与として贈与税がかかります(No.4402 Q&A)。渡した人が亡くなると、一定期間内の贈与は相続税に加算されることがあります。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
名義とお金の流れを書き出すまではご自身でできますが、扱いの判断は個別です。
- 登記事項証明書で、売る不動産の名義と持分を確かめる
- 購入時の契約書や通帳で、誰がいくら出したかを書き出す
- 相続した不動産なら、協議書に代金の分け方があるかを確かめる
- 代金を渡す予定の相手・金額・時期を一覧にする
ここから先は、書面と事実関係で結論が変わります。
- 名義とお金の出し方がずれているときの扱いと、名義を直す取扱いが使えるか
- 協議書が換価分割と読めるか、代償分割にあたるか
- 1人の名義で売ったとき、譲渡所得を誰がどの割合で申告するか
補足
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活費や教育費に充てるためにもらう財産があります。通常必要と認められるものなら、贈与税はかかりません。非課税になるのは、必要な都度、直接充てるためのものです。預金したり、不動産の購入資金に充てたりすると課税されます(No.4405)。

税理士が入ると変わるのは、申告する人の確定と書面の点検です
売る前に、誰が何を申告するかを確かめ、書面をそろえておくことが要になります。
ひとつめは、登記と購入時の資料から、誰が譲渡所得を申告するかを確かめることです。
ふたつめは、協議書の案に、代金の分け方など税務上必要な記載があるかの確認です。
みっつめは、贈与になる場合の税額を試算し、渡し方と時期の選択肢を整理することです。
よっつめは、譲渡所得の申告書と、必要な場合は贈与税の申告書の作成です。
小松公認会計士・税理士事務所では、売る前の段階から、名義・分割・申告を一続きで確認します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 夫の単独名義の家を売った代金を、夫婦で半分ずつ分けてもよいですか?
譲渡所得は、持ち主の夫が申告します。妻に渡した分は贈与税の対象で、その年にもらった合計が110万円を超えると妻が申告します。購入時に妻も資金を出していた場合は別の論点があるため、売る前に確かめます。
Q2. 相続した実家を長男の名義で売り、兄弟で代金を分けると贈与税がかかりますか?
国税庁の事例(調停のケース)では、1人の名義が換価のための便宜にすぎないことが前提です。代金が調停の内容どおりに実際に分配されれば、贈与税の課税は問題にならないとされています。分割の後で配る場合は、贈与税の対象になり得ます。
Q3. 毎年110万円ずつに分けて渡せば、贈与税はかかりませんか?
毎年その都度贈与の約束をして渡し、各年の合計が110万円以下なら、贈与税はかからず申告も不要です。ただし、毎年渡すことを最初に約束していると扱いが変わります。約束した年に、定期金の権利の贈与として贈与税がかかります(No.4402 Q&A)。渡した人が亡くなると、一定期間内の贈与は相続税に加算されることがあります。
Q4. 親の生活費に充ててもらうために、売却代金を渡すのも贈与になりますか?
扶養義務者から生活費や教育費に充てるためにもらう財産で、通常必要と認められるものは非課税です。非課税になるのは、必要な都度、直接充てるためのものです。預金したり、不動産の購入資金に充てたりすると贈与税がかかります(No.4405)。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。相続税法9条・21条の2・21条の3・21条の5・21条の7・28条、租税特別措置法70条の2の4・70条の2の5、相続税法基本通達9-9・19の2-8、個別通達「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(昭和39年5月23日 直審(資)22・直資68)、国税庁タックスアンサー No.4402(Q&Aを含む)・No.4405・No.4408・No.3308、国税庁の質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」の内容を扱っています。相続時精算課税、贈与税の配偶者控除、住宅取得等資金の非課税、相続開始前の贈与の相続税への加算、相続税の計算と代償分割の課税関係、換価分割で申告期限までに取り分が決まらない場合の扱い、名義を直す取扱いの個別の要件の当てはめ、定期金に関する権利の評価、夫婦間の資金の貸し借り、譲渡所得の税額計算と特例、遺産分割協議書の作成方法は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は、もらった人の年齢、贈与した人との関係、その年のほかの贈与の有無によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/13/01.htm
- 国税庁 相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係(9-9 財産の名義変更があった場合)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/06.htm
- 国税庁 相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係(19の2-8 分割の意義)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4402 贈与税がかかる場合https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
売却代金を家族に分ける前に、名義と分け方を確かめませんか
不動産の売却代金を家族に渡すときは、誰が譲渡所得を申告するかを先に確かめます。渡した分が贈与になるかどうかも、渡す前に確認が必要です。相続した不動産なら、遺産分割の書面の書き方でも扱いが変わります。代表税理士が、登記事項証明書・購入時の資料・協議書の案を拝見します。そのうえで、申告する人と税額の見込みを整理します。売却や遺産分割の前の段階でご相談ください。
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