不動産譲渡所得

家の売却前のリフォーム費用は譲渡費用?
ハウスクリーニング・修繕との線引き

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 売る前の費用は譲渡費用・取得費・どちらでもないの3つに分かれます
  • 修繕費など維持や管理の費用は、譲渡費用になりません
  • 価値を高める改良は取得費。建物は減価の額を差し引きます
  • 名前のない費用は売却に必要か、譲渡価額を増やすため売る際に払ったかで個別に判断します

まず結論:売る前の費用は、中身で3つに分かれます

家やマンションを売る前に、掃除や修繕、リフォームをすることがあります。

その費用は、税金の計算上、次の3つのどれかになります。

区分どんな費用か根拠
譲渡費用売るために直接かかった費用(仲介手数料など)所得税法33条3項・No.3255
取得費(改良費)家の価値を高めた設備費・改良費所得税法38条1項・No.3252
どちらにもならない修繕費など、維持や管理のための費用通達33-7(注)・No.3255・平成26年6月4日裁決

譲渡所得とは、売った金額から取得費と譲渡費用を引いたもうけです。

区分は、費用の名目よりも「何のための、どんな支出か」で判断します。

この記事は、売る直前に、売るためにかけた費用に絞って線引きします。

売る前の片付けや掃除、修繕の費用は、中身によって3つの区分に分かれます
売る前の片付けや掃除、修繕の費用は、中身によって3つの区分に分かれます

譲渡費用かどうかは、最高裁の基準で判断します

譲渡費用は、所得税法33条3項の「資産の譲渡に要した費用」のことです。

最高裁は、その判断の基準を次のように示しています。

資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」に当たるかどうかは,現実に行われた資産の譲渡を前提として,客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきである。

(最高裁判所 平成18年4月20日 第一小法廷判決 裁判要旨1)

同じ判決は、譲渡価額の増額をもたらす負担金も譲渡費用に当たるとしました(裁判要旨3)。通達33-7(2)も、譲渡価額を増やすため譲渡に際して払った費用を譲渡費用に含めています。一方で、譲渡費用に含まれないものも書かれています。

譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。

(所得税基本通達33-7(注))

修繕費や維持管理の費用は、譲渡費用になりません(No.3255)。

通達にもNo.3255にも、売る直前の修繕なら扱いが変わるとは書かれていません。

費目ごとの線引き:名前のない費用は個別に判断します

売る前によくある費用を、原文の記載と照らして並べます。

売る前の費用原文での扱い確かめること
壁紙の張替え・設備の修理など修繕費は譲渡費用にならない(No.3255)通常の修繕は改良に当たらないとした裁決あり(平成26年6月4日)
設備の追加や、価値を高める改修設備費・改良費は取得費(所得税法38条1項)建物は減価の額を差し引く
ハウスクリーニング名前の記載なし維持や管理に当たるか
建物状況調査(インスペクション)名前の記載なし誰の求めで、何のために行ったか
残置物(家財など)の撤去名前の記載なし売買契約での取り決めと時期
広告・写真撮影・内覧の準備名前の記載なしその売却に必要だったか

「名前の記載なし」は、No.3255と通達33-7に記載がないという意味です。

建物状況調査とは、建物の傷み具合を専門家に調べてもらう調査です。

名前のない費用は、売却に客観的に必要だったか、譲渡価額を増やすため売る際に払ったかで判断します。

遺品整理の費用は相続した実家の片付け費用の記事で扱っています。

家財を運び出す費用も、売却の実現に必要だったかで個別に判断します
家財を運び出す費用も、売却の実現に必要だったかで個別に判断します

価値を高めた工事は、取得費の「改良費」に入ります

売る前の工事でも、家の価値を高めたものは取得費に入ります。

譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。

(所得税法38条1項)

通達33-7は、取得費とされるものを譲渡費用から除いています。

そのため改良費は、譲渡費用ではなく取得費として計算します。

建物は、改良費を含めた合計額から減価償却費相当額を差し引きます。

根拠は所得税法38条2項で、No.3252も同じ扱いを示しています。

注意

平成26年6月4日裁決は、取り壊した賃貸建物の「改良」の対価だと主張された支払を判断しました。中身は通常の修繕や維持管理で、価値を高めるものではないとしています。そのため改良に当たらず、譲渡費用にも当たらないとされました。

過去のリフォームの扱いはリフォーム費用と取得費の記事をご覧ください。

数字で見る:長期譲渡で100万円が認められないと、税額は約20万円増えます

修繕などの代金を譲渡費用に入れ、認められないと税額が増えます。

計算例

例:売る前の修繕・クリーニング代100万円が、譲渡費用と認められなかった場合(長期譲渡・特例なし)

譲渡所得の増加 1,000,000円 所得税 1,000,000円 × 15% = 150,000円 復興特別所得税(令和8年分) 150,000円 × 2.1% = 3,150円 住民税 1,000,000円 × 5% = 50,000円 増える税額の合計 203,150円

税率は、売った年の1月1日で所有期間が5年を超える場合のものです(No.3208)。

端数処理を考えない、一定の前提を置いた目安です。

3,000万円の特別控除などの特例を使う場合は、増える税額が変わることがあります。

補足

令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%になります。あわせて、防衛特別所得税1%が加わります(令和8年度改正)。この例では1,650円と1,500円で、合計は203,150円のまま変わりません。

内覧に向けた準備の費用も、名目ではなく中身で区分を確かめます
内覧に向けた準備の費用も、名目ではなく中身で区分を確かめます

失敗パターン:区分の誤りにつながる4つの場面

区分を誤ると、譲渡所得の金額が変わり、税額も変わります。

  • 売る前の修繕費を譲渡費用に入れた ― 修繕など維持や管理の費用は入りません
  • 一括の請求書で、改良と修繕の内訳が分からない ― 取得費に入る部分を示しにくくなります
  • 建物の改良費を取得費に入れ、減価の額を引いていない ― 取得費が大きくなりすぎます
  • 新居へ移す物の解体・移設の費用を入れた ― 譲渡費用に当たらないとした裁決があります

4つめは、平成16年6月3日裁決の事案です。

売った部屋の茶室を解体し、新居に移した費用が問題になりました。

売った資産ではない物の移設で、譲渡価額にも影響しないという理由です。

領収書と契約書は、工事ごとに内訳が分かる形で残します

区分の根拠になるのは、工事の中身と時期が分かる書類です。

  • 見積書・請求書(工事の内訳が分かるもの)
  • 領収書や振込の記録
  • 工事の前と後の写真
  • 売買契約書(特約の欄)と媒介契約書

売却の条件として、買主に補修などを約束することもあります。

この場面を名指しした記載は、No.3255と通達33-7にはありません。

特約の文言、工事の内容と時期、支払の記録をそろえて個別に判断します。

費用の区分の総論は取得費と譲渡費用の線引きの記事にまとめています。

買主に約束した工事は、売買契約書の特約と領収書をそろえて残します
買主に約束した工事は、売買契約書の特約と領収書をそろえて残します

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

支出の整理はご自身でできますが、区分の判断は個別です。

  1. 売る前の支出を、日付順に一覧にする
  2. 見積書・請求書・領収書を、工事ごとにまとめる
  3. 売買契約書の特約で、売主が約束した工事を確かめる
  4. 工事の前と後の写真を残す

ここから先は、資料と事情で結論が変わります。

名前のない費用の判断、修繕と改良の分け方、建物の減価の額の計算です。

買主に約束した工事の扱いと、特例を使うかどうかの判断も同じです。

税理士が入ると変わるのは、区分の根拠と申告書への反映です

ひとつめは、支出ごとに3つの区分の表を作り、根拠の通達や裁決を添えることです。

ふたつめは、見積書の内訳から、改良の部分と修繕の部分を分けることです。

みっつめは、建物の取得費から差し引く減価の額を計算することです。

よっつめは、譲渡所得の内訳書に費用を書き分け、確定申告書に反映することです。

工事の前であれば、残しておく書類を先にご案内できます。

小松公認会計士・税理士事務所では、資料の読み取りから適正申告までを担当します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q1. ハウスクリーニング代は、譲渡費用になりますか?

No.3255と所得税基本通達33-7に、名前の記載はありません。最高裁の基準は、その譲渡の実現に客観的に必要だったかです。通達33-7は、譲渡価額を増やすため売る際に払った費用も含めます。中身が維持や管理なら、譲渡費用になりません。個別に判断します。

Q2. 売る前のリフォーム代は、どこに入れますか?

家の価値を高める改良なら、取得費(改良費)に入ります(所得税法38条1項)。通常の修繕は改良に当たらず、譲渡費用にもならないとした裁決があります(平成26年6月4日)。建物の改良費は、減価の額を差し引きます。

Q3. 買主に約束した補修工事の費用は、どう扱いますか?

No.3255と通達33-7には、名指しの記載がありません。最高裁の基準に照らして、個別に判断します。売買契約書の特約、工事の内容と時期、領収書や振込の記録をそろえて残してください。

Q4. 令和9年分以後に売ると、税率は変わりますか?

令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%になり、防衛特別所得税1%が加わります。合わせた率は2.1%で、令和8年分までの復興特別所得税と同じです(令和8年度改正)。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法33条3項・38条1項・2項、所得税基本通達33-7、国税庁タックスアンサー No.3208・No.3252・No.3255・No.3302、最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決、国税不服審判所の平成16年6月3日裁決・平成26年6月4日裁決、復興特別所得税と防衛特別所得税の税率を定める規定(令和8年法律第12号による改正後)の内容を扱っています。ハウスクリーニング・建物状況調査・残置物の撤去・広告や内覧の準備の費用が譲渡費用に当たるかの個別の結論、買主に約束した工事の費用の扱い、修繕と改良を分ける具体的な基準、建物の改良費から差し引く減価の額の計算方法、賃貸や事業に使っていた建物の必要経費との関係、3,000万円の特別控除など特例の要件、住民税の計算と納付、加算税と延滞税、消費税、遺品整理や引越しの費用は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は所得の区分・特例の有無・端数処理などによって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

売る前にかけた費用、譲渡費用に入れる前に区分を確かめませんか

売却前のリフォームや修繕、クリーニングの費用は、区分によって税額が変わります。代表税理士が、見積書・請求書・売買契約書から、支出ごとの区分と根拠を整えます。建物の減価の額の計算から、譲渡所得の内訳書と確定申告書の作成まで一貫して担当します。売却が決まった段階、できれば工事の前にご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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