この記事のポイント
- 売った年の税金は引渡しの時の代金で計算済みです
- 解除・取消し・裁判所での和解なら2か月の更正の請求があります
- 合意による減額は理由の中身で結論が分かれます
- 修補費用や賠償金の扱いは個別判断です
まず結論:申告後に代金を減額しても、税金は自動では戻りません
売却の申告を終えた後に、雨漏りやシロアリ、土壌汚染が見つかることがあります。
買主と話し合い、代金を減額したり、賠償金を払ったりする場面です。
申告をやり直せるのは、法律が定めた理由に当たるときだけです。
使える手続は、解除か、取消しか、判決や裁判所での和解か、合意による減額かで分かれます。
期限が「理由が生じた日の翌日から2か月」のものもあります。

売った年の税金は、引渡しの時の代金で決まっています
譲渡所得(土地や建物を売った利益)は、引渡しの日を基準に計算します。
山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。
(所得税基本通達36-12)
申告では、その時点の売買代金を収入金額にしています。
あとから代金が変わっても、申告書の数字は勝手には変わりません。
直すには、更正の請求(払いすぎた税金を返してもらう手続)が必要です。
使える手続は、何が起きたかで分かれます
結論として、起きた出来事ごとに根拠と期限が違います。
| 起きたこと | 根拠 | 期限 |
|---|---|---|
| 契約が解除権の行使で解除された・契約後に生じたやむを得ない事情で解除された・取り消された | 国税通則法23条2項3号、同法施行令6条1項2号 | 理由が生じた日の翌日から2か月 |
| 取り消すことのできる行為が取り消された | 所得税法152条、同法施行令274条2号 | 事実が生じた日の翌日から2か月 |
| 判決や、判決と同一の効力を有する和解で事実が異なると確定した | 国税通則法23条2項1号 | 確定した日の翌日から2か月 |
| 申告の計算そのものに誤りがあった | 国税通則法23条1項 | 法定申告期限から5年 |
所得税法152条は、期限を次のように定めています。
当該事実が生じた日の翌日から二月以内に限り、税務署長に対し、
(所得税法152条)
国税通則法23条2項には、かっこ書きの条件があります。
申告した人は、2か月の期間が5年の期間より後に終わる場合に使う手続です。
申告期限から5年を過ぎた後は、2か月の期限だけが残ります。
契約をまるごと解除した場合は、契約解除と手付金の記事で扱っています。

代金の減額は、回収不能の特例では直せません
代金を返したのだから回収不能と同じ、とは扱われません。
所得税法64条1項には「返還すべきこととなつた場合」という言葉があります。
ただし、その事由は政令で退職手当の返納などに絞られています(所得税法施行令180条1項)。
法第64条第1項に規定する返還とは、退職金等をその支給した者に返還する場合をいう
(所得税基本通達64-1の2)
買主への代金の減額を、この規定で直すことは読み取れません。
買主が払えなくなった場合は、代金が回収できないときの記事をご覧ください。
合意による減額は、理由の中身が問われます
話し合いで減額したときは、その合意が何に基づくかで結論が分かれます。
役員報酬を返した事案で、審判所は任意の返還を「新たな合意」とみて請求を退けました。
そのうえで、次のようにも述べています。
法定の解除事由があることから、あるいは、事情の変更等により契約を維持するのが不当となったなどの客観的理由からなされたのであれば、
(国税不服審判所 平成12年12月5日裁決)
この場合は、解除や取消しに当たるといえる、という判断です。
ポイント
この裁決は役員報酬の事案で、不動産の代金減額ではありません。欠陥を理由にした減額がどちらに当たるかは、契約書の条項と合意に至った経緯で個別に判断します。
「欠陥が理由の減額」だと示す書類が、結論を左右します。

修補費用と損害賠償金は、個別判断です
売主が修理代や賠償金を払った場合も、扱いは決まっていません。
譲渡費用(売るために直接かかった費用)の範囲は、通達が定めています。
譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。
(所得税基本通達33-7(注))
タックスアンサー No.3255も、修繕費は譲渡費用にならないとしています。
売却後の修補費用や賠償金の扱いを示した公表資料は、確認できませんでした。
「修理代は譲渡費用」と決めつけず、個別に検討します。
計算例
例:令和7年に5,000万円で売った土地建物(長期)の代金を、欠陥を理由に200万円減額したとき
当初の課税長期譲渡所得 5,000万円 -(取得費2,800万円 + 譲渡費用200万円)= 2,000万円 当初の税額 所得税 300万円 + 復興特別所得税 63,000円 + 住民税 100万円 減額後の課税長期譲渡所得 4,800万円 - 3,000万円 = 1,800万円 減額後の税額 所得税 270万円 + 復興特別所得税 56,700円 + 住民税 90万円 戻る税額の目安 300,000円 + 6,300円 + 100,000円 = 406,300円税率は所得税15%、住民税5%です(タックスアンサー No.3208)。令和8年分までの復興特別所得税は、所得税の2.1%です。令和9年分からは、復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%です。
この例は、減額分が収入金額から外れると認められた場合の目安です。特例やほかの所得は考慮していません。
つまずくのは、だいたいこの4つです
実際に多いのは、次の形です。
- どの手続か決めずに、話し合いが終わるのを待った ― 2か月の期限を過ぎることがあります
- 減額を口頭で決め、合意書を作らなかった ― 理由と日付を示せません
- 修補費用を確かめずに譲渡費用へ足した ― 譲渡費用に当たるかは個別判断です
- 請求したので納付を止めた ― 請求しても徴収は猶予されないのが原則です
注意
国税通則法23条5項は、更正の請求があっても「徴収を猶予しない」としています。当初の税金は期限どおりに納めたうえで、請求の結果を待ちます。
更正請求書には、請求の理由と「請求をするに至つた事情の詳細」を書きます(同条3項)。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で用意できるのは、次の4点です。
- 売買契約書で、契約不適合(引き渡した物件が契約の内容に合わないこと)の条項を確かめる
- 欠陥の報告書、修理の見積書や領収書を日付順に並べる
- 減額や賠償の合意書、判決や和解の書面の日付を確かめる
- 提出済みの申告書で、収入金額と譲渡費用と税額を書き出す
ここから先は個別判断です。
とくに、どの手続に当たるか、いつを起算日とするかで結論が変わります。
補足
税額が変わらなければ、更正の請求はできません(タックスアンサー No.2026)。特例で税額が0円だった方は、減額しても戻る税金はありません。申告の直し方の全体像は確定申告を間違えたときの記事で扱っています。
税理士が入ると変わるのは、手続の選択と書類の整え方です
ひとつめは、起きたことが解除・取消し・裁判所での和解・合意のどれに当たるかの整理です。
ふたつめは、2か月の起算日を契約書と合意書の日付から特定することです。
みっつめは、合意書の文言の確認です。欠陥が理由であることが読み取れるかを見ます。
よっつめは、更正請求書の作成です。事情の詳細を書き、証明書類を添えます。
いつつめは、戻る税額の試算と、住民税などへの影響の確認です。
合意書に署名する前の段階が、いちばん打てる手が多い時期です。
小松公認会計士・税理士事務所では、合意書の確認から更正請求書の提出まで担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 売った後に欠陥で代金を減額しました。税金は自動で戻りますか?
戻りません。譲渡所得は引渡しの日の代金で計算済みです(所得税基本通達36-12)。直すには更正の請求が必要で、解除・取消し・判決や裁判所での和解などに当たるかで根拠と期限が分かれます。期限が2か月のものもあります。
Q2. 更正の請求の期限は、5年ではないのですか?
通常は法定申告期限から5年です(国税通則法23条1項)。解除や取消し、判決や裁判所での和解による同条2項の請求は、理由が生じた日などの翌日から2か月です。この期限が5年より後に終わる場合に使います。所得税法152条の特例も2か月です。
Q3. 代金の減額は、回収不能の特例で直せますか?
直せないと考えられます。所得税法64条1項の「返還」について、所得税基本通達64-1の2は「退職金等をその支給した者に返還する場合をいう」としています。買主に払えない事情があるときの回収不能とは別の話です。
Q4. 買主に払った修理代は、譲渡費用になりますか?
決まった扱いは確認できませんでした。譲渡費用は売るために直接かかった費用で、修繕費は含まれないとされています(所得税基本通達33-7(注)、タックスアンサー No.3255)。売却後の修補費用の扱いは個別に検討します。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法36条・64条1項・152条、所得税法施行令180条1項・274条、国税通則法23条1項・2項・3項・5項、国税通則法施行令6条1項2号、所得税基本通達33-7・36-12・64-1の2、国税庁タックスアンサー No.2026・No.3208・No.3255、国税不服審判所 平成12年12月5日裁決の内容を扱っています。民法の契約不適合責任(追完・代金減額・損害賠償・解除)の要件、売主が支払った損害賠償金を他の所得から差し引けるかどうか、居住用財産の3,000万円特別控除・軽減税率・買換え等の特例を適用している場合の再計算、事業として不動産を売った場合や消費税の取扱い、買主側の取得費の扱い、住民税・国民健康保険料等への影響と手続、延滞税・還付加算金、更正請求書の記載例は扱っていません。売却後の代金減額・修補費用・損害賠償金を譲渡所得の計算にどう反映するかを明示した国税庁の公表資料は確認できなかったため、記事では個別判断としています。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は譲渡価額・取得費・譲渡費用・特例の適用・ほかの所得によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(36条・64条・152条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「国税通則法」(23条)https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
- 国税庁 所得税基本通達 法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》関係(同じページに法第64条関係・64-1の2を収録)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/13/01.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3255 譲渡費用となるものhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平12.12.5裁決、裁決事例集No.60 335頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/60/29/index.html
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売却後に欠陥が見つかり、代金の減額や賠償の話し合いが始まったら、税金の手続も同時に動きます。解除・取消し・判決や裁判所での和解による更正の請求は、理由が生じた日などの翌日から2か月が期限です。合意による減額は、欠陥が理由であることを書類で示せるかで結論が分かれます。代表税理士が、契約書と合意書の確認、手続の選択と起算日の特定、戻る税額の試算、更正請求書の作成まで通して対応します。合意書に署名する前にご相談ください。
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