この記事のポイント
- 税務署長は行為や計算を引き直して課税できます
- 分かれ目は契約書の有無ではなく経済的合理性です
- 会社側(法人税)と社長側(所得税)の両方に規定があります
- 無利息・無期限・無担保の貸付けは典型的に問われます
まず結論:形を整えても、引き直されることがあります
社長と自分の会社との取引には、特別な規定が用意されています。
法人税法132条1項は、次のように定めています。
その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる
契約書があっても、議事録があっても、この規定は働きます。
見られているのは、書類ではなく取引の中身です。

ほとんどの中小企業が「同族会社」です
この規定は、同族会社に適用されます。
法人税法2条10号は、同族会社を次のように定義しています。
会社の株主等(中略)の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(中略)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社
「政令で定める特殊の関係のある個人」は、法人税法施行令4条1項が定めています。
- 株主等の親族
- 婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
- 株主等(個人)の使用人
- 株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者
- これらの者と生計を一にするこれらの者の親族
社長と家族で株式を持っていれば、まず該当します。
「うちは小さいから関係ない」という話ではありません。
判定は、株主を1人ずつ見るのではなく、グループでまとめて行います。
法人税法施行令4条2項・3項は、株主の1人が支配している他の会社も、その株主のグループに含めるとしています。
ここでいう「他の会社を支配している場合」とは、発行済株式の総数の100分の50を超える株式を有する場合などです。
持株会社を挟んでいても、たどっていけば同じグループになります。

分かれ目は「経済的合理性」です
では、何が「不当に減少させる」ことになるのでしょうか。
国税不服審判所は令和7年3月7日裁決で、同じ構造をもつ所得税法157条1項について次のように述べています。
同項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。
分かれ目は「不自然、不合理」かどうかです。
同裁決は、無利息貸付けについての判断の方法も示しています。
当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきである
つまり、ひとつの形式ではなく、取引全体を見て決められます。
実際の事例:社長が会社に無利息で貸したケース
令和7年3月7日裁決の事案は、分かりやすい例です。
請求人(個人)が、自身が関係する同族会社に対して、多額の金銭を無利息で貸し付けました。
審判所は、その融資条件について次のように述べています。
無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なるというべきである
ポイント
審判所は、会社の財務状況も検討しています。貸付けの当時、その会社には配当収入が見込まれており、「本件貸付けを無利息としなければ本件同族会社に倒産の危険があったとはいえず」と判断しました。会社が危機的な状況で、やむを得ず無利息にしたのであれば、結論は変わり得たということです。
結果として、受け取るべき利息相当額が雑所得に算入されました。
お金を受け取っていないのに、収入があったものとして課税されるということです。
なお、この裁決では別の争点(先物取引の損失の繰越し)について請求人の主張が認められ、処分の一部が取り消されています。

会社側と個人側の、両方に規定があります
この仕組みは、法人税だけのものではありません。
法人税法132条3項は、同じ行為又は計算について、次の規定の適用があったときに準用する旨を定めています。
| 税目 | 条文 | だれの税金か |
|---|---|---|
| 法人税 | 法人税法132条1項 | 同族会社(法人) |
| 所得税 | 所得税法157条1項 | 株主等である個人 |
| 相続税・贈与税 | 相続税法64条1項 | 株主等である個人 |
会社で否認されなくても、社長個人で課税されることがあります。
先ほどの裁決は、まさに個人の側で課税された事例です。
なお、組織再編成については法人税法132条の2に別の規定が置かれています。
問われやすい取引の型
実務で論点になるのは、条件が「身内価格」になっている取引です。
- 社長から会社への無利息貸付け ― 上記の裁決の型です
- 会社から社長への貸付けに利息を取っていない ― 会社側の収益が問われます
- 社長個人の不動産を会社に相場より高く貸している ― 賃料の水準が問われます
- 会社の資産を社長に相場より安く売った ― 譲渡価額が問われます
- 返済の予定がない貸付けが積み上がっている ― 貸付けの実質が問われます
注意
役員報酬が高すぎるかどうかは、この規定ではなく法人税法34条2項の「不相当に高額」の問題として扱われます。論点ごとに根拠となる条文が違います。「否認された」という言葉だけで判断せず、どの条文によるものかを確認してください。役員貸付金そのものの扱いは役員貸付金と役員借入金、親族間の売買は親族間の不動産売買をご覧ください。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で確認できるのは、次の4点です。
- 会社と社長・家族との間の取引を、すべて書き出す
- それぞれについて、利率・賃料・売買価額などの条件を確認する
- その条件を、第三者との取引なら受け入れるかを考える
- その条件にした理由を、当時の資料で説明できるかを確認する
ここから先は個別判断です。
いくらの利率なら合理的か、いくらの賃料が相場かは、事案ごとに変わります。
会社の資金繰りが苦しいなど、条件に理由がある場合もあります。
その理由を、どの資料でどう残すかが実務の要点です。
税理士が入ると変わるのは、条件の決め方と残し方です
ひとつめは、取引条件の設定です。利率・賃料・価額を、根拠のある水準で決めます。
ふたつめは、理由の記録です。その条件にした事情を、決定した時点の資料として残します。
みっつめは、契約書と経理の整合です。契約の内容どおりに帳簿が動いているかを確認します。
よっつめは、会社側と個人側の両方の確認です。片方だけを見ていると、もう片方で課税されます。
いつつめは、既往の取引の点検です。過去から続いている貸付けや賃貸借を洗い出します。
否認は、取引をした年ではなく、調査の年に問題になります。
税務調査での指摘のされ方は税務調査の事前通知と初動をご覧ください。
小松公認会計士・税理士事務所では、取引条件の設計から記録の整備、決算・申告まで続けて担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 契約書と議事録があれば、否認されませんか?
いいえ。法人税法132条1項は、行為又は計算が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」であるときに適用されます。書類の有無ではなく、取引の内容が判断の対象です。国税不服審判所も、判断は貸付けの目的・金額・期間等の融資条件・理由等を総合的に考慮して行うとしています。
Q2. 社長が会社にお金を貸すとき、利息を取らないとどうなりますか?
国税不服審判所は令和7年3月7日裁決で、無利息・無期限・無担保の貸付けについて「独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なる」と判断しました。その結果、受け取るべき利息相当額が雑所得に算入されています。会社に倒産の危険があったかどうかなど、事情も考慮されます。
Q3. うちのような小さな会社も同族会社になりますか?
ほとんどの場合、該当します。法人税法2条10号は、株主等の3人以下とこれらと特殊の関係のある個人・法人が発行済株式の50パーセント超を有する会社を同族会社としています。特殊の関係のある個人には、株主の親族や生計を維持している者などが含まれます(法人税法施行令4条1項)。
Q4. 役員報酬が高すぎると、この規定で否認されますか?
役員報酬の過大部分は、法人税法34条2項の「不相当に高額」の問題として扱われるのが通常です。論点によって根拠となる条文が異なります。同族会社の行為又は計算の否認は、個別の規定で対応しきれない場合に問題となる規定であり、どの条文が根拠かを確認することが大切です。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法132条・132条の2・2条10号、法人税法施行令4条(いずれもe-Gov法令検索・施行日 令和8年8月12日版)、国税不服審判所 令和7年3月7日裁決(裁決事例集第138号)の内容を扱っています。引用した裁決は所得税法157条1項に関するものであり、法人税法132条1項について同じ判断がされることを保証するものではありません。また、この裁決では別の争点について請求人の主張が認められ、原処分の一部が取り消されています。適正な利率・賃料・譲渡価額の具体的な算定方法、役員給与の損金不算入(法人税法34条)の判定、組織再編成に係る行為又は計算の否認(法人税法132条の2)、相続税法64条の具体的な適用場面は扱っていません。個別の取引が否認の対象となるかどうかは、取引の目的・金額・条件・理由等を総合的に考慮して判断されるものであり、本記事はその結果を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」132条(同族会社等の行為又は計算の否認)・2条10号(同族会社の意義)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」4条(同族関係者の範囲)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税不服審判所 令和7年3月7日裁決(公表裁決事例)https://www.kfs.go.jp/service/JP/138/03/index.html
- 国税不服審判所「同族会社の行為又は計算の否認」公表裁決事例等の紹介https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/1001000000.html
会社と社長個人の取引を、一度点検しませんか
同族会社の行為又は計算の否認は、契約書や議事録の有無ではなく、取引に経済的合理性があるかどうかで判断されます。社長から会社への無利息貸付け、会社から社長への貸付け、社長個人の不動産の賃貸借、会社資産の売買は、いずれも条件の水準が問われます。しかも会社側の法人税だけでなく、社長個人の所得税でも課税されることがあります。代表税理士が、会社と社長・ご家族との取引の洗い出し、利率・賃料・価額の設定、その条件にした理由の記録の整備、決算・申告への反映まで、通して対応します。
無料相談を申し込む 法人顧問サービスの詳細を見る 約60秒で料金を自動見積り決算と申告だけのご依頼は、決算申告のみのプランをご覧ください。