この記事のポイント
- 売った年も家賃は不動産所得として申告します
- 減価償却費は引渡しの月までの月数で数えます
- 固定資産税の精算金は譲渡所得の収入金額です
- 返還を要する敷金は収入金額に入れません
まず結論:売った年は、2つの所得を別に計算します
年の途中で賃貸物件を売ると、申告書に2つの計算が並びます。
売却そのものの譲渡所得と、1月から引渡しまでの家賃の不動産所得です。
不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
(所得税法26条2項)
貸付けをやめた年でも、その年に受け取る家賃の申告は必要です。
譲渡所得の計算は賃貸用不動産を売ったときの記事で扱い、この記事は不動産所得に絞ります。
減価償却費は、引き渡した月までの月数で数えます
売った年の償却費は、1年分ではありません。
国税庁は、月数で按分する算式を示しています。
資産を年の中途で取得または取壊しをした場合には、上記の金額を12で除しその年分において業務に使用していた月数を乗じて計算した金額になります。
(国税庁タックスアンサー No.2106)
売却した年の償却費も、実務では引渡しの月までの月数で按分します。
根拠は次の通達です。
当該譲渡の時における償却費の額を譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に含めないで、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入しても差し支えないものとする。
(所得税基本通達49-54)
この通達は、取得費に含める方法と必要経費にする方法のどちらでもよいとしています。
計算例
例1:鉄筋コンクリート造の住宅を令和8年7月31日に引き渡したとき
建物の取得価額 30,000,000円(耐用年数47年・定額法) 定額法の償却率 0.022(耐用年数省令 別表第八) 1年分の償却費 30,000,000円 × 0.022 = 660,000円 貸付期間 令和8年1月から7月までの 7か月 その年の償却費 660,000円 × 7 ÷ 12 = 385,000円 1年分との差 660,000円 - 385,000円 = 275,000円
取得費は、未償却残高からその償却費を引いた金額です
取得費は、買ったときの金額そのままではありません。
必要経費にした償却費の累積額を差し引きます。
その取得の日から譲渡の日までの期間のうち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額を控除した金額とする。
(所得税法38条2項)
不動産所得の必要経費にした償却費は、取得費からも外れます。
計算例
例2:例1の建物を平成20年に取得し、令和7年までに18年分を償却していたとき
償却累積額 660,000円 × 18年 = 11,880,000円 令和8年1月1日の未償却残高 30,000,000円 - 11,880,000円 = 18,120,000円 取得費に引き継ぐ金額 18,120,000円 - 385,000円 = 17,735,000円注意
1年分の660,000円を不動産所得の必要経費にしたうえで、取得費を18,120,000円のままにすると二重取りになります。不動産所得が275,000円、譲渡所得が385,000円、合わせて660,000円の所得が申告から落ちます。
家賃・敷金・精算金は、行き先が違います
売買のときに動くお金は、行き先を分けて考えます。
家賃を計上する時期は、契約で決めた支払日が基準です(所得税基本通達36-5)。
敷金は、返還を要する部分が収入金額になりません。
敷金等のうちに不動産等の貸付期間が終了しなければ返還を要しないことが確定しない部分の金額がある場合において、その終了により返還を要しないことが確定した金額
(所得税基本通達36-7)
この金額を、貸付けが終了した日の年分の総収入金額に算入します。
収入になるのは、返還を要しないことが確定した部分だけです。
買主に引き継いだ敷金も、収入にはなりません。
固定資産税の精算金は、行き先が不動産所得ではありません。
支払を受けた未経過固定資産税等に相当する額は、譲渡所得の収入金額に算入されます。
(国税庁 質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」)
くわしくは固定資産税の精算金の記事をご覧ください。
| 受け取ったもの | 例2の金額 | 行き先 |
|---|---|---|
| 家賃(月20万円×7か月) | 1,400,000円 | 不動産所得の総収入金額 |
| 敷金(返還を要する) | 400,000円 | どちらにも入れない |
| 固定資産税の未経過分の精算金 | 150,000円 | 譲渡所得の収入金額 |
| 減価償却費(7か月分) | 385,000円 | 不動産所得の必要経費 |
ほかの経費を考えなければ、この例の不動産所得は1,015,000円です。

借入金の利息と立退料は、売却を境に扱いが変わります
借入金の利息は、貸付けを続けている間の必要経費です。
通達は対象を「業務の用に供する資産」の取得のための借入れとしています(所得税基本通達37-27)。
引渡しの日までの利息が、その年の不動産所得の必要経費です。
売却代金で返しきれず借入金が残ったときの利息は、個別の判断です。
賃借人に払った立退料は、原則としてその年の不動産所得の必要経費です(所得税基本通達37-23)。
ただし売るために立ち退かせたときは、譲渡費用になります(同通達33-7)。
土地を売るための建物の取壊し費用も同じで、立退料の記事で扱います。
65万円控除と届出は、年の区切りで確かめます
青色申告特別控除の55万円と65万円には、規模の要件があります。
租税特別措置法25条の2第3項は、対象を「不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの」としています。
事業かどうかは、おおむね5棟10室を目安に判定します(所得税基本通達26-9)。
10万円の控除は、事業の規模でなくても受けられます(同条1項)。
ポイント
売却で室数が減った年に55万円や65万円が使えるかは、その年について事業として行われていたかで決まります。年末の室数だけでは決まりません。判定の考え方は不動産所得と青色申告の記事をご覧ください。
貸付けの業務の全部を譲渡したときは、青色申告の承認は翌年分以後について効力を失います(所得税法151条2項)。
売った年の分は、青色申告書を提出できます。
事業として行っていた貸付けをやめたときは、個人事業の開業・廃業等届出書を出します(所得税法229条)。
期限は、その事実があった日の属する年分の確定申告期限までです。
消費税の課税事業者なら、建物部分は課税売上になります。

つまずくのは、だいたいこの6つです
実際に多いのは、次の形です。
- 償却費を1年分計上し、取得費も年初の未償却残高で計算した ― 二重取りです
- 固定資産税の精算金を家賃と一緒に不動産所得に入れた ― 譲渡所得の収入金額です
- 買主に引き継いだ敷金を収入に入れた ― 返還を要する部分は収入になりません
- 室数が減った年に65万円控除をそのまま使った ― その年の規模で判定します
- 売却後に残った借入金の利息を必要経費にした ― 貸付けが終わった後の分です
- 引渡し前の未収家賃を落とした ― 支払日が来ていれば収入金額です
ひとつめは例2のとおり、合わせて660,000円の所得が申告から落ちます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で用意できるのは、次の5点です。
- 売買契約書で引渡しの日を確かめ、1月からの月数を数える
- 前年の青色申告決算書で、建物の取得価額と未償却残高を書き写す
- 家賃の入金明細を並べ、契約の支払日を基準に集計する
- 決済時の精算書で、固定資産税の精算金と引き継いだ敷金を分ける
- 返済予定表で、引渡しの日までの借入金の利息を切り出す
ここから先は個別判断です。
とくに規模が下がった年の青色申告特別控除、売却後に残った借入金の利息は判定が分かれます。

税理士が入ると変わるのは、按分と振り分けです
ひとつめは、引渡日で月数按分した減価償却費の計算です。
ふたつめは、未償却残高からその償却費を引き、譲渡所得の取得費へ引き継ぐ作業です。
みっつめは、精算金と敷金の振り分けです。
よっつめは、青色申告決算書と申告書第三表の数字を突き合わせる確認です。
いつつめは、特別控除の金額の判定、廃止の届出、消費税の課税売上の確認です。
売った年の申告は、譲渡所得だけでは終わりません。
小松公認会計士・税理士事務所では、月数按分から届出まで通して担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 物件を売ったのに、その年の家賃も申告するのですか?
はい。不動産所得の金額は、その年中の総収入金額から必要経費を控除した金額です(所得税法26条2項)。売却の有無とは切り離して、その年に受け取る家賃を集計します。売却そのものは譲渡所得として、別に計算します。
Q2. 減価償却費は、売った年も1年分を計上できますか?
できません。国税庁タックスアンサー No.2106は、年の中途の場合の償却費を「12で除しその年分において業務に使用していた月数を乗じて計算した金額」としています。7月31日の引渡しなら、7か月分です。その償却費は譲渡所得の取得費からも外れます(所得税基本通達49-54)。
Q3. 買主から受け取った固定資産税の精算金は、家賃と同じ扱いですか?
違います。国税庁の質疑応答事例は「支払を受けた未経過固定資産税等に相当する額は、譲渡所得の収入金額に算入されます」としています。不動産所得の総収入金額には入れません。売買代金と同じ扱いになります。
Q4. 売った年も青色申告書を出せますか?
はい。貸付けの業務の全部を譲渡した場合、青色申告の承認が効力を失うのはその譲渡した日の属する年の翌年分以後です(所得税法151条2項)。売った年の分は青色申告書を提出できます。特別控除の金額は、その年の規模で判定します。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法26条・36条・37条・38条2項・49条・151条・229条、租税特別措置法25条の2、減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一・別表第八、所得税基本通達26-9・33-7・36-5・36-7・37-23・37-27・49-54、国税庁タックスアンサー No.2106、国税庁質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」の内容を扱っています。譲渡所得そのものの計算(長期・短期の区分、取得費が不明な場合の概算取得費、譲渡損失の取扱い)、居住用財産や空き家に係る特別控除、事業用資産の買換えの特例、所得税法63条が定める事業を廃止した場合の必要経費の特例、事業専従者給与や修繕費と資本的支出の区分、中古資産の簡便法による耐用年数、旧定額法など平成19年3月31日以前に取得した資産の償却、少額減価償却資産や一括償却資産の取扱い、消費税の課税売上割合・仕入税額控除・課税事業者の判定、個人住民税と事業税の取扱い、相続や贈与で取得した賃貸物件の取得価額の引継ぎは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は取得価額・耐用年数・貸付期間・契約内容によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(26条・36条・37条・38条・49条・151条・229条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(25条の2 青色申告特別控除)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(別表第一・別表第八)https://laws.e-gov.go.jp/law/340M50000040015
- 国税庁 所得税基本通達〔償却累積額による償却費の特例及び堅牢な建物等の償却費の特例〕(49-54を収録)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/08/13.htm
- 国税庁 所得税基本通達〔収入金額の収入すべき時期〕(36-5・36-7を収録)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/01.htm
- 国税庁 所得税基本通達〔その他の共通費用〕(37-23・37-27を収録)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/09.htm
- 国税庁 質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/03/10.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2106 定額法と定率法による減価償却https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2106.htm
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年の途中で賃貸物件を売った年は、譲渡所得と不動産所得の2つを別に計算します。減価償却費は引渡しの月までの月数で按分し、その分だけ譲渡所得の取得費が下がります。固定資産税の未経過分の精算金は譲渡所得の収入金額で、返還を要する敷金はどちらの収入にもなりません。償却費を1年分計上したうえに取得費を年初の未償却残高で計算すると、二重取りになります。代表税理士が、引渡日での月数按分、未償却残高から取得費への引継ぎ、精算金と敷金の振り分け、青色申告特別控除の判定、廃止の届出まで通して対応します。売買契約を結んだ時点でご相談ください。
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