この記事のポイント
- 建物の取得費は、買った金額から償却費の累積額を引いた額です
- 売値が時価の2分の1未満なら時価で計算し、以上でも157条で時価とされることがあります
- 賃貸用の建物の譲渡損失は、土地建物の譲渡所得以外の所得と相殺できません
- 土地は個人に残るため、借地権の扱いを売る前に決めます
まず結論:建物だけでも、売った個人の側で譲渡所得を計算します
個人の賃貸アパートやマンションの建物だけを、自分や家族の会社に売る方法があります。
土地は個人に残し、建物と家賃の受け取りを会社に移す形です。
建物だけを売っても、売った個人の側で譲渡所得が計算されます。
譲渡所得とは、売った金額から取得費と譲渡費用を引いた、もうけのことです。
この記事は売主個人の税金に絞り、取得費・売値・税率・損失・土地の5点を確かめます。
在庫や車を含む引継ぎ全体は、法人成りの資産の引継ぎの記事で扱っています。

取得費は、買った金額から償却費の累積額を引いた額です
建物の取得費は、買った金額そのままではありません。
建物の取得費は建物の購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要があります。
(国税庁 タックスアンサー No.3261)
貸していた期間は、不動産所得の必要経費に入る償却費の累積額を引きます。
根拠は所得税法38条2項1号です。
売る日までの償却費を引いた後の金額が、建物の取得費です。
毎年償却していれば、帳簿に残る未償却残高と同じ金額になります。
国税庁は、償却費を必要経費にしていない年があっても、毎年の償却費を合計するとしています。
売った年の償却の月数は、賃貸物件を売った年の申告の記事で扱っています。
会社への売値が時価の2分の1未満なら、時価で売ったものとされます
売値は当事者で決めますが、買主が会社だと特別なルールがあります。
土地や建物の売却先が法人であり、しかも売却価額が時価の2分の1を下回っている場合は、売った土地や建物の時価を収入金額として譲渡所得が計算されます。
(国税庁 タックスアンサー No.3217)
根拠は所得税法59条1項2号と、所得税法施行令169条です。
時価とは、売った時点のその建物の値段のことです。
帳簿の金額で売っても、それが時価の2分の1未満なら、税額は時価で売ったときと同じです。
計算例
例:令和8年に、時価1,200万円の建物を帳簿の金額で自分の会社に売った場合
取得費 取得価額3,000万円 - 償却費の累積額2,600万円 = 400万円 判定 売値400万円 < 時価の2分の1の600万円 → 収入金額は時価1,200万円 譲渡所得 1,200万円 - 400万円 = 800万円 所得税120万円 + 復興特別所得税25,200円 + 住民税40万円 = 1,625,200円売った年の1月1日で所有5年超、譲渡費用0円、特例なしという一定の前提を置いた目安です。
受け取る現金は400万円ですが、税額は時価1,200万円で売った場合と変わりません。
2分の1以上の売値でも、所得税法157条に当たると時価で計算されることがあります。
157条は、同族会社などの行為や計算で、株主などの所得税が不当に減ると認められるときの規定です。
この扱いは、所得税基本通達59-3に定めがあります。
会社が借入金を引き受けるときは、その額も対価に含めて判定します(所得税基本通達59-2)。

長期か短期かは、売る年の1月1日の所有期間で決まります
税率は、建物を持っていた期間で2つに分かれます。
その年一月一日において所有期間が五年を超えるものの譲渡
(租税特別措置法31条1項)
売る年の1月1日に所有期間が5年を超えていれば長期、5年以下なら短期です。
| 区分 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 長期(5年超) | 15% | 5% |
| 短期(5年以下) | 30% | 9% |
(タックスアンサー No.3208・No.3211)
令和8年分は、所得税額の2.1%の復興特別所得税もあわせて納めます。
相続や贈与で取得した建物は、原則として前の持ち主が取得した日から数えます(No.3202)。
補足
令和9年分以後の所得税では、復興特別所得税が1.1%に下がり、新しく防衛特別所得税1%が加わります。合計の2.1%は変わりません。根拠は防衛財確法5条の5・5条の9、改正後の復興財確法13条と国税庁のQ&Aです。
賃貸用の建物を売った損は、土地建物の譲渡益以外とは相殺できません
時価が取得費を下回り、売って損が出ることもあります。
長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。
(租税特別措置法31条1項後段。短期は32条1項後段)
賃貸用の建物の譲渡損失は、土地建物の譲渡所得以外の所得と損益通算できません。
損益通算とは、赤字をほかの所得の黒字から差し引くことです(タックスアンサー No.2250)。
同じ年に土地や建物を売った利益があれば、その利益とは差し引けます。
注意
取得価額1億円・償却費の累積額2,000万円の建物は、取得費が8,000万円です。時価6,000万円で売ると2,000万円の損です。同じ年に土地や建物の譲渡益がなければ、この損は家賃や給与の所得から引けません。数値は一定の前提を置いた目安です。

土地は個人に残るので、借地権の扱いを先に決めます
建物だけを売ると、会社が個人の土地の上に建物を持つ形になります。
借地権とは、建物を持つために他人の土地を使う権利のことです。
所得税基本通達59-5により、借地権の設定は、時価で売ったとみなす所得税法59条1項の対象外です。
ただし、権利金を払わずに土地を使わせると、権利金の認定課税の問題が生じることがあります。
この場面の認定課税は、借地権を得た会社に、権利金相当額の受贈益として法人税を課すものです。
国税庁は、認定課税が行われない場合として、相当の地代と無償返還の届出を挙げています。
これは法人が土地を貸す場面の説明です(タックスアンサー No.5730)。
ポイント
契約書に、将来無償で返還する定めを置きます。そのうえで「土地の無償返還に関する届出書」を、借地人と連名で遅滞なく出します。そうすると、権利金の認定課税は行われないとされています。この届出は、土地所有者が個人でも提出できます(国税庁 手続案内 C1-63)。
相当の地代との選び方は、土地の無償返還に関する届出書の記事で解説しています。
指摘を受けやすいのは、この6つの場面です
金額が変わる誤りは、申告漏れにつながります。
- 帳簿の金額のまま売った ― 時価の2分の1未満なら、時価で譲渡所得を計算します
- 時価の根拠を残していない ― 売値が妥当かを、後から資料で示せません
- 代金を払わず未払いのまま ― 収入の時期は原則として引渡しの日で、受け取り前でも計算します
- 償却しなかった年を飛ばした ― その年の償却費も取得費から引きます
- 土地の扱いを決めずに移した ― 権利金の認定課税の問題が残ります
- 建物の損を給与と相殺した ― 土地建物の譲渡所得以外とは相殺できません
収入の時期は、契約の効力発生の日を選んで申告することもできます(所得税基本通達36-12)。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
数字の書き出しはご自身でできますが、売値と土地の決め方は個別判断です。
- 購入時の契約書で、建物の取得価額と取得した日を確かめる
- 過去の申告書の減価償却の明細から、償却費の累積額を拾う
- 売る年の1月1日に、所有期間が5年を超えるかを数える
- 会社が引き継ぐ借入金と、土地の使い方の案を書き出す
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
時価の根拠づくり、157条に当たるかの検討、土地の契約と届出は個別に判断します。
税理士が入ると変わるのは、売値の根拠と申告の整合です
ひとつめは、過去の申告書から償却費の累積額を拾い、取得費を確定することです。
ふたつめは、時価の資料をそろえ、2分の1の判定と売値の根拠を書面に残すことです。
みっつめは、長期・短期を数え、売る時期ごとの税額を試算することです。
よっつめは、土地の賃貸借契約書と、無償返還の届出書の準備です。
いつつめは、譲渡所得の内訳書と確定申告書への反映です。
小松公認会計士・税理士事務所では、売る前の試算から適正申告までを一貫して担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 建物を帳簿の金額(未償却残高)で会社に売れば、譲渡所得は出ませんか?
売値と取得費が同じで譲渡費用がなければ、計算上は0円です。ただし売値が時価の2分の1未満なら、時価を収入金額とします。根拠は所得税法59条1項2号と同施行令169条です。2分の1以上でも、所得税法157条に当たると時価で計算されることがあります。
Q2. 時価の2分の1以上で売れば、時価で計算されることはありませんか?
所得税法59条1項2号は適用されません。ただし所得税基本通達59-3は、所得税法157条に当たる譲渡なら時価で計算できるとしています。157条は、同族会社などの行為や計算で、株主などの所得税が不当に減ると認められるときの規定です。
Q3. 賃貸用の建物を売って損が出たら、家賃や給与の所得と相殺できますか?
できません。一定の居住用財産以外の土地建物の譲渡損失は、土地建物の譲渡所得以外の所得と損益通算できません。国税庁のタックスアンサー No.2250 にあるとおりです。同じ年に土地や建物を売った利益があれば、その利益とは差し引けます。
Q4. 土地を売らずに会社へ貸すとき、何を決めておけばよいですか?
権利金の認定課税への手当てを検討します。その一つは、契約書に無償返還の定めを置き、土地の無償返還に関する届出書を連名で遅滞なく出す方法です。国税庁は、この場合は認定課税は行われないとしています。土地所有者が個人でも提出できます(手続案内 C1-63)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法38条・59条・157条、所得税法施行令169条、租税特別措置法31条・32条、所得税基本通達36-12・59-2・59-3・59-5、復興財確法13条、防衛財確法5条の5・5条の9、国税庁タックスアンサーNo.2250・No.3202・No.3208・No.3211・No.3217・No.3261・No.5730、国税庁手続案内「C1-63 土地の無償返還に関する届出」、国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」の内容を扱っています。建物の時価の算定方法、未償却残高を時価としてよいかどうか、所得税法157条に当たるかどうかの判断基準、買主である会社側の取得価額・耐用年数・受贈益などの法人税の取扱い、ほかの株主へのみなし贈与(相続税法基本通達9-2)、権利金の認定課税が誰にどのように課されるかの詳細、相当の地代の計算、使用貸借の扱い、借地の返還の扱い、借地権の相続税評価、減価償却の償却率と耐用年数、相続・贈与で取得した建物の取得時期の例外、消費税・不動産取得税・登録免許税、入居者の敷金の引継ぎ、売った年の不動産所得の計算の細目、住民税の申告手続は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は時価・取得費・譲渡費用・所有期間・同じ年のほかの譲渡の有無によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3217 時価より低い価額で売ったときhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3261 建物の取得費の計算https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
- 国税庁 手続案内 C1-63 土地の無償返還に関する届出https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_48.htm
- e-Gov法令検索「所得税法」https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
建物だけを会社に売る前に、売値と土地の扱いを確かめませんか
建物だけを会社に売ると、取得費、時価の2分の1の判定、157条、土地の貸し方で結果が変わります。代表税理士が、過去の申告書から償却費の累積額を拾い、売値の根拠と税額を試算します。土地の契約書と届出の準備から、譲渡所得の申告まで一貫して対応します。売買契約を結ぶ前の段階でご相談ください。
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