この記事のポイント
- 売るための取壊しが明らかなら、取壊し費用と建物の損失は土地の譲渡費用です
- そうでない建物の損失は不動産所得で引き、事業的規模でなければ上限があります
- 同じ損失を不動産所得と譲渡費用の両方で引くことはできません
- 建物を壊して土地を売るための立退料も、不動産所得ではなく譲渡費用です
まず結論:売るための取壊しなら譲渡費用、そうでなければ建物の損失は不動産所得です
賃貸アパートや貸家の取壊しが売るためと明らかなら、取壊し費用と建物の損失は土地の譲渡費用です。
そうでなければ、建物の損失は不動産所得で引きます。事業的規模(事業として行う規模の貸付け)でなければ、引ける額に上限があります。
建物の損失とは、取り壊した時の未償却残高にあたる金額です。未償却残高は、取得価額から減価償却費の累計を引いた残りです。
| 項目 | ① 売るための取壊し | ② それ以外の取壊し |
|---|---|---|
| 建物の損失 | 土地の譲渡費用 | 不動産所得の必要経費(事業的規模でなければ上限あり) |
| 取壊し費用 | 土地の譲渡費用 | 個別判断 |
| 立退料 | 土地の譲渡費用 | 不動産所得の必要経費 |
自宅の場合は、自宅の取壊しと3,000万円控除の記事をご覧ください。

売るために壊したなら、取壊し費用も建物の損失も譲渡費用です
国税庁も譲渡費用の例に挙げています。
土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額
(国税庁 タックスアンサー No.3255)
根拠は所得税基本通達33-7・33-8です。建物の損失について、33-8は「その取壊し又は除却が当該譲渡のために行われたものであることが明らかであるとき」を条件としています。
33-8は、取り壊した時の額から発生資材(解体で出た売れる資材)の価額を引き、「当該譲渡に係る譲渡費用」としています。
取り壊した年と売った年がずれても、土地を売った年の譲渡所得で引きます。
33-8にもNo.3255にも、取壊しから売却までの期間の目安はありません。自宅の3,000万円控除にある「1年以内」は、その特例の要件です(No.3320)。
ほかの費用の区分は取得費と譲渡費用の線引きの記事をご覧ください。
売るためでなければ不動産所得で引き、事業的規模でなければ上限があります
国税庁の説明は次のとおりです(所得税法51条1項・4項)。
賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失については、不動産の貸付けが事業として行われている場合は、その全額を必要経費に算入しますが、それ以外の場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます。
(国税庁 タックスアンサー No.1373)
事業的規模でなければ、損失を引く前の不動産所得が上限です。超えた分は必要経費になりません。
所得税基本通達26-9は、社会通念上、事業と言える規模かで判定するとし、次の目安を示しています。
- アパート等:貸せる独立した室数がおおむね10以上
- 独立家屋:おおむね5棟以上
どちらかに当たるときは、特に反証がない限り事業として扱われます。賃貸料の収入や管理の状況がこれに準ずるときも同じです。
所得税法51条は「資産の譲渡により又はこれに関連して生じたもの」を除いています。売るための取壊しなら、規模にかかわらず不動産所得では引けません。
取壊し費用は、建物の損失とは分けて考えます。通達51-2は、損失の金額を「資産そのものについて生じた損失の金額」としています。

数字で見る:同じ取壊しでも、行き先で結果が変わります
①なら譲渡所得が減り、②なら上限で止まることがあります。
計算例
例:木造アパート6室(事業的規模に当たらない前提)を取り壊した場合
取り壊した時の未償却残高 3,000,000円(発生資材なし)・取壊し費用 2,000,000円 取り壊した年の不動産所得(損失を引く前) 800,000円 ① 売るための取壊し:譲渡費用 3,000,000円+2,000,000円=5,000,000円 入れ忘れた場合の税額差(概算) 5,000,000円×20.315%=1,015,750円 ② それ以外:必要経費は上限の800,000円まで → 不動産所得 0円 3,000,000円-800,000円=2,200,000円は必要経費になりません 事業的規模なら 800,000円-3,000,000円=△2,200,000円(赤字)数値は一定の前提を置いた目安です。①の税額差は、この費用を引く前の譲渡益が500万円以上ある前提です。②の取壊し費用は個別判断のため除いています。
20.315%は、長期譲渡所得(売った年の1月1日で所有期間5年超)の令和8年分の合計税率です。
令和9年分以後は、所得税額の2.1%が復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%に分かれます。
立退料も、建物を壊して土地を売るためなら譲渡費用です
建物を壊して土地を売るための立退料は、土地の譲渡費用です(所得税基本通達33-7、No.1382)。
立退料は原則として、払った年の不動産所得の必要経費です(同37-23)。
ただし「当該建物を取壊してその敷地となっていた土地等を譲渡するために支出するもの」などは除かれます。
裁決は、譲渡費用に当たるかの基準を次のように示しています。
現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。
(国税不服審判所 平成27年9月30日裁決・要旨)
立退料の全体は立退料の記事にまとめています。
取り壊した年の不動産所得は、貸していた期間で計算します
取り壊した年も、それまでの家賃と経費は不動産所得で申告します。
減価償却費は、1年分の12分の1に、業務に使った月数を掛けます(No.2105・No.2106)。
売るための取壊しなら、建物の損失はこの年の不動産所得に入れず、土地を売った年の譲渡費用にします。
事業的規模でないときは、退去が進んで家賃が減るほど、損失を引ける上限も小さくなります。

気をつけたい失敗は、この5つです
どれも、所得の金額が変わる誤りです。
- 同じ損失を両方で引く ― 不動産所得と譲渡費用は重なりません
- 事業的規模でないのに、全額を不動産所得で引く ― 引けるのは上限までです
- 建て替えの構想だけで、取壊し費用などを不動産所得で引く ― 具体的な計画が問われます
- 書面の裏づけがない立退料を譲渡費用に入れる ― 客観的な必要性が問われます
- 翌年に売ったのに、譲渡費用に入れ忘れる ― 売った年の譲渡所得で引きます
注意
平成13年4月26日裁決の事案は、自分が代表の会社1社への貸付けでした。建物の取壊し損失6,750,615円を、全額不動産所得で引けるかが争われました。事業とは認められず、必要経費は上限の1,430,770円まででした。不動産所得は0円とされ、過少申告加算税も課されています。
平成11年1月27日裁決は、相続税を土地で納める物納のための取壊しでした。ビルの構想はあっても具体的な建築計画がなく、取壊し費用などは不動産所得の経費と認められていません。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
資料をそろえるのはご自身でできますが、①か②かの判定は個別です。
- 前年の決算書から、建物の取得価額と未償却残高を書き写す
- 解体工事の契約書・請求書・領収書をそろえる
- 売買契約書で、更地で引き渡す条件と日付を確かめる
- 立退きの合意書と、支払いの記録をそろえる
- 貸していた室数・棟数を数える
ここから先は、事実と書面で結論が変わります。売るための取壊しと言えるか、事業的規模かの判定です。
ポイント
平成27年9月30日裁決では、立退料を払う合意を示す書面がないことも、判断の材料になりました。解体や立退きの前から、日付の分かる書面を残しておきます。

税理士が入ると変わるのは、行き先の判定と根拠の整理です
ひとつめは、解体から売却までの経緯を時系列にし、①か②かを判定することです。
ふたつめは、業務に使っていた月数から、取り壊した時の未償却残高を出すことです。
みっつめは、室数・棟数と管理の状況から、事業的規模かを確かめることです。
よっつめは、取壊し費用と立退料の区分を、契約書と合意書で根拠づけることです。
いつつめは、譲渡所得の内訳書と、不動産所得の決算書などへの反映です。
小松公認会計士・税理士事務所では、解体の前から申告まで一貫して担当します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 取り壊してから売るまでの期間に、決まりはありますか?
所得税基本通達33-8の条件は、譲渡のための取壊しであることが明らかなことです。期間の目安は示していません。自宅の3,000万円控除にある「1年以内」は、その特例の要件です。解体の時期と売却の経緯を、書面で残してください。
Q2. 何室あれば事業的規模になりますか?
所得税基本通達26-9は、社会通念上、事業と言える規模かで判定するとしています。目安は、アパート等で貸せる独立した室数がおおむね10以上、独立家屋でおおむね5棟以上です。どちらかに当たるか、収入や管理の状況が準ずれば、特に反証がない限り事業とされます。
Q3. 取り壊した年に売れず、翌年に売った場合はどうなりますか?
売るための取壊しと明らかなら、損失の額は取り壊した時点で計算します。その額を土地を売った年の譲渡費用にします(所得税基本通達33-8)。取り壊した年の不動産所得では引きません。売るためでなかったなら、取り壊した年の不動産所得で引きます。
Q4. 立退料は、不動産所得と譲渡費用のどちらですか?
原則は、払った年の不動産所得の必要経費です。ただし、建物ごと売るためや、壊して敷地を売るための立退料は除かれます(所得税基本通達37-23)。これらは譲渡費用です(同33-7)。平成27年9月30日裁決は、客観的に見て譲渡の実現に必要だったかで判断しています。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法26条・51条、所得税基本通達26-9・33-7・33-8・37-23・51-2、国税庁タックスアンサー No.1373・No.1382・No.2105・No.2106・No.3208・No.3255・No.3320、国税不服審判所の平成11年1月27日・平成13年4月26日・平成27年9月30日の各裁決の内容を扱っています。取壊し費用を不動産所得の必要経費にできる場合の基準、事業的規模でない場合の取壊し費用と上限の関係、室数と棟数が混在する場合の数え方、事業的規模を判定する時点、不動産所得の赤字の損益通算とその制限、純損失の繰越し、事業の廃止の届出、青色申告特別控除、相続税の物納の課税関係、購入直後に取り壊す場合の取得費、建物の一部の取壊し、発生資材の評価、平成19年3月31日以前に取得した建物の償却、3,000万円控除などの特例の要件、譲渡所得の内訳書の書き方、住民税の手続と消費税は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は未償却残高・取壊し費用・その年の不動産所得・所有期間・適用する特例によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-7・33-8を収録)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3255 譲渡費用となるものhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
- e-Gov法令検索「所得税法」(51条 資産損失の必要経費算入)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨「資産の廃棄損失」(平成13年4月26日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0402120000.html
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賃貸アパートや貸家を取り壊して土地を売るときは、取壊し費用と建物の損失の行き先で申告が変わります。行き先は売るための取壊しと示せるかで分かれ、不動産所得で引くときは事業的規模でないと上限があります。立退料も、払った目的で扱いが変わります。代表税理士が、決算書・解体の契約書・売買契約書から行き先を判定します。譲渡所得と不動産所得の申告まで、一貫して作成します。解体や立退きの契約をする前の段階でご相談ください。
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