この記事のポイント
- 法人が100パーセント持つ会社どうしなら、寄附金も受贈益も課税されません
- 社長個人が2社を持つ形では適用がなく、受け取った側に課税されます
- 持株会社を間にはさむかどうかで、結論が正反対になります
- グループ内で資産を移しても、譲渡損益はいったん繰り延べられます
まず結論:株主が法人か個人かで、結論が正反対になります
100パーセント支配している会社どうしでお金を動かすことがあります。
資金繰りの苦しい会社へ、余裕のある会社から資金を回す場面です。
このとき、税金がかかるかどうかは、その2社を誰が持っているかで変わります。
法人による完全支配関係がある会社どうしなら、出す側は全額損金不算入、受け取る側は全額益金不算入です。
差し引きすると、グループ全体では税負担が増えません。
一方、社長個人が2社をそれぞれ直接持っている形では、この規定が働きません。
| 形 | 出した側(寄附金) | 受け取った側(受贈益) |
|---|---|---|
| 親会社が子会社を100パーセント保有(法人による完全支配関係) | 全額が損金不算入(法法37②) | 全額が益金不算入(法法25の2①) |
| 持株会社がA社・B社を100パーセント保有 | 同上(A社B社間でも適用あり) | 同上 |
| 社長個人がA社・B社をそれぞれ100パーセント保有 | 限度額を超える部分が損金不算入 | 全額が益金算入 |
いちばん下の形だけ、グループ全体では税金が出てしまいます。

分かれ目は「法人による完全支配関係」があるかどうか
条文は、適用の対象を「法人による完全支配関係」に限っています。
法人税法25条の2第1項も、37条2項も、かっこ書きで「法人による完全支配関係に限る」としています。
つまり、頂点に法人がいることが条件です。
ここで、通達が実務上とても大事な点を明らかにしています。
ポイント
法人税基本通達9-4-2の5は、2社の間に一の者(法人に限る)による完全支配関係がある場合には、その法人の株式を個人が間接に保有していても、寄附金の損金不算入の規定の適用があるとしています。
言いかえると、社長が持株会社を持ち、その持株会社が2社を持つ形なら適用があります。
社長がA社とB社を直接持つ形には適用がありません。
間に法人が1つ入るかどうかで、結論が入れ替わるということです。
補足
受け取った側で益金に算入できない事情があるときは、出した側の全額損金不算入も働きません。法人税基本通達9-4-2の6は、相手が公益法人等で、受贈益が収益事業以外の事業として区分経理されているときは「受贈益の額に対応するもの」に該当しないとしています。両方がセットで動く規定だからです。
数字で見る:社長個人が2社を持っている場合
適用がない形では、どれくらいの負担になるのかを見ます。
A社からB社へ1,000万円を渡したとします。株主は社長個人で、2社を直接持っています。
出した側の損金算入限度額は、法人税法施行令73条1項1号で計算します。
計算例
A社:資本金と資本準備金の合計1,000万円・所得500万円(12か月)
イ=1,000万円 ÷ 12 × 12か月 × 2.5/1000 = 25,000円 ロ=500万円 × 2.5/100 = 125,000円 限度額=(25,000円 + 125,000円)÷ 4 = 37,500円 損金不算入=1,000万円 - 37,500円 = 9,962,500円B社
受贈益1,000万円は全額が益金算入お金が動いただけなのに、グループ全体では約2,000万円分の所得が生まれます。
A社で約1,000万円が経費にならず、B社で1,000万円の利益が立つためです。
同じ資金移動でも、返済の約束がある貸付けなら贈与そのものが生じません。ただし利息の定めは必要です。

資産を移したときは、譲渡損益がいったん繰り延べられます
お金ではなく資産を移す場合にも、別のルールがあります。
完全支配関係がある内国法人へ譲渡損益調整資産を譲渡したときは、その譲渡損益は損金または益金に算入され、実現が先送りされます。
根拠は法人税法61条の11です。ここでの完全支配関係に、法人によるという限定はありません。
先送りされた損益は、譲受けた会社でその資産を売却・償却・除却したときなどに実現します。
また、完全支配関係がなくなったときにも実現します。
注意
「グループ内で含み損のある不動産を移して、譲渡損を出す」という組み立てはできません。譲渡損はその期には実現せず、繰り延べられるためです。譲渡益も同じように繰り延べられます。
ただし、すべての資産が対象になるわけではありません。
ポイント
法人税法施行令122条の12第1項は、譲渡の直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産と売買目的有価証券を対象から除いています。少額の資産の移転は、通常どおりその期の損益になります。
では、繰り延べた損益はいつ戻ってくるのでしょうか。
法人税法61条の11第2項は、譲受けた会社で一定の事由が生じたときに実現すると定めています。
具体的には、その資産の譲渡、償却、評価換え、貸倒れ、除却その他の政令で定める事由です。
減価償却資産であれば、償却が進むにつれて少しずつ戻っていくことになります。
もう一つ、完全支配関係そのものが切れたときにも実現します。
譲受けた会社の株式を外部へ売って完全支配関係がなくなれば、その日の前日の属する事業年度で一気に実現します。
会社を売るときに、思わぬ所得が出る場面です。グループ内で資産を動かした履歴は残しておく必要があります。

「贈与したつもりはない」場面にも当てはまります
寄附金や受贈益は、名目で判断するものではありません。
法人税法37条7項は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わないとしています。
金銭だけでなく、資産または経済的な利益の贈与や無償の供与も含まれます。
さらに同条8項は、時価より低い対価での譲渡や供与について定めています。
対価と時価との差額のうち実質的に贈与と認められる金額は、寄附金の額に含まれます。
受け取った側についても、法人税法25条の2第3項が同じ内容を定めています。
注意
グループ会社への無利息・低利の貸付け、相場より安い賃料での事務所の又貸し、時価より低い価額での資産の譲渡は、いずれも経済的な利益の供与として検討の対象になります。「現金を贈与していないから関係ない」とは限りません。

当事務所での進め方
最初に確認するのは、株主構成です。誰が何パーセント持っているかを図にします。
頂点が法人か個人かで、その後の説明がまったく変わるためです。
次に、グループ内で動いているお金と資産を一覧にします。
貸付金、立替金、家賃、業務委託料、資産の売買のすべてが対象です。
そのうえで、贈与と評価される余地がある取引を洗い出し、契約書と条件を整えます。
会社を分けたあとに困らないよう、分ける前にご相談いただくのが最も確実です。
すでに複数の会社をお持ちの場合も、打つ手がないわけではありません。
資金を動かす形を贈与から貸付けに変える、賃料や委託料の水準を見直す、といった整理はできます。
ただし、過去に済んでしまった取引をさかのぼって直すことはできません。早いほど選択肢が残ります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 社長が2つの会社を100パーセント持っています。片方から片方へ資金を渡せますか?
渡せますが、グループ法人税制の規定は働きません。法人税法25条の2第1項も37条2項も「法人による完全支配関係に限る」としているためです。受け取った側は受贈益を全額益金に算入することになります。
Q2. 持株会社を間に入れれば結論は変わりますか?
変わります。法人税基本通達9-4-2の5は、2社の間に一の者(法人に限る)による完全支配関係があれば、その株式を個人が間接に保有していても寄附金の損金不算入の規定の適用があるとしています。
Q3. グループ会社へ不動産を移して、含み損を実現できますか?
できません。完全支配関係がある内国法人への譲渡損益調整資産の譲渡は、譲渡損益がいったん繰り延べられます(法人税法61条の11)。譲受けた会社で売却等があったときなどに実現します。
Q4. 少額の備品をグループ会社へ譲渡した場合も繰延べですか?
繰り延べません。法人税法施行令122条の12第1項は、譲渡の直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産を譲渡損益調整資産から除いています。通常どおりその期の損益になります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法25条の2、37条、61条の11、法人税法施行令73条1項1号、122条の12第1項、法人税基本通達9-4-2の5・9-4-2の6を扱っています。完全支配関係の定義の細目(法人税法2条12号の7の6および法人税法施行令4条の2)、グループ通算制度、適格合併・適格分割等の組織再編成税制、受取配当等の益金不算入、100パーセントグループ内の法人の株式を発行法人へ譲渡した場合の譲渡損益、中小企業向け特例の不適用(大法人による完全支配関係)、寄附修正、繰り延べた譲渡損益が実現する事由の細目、地方税および消費税の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は制度の理解のための仮の設例です。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 法人税法(25条の2・37条・61条の11)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(73条・122条の12)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第2款「完全支配関係がある法人間の寄附金」(9-4-2の5・9-4-2の6)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_04_02.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5281「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5281.htm
会社を2つに分ける前に、株主構成をご相談ください
グループ法人税制は、頂点に法人がいるかどうかで結論が正反対になります。会社を設立したあとで持株構成を組み替えるには、株式の移動そのものに税金がかかることがあります。だから、分ける前のご相談がいちばん効きます。代表税理士が御社の株主構成を図に起こし、資金と資産の動かし方まで含めて設計します。
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