この記事のポイント
- 借金を不動産で返す代物弁済も譲渡です。お金を受け取らなくても譲渡益が出れば原則課税されます
- 収入金額は消える借金の額+受け取った清算金が出発点。時価とずれると扱いが変わります
- 相手が会社なら、消える借入金などが時価の2分の1未満のとき時価で譲渡したとみなされます
- 配偶者や親子、自分が支配する会社など特別の関係がある者への譲渡は3,000万円控除の対象外です
まず結論:借金を不動産で返す代物弁済も、譲渡所得の対象です
借金や未払いの代金を、お金でなく土地や建物などで返すことを代物弁済といいます。
国税庁は、代物弁済も「譲渡」に含めています。
譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます。
(国税庁 タックスアンサー No.3105)
お金を受け取らなくても、譲渡益(もうけ)が出れば原則として課税の対象です。
遺留分を不動産で支払う場合は、遺留分侵害額と代物弁済の記事をご覧ください。

収入金額は「借金が消える」という利益から考えます
収入金額の出発点は、代物弁済で消える借金の額です。
国税庁の解説も、通常は消滅した債務の額が収入金額になるとしています(資産課税課情報第16号)。
おって、資産を譲り渡すことによって、その他経済的な利益を受けた場合は、その経済的な利益も収入金額に含まれます。
(国税庁 タックスアンサー No.1440)
不動産の価額が借金を超える分を、清算金として受け取ることもあります。
清算金を受け取れば、消える借金の額と清算金の合計で考えます。
ポイント
例:借金3,000万円を時価4,000万円の土地で返し、清算金1,000万円を受け取る。収入金額は4,000万円です(一定の前提を置いた目安)。
清算金なしで時価が高いときは、相手が個人か会社かで分かれます
低い対価でも時価で譲渡したとみなす規定は、法人が相手の場合だけです(所得税法59条1項2号)。
相手が個人なら、時価が債権の額を著しく超える分を、受け取った側への贈与とした裁決があります。
(国税不服審判所 昭和46年2月20日裁決)
国税庁は代物弁済では時価が収入金額とも説明し、借金の額で済むとは限りません(No.3214)。
社長が自分の会社からの借入れを不動産で返すときは、2分の1の判定が要ります
相手が会社で、消える借入金などが時価の2分の1未満なら、時価で譲渡したとみなされます。
(所得税法59条1項2号・同法施行令169条)
判定の対価には、借金がなくなる経済的な利益も含まれます(所得税基本通達59-2)。
計算例
例:借入金2,800万円を土地で返す(清算金なし・取得費1,000万円・5年超所有)
時価5,000万円と見た場合(2分の1の2,500万円以上)→ 収入金額2,800万円 (2,800万円 - 1,000万円)× 20.315% = 3,656,700円 時価が6,000万円だった場合(2分の1の3,000万円未満)→ 収入金額6,000万円 (6,000万円 - 1,000万円)× 20.315% = 10,157,500円 税額の差 6,500,800円20.315%は所得税15%、その2.1%の復興特別所得税等、住民税5%の合計です。
譲渡費用と特別控除を考えない、一定の前提を置いた目安です。
時価の見立てが1,000万円違うだけで、2分の1の判定が逆転します。
注意
2分の1以上でも、同族会社(社長や親族などが支配する会社)との取引には所得税法157条があります。所得税の負担を不当に減らすと認められれば、時価で計算されることがあります(所得税基本通達59-3)。
値段の決め方は、親族・同族会社との売買の記事もご覧ください。

借金の額が時価より多いときは、超える部分を借金の免除として分けて考えます
借金が時価を大きく超えて全部を消すと、超える部分は借金の免除とされます。
債権400万円を時価100万円の土地で消滅させた事例です。
債権400万円のうち、100万円は代物弁済として土地で回収し、残余300万円は、債権者がその債務を免除したものですから、貸倒損失等として処理すべきものです。
(国税庁 質疑応答事例「代物弁済により取得した土地の取得費」)
この事例で、受け取った側の土地の取得費は100万円とされています。
渡した側が受ける免除の利益は、所得税法44条の2に定めがあります。
資力を喪失して弁済が著しく困難な場合などは、総収入金額に算入しません。原則として、確定申告書への記載が条件です。
補足
借金を返せない状態での代物弁済は、非課税の場合があります(所得税法9条1項10号・施行令26条)。資力を喪失して弁済が著しく困難で、競売などが避けられないと認められる場合です。清算金を受け取らない代物弁済などが対象になり得ます(所得税基本通達9-12の5)。
詳しい要件は、競売・任意売却と資力喪失の記事で解説しています。
取得費と所有期間は、ふつうの売却と同じ考え方で計算します
取得費は、その不動産を買ったときの代金や購入手数料などです(No.3252)。
建物は、持っていた年数に応じた減価償却費相当額を差し引きます(No.3202)。
取得費が不明なら、譲渡価額(収入金額)の5%を取得費にできます(No.3258)。
長期か短期かは、代物弁済をした年の1月1日に所有期間が5年を超えるかで決まります。
税率は、長期が所得税15%・住民税5%、短期が所得税30%・住民税9%です。
(No.3208・No.3211)
どの年の譲渡になるかは、原則として不動産を引き渡した日で決まります(所得税基本通達36-12)。
契約の効力が生じた日を選んで申告することもできます。
代物弁済の農地で、登記や許可の日付でなく、引渡しの日で年分を判断した裁決があります。
(国税不服審判所 平成6年12月22日裁決)

自宅を渡すなら、3,000万円控除は相手との関係で使えるかが決まります
自宅を代物弁済に充てても、要件を満たせば3,000万円控除を検討できます。
ただし、配偶者など特別の関係がある者に対する譲渡は対象外です(措置法35条2項1号)。
主な範囲は次のとおりです(措置法施行令23条2項・20条の3第1項)。
- 配偶者と直系血族(親や子など)
- 生計を一にする親族、譲渡後にその家で同居する親族
- 内縁関係の人、本人の援助で生計を維持している人など
- 本人や親族などが支配する会社(株式の50%超を持つ場合など)
親や子、自分が支配する会社に自宅を渡して借金を返すと、この控除は使えません。
前年・前々年に使っていないことなど、ほかの要件もあります(No.3302)。
特例を使うには、書類を添えて確定申告をする必要があります。

次の5つは、申告漏れや税額の誤りにつながります
申告の前に、次の進め方になっていないかを確かめます。
- お金を受け取っていないからと申告しない ― 譲渡益が出れば原則課税されます
- 時価を確かめず借金の額だけで決める ― 2分の1の判定や贈与税が問題になり得ます
- 借金が時価より多いのに、全額を代物弁済とする ― 超える部分は免除とされることがあります
- 自分が支配する会社や親子に自宅を渡し、3,000万円控除を使う ― 対象外です
- 登記の日付だけで申告する年を決める ― 原則は引き渡した日です
時価と相手との関係は、代物弁済の契約を結ぶ前に確かめておきます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
資料をそろえるところまではご自身でできますが、時価と特例の判断は個別です。
- 借入れの契約書と、代物弁済の時点の残高が分かる資料をそろえる
- 代物弁済の契約書と登記事項証明書で、引き渡した日と消える借金の額を確かめる
- 渡す不動産を買ったときの売買契約書や領収書を探す
- 相手が親族や自分の会社か、渡すのが自宅かを書き出す
ここから先は、時価の根拠、清算金の決め方、免除部分、特例と非課税の要件の確認です。
税理士が入ると変わるのは、時価の根拠と条件を決める順番です
ひとつめは、鑑定評価や取引事例で時価の根拠を整え、2分の1の判定を試算することです。
ふたつめは、清算金の有無など条件ごとに、契約前に税額を比べることです。
みっつめは、取得費の資料探しと、非課税や免除部分の要件の確認です。
よっつめは、譲渡所得の内訳書と確定申告書の作成、特例を使う旨の記載です。
小松公認会計士・税理士事務所では、契約前の試算から確定申告までを担当します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. お金を受け取っていないのに、譲渡所得の税金がかかるのですか?
かかる場合があります。国税庁は、代物弁済も資産の譲渡に含まれるとしています(タックスアンサー No.3105)。借金がなくなる経済的な利益が収入金額となり、譲渡益が出れば課税されます。資力を喪失した場合などの非課税もあります。
Q2. 収入金額は、消える借金の額と不動産の時価のどちらですか?
出発点は消える借金の額で、清算金を受け取ればその額を加えます。国税庁は代物弁済では時価が収入金額とも説明し、借金の額で済むとは限りません(No.3214)。相手が会社で、借金の額などが時価の2分の1未満なら時価で譲渡したとみなされます。
Q3. 自分の会社からの借入れを自宅で返すと、3,000万円控除は使えますか?
本人や親族などが支配する会社は特別の関係がある者に含まれ、その会社への譲渡は3,000万円控除の対象外です(措置法35条2項1号、同法施行令23条2項・20条の3第1項5号)。あわせて、時価の2分の1の判定も確かめます。
Q4. 借金を返せない状態で不動産を渡した場合も、課税されますか?
資力を喪失して債務の弁済が著しく困難で、強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合は非課税になり得ます(所得税法9条1項10号・同法施行令26条)。清算金を受け取らない代物弁済などが対象になり得ます(所得税基本通達9-12の5)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法9条1項10号・36条1項・44条の2・59条1項2号・157条、所得税法施行令26条・169条、所得税基本通達9-12の5・36-12・59-2・59-3、租税特別措置法35条2項1号、同法施行令20条の3第1項・23条2項、国税庁タックスアンサーNo.1440・No.3105・No.3202・No.3208・No.3211・No.3214・No.3252・No.3258・No.3302、国税庁質疑応答事例「代物弁済により取得した土地の取得費」、国税庁資産課税課情報第16号(令和元年9月30日)、国税不服審判所の公表裁決(昭和46年2月20日・平成6年12月22日)の内容を扱っています。時価の評価方法、清算金の決め方、所得税法157条が適用される基準、代物弁済を受けた会社の法人税や他の株主への課税、受け取った個人の贈与税額の計算、渡した側が受けた免除の利益の所得区分と所得税法44条の2第2項の不適用部分、債権者が個人の場合の贈与税(相続税法8条)、資力喪失の判定の細目、相続や贈与で取得した不動産の取得費と取得時期、遺留分侵害額の支払・保証債務の履行・負担付贈与の場合、不動産業者が棚卸資産を代物弁済に充てる場合、消費税の取扱い、3,000万円控除の他の要件と添付書類、軽減税率などほかの居住用財産の特例との関係は扱っていません。書面で提出する申告書等の様式は、令和8年9月24日の国税システム更改で一部が新しくなっています。記事中の計算例は、清算金なし・取得費1,000万円・所有期間5年超・譲渡費用と特別控除なしという一定の前提を置いた目安です。令和9年分以後は、復興特別所得税が所得税の1.1%になります(復興財確法13条)。また、所得税の1%の防衛特別所得税が加わり、合計の率は同じです(防衛財確法5条の9)。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
- 国税庁 質疑応答事例「代物弁済により取得した土地の取得費」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/05/08.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係(59-2・59-3)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
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