法人税・節税

会社をたたむときの役員退職金と残余財産の分配
社長の税金と手取りの違い

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 退職金は退職所得控除と2分の1のあと分離課税です(役員5年以下は2分の1なし)
  • 残余財産の分配は資本金等の額の対応部分を超える額がみなし配当で、非上場なら総合課税です
  • 一定の前提の試算では、2つの受け取り方で手取りに約793万円の差が出ました
  • 会社側では相当な額の退職金は損金になり、残余財産の分配は損金になりません

まず結論:同じお金でも、退職金か残余財産の分配かで社長の税金が変わります

会社をたたむ(解散・清算する)とき、社長がお金を受け取る2つの方法を比べます。

  • 役員退職金 ― 役員を退くことに対して、会社が払うお金です。
  • 残余財産の分配 ― 借入金などを返して残った財産を、株主として受け取るものです。

退職金は、控除と2分の1の計算(役員5年以下を除く)のあと、ほかの所得と分けて課税されます。

残余財産の分配は、会社が受けた出資の額を超える部分が配当とみなされ、ほかの所得と合算されます。

会社側でも違いがあります。相当な額の退職金は損金(税金の計算で差し引ける費用)になり、分配はなりません。

事業年度の区切りや期限切れ欠損金は、解散・清算の法人税の記事で扱っています。

会社をたたむ前に、お金の受け取り方を決めておきます
会社をたたむ前に、お金の受け取り方を決めておきます

役員退職金は「退職所得」として、控除と2分の1のあとで課税されます

退職金から、退職所得控除額(勤続年数に応じて差し引ける額)を引きます。

その残りの2分の1が、退職所得の金額です(所得税法30条2項)。

控除額は、勤続20年以下なら40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円)です(同条3項・6項)。20年を超えると、800万円+70万円×(勤続年数-20年)です。

退職所得は、原則として他の所得と分離して所得税額を計算します。

(国税庁 タックスアンサー No.1420)

住民税も分けて計算し、率は10%です(地方税法50条の4・328条の3)。

注意

役員等の期間が5年以下だと、その期間分は2分の1の計算がありません(所得税法30条2項・5項)。清算人(清算の事務を行う人)も役員等です(No.1420)。

残余財産の分配は、資本金等の額の対応部分を超える額が「みなし配当」です

分配額のうち、資本金等の額に対応する部分を超える額は配当とみなされます(所得税法25条1項4号)。

資本金等の額は、株主から出資を受けた金額として政令で定める金額です(法人税法2条16号)。

残りの部分は、株式の譲渡収入とみなされます(租税特別措置法37条の10第3項4号)。取得費などを引いた額が譲渡所得です(タックスアンサー No.1463)。

株主が社長1人で、残余財産の全部を分配するとします。このとき、資本金等の額の全額が対応する部分です(所得税法施行令61条2項4号イ)。

非上場の会社の配当は総合課税です。少額配当以外は、申告不要を選べません(タックスアンサー No.1330)。

配当とみなされた部分は、ほかの所得と合算し、最高45%の累進税率で計算します。

みなし配当には、分配のときに20.42%の源泉徴収があり、確定申告で精算します(No.1330)。配当控除(配当があると税額から引ける額)も、確定申告で受けます(No.1250)。

計算例:一定の前提で、社長の手取りに約793万円の差が出ます

一定の前提を置いた目安です。所得税等は、所得税と復興特別所得税の合計です。

計算例

前提:株主は社長1人、資本金等の額・株の取得費は1,000万円、役員30年、残るお金4,000万円

A:退職金3,000万円+残余財産の分配1,000万円

退職所得控除額 800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円 退職所得 (3,000万円-1,500万円)×1/2=750万円 所得税等 (750万円×23%-636,000円)×102.1%=1,111,869円 住民税 750万円×10%=750,000円 分配1,000万円=資本金等の額 → みなし配当・譲渡所得とも0円

B:4,000万円の全額を残余財産の分配で受け取る

みなし配当 4,000万円-1,000万円=3,000万円 所得税 3,000万円×40%-2,796,000円=9,204,000円 配当控除 2,000万円×5%+1,000万円×10%=200万円 所得税等 (9,204,000円-200万円)×102.1%=7,355,284円 住民税 3,000万円×10%-(1,000万円×2.8%+2,000万円×1.4%)=244万円
項目A 退職金+分配B 全額を分配
所得税等約111.2万円約735.5万円
住民税75万円244万円
税金の合計約186.2万円約979.5万円
手取り約3,813.8万円約3,020.5万円

この前提では、退職金を組み合わせたAの手取りが約793万円多くなりました。

残るお金は債務と法人税を払った後の額で、清算中に所得は出ないとします。

社長にほかの所得はなく、所得控除は考えません。住民税は標準税率で、配当控除は地方税法附則5条の率です。

令和9年分以後は防衛特別所得税が加わりますが、合計の率は同じです(No.1420)。

退職金と分配の配分で、社長の手取りが変わります
退職金と分配の配分で、社長の手取りが変わります

会社側では、退職金は損金になりえますが、残余財産の分配はなりません

残余財産の分配は資本等取引に当たり、会社の損金になりません(法人税法22条3項・5項)。

資本等取引は、資本金等の額の増減や、利益・残余財産の分配などの取引です。

清算中の事業年度も、通常どおり所得に法人税がかかります(法人税法5条)。

退職金は、退職給与として相当な額を超える部分が損金になりません(法人税法34条2項)。

相当かどうかは、業務に従事した期間や退職の事情で判断します。同業で規模が近い法人の支給状況にも照らします(同法施行令70条2号)。

考え方は役員退職金の損金算入の記事にまとめています。

損金の時期は、株主総会の決議等で額が具体的に確定した日の事業年度です(法人税基本通達9-2-28)。

ただし、払った事業年度に損金経理(決算で費用として処理すること)をすれば、その年度も認められます。

ポイント

事業年度の途中で解散すると、解散の日でその事業年度が終わります(法人税法14条1項1号)。決議や支払を解散の前後どちらにするかで、損金になる事業年度が変わります。

清算中に土地の売却益などが出る事業年度に損金となる退職金は、相当な額までその所得から差し引かれます。

失敗パターン:この4つで結論が変わることがあります

次の場面では、退職金を使う受け取り方の前提が崩れます。

  • 役員の期間が5年以下 ― 2分の1の計算がありません。数え方は特定役員退職手当等の記事で扱っています。
  • 退職金が高すぎる ― 相当な額を超える部分は、会社の損金になりません。
  • 決議の時期がずれる ― 売却益の出る事業年度と、損金の事業年度が分かれることがあります。
  • 清算人として残る社長に払う ― 次の通達の条件があります。

法人が解散した場合において引き続き役員又は使用人として清算事務に従事する者に対し、その解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与

(所得税基本通達30-2(6))

この給与は、次の条件の下で払えば退職手当等とされます(同通達)。

後に払う退職金の計算で、解散前の期間を一切加味しないという条件です。

注意

清算が終わるときに、解散前の期間も含めて退職金を計算し直すと、この条件から外れます。

清算人として残るなら、退職金の条件を先に決めます
清算人として残るなら、退職金の条件を先に決めます

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

会社をたたむ前に、ご自身で確かめられるのは次の4点です。

  1. 登記簿で役員に就任した日を確かめ、役員の期間を数える(1年未満は1年に切り上げ)
  2. 株を取得したときの払込額や購入額を、書類で確かめる
  3. 借入金や未払の税金を払ったあとに、会社に残るお金の見込みを出す
  4. 退職金規程と株主総会の議事録があるかを確かめる

退職金をいくらにするか、決議をいつにするかは個別判断です。

清算人として残るか、分配をいつ何回にするかも、事実に応じて判断が分かれます。

登記簿・株の書類・議事録をそろえてから試算します
登記簿・株の書類・議事録をそろえてから試算します

税理士が入ると変わるのは、受け取り方の配分と手続の順番です

小松公認会計士・税理士事務所では、解散の決議をする前から次の作業を行います。

  • 残余財産の見込みの試算(資産と負債を時価で並べ直した表)
  • 退職金の額の検討(勤務期間・退職の事情・同業の支給状況)
  • 配分ごとの試算表(社長の税金と手取りの比較)
  • 決議の日と事業年度の確認(議事録・退職金規程の整備)
  • 退職金とみなし配当の源泉徴収税額の計算
  • 社長の確定申告(配当控除と源泉徴収税額の精算)

決議・支払・分配の順番を、税額の試算を見てから決められます。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 会社をたたむとき、退職金と残余財産の分配のどちらで受け取るのがよいですか?

一概には決まりません。退職金は退職所得控除と2分の1のあと分離課税です。残余財産の分配は、資本金等の額の対応部分を超える額がみなし配当です。一定の前提の試算では手取りに約793万円の差が出ました。ただし、役員の期間が5年以下なら、その期間分は2分の1の計算がありません。

Q2. 残余財産の分配を受けると、どんな税金がかかりますか?

資本金等の額の対応部分を超える額は、配当とみなされます(所得税法25条1項4号)。非上場の会社なら総合課税で、確定申告で配当控除を受けます。残りは株式の譲渡収入とみなされます(租税特別措置法37条の10第3項)。取得費などを引いた額に分離課税です。

Q3. 解散後も清算人として残る社長に、退職金を払えますか?

解散前の期間の退職金として払う給与は、退職手当等とされます(所得税基本通達30-2(6))。後に払う退職金でその期間を一切加味しない条件が前提です。清算人も役員等に含まれ、役員の期間が5年以下なら、その期間分は2分の1の計算がありません。

Q4. 清算中の会社が払う役員退職金も、損金になりますか?

清算中でも損金になります。ただし、相当な額を超える部分は損金になりません(法人税法34条2項)。時期は、株主総会の決議等で額が具体的に確定した日の事業年度です。払った年度に損金経理をすれば、その年度も認められます(法人税基本通達9-2-28)。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法25条1項4号・30条2項・3項・5項・6項・89条1項・92条1項・181条・182条、所得税法施行令61条2項4号イ、租税特別措置法37条の10第1項・3項4号、法人税法2条15号・16号・5条・14条1項1号・22条3項・5項・34条2項、法人税法施行令70条2号、地方税法35条・50条の4・314条の3・328条の3・附則5条、所得税基本通達30-2(6)、法人税基本通達9-2-28、タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」・No.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」・No.1250「配当所得があるとき(配当控除)」・No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」・No.1536、国税庁の退職所得の源泉徴収税額の速算表、平成22年6月30日付の法人税基本通達等の一部改正の趣旨説明の内容を扱っています。退職金の相当額の具体的な水準と功績倍率、会社法上の解散・清算の手続と清算人の選任、清算中の役員報酬、期限切れ欠損金の計算、欠損金の繰戻しによる還付、株主が複数いる場合や残余財産を数回に分けて分配する場合の資本金等の額の計算、相続や贈与で取得した株式の取得費、現物による分配と退職金の現物支給、上場株式等の扱い、同じ年に小規模企業共済の共済金など複数の退職手当等がある場合や前年以前の退職金との調整、障害者になったことによる退職の加算、所得の年の判定、所得控除の金額、国民健康保険料・介護保険料への影響、住民税の指定都市の内訳と均等割は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は勤続年数・資本金等の額・所得の状況によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

会社をたたむ前に、退職金と残余財産の分配の配分を確かめませんか

会社をたたむとき、社長が受け取るお金は、役員退職金か残余財産の分配かで税金が変わります。一定の前提の試算では、手取りに約793万円の差が出ました。ただし、役員の期間が5年以下の場合や、退職金が高すぎる場合は、結論が変わることがあります。清算人として残る場合も、退職金の条件を確かめる必要があります。代表税理士が、残余財産の見込み、退職金の額、配分ごとの手取りを試算します。決議の日と事業年度の確認から、源泉徴収と確定申告まで通して対応します。解散の決議をする前の段階でご相談ください。

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公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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