この記事のポイント
- 役員勤続5年以下の退職金は2分の1が使えません
- 役員の期間は1年未満を1年に切り上げて数えます
- 1,000万円なら4年と6年で退職所得が倍以上違います
- 使用人期間がある人は退職金を2つに分けて計算します
まず結論:役員の期間が5年以下だと、退職所得の「2分の1」が使えません
退職金は、ふつうは税金がかなり軽くなる所得です。
退職金から控除額を引き、さらに2分の1にした額に税金がかかるからです。
ところが、役員として働いた期間が5年以下の人は例外です。
役員等勤続年数が5年以下なら、2分の1にする計算がなくなります。
設立間もない会社の社長や、途中から役員になった人が当たりやすい論点です。

「特定役員退職手当等」は、役員期間5年以下の人の退職金です
第二項に規定する特定役員退職手当等とは、退職手当等のうち、役員等(次に掲げる者をいう。)としての政令で定める勤続年数(以下この項及び第七項において「役員等勤続年数」という。)が五年以下である者が、退職手当等の支払をする者から当該役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものをいう。
(所得税法30条5項)
役員等には、取締役・監査役・会計参与・清算人などが入ります(タックスアンサー No.1420)。
法人の経営に従事している一定の者も含まれます(みなし役員の記事)。
通常の退職所得は(収入金額-退職所得控除額)×1/2で計算します。
特定役員退職手当等は、収入金額-退職所得控除額がそのまま退職所得です(同法30条2項)。
退職所得控除額(勤続年数に応じて差し引ける額)は、20年以下なら40万円×勤続年数です。80万円に満たないときは80万円です(同条3項・6項)。
役員の期間は、1年未満の端数を1年に切り上げて数えます
端数の扱いは、ふつうの勤続年数と同じです。
前項各号の規定により計算した期間に一年未満の端数を生じたときは、これを一年として同項の勤続年数を計算する。
(所得税法施行令69条2項。役員等勤続年数にも69条の2第4項で準用)
役員等勤続年数は、役員等として勤務した期間で数えます(同令69条の2第2項)。
国税庁は、境目の例を次のように示しています(タックスアンサー No.2737)。
- 役員の期間が4年11か月 → 5年 → 特定役員退職手当等に当たる
- 役員の期間が5年1か月 → 6年 → 特定役員退職手当等に当たらない
ポイント
切り上げは、控除額を増やす方向にも働きます。一方で5年を少しでも超えれば6年になり、2分の1が使えるようになります。

退職金1,000万円なら、勤続4年と6年で退職所得は倍以上違います
計算例
例1:設立時から社長で、役員の期間が4年の場合
退職所得控除額 40万円 × 4年 = 160万円 退職所得 1,000万円 - 160万円 = 840万円(2分の1なし) 源泉徴収税額 (840万円 × 23% - 636,000円)× 102.1% = 1,323,216円例2:同じ社長で、役員の期間が6年の場合
退職所得控除額 40万円 × 6年 = 240万円 退職所得 (1,000万円 - 240万円)× 1/2 = 380万円 源泉徴収税額 (380万円 × 20% - 427,500円)× 102.1% = 339,482円税額は国税庁の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」で計算しました。5年ちょうどの場合も並べます。
| 役員等勤続年数 | 退職所得 | 源泉徴収税額 |
|---|---|---|
| 4年 | 840万円 | 1,323,216円 |
| 5年 | 800万円 | 1,229,284円 |
| 6年 | 380万円 | 339,482円 |
5年と6年の間で、源泉徴収税額はおよそ89万円違います。
金額は一定の前提を置いた目安です。申告書を出し、同じ年にほかの退職金がない前提です。住民税は含めていません。
使用人から役員になった人は、退職金を2つに分けて計算します
使用人期間と5年以下の役員期間がある人は、退職金が2種類から成るものとされます。
調整後勤続期間のうちに五年以下の役員等勤続期間と当該役員等勤続期間以外の期間がある退職手当等の支払を受ける場合には、当該退職手当等は、次に掲げる退職手当等から成るものとする。
(所得税法施行令71条の2第13項)
使用人期間の部分は、次の額とされています(同項2号)。
役員等勤続期間以外の期間を基礎として、他の使用人に対する退職給与の支給の水準等を勘案して相当と認められる金額に相当する一般退職手当等又は短期退職手当等
残りが特定役員退職手当等です(同項1号)。
使用人部分は好きに決められず、他の使用人の支給水準が物差しになります。
計算例
例3:使用人8年のあと役員3年、退職金1,000万円(使用人部分400万円・役員部分600万円)
退職所得控除額 40万円 × 11年 = 440万円 特定役員退職所得控除額 40万円 × 3年 = 120万円 役員部分 600万円 - 120万円 = 480万円 使用人部分 {400万円 -(440万円 - 120万円)}× 1/2 = 40万円 退職所得 480万円 + 40万円 = 520万円(源泉徴収税額 625,362円)使用人期間と役員期間に重なる期間がない前提です。重なる期間があると、控除額の計算が変わります(No.2737)。
計算の形は、施行令71条の2第3項とタックスアンサー No.2737の例に沿っています。
使用人部分400万円は、一定の前提を置いた目安です。
なお、役員等でない人も、勤続5年以下なら「短期退職手当等」になります。控除後の額のうち300万円を超える部分は2分の1になりません(No.1420)。

会社は「退職所得の受給に関する申告書」を受け取ってから源泉徴収します
退職する人は、支払を受ける時までに申告書を会社に出します(所得税法203条1項)。
申告書には、退職所得控除額の計算の基礎となる勤続年数などを書きます(同項3号)。
会社は税務署長から求められない限り、税務署に出さずに保管します(国税庁 A2-29)。
特定役員退職手当等なら、会社は2分の1をせずに税額を出します(同法201条1項1号ハ)。
源泉徴収した税額は、原則として翌月10日までに納めます(No.2732)。
申告書がないと、支払額の20.42%が源泉徴収されます。1,000万円なら2,042,000円です。
その場合の精算は、退職金の確定申告の記事で扱っています。
よくある失敗は「役員になった日」と「2分の1」の思い込みです
区分や年数を誤ると、源泉徴収税額がそのまま違ってきます。
- 全体の勤続年数だけで判定する ― 勤続10年でも、役員の期間が3年なら、役員期間に対応する部分は特定役員退職手当等です。
- 端数を切り捨てて数える ― 4年11か月を4年とすると、控除額を40万円少なく計算します。
- 使用人部分を大きくしすぎる ― 他の使用人の支給水準と比べて説明できる額が必要です。
- 申告書の勤続年数を確かめない ― 就任日の記載がずれると、区分そのものが変わります。
注意
役員の就任日は、登記簿と株主総会議事録で確かめます。「設立日=就任日」とは限りません。
退職時期を考えるときは、税金だけで決めないことが大切です
5年を超えてから退職すれば、所得税は軽くなります。
ただし、退職時期は経営の事情と会社側の税務もあわせて決めるものです。
会社側では、役員退職金が損金(税金の計算で差し引ける費用)になるかが別に問われます。支給額の適正さや支給の時期、分掌変更の扱いです。この点は役員退職金の記事にまとめています。
ご自身でできるのは、次の3点の確認です。
- 登記簿で、役員に就任した日と予定の退職日を確かめる
- 役員の期間を数え、1年未満を切り上げて5年以下かどうかを見る
- 使用人の期間があれば、年数を別に書き出しておく
使用人部分の額と、退職日をずらす判断は個別判断です。

税理士が入ると変わるのは、区分の判定と退職金の内訳の根拠です
小松公認会計士・税理士事務所では、役員退職金を払う前に次の作業を行います。
ひとつめは、就任日と退職日の確認です。登記簿と議事録から、役員等勤続年数を数えます。
ふたつめは、区分の判定です。特定役員・短期・一般のどれに当たるかを確かめます。
みっつめは、使用人部分の検討です。他の使用人の支給水準と並べて説明できる額を探ります。
よっつめは、退職日の候補ごとの試算です。受け取る人の手取りと会社側の損金を並べます。
いつつめは、申告書の記載の確認と源泉徴収税額の計算です。会社側の議事録と退職金規程もそろえます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
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よくある質問(FAQ)
Q1. 設立4年目の会社の社長が退職金を受け取ると、税金はどうなりますか?
役員等勤続年数が5年以下なので特定役員退職手当等に当たります。退職金から退職所得控除額を引いた額が、2分の1にならずにそのまま退職所得になります(所得税法30条2項・5項)。1,000万円・4年なら退職所得は840万円です。
Q2. 役員の期間が5年と2か月なら、特定役員退職手当等になりますか?
なりません。1年未満の端数は1年に切り上げるため、役員等勤続年数は6年です(所得税法施行令69条2項・69条の2第4項)。国税庁も5年1か月は6年となり該当しないという例を示しています(タックスアンサー No.2737)。
Q3. 従業員から役員になった人の退職金は、全部が2分の1なしになりますか?
全部ではありません。役員期間が5年以下なら、退職金は使用人部分と役員部分から成るとみなされます(施行令71条の2第13項)。使用人部分は、他の使用人の支給水準等を勘案して相当な額とされます。その部分が一般退職手当等なら、2分の1の計算が残ります。
Q4. 「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなりますか?
支払額の20.42%が源泉徴収されます(タックスアンサー No.2732)。1,000万円なら2,042,000円です。本人が確定申告をして精算します。申告書は支払を受ける時までに会社に出します(所得税法203条1項)。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法30条2項〜6項・201条1項・203条1項、所得税法施行令69条2項・69条の2・71条の2第3項・13項、タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」・No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」・No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」、国税庁「退職所得の源泉徴収税額の速算表」、国税庁の手続案内A2-29の内容を扱っています。住民税の計算、役員等に含まれる「法人の経営に従事している一定の者」の要件、使用人兼務役員の期間の扱い、同じ年に短期退職手当等と特定役員退職手当等がある場合などの詳しい計算、前年以前に受け取った退職金との重複期間の調整、障害者になったことによる退職の加算、使用人部分の具体的な算定方法、役員退職給与の損金算入と過大額の判定、分掌変更の要件、死亡退職金と相続税の論点は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は勤続期間と退職金の内訳によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(30条・201条・203条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(69条・69条の2・71条の2)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2737.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
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役員としての期間が5年以下の人の退職金は、退職所得の2分の1が使えず、同じ1,000万円でも源泉徴収税額が大きく変わります。使用人から役員になった人は、他の使用人の支給水準をもとに退職金を2つに分けて計算します。代表税理士が、就任日と役員等勤続年数の確認、区分の判定、使用人部分の検討、退職日の候補ごとの試算、申告書と源泉徴収の確認、会社側の議事録と規程の確認まで通して対応します。退職日と支給額を決める前の段階でご相談ください。
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