この記事のポイント
- 譲渡所得は引渡しの日に全額が収入になります
- 回収できなくなった部分はなかったものとみなされます
- 手続は更正の請求の特例で、期限は2か月です
- 戻る範囲はもとの譲渡益までで、上限があります
まず結論:代金を受け取っていなくても、引渡しの年に課税されます
不動産を売った年の税金は、入金の有無では決まりません。
収入として数える時期は、原則として資産を引き渡した日です。
山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。
(所得税基本通達36-12)
手付金しか受け取っていなくても、引き渡せば売買代金の全額が収入金額です。
引渡しの日と契約の日の選び方は、引渡日と契約日の記事で扱います。
回収できなくなったときの救済は、所得税法64条1項です
あとで代金が回収できなくなったときは、救済の規定があります。
所得税法64条1項は、その部分を所得の計算から外します。
当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
(所得税法64条1項)
回収できなくなった分は、はじめから所得がなかったものとして扱われます。

なかったものとみなす金額には、決まった順序があります
金額は、3つを比べていちばん低い額になります。
所得税基本通達64-2の2が、次の3つを挙げています。
- 回収できなくなった金額そのもの
- その直前に確定している、その年分の所得の金額の合計額
- その回収不能額にかかる、もとの各種所得の金額
根拠は所得税法施行令180条2項です。
計算例
例1:令和7年に土地建物を5,000万円で売り、令和8年に残代金2,000万円が回収不能になったとき
当初の課税長期譲渡所得 5,000万円 -(取得費2,000万円 + 譲渡費用200万円)= 2,800万円 当初の税額 所得税 420万円 + 復興特別所得税 88,200円 + 住民税 140万円 ① 回収できなくなった金額 2,000万円 ② 直前に確定している所得の合計 給与400万円 + 譲渡2,800万円 = 3,200万円 ③ 回収不能額にかかる譲渡所得 2,800万円 なかったものとみなす金額 いちばん低い①の 2,000万円 更正後の課税長期譲渡所得 2,800万円 - 2,000万円 = 800万円 減る所得税と復興特別所得税 4,288,200円 - 1,225,200円 = 3,063,000円 減る住民税 140万円 - 40万円 = 100万円回収できなかった額が、そのまま戻るとは限りません
外してもらえるのは、もとの譲渡益までです。
取得費と譲渡費用は、回収不能でも変わらないからです。
計算例
例2:同じ売却で、受け取れたのが2,000万円だけだったとき
① 回収できなくなった金額 3,000万円 ② 直前に確定している所得の合計 3,200万円 ③ 回収不能額にかかる譲渡所得 2,800万円 なかったものとみなす金額 いちばん低い③の 2,800万円 更正後の課税長期譲渡所得 2,800万円 - 2,800万円 = 0円 救済されない部分 3,000万円 - 2,800万円 = 200万円回収できなかった200万円は、ほかの所得からは差し引けません。
注意
住民税の税率5パーセントは、上の例では所得税と同じ所得金額から計算しています。減額の時期と手続は所得税と同じではありません。お住まいの市区町村にご確認ください。

手続は更正の請求の特例で、期限は2か月です
使う手続は、通常の更正の請求ではありません。
所得税法152条の、更正の請求の特例です。
当該事実が生じた日の翌日から二月以内に限り、税務署長に対し、
(所得税法152条)
| 手続 | 根拠 | 期限 |
|---|---|---|
| 通常の更正の請求 | 国税通則法23条1項 | 法定申告期限から5年 |
| 更正の請求の特例 | 所得税法152条 | 事実が生じた日の翌日から2か月 |
5年あると思って動くと、2か月の期限を過ぎてしまいます。
更正請求書には、その事実が生じた日も書きます(同条)。
通常の5年のほうは、還付申告と5年の記事をご覧ください。

回収不能かどうかは、気持ちではなく事実で決まります
判定は、本人の見込みではなく客観的な事実で行います。
所得税基本通達64-1は、貸倒れの判定に準じるとしています。
貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、
(所得税基本通達51-12)
担保があるときは、担保を処分したあとでなければ回収不能とはいえません。
更生計画の認可や特別清算の協定の認可などは、51-11に並んでいます。
つまずくのは、だいたいこの4つです
実際に多いのは、次の形です。
- 調査が終わった日を起算日にする ― 期限を計り違えます
- 売主が代金を貸付金に振り替えていた ― 譲渡代金の回収不能ではなくなります
- 担保を処分せずに請求する ― 回収不能の判定が先に進みません
- 回収不能を示す資料がそろわない ― 破産や失踪などの事実の裏づけが必要です
ひとつめは、公表裁決事例にそのまま出てきます。
客観的にみて当該譲渡に係る債権の回収の見込みがないことが確実となった日をもって判定すべきであるから、請求人の行った債務者の調査及び確認の作業が終了した日をもって、本件土地の譲渡代金が回収不能となった事実が生じた日に当たるとすることは相当でなく、
(国税不服審判所 平成11年3月5日裁決)
この事案では2か月を過ぎたと判断され、更正の請求が認められませんでした。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で用意できるのは、次の4点です。
- 売買契約書と領収証を並べ、受け取った金額を合計する
- 提出済みの申告書で、譲渡所得の金額と税額を確認する
- 買主の破産手続開始決定や通知など、日付の入った書類を集める
- 抵当権など担保があるかどうかを、登記事項証明書で確かめる
ここから先は個別判断です。
とくに「事実が生じた日」をいつとみるかで、結論が変わります。
納付が終わっていない場合は、税金が払えないときの記事もご覧ください。

税理士が入ると変わるのは、日付の確定と金額の計算です
ひとつめは、回収不能の事実が生じた日を決めることです。契約書と通知の日付を突き合わせます。
ふたつめは、3つの金額の比較です。低いほうを取り、みなす金額を出します。
みっつめは、更正請求書の作成です。事実が生じた日を記載し、根拠資料を添えます。
よっつめは、64条1項と2項のどちらで組み立てるかの整理です。
いつつめは、住民税の取扱いの確認です。市区町村への連絡も含めて段取りします。
この制度は、期限内に請求してはじめて使えます。
小松公認会計士・税理士事務所では、日付の確定から更正請求書の提出まで担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 代金を受け取っていないのに、売った年に税金を払うのですか?
はい。譲渡所得の収入すべき時期は、原則として資産を引き渡した日です(所得税基本通達36-12)。入金の有無とは切り離して、売買代金の全額がその年の収入金額になります。あとで回収できなくなったときに、所得税法64条1項で所得がなかったものとみなす扱いを受けます。
Q2. 更正の請求の期限は、いつから数えますか?
回収できなくなった事実が生じた日の翌日から2か月以内です(所得税法152条)。国税通則法23条1項の5年とは別の期限です。公表裁決事例では、回収の見込みがないことが確実となった日で判定するとされ、調査が終わった日を起算日とする主張は認められませんでした。
Q3. 回収できなかった金額は、全部が戻りますか?
そうとは限りません。所得税基本通達64-2の2は、回収不能額、直前に確定している所得の合計額、回収不能額にかかる各種所得の金額の3つのうちいちばん低い金額としています。譲渡益を超える部分は、ほかの所得からも差し引けません。
Q4. 買主に抵当権を設定してもらっています。すぐに請求できますか?
担保があるうちは回収不能とは判定しにくい取扱いです。所得税基本通達51-12は、担保物があるときはその担保物を処分した後でなければ貸倒れとすることはできないとしています。同64-1は、回収不能の判定をこの取扱いに準じて行うとしています。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法36条・64条1項・152条、所得税法施行令180条、所得税基本通達36-12・51-11・51-12・64-1・64-2の2、国税通則法23条、租税特別措置法31条、国税不服審判所の公表裁決事例(平成6年11月25日裁決、平成11年3月5日裁決、平成12年7月14日裁決、平成15年4月9日裁決)の内容を扱っています。保証債務を履行するための資産の譲渡(所得税法64条2項)とその適用要件・添付書類、事業所得に係る貸倒れ(所得税法51条2項)、事業を廃止した場合の必要経費の特例(所得税法63条)、所得税法施行令274条が定める無効な行為・取消しを理由とする更正の請求、居住用財産の3,000万円特別控除などの特例を適用している場合の回収不能額の取扱い、買換え等の規定との適用順序(所得税基本通達64-3の2・64-3の3)、2以上の資産を譲渡した場合の配分(同64-3の4)、株式等・先物取引に係る所得での適用、個人住民税の減額の手続と時期、延滞税・加算税の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は譲渡価額・取得費・譲渡費用・その年分のほかの所得によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(36条・64条・152条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(180条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- e-Gov法令検索「国税通則法」(23条)https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
- 国税庁 所得税基本通達 法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/13/01.htm
- 国税庁 所得税基本通達〔収入金額の収入すべき時期〕(36-12)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/01.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨「譲渡代金の回収不能」https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0503000000.html
- 国税庁 所得税基本通達〔貸倒損失〕(51-11・51-12)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/09/02.htm
売った不動産の代金が回収できないとき、2か月の期限を先に確かめませんか
不動産の譲渡所得は、引き渡した日に売買代金の全額が収入金額になります。代金が回収できなくなったときは所得税法64条1項で所得がなかったものとみなされますが、手続は所得税法152条の更正の請求の特例で、期限は事実が生じた日の翌日から2か月です。通常の更正の請求の5年とは違います。代表税理士が、回収不能の事実が生じた日の確定、なかったものとみなす金額の計算、更正請求書の作成と根拠資料の整理、住民税の取扱いの確認まで、通して対応します。買主からの入金が止まった時点でご相談ください。
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