この記事のポイント
- 企業年金がなく、厚生年金の被保険者300人以下の会社が使える制度です
- 会社の掛金は実際に納付した事業年度の損金で、従業員の給与所得になりません
- 対象は給与天引きで掛金を納めるiDeCo加入者で、絞るなら職種か勤続期間です
- 上限は従業員と会社の掛金の合計で月2万3千円、令和8年12月から6万2千円です
まず結論:iDeCo+で会社が出す掛金は損金になり、従業員の給与所得にもなりません
iDeCo+(イデコプラス)は、会社が従業員のiDeCoに掛金を上乗せする制度です。
正式な名前は「中小事業主掛金納付制度」です。iDeCoは個人型確定拠出年金のことです。
会社が出す掛金(中小事業主掛金)は、会社の損金になります(法人税法施行令135条4号)。
損金とは、法人税の計算で差し引ける費用のことです。
従業員の側でも、給与所得の収入金額に含まれません(所得税法施行令64条1項5号)。
ただし、使えるのは要件を満たす会社だけで、未払いのままでは損金にできません。

使える会社は「企業年金がなく、厚生年金の被保険者が300人以下」です
iDeCo+を実施できるのは、法律が「中小事業主」と呼ぶ会社です。
企業型年金及び確定給付企業年金を実施していない厚生年金適用事業所の事業主であって、その使用する第一号厚生年金被保険者の数が三百人以下のもの
(確定拠出年金法55条2項4号の2)
第一号厚生年金被保険者は、民間企業で厚生年金に入っている従業員です。
厚生労働省の通知は、厚生年金基金を実施していないことも要件にしています。
企業型DC(企業型確定拠出年金)などの企業年金がある会社は使えません。
補足
使えない会社には、企業型確定拠出年金が案内されています(厚生労働省等の導入ガイド)。会社の掛金の扱いは企業型確定拠出年金の記事をご覧ください。同じガイドは中小企業退職金共済も挙げています(中退共の記事)。
対象は「給与天引きで掛金を納めるiDeCo加入者」です
会社が上乗せできるのは、iDeCoに入り、自分でも掛金を出している従業員です。
法律は、会社を通して掛金を納める場合に限っています(確定拠出年金法68条の2第1項)。
個人の口座から払う人は、払込方法を変えるまで対象外です(確定拠出年金Q&A No.232-5)。
ポイント
従業員の掛金を0円にはできません。会社の掛金が従業員の掛金を上回るのは差し支えありません。iDeCoに入っていない人に、会社の掛金だけを出すこともできません(iDeCo公式サイト)。
会社の掛金は、対象者全員を同じ額にするのが基本です。
対象を絞るときは、「一定の職種」か「一定の勤続期間」で決めます。
これら以外のものを「一定の資格」として定めることは、基本的には特定の者に不当に差別的な取扱いとなるものであること。
(厚生労働省 法令解釈通知「確定拠出年金制度について」第2の2)
資格は特定の人に不当に差別的であってはなりません(確定拠出年金法68条の2第3項)。
年齢だけで対象から外すこともできません(Q&A No.232-7)。
掛金の上限は合計で月2万3千円、令和8年12月から6万2千円です
会社と従業員の掛金は、合わせて上限の内側に収めます(確定拠出年金法69条)。
企業年金のない会社員の上限は、令和8年11月までは月2万3千円です(同法施行令36条2号)。
合計は月5,000円以上で、それぞれ1,000円単位で決めます(厚生労働省)。
この上限は、令和8年12月1日に施行される改正政令で月6万2千円に上がります。
厚生労働省の資料も、iDeCo+を含めて月6.2万円と示しています。
導入時も掛金を変えるときも、労働組合か過半数代表者の同意が要ります(同施行令35条の2第2項)。

会社の損金になるのは「実際に納付した事業年度」です
会社の掛金が損金になる根拠は、次の規定です。
確定拠出年金法第五十六条第三項(承認の基準等)に規定する個人型年金規約に基づいて同法第六十八条の二第一項(中小事業主掛金)の個人型年金加入者のために支出した同項の掛金
(法人税法施行令135条4号)
同条は、支出した事業年度の損金に算入すると定めています。
法人税基本通達9-3-1は、現実に納付していない掛金を未払金で損金にできないとしています。
iDeCo公式サイトの例では、4月から拠出を始めると初回の口座振替は5月です。
振替日は各月26日で、金融機関の休業日なら翌営業日です。
決算日までに振り替えられていない掛金は、当期の損金になりません。
計算例
例:3月決算の会社が、4月分から8人に月5,000円ずつ上乗せした場合
1人の合計 従業員5,000円+会社5,000円=10,000円(上限の内側) 会社の掛金 5,000円×8人=月40,000円(12か月分で480,000円) 当期の損金 4月分〜2月分の11回×40,000円=440,000円 翌期の損金 4月に振り替えられる3月分の40,000円各月分が翌月に振り替えられる前提を置いた目安です。
従業員が所得控除できるのは、自分で出した掛金です
従業員の掛金(加入者掛金)は、小規模企業共済等掛金控除の対象です(所得税法75条2項2号)。
控除できるのは、その年に支払った掛金の全額です(タックスアンサーNo.1135)。
給与天引きなら、控除の処理は会社が行い、本人の手続きは要りません(iDeCo公式サイト)。
| 掛金 | 会社の扱い | 従業員の扱い |
|---|---|---|
| 中小事業主掛金(会社が出す) | 損金(法人税法施行令135条4号) | 給与所得の収入金額に含めない(所得税法施行令64条1項5号) |
| 加入者掛金(給与天引き) | 給与から天引きし、会社がまとめて納付 | 小規模企業共済等掛金控除(所得税法75条) |
会社の掛金は、従業員の小規模企業共済等掛金控除の対象に入りません。
個人で入るiDeCoの控除は、小規模企業共済とiDeCoの記事で扱っています。
よくある失敗は「対象者」「払込方法」「計上時期」「制度の取り違え」です
導入の前後でつまずきやすい点を、根拠とあわせて挙げます。
- 社長や一部の人だけを対象にする ― 絞れるのは職種か勤続期間です。それ以外は、基本的に不当な差別的取扱いとされます。
- 個人払込のままの人に上乗せする ― 事業主払込に変えるまで出せません。
- 決算月の掛金を未払金で損金にする ― 現実に納付するまで損金にできません。
- 天引きした従業員の掛金と混ぜて記帳する ― 損金になるのは中小事業主掛金です。
- 企業型DCと混同する ― 企業型DCは規約に厚生労働大臣の承認が要ります(確定拠出年金法3条1項)。iDeCo+は、会社が金融機関と個別に契約する制度ではありません(iDeCo公式サイト)。
注意
導入後も毎年1回、現況届を国民年金基金連合会に出します。対象者の増減や掛金額の変更にも届出が要ります(導入ガイド)。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
導入を考えるとき、ご自身で確かめられるのは次の5点です。
- 企業型DC・確定給付企業年金・厚生年金基金を実施していないか
- 全事業所の厚生年金の被保険者が、合計で300人以下か
- iDeCoに入っている従業員と、その掛金の払込方法
- 管理・監督の地位にない過半数代表者を、投票や挙手などで選べるか
- 届出書類を、拠出開始月の前月20日までに出せるか
職種で区分する合理性や、役員を対象に含められるかは、個別の判断になります。
決算期と初回の振替月のずれや、掛金額の水準も会社ごとに検討します。
就業規則の整備は、社会保険労務士への相談が案内されています(iDeCo公式サイト)。

税理士が入ると変わるのは、損金の時期と記帳・年末調整の整合です
小松公認会計士・税理士事務所では、iDeCo+の導入前から次の作業を行います。
ひとつめは、要件の確認です。企業年金の有無と被保険者数を資料で確かめます。
ふたつめは、掛金額の試算です。会社の年間負担と、事業年度ごとの損金の額を並べます。
みっつめは、記帳の設計です。会社の掛金と、天引きした従業員の掛金を分けて記帳します。
よっつめは、決算での確認です。決算日までに振り替えられた分だけを損金にします。
いつつめは、年末調整です。従業員の掛金を小規模企業共済等掛金控除に反映します。
むっつめは、他の制度との比較です。企業型DCや中退共と、会社の負担を並べます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 社長だけをiDeCo+の対象にできますか?
社長だけに絞る資格は、基本的に認められません。絞れるのは「一定の職種」か「一定の勤続期間」です。厚生労働省の通知は、それ以外の資格を基本的に特定の者への不当な差別的取扱いとしています。役員を対象に含められるかは、厚生年金の加入状況などとあわせて個別に確かめます。
Q2. 会社が出した掛金は、いつの事業年度の損金になりますか?
支出した事業年度の損金です(法人税法施行令135条4号)。現実に納付していない掛金は、未払金として損金にできません(法人税基本通達9-3-1)。決算月の分が翌期に口座振替される場合は、翌期の損金になります。
Q3. iDeCoに入っていない従業員に、会社の掛金だけを出せますか?
出せません。iDeCo+は従業員の掛金に上乗せする制度で、従業員の掛金を0円にはできません。個人の口座から掛金を払う人も、会社経由の払込みに変えるまで対象外です。根拠は確定拠出年金法68条の2第1項とQ&A No.232-5です。
Q4. 令和8年12月から、掛金の上限はどう変わりますか?
企業年金のない会社員の上限は、会社と従業員の掛金の合計で令和8年11月まで月2万3千円です。令和8年12月1日施行の改正で月6万2千円に上がります(確定拠出年金法施行令36条2号)。掛金を変えるには、労使の同意と届出が要ります。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。確定拠出年金法3条1項・55条2項4号の2・68条の2・69条、確定拠出年金法施行令35条の2・36条2号(令和8年12月1日施行の令和7年政令第442号による改正後を含む)、法人税法施行令135条4号、法人税基本通達9-3-1、所得税法75条、所得税法施行令64条1項5号、タックスアンサーNo.1135「小規模企業共済等掛金控除」、厚生労働省の法令解釈通知「確定拠出年金制度について」第2と確定拠出年金Q&A(令和8年10月1日施行)No.232-5・232-7、厚生労働省・国民年金基金連合会の「iDeCo+導入ガイド」(令和8年4月現在)の内容を扱っています。役員を対象に含められるかの判断基準、令和8年12月以後の最低掛金額・掛金の単位・手続きの細目、iDeCoの加入可能年齢の引上げとiDeCo+の関係、口座振替ができなかった月の扱い、社会保険料や住民税への影響、受け取るときの課税、運用商品と手数料、就業規則の規定の内容、個人事業主が実施する場合の必要経費の扱いは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の口座振替の月は国民年金基金連合会の通知でご確認ください。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法」(55条2項4号の2・68条の2・69条)https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法施行令」(35条の2・36条)https://laws.e-gov.go.jp/law/413CO0000000248
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(135条4号)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第3節「保険料等」(9-3-1 退職金共済掛金等の損金算入の時期)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 厚生労働省「iDeCo+のご案内(事業主向け)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000194195.html
iDeCo+を始める前に、損金の時期と対象者の決め方を確かめませんか
iDeCo+で会社が出す掛金は、会社の損金になります。ただし、使えるのは企業年金がなく、厚生年金の被保険者が300人以下の会社です。対象を絞れるのは職種か勤続期間で、現実に納付していない掛金は未払金で損金にできません。代表税理士が、要件の確認と、事業年度ごとの損金の試算から対応します。記帳の設計、年末調整への反映、企業型DCや中退共との比較まで通して行います。労使協議を始める前の段階でご相談ください。
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