法人税・節税

インボイスの少額特例とは?
1万円未満の判定単位と対象者・帳簿の書き方

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 基準期間の課税売上高1億円以下か、特定期間の課税売上高5千万円以下の期が対象です
  • 対象事業者は令和11年9月30日まで、税込1万円未満の仕入れを帳簿の保存だけで控除できます
  • 1万円未満かは1商品ごとでなく1回の取引の税込金額で判定します
  • 売上げの税込1万円未満の値引き・返品は、返還インボイスの交付が不要です

まず結論:税込1万円未満の仕入れは、一定の事業者なら帳簿だけで控除できます

一定規模以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れなら、帳簿の保存だけで控除できます。

これを「少額特例」といいます。

仕入税額控除は、仕入れで払った消費税を、納める消費税から引く仕組みです。

控除には、帳簿とインボイスなどの請求書等の保存が原則として必要です(消費税法30条7項)。

対象は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う課税仕入れです。

令和8年度の税制改正でも、この期限は変わっていません(国税庁「令和8年度税制改正特集」)。

税込1万円未満の仕入れは、帳簿だけで控除できる場合があります
税込1万円未満の仕入れは、帳簿だけで控除できる場合があります

対象かどうかは、基準期間と特定期間の課税売上高で決まります

対象は、次のどちらかに当てはまる課税期間(消費税を計算する期間)の仕入れです。

その基準期間における課税売上高が一億円以下である課税期間又はその特定期間における課税売上高(消費税法第九条の二第一項に規定する特定期間における課税売上高をいう。)が五千万円以下である課税期間に行うものに限る。

(所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則53条の2)

法人の基準期間は、前々事業年度です(消費税法2条1項14号)。

特定期間は、原則として前事業年度の最初の6か月です(同法9条の2第4項)。

個人事業者は、基準期間が前々年、特定期間が前年の1月から6月です。

2つの基準は、どちらか一方を満たせば足ります。特定期間は、給与の支払額では判定できません(国税庁インボイスQ&A問111)。

設立したばかりで基準期間がない期は、特定期間が5千万円を超えても対象です(同問)。

ポイント

3月決算の法人で、令和8年4月1日に始まる期を例にします。基準期間は、令和6年4月1日から令和7年3月31日までです。特定期間は、令和7年4月1日から9月30日までです(各事業年度が1年の場合)。

簡易課税や2割特例・3割特例では、請求書等の保存はもともと求められません(国税庁)。

少額特例が効くのは、仕入れの実額で計算する本則課税の場合です。

本則と簡易の選び方は、2割特例が終わったあとの記事にまとめています。

本則課税での控除額の計算は、個別対応方式と一括比例配分方式の記事で扱っています。

1万円未満かどうかは、1回の取引の税込金額で判定します

判定は、1回の取引ごとに、消費税を含めた支払額で行います。

1万円未満の線は、平成30年政令第135号の附則24条の2第1項が定めています。

一回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)が1万円未満かどうかで判定するため、課税仕入れに係る一商品ごとの金額により判定するものではありません。

(国税庁インボイスQ&A問112)

月まとめの請求書のように、複数の取引をまとめた単位では判定しません(同問)。

取引の例判定に使う金額結果
5,000円と7,000円の商品を同時に購入12,000円対象外
同じ2つを別の日に買い、それぞれ精算5,000円・7,000円それぞれ対象
月額100,000円の清掃業務(稼働12日)100,000円対象外

月額の契約を稼働日数で割って1万円未満にしても、通常は月単位の金額で判定します。

計算例

例:月額200,000円の外注(稼働21日)

1日あたり 200,000円 ÷ 21日 = 約9,524円 判定に使う金額 月単位の200,000円 → 少額特例の対象外 表の清掃業務も同じ 100,000円 ÷ 12日 = 約8,333円 → 対象外

例は財務省のよくある質問(問12)と国税庁Q&A問112の例で、一定の前提を置いた目安です。

判定は商品ごとではなく、1回の取引ごとに行います
判定は商品ごとではなく、1回の取引ごとに行います

帳簿には4つの事項を書きます。少額特例を使う旨は要りません

帳簿には、次の4つを書きます(消費税法30条8項1号)。

  • 課税仕入れの相手方の氏名または名称
  • 課税仕入れを行った年月日
  • 資産や役務の内容(軽減税率の対象なら、その旨も)
  • 課税仕入れに係る支払対価の額(消費税を含む支払額)

帳簿に「経過措置(少額特例)の適用がある旨」を書く必要はありません(インボイスQ&A問111)。

取引先がインボイス発行事業者かどうかは問わず、免税事業者からの仕入れも対象です(国税庁)。

少額特例を受ける仕入れには、免税事業者等からの仕入れの経過措置は適用されません(附則53条の2)。

カードの利用明細だけでは通常控除できませんが、少額特例の対象なら明細で処理できます(国税庁)。

金融機関に払う1万円未満の振込手数料も、少額特例なら帳簿の保存だけで足ります(Q&A問103-2)。

帳簿には、相手方・年月日・内容・金額の4つを書きます
帳簿には、相手方・年月日・内容・金額の4つを書きます

売上げの値引き・返品は、税込1万円未満なら返還インボイスが要りません

売る側の値引きや返品は、税込1万円未満なら返還インボイスを交付しなくて済みます。

少額特例とは別の制度で、期限がなく、事業者の規模も問いません(国税庁)。

インボイス発行事業者は、課税事業者に値引きや返品をすると、返還インボイスを交付するのが原則です。

返還インボイスは、値引きの内容などを書いた書類です(消費税法57条の4第3項)。

交付しなくてよい例外の一つが、次の場合です(同項ただし書)。

法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等に係る同項に規定する税込価額が一万円未満である場合

(消費税法施行令70条の9第3項2号)

判定は1商品ごとではなく、1回の取引の返還額や債権の減額で行います(消費税法基本通達1-8-17)。

例えば、10,000円の請求に、振込手数料440円を差し引いた9,560円が入金されたとします。

売手が440円を売上値引きとすれば、1万円未満なので返還インボイスは要りません。

値引きの税率は、もとの売上げの税率に従います(インボイスQ&A問29)。

注意

取適法の対象取引では、振込手数料を売手に負担させて差し引くことが禁止されています。当事者の合意があっても同じです(インボイスQ&A問29)。取適法は、中小受託事業者への製造委託などの代金の支払の遅延等を防ぐ法律です。

失敗につながるのは、判定の単位・期間・立場の取り違えです

次の5つは、資料が判定の線を示す場面です。

  • 商品ごとに見る ― 同時に買った物は、合計額で判定します。
  • 月額の契約を日割りする ― 通常は、月単位の金額で判定します。
  • 特定期間を給与で測る ― 少額特例では、給与の支払額は使えません。
  • 期の終わりまで使えると考える ― 令和11年10月1日以後の仕入れは、期の途中でも対象外です。
  • 売る側でも不要と考える ― 課税事業者から求められれば、1万円未満でもインボイスの交付が必要です。

対象外の仕入れは、原則としてインボイスなどの保存がないと控除できません(消費税法30条7項)。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

ご自身で確かめられるのは、次の4点です。

  1. 前々事業年度の課税売上高が1億円以下かを確かめる
  2. 超えるときは、前事業年度の最初の6か月の課税売上高を集計する
  3. 税込1万円未満の仕入れを、1回の取引ごとに抜き出す
  4. 帳簿に相手方・年月日・内容・金額の4つがあるかを見る

どこまでを「1回の取引」とみるかは、契約や請求のしかたを見て判断します。

前事業年度が7か月以下などの法人は、特定期間の数え方が変わります(消費税法9条の2第4項3号)。

振込手数料の扱いも、取引当事者間の契約関係などで分かれます(インボイスQ&A問29)。

ご自身でできるのは、売上高の確認と帳簿の点検までです
ご自身でできるのは、売上高の確認と帳簿の点検までです

税理士が入ると変わるのは、判定の根拠と帳簿の整え方です

小松公認会計士・税理士事務所では、次の作業を行います。

ひとつめは、課税期間ごとの対象判定です。申告書などから課税売上高を確かめます。

ふたつめは、1万円未満の取引の洗い出しです。会計データを請求書の単位と突き合わせます。

みっつめは、帳簿の点検です。4つの記載事項の欠けを見つけ、入力のルールをそろえます。

よっつめは、振込手数料の処理です。値引きと手数料のどちらで扱うかを決めます。

いつつめは、令和11年10月以後への準備です。インボイスを保存する段取りを決めます。

むっつめは、申告書への反映です。判定の結果を消費税の控除額の計算に入れます。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. 月額の外注費を稼働日数で割ると1万円未満になります。少額特例の対象ですか?

対象になりません。判定は1回の取引の税込金額で行います。役務の提供は、通常は約した役務の取引金額で判定します(財務省のよくある質問 問12)。国税庁Q&A問112も、月額100,000円・稼働12日の清掃を1万円以上の取引としています。

Q2. 少額特例を使うとき、帳簿に「少額特例」と書く必要はありますか?

書く必要はありません(インボイスQ&A問111)。ただし、4つの事項の記載は必要です(消費税法30条8項1号)。相手方の氏名または名称、年月日、内容、支払対価の額です。対象は、基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者の、令和11年9月30日までの仕入れです。

Q3. 令和11年10月以後は、1万円未満の仕入れはどうなりますか?

課税期間の途中でも、令和11年10月1日以後の課税仕入れは対象外です(国税庁)。仕入税額控除には、原則としてインボイスと帳簿の保存が必要になります。令和8年度の税制改正でも、この期限は変わっていません。

Q4. 振込手数料を差し引いて入金されたとき、返還インボイスは必要ですか?

売手が売上値引きとして処理するなら、税込1万円未満は交付義務が免除されます。根拠は消費税法施行令70条の9第3項2号です。値引きの税率は、もとの売上げの税率に従います。なお、取適法の対象取引では、振込手数料を差し引くこと自体が禁止です(インボイスQ&A問29)。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則53条の2、消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則24条の2第1項、消費税法2条1項14号・9条の2第4項・30条7項・30条8項1号・57条の4第3項、消費税法施行令70条の9第3項2号、消費税法基本通達1-8-17、国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂)問29・問103-2・問111・問112、国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要」「少額な返還インボイスの交付義務免除の概要」「令和8年度税制改正特集」「インボイス制度の理解のために」「インボイス制度 ~基礎編~」、財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」の内容を扱っています。基準期間・特定期間の課税売上高の計算方法、前々事業年度が1年未満の法人の基準期間、短期事業年度がある法人の特定期間の細目、2割特例・3割特例・簡易課税制度の要件と届出、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置(7・5・3割控除)の要件と計算、公共交通機関特例など帳簿のみの保存で認められる他の特例の要件、適格返還請求書の記載事項、登録前の取引に係る対価の返還等、仕入税額の積上げ計算と割戻し計算、帳簿の保存期間と電子帳簿保存法、取適法の内容、飲食料品の消費税率の臨時的な引下げ(令和8年10月9日に国会へ提出された法案の内容で、成立前のもの)、加算税・延滞税は扱っていません。記事中の計算例は国税庁・財務省の資料の例を使った一定の前提を置いた目安であり、実際の判定は取引ごとの契約や請求の事実によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

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インボイスの少額特例は、基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者が、令和11年9月30日までの税込1万円未満の課税仕入れを、帳簿の保存だけで控除できる経過措置です。1万円未満かは1回の取引の税込金額で判定し、月額の契約を日割りしても通常は対象になりません。代表税理士が、課税期間ごとの対象判定、1万円未満の取引の洗い出し、帳簿の点検、振込手数料や値引きの処理、令和11年10月以後への備え、申告書への反映まで通して対応します。消費税の申告書を作る前の段階でご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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