この記事のポイント
- 特例措置の入口は令和9年9月30日までの特例承継計画の提出です
- 提出がなければ特例措置は使えず、残るのは一般措置だけになります
- 一般措置は対象が3分の2まで・相続等の猶予割合は80パーセントです
- あくまで猶予であり、免除は後継者の死亡等の事由が生じたときです
まず結論:特例措置の入口は、令和9年9月30日までの計画提出です
会社の株式を後継者に渡すとき、贈与税や相続税がかかります。
事業承継税制は、その税金の納税を猶予する制度です。
この制度には特例措置と一般措置の2つがあり、有利なのは特例措置です。
特例措置を使うには、令和9年9月30日までに特例承継計画を提出しておくことが入口です。
この提出がなければ、特例措置は使えません。残るのは一般措置だけです。
猶予とは、納める時期を先に延ばすことです。税金が消えてなくなるわけではありません。
まずはこの2点だけ押さえてください。期限のある入口と、猶予という性質です。
特例措置は、期限を区切って用意されている仕組みだからです。

制度の中身 ― 贈与税版と相続税版の2本立てです
結論として、事業承継税制は贈与税版と相続税版の2つに分かれています。
贈与税版は国税庁タックスアンサーNo.4439、相続税版はNo.4148で説明されています。
どちらも対象は、非上場会社の株式等です。
非上場株式等とは、証券取引所に上場していない会社の株式などをいいます。
贈与税版の概要は次のとおりです。
後継者である受贈者が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税の納付が免除される制度(国税庁 タックスアンサーNo.4439)
相続税版も、贈与を相続または遺贈に置き換えた同じ組み立てです。
どちらも「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の認定を受けていることが前提になります。
税務署への申告だけで完結する制度ではない、ということです。
会社の側で、法律に基づく認定を受ける手続きが別に必要になります。
贈与税版と相続税版のどちらを使うかは、株式をいつ、どう渡すかで決まります。
補足
根拠となる法令等は、次のとおりです。贈与税版は措法70の7、70の7の3、70の7の4、70の7の5、70の7の8、措令40の8、40の8の5、措規23の9、23の12の2。相続税版は措法70の7の2、70の7の6、93、96、措令40の8の2、40の8の6、措規23の10、23の12の3。措法は租税特別措置法の略称です。
特例措置と一般措置は、ここが違います
結論として、特例措置のほうが対象も猶予割合も広く設けられています。
国税庁の比較表を、項目名のまま並べます。
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画策定等 | 特例承継計画の提出【平成30年4月1日から令和9年9月30日まで】 | 不要 |
| 適用期限 | 令和9年12月31日までの相続等・贈与 | なし |
| 対象株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100パーセント | 相続等:80パーセント、贈与:100パーセント |
| 承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
| 雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
差が大きいのは、対象株数と、相続等の場合の猶予割合です。
一般措置では、対象になるのが総株式数の最大3分の2までです。
相続等の猶予割合も80パーセントにとどまります。
猶予されない部分については、その分の税額を納付することになります。
全株式が対象になるかどうかも、後継者が抱える負担に直結します。
後継者の人数も違います。一般措置は1人、特例措置は最大3人までです。
ポイント
一般措置には承継後5年間、平均8割の雇用維持という雇用確保要件があります。特例措置では、この要件が弾力化されています。従業員数の少ない会社ほど、1人の退職が平均に与える影響は大きくなります。この差は小さくありません。

「猶予」であって「免除」ではありません
結論として、この制度は税金を消す仕組みではありません。
納付が免除されるのは、後継者の死亡等の事由が生じたときです。
それまでは、猶予された税額を抱えたままの状態が続きます。
猶予された税額は、要件を満たしている間だけ納付を待ってもらえる状態にあります。
注意
一定の要件を満たさなくなると猶予が打ち切られ、利子税とともに納付することになる場合があります。打ち切りに当たるかどうかは個別の事情によりますので、本記事では事由を列挙しません。制度を使うかどうかは、この打ち切りの可能性まで含めて考える必要があります。
制度を使い始めた後も、会社と後継者は要件を維持し続ける必要があります。
言い換えると、この制度は次の代まで会社を続けることを前提にしています。
数年のうちに会社を手放す可能性があるなら、別の道を先に検討したほうがよい場合もあります。
また、後継者と先代経営者の双方に、細かな要件が定められています。
ご自身が当てはまるかどうかは、会社ごとに確認するほかありません。

期限は2つあります ― 令和9年9月30日と令和9年12月31日
結論から言うと、覚えるべき日付は2つです。
- 令和9年9月30日まで ― 特例承継計画を提出する(平成30年4月1日から)
- 令和9年12月31日まで ― 特例措置の対象となる贈与・相続等を行う
この2つは別々の期限です。
計画の提出が間に合っても、贈与や相続等が令和9年12月31日を過ぎれば特例措置は使えません。
本記事を書いている令和8年9月10日から数えると、計画の提出期限まで残りおよそ1年です。
贈与の時期は選べますが、相続がいつ起きるかは選べません。
相続を待つ形にすると、令和9年12月31日までに間に合うとは限らないわけです。
そのため実務では、贈与を前提に組み立てを考えることが多くなります。
計画を提出したうえで、結果として使わないという判断もあり得ます。
迷っている段階でも、期限のある手続きだけを先に押さえておく意味はあります。

使わない道もあります ― 他の方法と並べて比べます
結論として、自社株を渡す方法は事業承継税制だけではありません。
会社自身に株式を買い取ってもらう方法もあります。この場合は自社株を会社に買い取らせるときの税金の扱いが論点になります。
先代経営者の退任にあわせて役員退職金を支給する形も、実務ではよく組み合わせます。
この3つは、どれか1つだけを選ぶとは限りません。組み合わせることもあります。
それぞれ税金のかかり方が違いますので、並べて比べる意味があります。
どの方法が合うかは、株式の評価額・後継者の資金・会社の将来像によって変わります。
小松公認会計士・税理士事務所では、この3つを並べて比べたうえで方針を決めています。
なお、自社株の評価額の出し方は本記事では扱っていません。
評価額が分からないままでは、そもそも方法を比べることができません。
制度の入口と期限を知り、判断材料を集めるところまでは、ご自身でもできます。
ここから先の設計は個社ごとに異なります。期限のある制度ですので、早めにご相談ください。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 特例承継計画を出していなくても、事業承継税制は使えますか?
一般措置であれば計画の提出は不要です。ただし対象は総株式数の最大3分の2まで、相続等の猶予割合は80パーセント、後継者は1人となります。特例措置を使うには、令和9年9月30日までの特例承継計画の提出が必要です。
Q2. 特例措置の期限は令和9年9月30日でしょうか、令和9年12月31日でしょうか?
2つとも期限です。特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、特例措置の対象となる贈与・相続等が令和9年12月31日までとなります。片方だけ間に合っても特例措置は使えません。
Q3. 納税猶予を受ければ、その税金は払わなくてよくなりますか?
いいえ、あくまで猶予です。納付が免除されるのは後継者の死亡等の事由が生じたときです。一定の要件を満たさなくなると猶予が打ち切られ、利子税とともに納付することになる場合があります。
Q4. 後継者を子ども2人にしたいのですが、可能ですか?
特例措置は複数の株主から最大3人の後継者への承継に対応しています。一般措置は1人までです。ただし後継者には細かな要件がありますので、設計は個社ごとに異なります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国税庁タックスアンサーNo.4439「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」およびNo.4148「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」に示された制度の概要と、特例措置・一般措置の比較表の範囲を扱っています。自社株(取引相場のない株式)の評価額の計算方法、納税猶予が打ち切られる具体的な事由の一覧、担保提供の細目や継続届出書の提出周期、後継者・先代経営者の個別要件の具体的な数値、特例承継計画の様式・記載事項・提出先は扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.4439「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4439.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4148「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
特例措置を使うかどうか、期限までにご判断ください
特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日です。使うと決めてから動くのではなく、使える状態にしてから決めるほうが選択肢は広くなります。代表税理士が、御社の株主構成と後継者の状況を踏まえて方針を整理します。
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