この記事のポイント
- 時価純資産を超えて払った分は資産調整勘定になります
- 当初の額を60で割り、月数を掛けた額を毎期損金にします
- 法人から事業と主要な資産または負債のおおむね全部が移るときが対象です
- 消費税は土地は非課税、営業権や設備は課税で区分します
まず結論:事業を買って上乗せした代金は、60か月で損金になります
他社の事業を買うと、資産の値打ち以上の代金を払うことがよくあります。
顧客や人材、ブランドに払う上乗せ分で、会計では「のれん」と呼ばれます。
法人税では、この上乗せ分を資産調整勘定という名前で扱います。
その超える部分の金額のうち政令で定める部分の金額は、資産調整勘定の金額とする。
(法人税法62条の8第1項)
資産調整勘定は、当初の額を60で割り、その期の月数を掛けた額を毎期損金にします。

対象は「事業ごと」移る譲受けです
設備を何点か買っただけでは、この仕組みの対象になりません。
政令の定めは次のとおりです。
当該非適格分割等の直前において行う事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割等により当該非適格分割等に係る分割承継法人、被現物出資法人又は譲受け法人に移転をするものとする。
(法人税法施行令123条の10第1項)
事業そのものと、その事業の主要な資産または負債のおおむね全部が移ることが入口です。
同じ項は、事業を移す側を「法人」と定めています。個人事業者から事業を買う場合は、この規定の対象外です。
社長ご自身の個人事業を自分の会社へ移す場面は、法人成りの資産の引継ぎの記事で扱っています。
資産調整勘定は「払った対価-時価純資産」で出します
時価純資産とは、受け入れた資産の時価の合計から、引き受けた負債を引いた額です。
負債には、退職給与の引受けなどの負債調整勘定も含みます(法人税法62条の8第1項)。
払った対価がこれを超えると、超えた部分が資産調整勘定になります。
計算例
例1:飲食事業を43,000,000円(現金)で買った場合
土地6,000,000円+建物9,000,000円+設備12,000,000円+在庫3,000,000円=30,000,000円 引き受けた負債 5,000,000円 時価純資産 30,000,000円 - 5,000,000円 = 25,000,000円 資産調整勘定 43,000,000円 - 25,000,000円 = 18,000,000円金額は一定の前提を置いた目安です。
営業権(取引先や商圏などの目に見えない価値)は、時価純資産に入れられるものが限られます。
法第六十二条の八第一項に規定する政令で定める営業権は、営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの(第十六項第一号イ及び第二号イにおいて「独立取引営業権」という。)とする。
(法人税法施行令123条の10第3項)
独立して取引される慣習のない営業権は、資産として別に立てず、資産調整勘定の側に入ります。
補足
超える部分のうち「資産等超過差額」は資産調整勘定から除かれます(同条4項)。事業の譲受けで関係するのは、対価の株式などの価額が約束時の2倍を超える場合です(法人税法施行規則27条の16第1項1号)。

初年度は、買った日から期末までの月数で計算します
買った期は、買った日から期末までの月数を使います(法人税法62条の8第4項)。
第四項及び第七項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする。
(法人税法62条の8第11項)
計算例
例2:例1を令和8年10月15日に買った3月決算の会社
1か月あたり 18,000,000円 ÷ 60 = 300,000円 初年度の月数 10月15日〜3月31日は5か月と17日 → 6か月 初年度の損金 300,000円 × 6 = 1,800,000円 2期目〜5期目 300,000円 × 12 = 3,600,000円(各期) 5期目までの合計 16,200,000円(残り1,800,000円)資本金1億円以下の会社で年800万円超の所得に当たる場合の目安です。法人税は、3,600,000円 × 23.2% = 835,200円減ります。
条文は「減額しなければならない」と定めており、損金経理を条件にしていません。
安く買えたときや、退職金を引き受けたときは負債調整勘定です
払った対価が時価純資産に満たないときは、逆向きの処理になります。
当該非適格合併等に係る非適格合併等対価額が当該被合併法人等から移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額に満たないときは、その満たない部分の金額は、負債調整勘定の金額とする。
(法人税法62条の8第3項)
これを差額負債調整勘定と呼び、同じく60か月の月割りで益金に算入します(同条7項・8項)。
例1を19,000,000円で買えたら、差額6,000,000円を月100,000円ずつ益金にします。
安く買えた得は、一度に課税されず、60か月かけて所得に入ります。
従業員の退職給与の負担を引き受けた場合も、負債調整勘定になります(同条2項1号)。
その額は退職給付引当金の額で、明細書に記載がある場合に限られます(施行令123条の10第7項)。
売り手には譲渡益、消費税は資産ごとに課税と非課税に分かれます
売り手の会社では、事業の譲渡代金が収益として益金になります(法人税法22条2項)。
譲渡した資産の帳簿価額は原価として損金になり(同条3項)、差額が所得に乗ります。
例1で売り手の帳簿上の純資産が20,000,000円なら、譲渡益は23,000,000円です。
消費税は、資産ごとに分けて考えます。
営業の譲渡は営業に係る資産、負債の一切を含めて譲渡する契約であり、資産の譲渡については、課税資産と非課税資産を一括して譲渡するものと認められますから、課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して課税することとなります。
(国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」)
例1なら、建物・設備・在庫・営業権の42,000,000円が課税、土地6,000,000円が非課税です。
ポイント
契約書で資産ごとの対価を合理的に区分していないときは、譲渡時の時価の割合で按分します(消費税法施行令45条3項)。土地や有価証券の譲渡は原則として非課税です(タックスアンサー No.6145・No.6201)。

指摘を受けやすいのは、この5つの形です
- 設備だけを買ったのに、のれんを計上した ― 事業と主要な資産または負債のおおむね全部の移転が要件です
- 時価の根拠がない ― 時価純資産が決まらず、資産調整勘定の額を説明できません
- 独立して取引されない営業権を別の資産にした ― 施行令123条の10第3項に合いません
- 初年度を12か月で計算した ― 買った日から期末までの月数です
- 明細書を申告書に付けていない ― 施行令123条の10第9項が添付を求めています
注意
明細書の添付は、計上した期だけでなく減額する各期の確定申告書にも求められています(施行令123条の10第9項)。60か月分の管理が要ります。
金額より先に、対象になる取引かどうかと、時価の根拠が問われます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
買う前にご自身で用意できるのは、次の4点です。
- 売り手から直近の決算書と固定資産台帳をもらう
- 引き継ぐ資産・負債・従業員の一覧を作る
- 土地や建物があれば、査定書や固定資産税の評価額を集める
- 譲渡契約書の案に、対価の内訳が書かれているかを見る
事業の「おおむね全部」に当たるか、時価をいくらに置くかは個別判断です。
株式を親族に渡して継ぐ形なら、事業承継税制の記事の論点になります。

税理士が入ると変わるのは、時価の根拠と契約書の内訳です
小松公認会計士・税理士事務所では、契約の前から次の作業を行います。
ひとつめは、施行令123条の10第1項の要件に当たるかの確認です。移る事業と資産・負債を突き合わせます。
ふたつめは、時価純資産の算定資料の整備です。査定書や取引事例をそろえ、資産ごとの時価を置きます。
みっつめは、譲渡契約書の対価の内訳です。消費税の課税・非課税が区分できる形にします。
よっつめは、受入れ時の税務上の仕訳です。資産調整勘定・負債調整勘定の当初の額を確定させます。
いつつめは、毎期の月割り計算と明細書の作成です。60か月の残高を管理します。
むっつめは、売り手側の譲渡益の試算です。価格交渉の前に手取りを示します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 事業譲渡で払ったのれん代は、一度に経費にできますか?
できません。資産調整勘定は、当初の額を60で割り、その期の月数を掛けた額を毎期減額して損金に算入します(法人税法62条の8第4項・5項)。買った期は、買った日から期末までの月数で計算し、1か月未満の端数は1か月とします(同条11項)。
Q2. 会社の決算で償却費を計上しなかった期も、損金になりますか?
条文は資産調整勘定を「減額しなければならない」と定め、その額を損金に算入するとしています(法人税法62条の8第4項・5項)。損金経理は条件になっていません。会計ののれんの処理とずれるときは、申告書の上で調整します。
Q3. 設備と在庫だけを買いました。資産調整勘定を計上できますか?
対象は、法人から、事業と、その事業の主要な資産または負債のおおむね全部が移る譲受けです(法人税法施行令123条の10第1項)。一部の資産だけを買った場合は、この要件に当たるかを先に確かめる必要があります。
Q4. 事業を買うとき、消費税は代金の全額にかかりますか?
資産の種類で分かれます。国税庁は、営業の譲渡は課税資産と非課税資産を一括して譲渡するものとして、対価を合理的に区分して課税するとしています。土地は非課税、営業権や建物・設備は課税です。区分がないときは時価の割合で按分します(消費税法施行令45条3項)。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条2項・3項・62条の8第1項から8項まで・11項、法人税法施行令123条の10第1項・3項・4項・7項・9項、法人税法施行規則27条の16第1項、消費税法施行令45条3項、国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」、タックスアンサーNo.6145「資産の譲渡の具体例」・No.6201「非課税となる取引」・No.5759「法人税の税率」の内容を扱っています。個人事業者から事業を譲り受ける場合の扱い、適格合併・適格分割・適格現物出資の要件、株式を買う形のM&A、合併・分割での資産等超過差額(施行規則27条の16第1項2号)、短期重要債務見込額の細目(施行令123条の10第8項)、退職給与負債調整勘定の減額の計算、適格合併等による調整勘定の引継ぎ(法人税法62条の8第9項・10項)、特定報酬株式や無対価の場合の特例(施行令123条の10第15項・16項)、独立取引営業権の償却方法、会計上ののれんの償却と減損、明細書の様式、消費税の税率と買い手の仕入税額控除、登録免許税・不動産取得税・印紙税、売り手が個人の場合の所得税、地方法人税・法人住民税・法人事業税は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は時価・契約の内容・事業年度によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(22条・62条の8)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(123条の10)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- e-Gov法令検索「消費税法施行令」(45条)https://laws.e-gov.go.jp/law/363CO0000000360
- 国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/14/01.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.6201 非課税となる取引https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
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事業譲渡で時価純資産を超えて払った代金は、資産調整勘定として60か月で損金に算入します。ただし対象は、法人から、事業と主要な資産または負債のおおむね全部が移る譲受けに限られ、時価の根拠がなければ額そのものを説明できません。消費税も、土地と営業権・設備で課税と非課税に分かれます。代表税理士が、要件の確認、時価純資産の算定資料の整備、譲渡契約書の対価の内訳、受入れ時の税務上の仕訳、毎期の月割り計算と明細書の作成まで、通して対応します。契約書に署名する前の段階でご相談ください。
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