この記事のポイント
- 旧事務所の原状回復費用は、工事が終わるなど債務が確定した期の損金です
- 撤去した内装は除却損、旧事務所の礼金の未償却残額は解約した期の損金です
- 新事務所の礼金は繰延資産(効果1年以上。20万円未満は例外)、内装は減価償却資産です
- 期末までに債務が確定していない費用は、見積りで計上しても損金になりません
まず結論:移転の費用は、種類ごとに損金にできる時期が違います
移転では、たくさんの支払いが同じ時期に重なります。
法人税では、払った期にすべてが損金(税金の計算で差し引ける費用)になるわけではありません。
| 費用 | 扱い | 損金にできる時期 |
|---|---|---|
| 旧事務所の原状回復工事 | 費用 | 工事が終わるなど、債務が確定した期 |
| 旧事務所の内装(撤去したもの) | 除却損 | 原則として撤去した期 |
| 旧事務所の礼金の残り | 繰延資産の未償却残額 | 解約した期 |
| 返ってくる敷金 | 会社の債権 | 損金にならない |
| 新事務所の礼金 | 繰延資産(20万円未満は例外) | 5年などの期間で償却 |
| 新事務所の内装工事 | 減価償却資産 | 耐用年数に応じて償却 |
| 引越し代・移転の広告費 | 費用 | 作業が終わるなど、債務が確定した期 |
繰延資産は、何年かに分けて損金にする支出のことです。
移転の日程が決算日をまたぐと、どの期の損金になるかが変わります。

旧事務所の原状回復は、工事が終わった期の費用として考えます
原状回復費用は、債務が確定した期(支払う義務が具体的に決まった期)の費用として考えます。
資本的支出(資産の価値や使える期間を増やす支出)は、法人税法施行令132条が定めます。
対象は、法人が「その有する固定資産について支出する金額」です。
借りている建物は自社の固定資産ではなく、原状回復は資本的支出に当たらないと考えられます。
債務確定の判定について、タックスアンサーNo.5387は修繕費を例にしています。
発注した修繕が完了し、金額の見積りが客観的にできる状況なら、未払金等に計上できます。
原状回復工事も、期末までに工事が終わっているかが分かれ目です。
旧事務所の内装と礼金の残りは、撤去・解約した期に損金にします
借りた建物の内装工事(造作)は、会社の減価償却資産です(耐用年数通達1-1-3)。
撤去したときは、残った帳簿価額を除却損として損金にします(法人税法22条3項3号)。
期末までに撤去が終わらないときは、有姿除却(解体や廃棄の前に行う除却)を検討します。
その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
(法人税基本通達7-7-2(1))
この場合の除却損は、帳簿価額から処分見込価額を引いた額です。要件は有姿除却の記事にまとめています。
旧事務所の礼金を償却中なら、次の定めによります。
繰延資産とされた費用の支出の対象となった固定資産又は契約について滅失又は解約等があった場合には、その滅失又は解約等があった日の属する事業年度において当該繰延資産の未償却残額を損金の額に算入する。
(法人税基本通達8-3-6)
計算例
例:3月決算の会社が、令和5年4月1日に払った礼金600,000円を5年で償却中
各期の償却額 600,000円 ÷ 60か月 × 12か月 = 120,000円 令和8年3月期までの償却累計 120,000円 × 3期 = 360,000円 未償却残額 600,000円 - 360,000円 = 240,000円 令和8年10月31日に解約 → 令和9年3月期の損金金額は一定の前提を置いた目安です。

敷金は「返ってくる部分」と「返ってこない部分」に分けます
返ってくる敷金は、払ったときも移転したときも損金になりません。
敷金は、返してもらう権利(債権)だからです(タックスアンサーNo.5500)。
契約で返さないと決まっている部分(敷引き・償却)は、性質が違います。
国税庁の質疑応答事例は、貸主の収入として「その実質が権利金や更新料等と何ら変わらないもの」とします。
借りる側では、建物を賃借するための権利金等に当たるかを確かめます(法人税基本通達8-1-5(1))。
当たる場合、支出の効果が1年以上に及ぶものは繰延資産です(法人税法施行令14条1項6号ロ)。
次の節の礼金と同じく、20万円未満の例外があります。
ポイント
返さないことがいつ確定するかは、契約書の条項で決まります。貸主側の事案で、敷引きの部分は契約の時点で確定したとされました(平成22年10月18日裁決)。
新事務所の礼金と内装工事は、何年かに分けて損金にします
新事務所の礼金は、建物を賃借するための権利金等です(法人税基本通達8-1-5(1))。
効果が1年以上に及ぶものは繰延資産になり、償却期間は5年が基本です(法人税基本通達8-2-3)。
賃借期間が5年未満で、更新時に再び権利金等を払うことが明らかなら、賃借期間で償却します。
借家権として転売できる場合などは、別の期間になります(同通達の表)。
1つの契約で20万円未満なら、払った期に費用として処理し、損金にできます(法人税法施行令134条)。
仲介手数料は、払った期の損金にできます(法人税基本通達8-1-5の注)。
月割りの計算は、税務上の繰延資産の記事で扱っています。
新事務所の造作の耐用年数は、建物の耐用年数や造作の種類・用途・材質などから合理的に見積もります。
ただし、建物附属設備にした造作は、その耐用年数によります(耐用年数通達1-1-3)。
賃借期間で償却できる例外を含め、内装工事の耐用年数の記事をご覧ください。

失敗の例:確定していない費用を、移転前の期に見積りで立てる
期末までに債務が確定していない費用は、移転が決まっていても、その期の損金になりません。
前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
(法人税法22条3項2号)
要件は、期末までの債務の成立、具体的な給付の原因となる事実の発生、金額の合理的な算定の3つです。
3つすべてを満たす必要があります(法人税基本通達2-2-12)。
移転の場面では、次の処理が要件に合いません。
- 翌期の原状回復工事の見積額を、当期に未払計上する(工事が終わっていません)
- 翌期の引越しの代金を当期に払い、当期の費用にする(作業は翌期です)
新事務所の賃料の減額期間は、令和7年4月1日以後に始まる事業年度から扱いが変わりました。
賃料の総額を均等に割った額を費用として処理すれば、損金にできます。
根拠は、法人税法53条と法人税基本通達12の5-3-2です。
減額分が総額のおおむね2割を超える場合などは除かれます。
それより前の事業年度で、均等に割った計上を認めなかった裁決があります(平成30年6月15日裁決)。
計算例
例:月額500,000円・当初3か月は100,000円・契約24か月で、当期に6か月が経過
契約どおり 100,000円 × 3か月 + 500,000円 × 3か月 = 1,800,000円 均等に割った額 10,800,000円 ÷ 24か月 × 6か月 = 2,700,000円 減額分1,200,000円は総額の約11% → 2,700,000円まで当期の損金にできます金額は一定の前提を置いた目安です。
注意
決算日をまたぐ退去では、工事の完了日・明渡し日がどの期かを確かめます。完了報告書や請求書も、日付が分かる形で残します。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
移転が決まったら、ご自身で次の4点を整理できます。
- 旧事務所の契約書で、原状回復の範囲と敷金の返還条件を確かめる
- 固定資産台帳で、旧事務所の内装と礼金の帳簿価額を書き出す
- 原状回復工事・明渡し・引越しの日程を、決算日と並べる
- 新事務所の礼金・仲介手数料・内装工事の請求書を分けてそろえる
工事の中身の区分や、有姿除却・返さない敷金の扱いは個別判断です。

税理士が入ると変わるのは、損金にする期の根拠と資料のそろえ方です
小松公認会計士・税理士事務所では、移転が決まった段階から次の作業を行います。
- 契約書から、原状回復の範囲と敷金・礼金の条件を整理する
- 固定資産台帳で旧事務所の内装と礼金の残額を確かめ、損金の見込み額を試算する
- 工事の完了日と明渡し日を決算日と照らし、計上する期を決める
- 新事務所の礼金・仲介手数料・内装工事を分け、償却の期間を決める
- 繰延資産の償却額の明細など、申告書に必要な書類を作る
- 完了報告書や敷金の精算書など、税務調査に備えた資料をそろえる
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 3月決算で、4月に旧事務所を退去します。原状回復費用を3月期に計上できますか?
3月末までに工事が終わっていなければ、原則として3月期の損金になりません。期末までに債務が確定していない費用は、その期の損金にならないためです(法人税法22条3項2号)。法人税基本通達2-2-12は、具体的な給付をすべき原因となる事実の発生などを要件にしています。
Q2. 旧事務所の礼金をまだ償却し終わっていません。移転したらどうなりますか?
償却中の礼金は、解約した日の属する事業年度に、残りを損金に算入します(法人税基本通達8-3-6)。20万円未満で、払った期に損金にした礼金には、残額はありません(法人税法施行令134条)。
Q3. 敷金は、移転した期の経費になりますか?
返ってくる敷金は債権なので、経費になりません。契約で返さない部分は、建物を賃借するための権利金等に当たるかを確かめます。当たれば、効果が1年以上に及ぶものは繰延資産です。1つの契約で20万円未満なら、払った期に費用として処理し、損金にできます(法人税法施行令134条)。
Q4. 新事務所の内装工事は、何年で償却しますか?
建物にした造作は、建物の耐用年数や造作の種類・用途などから合理的に見積もります。建物附属設備にした造作は、その耐用年数です。例外は、更新できない賃借期間の定めがあり、有益費や買取りの請求ができないときです。このときは賃借期間で償却できます(耐用年数通達1-1-3)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条3項・4項・53条1項、法人税法施行令14条1項6号ロ・132条・134条、法人税基本通達2-2-12・7-7-2・8-1-5・8-2-3・8-3-6・12の5-3-2、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3、タックスアンサーNo.5387・No.5406・No.5460・No.5500、国税庁の質疑応答事例「返還を要しない敷金等に係る提出時期」、国税不服審判所の平成22年10月18日・平成30年6月15日の各裁決の内容を扱っています。原状回復の範囲を超える工事を負担した場合の扱い、自社の資産の修繕費と資本的支出の区分の基準、資産除去債務の会計処理、年数の経過で返さない額が増える敷金の計上時期、機械装置の移設費、造作の買取請求や貸主への譲渡、立退料を受け取ったときの扱い、繰延資産の月割りの計算、建物附属設備と造作の具体的な耐用年数の年数、少額減価償却資産と一括償却資産の金額基準(令和8年度改正を含む)、申告書の別表の様式、消費税(礼金・敷金・原状回復費用の課税関係と仕入税額控除の経過措置)、本店移転の登記と異動届出の手続、地方税は扱っていません。紹介した裁決はいずれも個別の事実関係に基づく判断であり、平成22年10月18日裁決は貸主側の事案、平成30年6月15日裁決は法人税法53条の適用前の事業年度の事案です。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安です。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(22条・53条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- 国税庁 法人税基本通達 第2章第2節第2款「販売費及び一般管理費等」(2-2-12)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_02.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第8章第3節「償却費の計算」(8-3-6)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/08/08_03.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5460「建物を賃借するための権利金等」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5460.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第12章の5第3節「賃貸借取引」(12の5-3-2)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/12_5/12_5_03_04.htm
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事務所や店舗の移転では、旧事務所の原状回復と内装、敷金、新事務所の礼金と内装工事が重なります。損金にできる時期は費用ごとに違います。期末までに債務が確定していない費用は、見積りで計上しても損金になりません。代表税理士が、契約書と固定資産台帳の確認から、日程と決算日の照合まで対応します。新事務所の費用の区分と、申告書への反映も通して行います。移転先の契約を結ぶ前の段階でご相談ください。
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