融資・資金調達

資本性劣後ローンとは
借入なのに金融機関の資産査定で自己資本とみなされる公庫の融資

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 借入金のまま、金融機関の資産査定上だけ自己資本とみなされます
  • 返済は期限一括。それまでは利息だけを払います
  • 金利は業績連動で、税引後当期純利益が0円未満なら0.50パーセントです
  • 残り5年を切ると、1年ごとに20パーセントずつみなし自己資本が減ります

まず結論:借入なのに「自己資本」として見てもらえる融資です

資本性劣後ローンとは、借入金でありながら自己資本とみなすことができる融資です。

日本政策金融公庫の制度名は「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」といいます。

公庫(国民生活事業)は、この制度についてこう書いています。

本制度による債務については、金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができます。

貸借対照表では、あくまで借入金(負債)のままです。

変わるのは、金融機関が会社を評価するときの見え方だけです。

債務超過の会社でも、この借入金を資本として足し戻せば超過が消えることがあります。

決算書のどこが見られるかは融資を受けるための決算書の見え方で扱っています。

資本性劣後ローンは借入金でありながら金融機関の資産査定上は自己資本とみなすことができます
借入金のまま、金融機関の資産査定上だけ自己資本とみなすことができる融資です

公庫の融資条件 ― 国民生活事業と中小企業事業で桁が違います

同じ制度名でも、申し込む窓口によって限度額が大きく変わります。

項目国民生活事業中小企業事業
融資限度額7,200万円(別枠)15億円
返済期間5年1か月以上20年以内5年1か月または6年から20年(期限一括償還)
返済方法期限一括返済。それまでは利息のみ
担保・保証人無担保・無保証人
劣後性法的倒産手続の開始決定があった場合、他のすべての債務に償還順位が劣後します

元金の返済が最後まで来ないため、借りている間の資金繰りは軽くなります。

公庫は「ご融資期間中は元金の返済負担がなく、月々の資金操り負担を軽減することができます」と説明しています。

そのかわり、期限が来たら一度に返さなければなりません。

返済の組み方そのものは据置期間と返済計画をご覧ください。

金利は業績連動 ― 赤字の年は0.50パーセントになります

この制度の利率は、毎年の業績によって切り替わります。

公庫は、融資後1年ごとに直近の業績に応じた利率が適用されるとしています。

税引後当期純利益額が0円未満の年は、返済期間にかかわらず一律0.50パーセントです。

0円以上の年は、返済期間の区分に応じた利率になります。

返済期間税引後当期純利益が0円以上0円未満
5年1か月3.25パーセント0.50パーセント
5年1か月超7年以内3.40パーセント
7年超10年以内3.65パーセント
10年超15年以内3.80パーセント
15年超20年以内3.95パーセント

利率は令和8年9月17日時点で公庫のページに掲載されていた国民生活事業の値です。

金利は改定されるため、申込みの時点で必ず最新の数値をご確認ください。

計算例

5,000万円を返済期間10年で借りた場合の年間利息(上記の利率による設例)

黒字の年 50,000,000円 × 3.65% = 1,825,000円(月およそ152,000円) 赤字の年 50,000,000円 × 0.50% = 250,000円(月およそ21,000円) 同じ借入でも、1年間の利息の差は 1,575,000円

業績が落ちた年ほど負担が軽くなる設計です。支払った利息の決算での扱いは融資を受けた後の税務で扱っています。

資本性劣後ローンの金利は業績連動で赤字の年は0.50パーセントになります
業績が低調な年ほど金利負担が小さくなる設計になっています

なぜ資本とみなせるのか ― 金融庁が示す3つの観点

資本とみなす扱いは、公庫が独自に決めているものではありません。

金融庁は監督指針で「資本性借入金」を次のように定義しています。

「資本性借入金」とは、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる借入金として、債務者の評価において、資本とみなして取り扱うことが可能なものをいう。

そのうえで、資本類似性は次の3点から判断されるとしています。

  • 償還条件 ― 契約時の償還期間が5年を超え、期限一括償還または同等の長期の据置期間があること
  • 金利設定 ― 配当可能利益に応じた金利設定であること(業績連動型など)
  • 劣後性 ― 法的破綻時の劣後性が確保されていること

公庫の制度は、この3点をそのまま満たすように設計されています。

だからこそ、他の金融機関でも資本として評価してもらえる余地があります。

注意

監督指針の書き方は「資本とみなして取り扱うことが可能」です。取引先の銀行が必ず自己資本とみなす義務を負うわけではありません。「借りれば必ず格付けが上がる」と考えるのは誤りです。

みなし自己資本は、残り5年から毎年20パーセントずつ減ります

資本とみなされる金額は、ずっと満額ではありません。

公庫は、償還期限まで5年以上ある債務は残高の100パーセントをみなし自己資本とし、残存期間が5年未満になると1年ごとに20パーセントずつ逓減するとしています。

計算例

5,000万円を借りた場合の、資本とみなされる金額の推移

残存5年以上 50,000,000円 ×100% = 50,000,000円 残存4年以上5年未満 ×80% = 40,000,000円 残存3年以上4年未満 ×60% = 30,000,000円 残存2年以上3年未満 ×40% = 20,000,000円 残存1年以上2年未満 ×20% = 10,000,000円 残存1年未満 ×0% = 0円

返済期限の5年前から、決算書の見え方は毎年悪くなっていきます。

期限一括で返す原資も、同じ時期に用意しなければなりません。

借りた直後ではなく、5年前からの備えが要る制度です。

資本性劣後ローンのみなし自己資本は残存期間5年未満から1年ごとに20パーセントずつ逓減します
残存期間が5年を切ると、資本とみなされる部分は毎年20パーセントずつ減ります

使えない・続かない典型は、この4つです

実務で行き詰まるのは、制度の入口と、借りた後の負担です。

  • 対象の融資制度に当てはまらない ― 公庫が挙げる「新規開業・スタートアップ支援資金」等の対象者であることが前提です
  • 税金を完納していない ― 税務申告を1期以上している場合、原則として所得税等の完納が条件です
  • 四半期報告が続かない ― 完済まで四半期ごとの経営状況の報告等を含む特約を結びます
  • 期限一括の返済原資を積んでいない ― 元金の支払がない間に資金が別のことに回ってしまう

とくに重いのが、完済までの四半期報告です。

月次で数字が締まっていない会社では、報告そのものが負担になります。

中小企業事業については「取扱額に限りがあり、ご要望に沿えない場合があります」とも書かれています。

補足

資本性劣後ローンは借入金であって、資本金等の額は増えません。株式ではないため、既存株主の持株比率が下がることもありませんと公庫は説明しています。保証協会の保証付融資との違いは信用保証協会の保証付融資をご覧ください。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

ご自身で進められるのは、次の4点です。

  1. 対象となる融資制度(新規開業・スタートアップ支援資金など)に当てはまるかを公庫のページで確認する
  2. 直近2期の決算書と、今期の試算表をそろえる
  3. 税金の未申告・滞納がないかを確認する
  4. 四半期ごとに数字を締められる体制があるかを点検する

ここから先は個別判断です。

普通の融資と資本性劣後ローンのどちらが合うかは、返済の時期で変わります。

期限一括の原資を、何年でいくら積むのかという設計も必要です。

融資を受けられるかどうかは、最終的に公庫の審査で決まります。

資本性劣後ローンは完済まで四半期ごとの経営状況の報告等を含む特約を結びます
完済まで四半期ごとの経営状況の報告等を含む特約を結ぶため、月次で数字を締める体制が要ります

税理士が入ると変わるのは、返済原資の設計と報告の体制です

ひとつめは、期限一括の返済原資の試算です。何年でいくら積むかを利益から逆算します。

ふたつめは、みなし自己資本が逓減する時期の見通しです。5年前から決算書がどう見えるかを並べます。

みっつめは、四半期報告に耐える月次決算です。試算表を毎月締める体制をつくります。

よっつめは、事業計画書の数字の裏づけです。売上と利益の前提を資料に落とします。

いつつめは、他の借入との組み合わせです。返済期日が重ならないように並べ替えます。

この制度は、借りた後のほうが手がかかります。

創業時の入口の整理は創業融資の全体像をご覧ください。

小松公認会計士・税理士事務所では、月次の試算表から申告まで続けて担当します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 借入金なのに、どうして自己資本になるのですか?

会計上は最後まで借入金(負債)のままです。変わるのは金融機関が会社を評価するときの取扱いだけで、公庫は「金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができます」としています。貸借対照表の数字が書き換わるわけではありません。

Q2. 赤字でも申し込めますか?

金利は税引後当期純利益額が0円未満の年は一律0.50パーセントとされており、赤字であること自体が申込みを妨げる条件にはなっていません。ただし対象となる融資制度の対象者であることや、税金の完納などの条件があります。融資の可否は公庫の審査で決まります。

Q3. 期限一括返済とは、最後まで何も払わないということですか?

いいえ。元金の支払が最終回に一度だけで、それまでは利息を払い続けます。公庫も「最終回の一括払いとなり、それまでの間は、利息のみの支払となります」としています。元金の原資は、借りている間に積み上げておく必要があります。

Q4. 取引先の銀行も自己資本として見てくれますか?

金融庁の監督指針は「資本とみなして取り扱うことが可能」という書き方です。各金融機関に義務づけられているわけではありません。また残存期間が5年未満になると、資本とみなされる部分は1年ごとに20パーセントずつ減っていきます。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の公表資料に基づく一般的な解説です。日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」(国民生活事業・中小企業事業)、金融庁「資本性借入金の取扱いの明確化に係る『主要行等向けの総合的な監督指針』等の一部改正について」および同「資本性借入金関係FAQ」の内容を扱っています。記事中の融資限度額・返済期間・利率は令和8年9月17日時点で公庫のページに掲載されていた国民生活事業および中小企業事業の値であり、金利をはじめとする条件は改定されます。融資後3年間の利率が0.50パーセントとなる特例の適用要件、新型コロナウイルス感染症対策として設けられた別制度の受付状況、各金融機関が実際に自己資本とみなすかどうかの運用、支払利息の税務上の個別の取扱い、他の融資制度との併用の可否は扱っていません。記事中の計算例は制度の理解のための設例であり、一定の前提を置いた目安です。融資を受けられるかどうかは個別の審査で判断されるものであり、本記事は融資の可否を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

資本性劣後ローンは、借りた後の設計で決まります

資本性劣後ローンは、期限一括返済・業績連動金利・劣後性という3つの条件がそろうことで、金融機関の資産査定上は自己資本とみなすことができる融資です。ただし残存期間が5年未満になると資本とみなされる部分は1年ごとに20パーセントずつ減り、最終回には元金を一度に返す必要があります。完済までの四半期報告も続きます。代表税理士が、返済原資を何年でいくら積むかの試算、みなし自己資本が逓減する時期の見通し、四半期報告に耐える月次決算の体制づくりまで、通して対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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