この記事のポイント
- 一時金は原則不動産所得。対象の権利で時価の2分の1(上下の範囲を定めれば4分の1)超なら譲渡所得
- 対象の地役権は送電線など目的が限られ、建造物の設置を制限するものだけです
- 譲渡所得の取得費は、土地の取得費を対価の割合で按分した額だけです
- 土地収用法等による使用で譲渡所得になるなら、5,000万円控除の対象になり得ます
まず結論:一時金は原則、不動産所得。対象の権利で時価の2分の1を超えると譲渡所得です
送電線や地下鉄の事業者から、地役権や地下の地上権の設定を求められることがあります。
地役権とは、決められた目的のために、他人の土地を使う権利です。
送電線の一時金を「線下補償」と呼ぶことがあります。
一時金は、原則として不動産所得です(所得税法26条1項)。
ただし対象の地役権・地上権で、一時金が土地の時価の2分の1を超えると譲渡所得になります。
地下や空間について上下の範囲を定めた設定なら、基準は時価の4分の1です。導流堤や遊水地などを設けるための地役権も、4分の1です。
資産の譲渡とみなす根拠は、所得税法33条1項かっこ書と同法施行令79条1項です。

譲渡所得になり得る地役権は、目的が限られています
結論として、地役権なら何でも対象になるわけではありません。
国税庁のタックスアンサー No.3111は、対象の地役権を次のように挙げています。
- 特別高圧の架空電線(送電線)や地中電線を設けるため
- ガス事業者が高圧ガス用の導管を敷設するため
- 飛行場や、ケーブルカー・モノレールを設けるため
- 砂防法の導流堤など、または都市計画法の公共施設を設けるため
- 都市計画法の特定街区内で建築物を建築するため
条文は、さらに「建造物の設置を制限するものに限る。」としています。
特別高圧とは、電圧が7,000ボルトを超えるものです(所得税基本通達33-12)。
地下鉄のトンネルのような構築物を持つための地上権は、条文上「借地権」として判定します。
地下について上下の範囲を定めた地上権は、いわゆる区分地上権です(民法269条の2)。
判定は、土地の時価の2分の1か4分の1かで分かれます
結論として、一時金が土地の時価の一定割合を超えるかどうかで判定します。
なお、地下もしくは空間について上下の範囲を定めた借地権や地役権の設定または導流堤や遊砂地もしくは河川法に規定する遊水地などの設置を目的とした地役権の設定である場合には、その土地の時価の4分の1を超えること。
(国税庁 タックスアンサー No.3111「対価の額の要件」)
計算例
例:時価2,000万円の土地に送電線のための地役権を設定し、一時金600万円を受け取った場合
上下の範囲を定めた設定 2,000万円 × 1/2 × 1/2 = 500万円 < 600万円 → 譲渡所得 上下の範囲の定めがない設定 2,000万円 × 1/2 = 1,000万円 ≧ 600万円 → 不動産所得同じ600万円でも、契約の定め方で所得の種類が変わります。
建造物の設置を制限する地役権とし、数値は一定の前提を置いた目安です。
一時金が地代の年額の20倍以下なら、譲渡に当たらないと推定されます(所得税法施行令79条3項)。
借地権が付いた土地では、所有者と借地権者がともに利用を制限されることがあります。
このときは、両者の対価の合計で判定します(同条2項、所得税基本通達33-13)。

譲渡所得になったら、取得費は按分した額だけ引けます
土地の取得費を全額引くのではなく、対価の割合で按分した額だけを差し引きます。
按分の元は土地の取得に要した金額と改良費の合計で、算式は所得税法施行令174条1項にあります。
計算例
例:上の例(土地の取得費800万円・地役権が設定された土地としての価額1,400万円と仮定)
算式 土地の取得費 × 対価 ÷(対価 + 地役権が設定された土地としての価額) 差し引く取得費 800万円 × 600万円 ÷(600万円 + 1,400万円)= 240万円 譲渡所得の金額(譲渡費用なし) 600万円 - 240万円 = 360万円同じ土地に別の者のための設定を重ねると、前回取得費とした額を引いた残りが元になります(同条2項)。
その年1月1日で所有期間が5年を超える土地なら、長期譲渡所得です(措置法31条1項)。
按分の考え方は借地権の設定と取得費の記事で詳しく扱っています。

土地収用法などによる使用なら、5,000万円控除の対象になり得ます
結論として、土地収用法等の規定に基づく使用なら、収用等の特例を使える場合があります。
使用の申出を拒むと使用されることになる場合の、契約による使用も含みます。
使わせることが譲渡所得になる貸付けなら、収用等による譲渡とみなされます。
根拠は措置法33条4項1号で、一部の例外があります。
5,000万円の特別控除の対象にも含まれます(措置法33条の4第1項)。
ポイント
不動産所得になる一時金は、この特例の対象外です。対象の地役権・地上権で、一時金が時価の2分の1(または4分の1)を超えることが前提です。そのほかの要件は収用の5,000万円特別控除の記事で解説しています。
計算例の360万円は、5,000万円控除を使えると0円になります。
毎年の地代は不動産所得。相続では宅地の評価が下がる場合があります
結論として、毎年受け取る地代(使用料)は、不動産所得の収入です(所得税法26条1項)。
相続税では、地役権の負担がある宅地は、その分を差し引いて評価します(財産評価基本通達25(5))。
対象は、上下の範囲を定めて設定され、建造物の設置を制限する地役権です。登記の有無は問いません。
差し引く地役権の価額は、地役権が設定された部分の自用地としての価額が元です。その価額に次の割合を掛けて評価できます(同27-5)。
- 家屋の建築が全くできない場合 ― 50%と借地権割合のいずれか高い割合
- 家屋の構造、用途等に制限を受ける場合 ― 30%
地下鉄などのずい道の区分地上権は、設定された部分の価額の30%で評価できます(同27-4)。
補足
倍率地域では、固定資産税評価額がすでに利用価値の低下を考慮している場合があります。そのときは、低下がないものとして評価した価額を基に計算します(財産評価基本通達25-2)。
申告で誤りやすいのは、この6つです
結論として、どれも契約前と申告前の確認で防ぎやすい誤りです。
- 上下の範囲の定めを確かめない ― 2分の1と4分の1を取り違えます
- 土地の取得費を全額引く ― 施行令174条1項の按分が抜けています
- 設定を重ねたときに前回の取得費を再び使う ― 同条2項の調整もれです
- 20倍を超えたら譲渡所得と決めつける ― 20倍以下なら譲渡に当たらないと推定する規定です
- 不動産所得の一時金に5,000万円控除を使う ― 譲渡所得になることが前提です
- 最初の申出から6か月を経過した日より後に設定する ― 原則、5,000万円控除が使えません
注意
計算例で土地の取得費800万円を全額引くと、200万円の赤字になります。長期譲渡所得の赤字は生じなかったものとみなされ、譲渡所得は0円です。本来の360万円が申告から漏れます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
契約書と登記から事実を整理するところまでは、ご自身で進められます。
- 設定契約書で、目的と範囲、上下の範囲の定めを確かめる
- 建造物の設置や高さに制限があるかを確かめる
- 一時金か毎年の地代か、受け取る金額と時期を確かめる
- 土地を取得したときの資料をそろえる(相続した土地は前の所有者の分も)
- 事業者から収用等の証明書などを受け取れるかを確かめる
条文は「その土地の価額」と定めるだけで、算定の方法は示していません。
地役権が設定された土地としての価額や、取得の資料がない土地の取得費も個別判断です。

税理士が入ると変わるのは、判定の根拠と申告書への反映です
ひとつめは、契約書と図面から、基準が2分の1か4分の1かを特定することです。
ふたつめは、土地の時価と、地役権が設定された土地としての価額の根拠をそろえることです。
みっつめは、按分の計算書を作り、過去の設定の有無を申告書控えで確かめることです。
よっつめは、証明書を確かめ、5,000万円控除と代替資産の特例のどちらを使うか検討することです。
いつつめは、譲渡所得の内訳書と確定申告書、相続税の評価への反映です。
小松公認会計士・税理士事務所では、契約書の読み取りから所得区分の判定、適正申告までを担当します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 送電線の地役権の設定で一時金を受け取りました。所得の種類は何ですか?
原則は不動産所得です。建造物の設置を制限する特別高圧架空電線の地役権は、例外になり得ます(所得税法施行令79条1項)。その一時金が時価の2分の1(上下の範囲を定めた設定は4分の1)を超えると譲渡所得です。
Q2. 譲渡所得になったら、土地の取得費は全額引けますか?
引けません。按分した額だけを差し引きます(所得税法施行令174条1項)。算式は土地の取得費×対価÷(対価+地役権が設定された土地としての価額)です。同じ土地に別の者のための設定を重ねると、前回取得費とした額を引いた残りが元になります(同条2項)。
Q3. 5,000万円の特別控除は使えますか?
土地収用法等に基づく使用で一時金が譲渡所得になるなら、対象になり得ます。使用の申出を拒むと使用されることとなる場合の契約も含みます(措置法33条4項1号)。最初の申出から6か月を経過した日までの譲渡などの要件があります(同法33条の4)。
Q4. 送電線の地役権がある土地は、相続税でどう評価しますか?
上下の範囲を定め、建造物の設置を制限する地役権が対象です。宅地全体の自用地としての価額から、地役権の価額を差し引きます。地役権の価額は、設定された部分の自用地としての価額が元です。家屋の建築が全くできないなら50%と借地権割合の高い方、構造・用途の制限なら30%で評価できます。根拠は財産評価基本通達25(5)・27-5です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法26条1項・33条1項、所得税法施行令79条1項・2項・3項・174条1項・2項、所得税基本通達33-12・33-13、租税特別措置法31条1項・33条4項1号・33条の4第1項・3項1号、民法269条の2、財産評価基本通達25(5)・25-2・27-4・27-5、国税庁タックスアンサー No.3111「土地を貸し付けて権利金などをもらったとき」・No.3552「収用等により土地建物を売ったときの特例」、国税庁の質疑応答事例「区分地上権に準ずる地役権の意義」「区分地上権に準ずる地役権の目的となっている宅地の評価」を扱っています。建物や構築物の一部の所有を目的とする借地権の判定(所得税法施行令79条1項2号)、大深度地下に関する判定(同項3号)、特別の経済的な利益の加算(同令80条)、「その土地の価額」と地役権が設定された土地としての価額の算定方法、地代の年額の20倍を底地の価額とする規定(同令174条1項2号かっこ書)、取得の資料がない土地の取得費、事業が土地収用法等の対象になるかどうか、収用等の特例の個々の要件と証明書、代替資産の特例、税額と住民税の計算、不動産所得になる一時金の臨時所得・平均課税の扱い、宅地以外の土地の評価と土地利用制限率、消費税の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約の内容、土地の時価、取得費によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3111 土地を貸し付けて権利金などをもらったときhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3111.htm
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(79条・174条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-12・33-13)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(31条・33条・33条の4)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 国税庁 質疑応答事例 区分地上権に準ずる地役権の目的となっている宅地の評価https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/31.htm
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