この記事のポイント
- 譲渡費用は売るために直接かかった費用で、維持・管理の費用は入りません
- 土地を売るための取壊し費用と建物の損失額は、譲渡費用と明記されています
- 遺品整理・家財の撤去・清掃は名前の記載がなく、時期・目的・契約で判断します
- 亡くなった後に頼む遺品整理の代金は、相続税で差し引ける債務に当たりません
まず結論:片付け費用は「売るために直接かかったか」で分かれます
相続した実家を売る前には、遺品整理や家財の撤去、清掃、取壊しの費用がかかります。
譲渡所得は、売った代金から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します(所得税法33条3項)。
取得費は、親が買ったときの代金などを引き継ぎます。
譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用です(タックスアンサーNo.3255)。
土地を売るための取壊し費用は明記がありますが、遺品整理や清掃は時期と目的で判断します。
相続税では、亡くなった後に頼む遺品整理の代金を債務として差し引けない点にも注意します。

取壊し費用は入り、維持・管理の費用は入りません
所得税基本通達33-7は、譲渡費用をまず次のように定めています。
資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
(所得税基本通達33-7(1))
同じ通達の(2)は、取壊し費用など、譲渡価額を増やすため売る際に払った費用を挙げています。
注書きは次のとおりです。
譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。
(所得税基本通達33-7(注))
取壊しで生じる建物の損失額も、譲渡費用になります(所得税基本通達33-8)。
要件は「その取壊し又は除却が当該譲渡のために行われたものであることが明らかであるとき」です。
| 費用 | 原文での扱い |
|---|---|
| 仲介手数料、売主が負担した印紙税 | 譲渡費用(No.3255) |
| 土地を売るための取壊し費用と建物の損失額 | 譲渡費用(通達33-7・33-8、No.3255) |
| 修繕費、固定資産税などの維持・管理の費用 | 譲渡費用にならない(通達33-7の注) |
| 遺品整理、家財の撤去、ハウスクリーニング | 名前の記載なし(個別判断) |
費目ごとの一般的な線引きは、取得費と譲渡費用の線引きの記事で扱っています。
名前のない費用は「時期・目的・契約」で判断します
名前のない費用は、国税不服審判所の公表裁決が示す物差しで判断します。
現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきもの
(国税不服審判所 平成27年9月30日裁決)
管理会社への立退料名目の支払いは、買主の求めも合意の書面も認められず、譲渡費用になりませんでした。
売る対象でない茶室を新居へ移す費用も、譲渡費用とされませんでした(平成16年6月3日裁決)。
形見を自宅へ運ぶ費用は、この茶室の裁決と構図が似ています。
売買契約で、家財を撤去して引き渡すと定めたかが検討の出発点です。
ポイント
判断の材料は3つです。①時期は、売ると決めた後の支払いか。②目的は、買主の求めや契約の定めによるものか。③書類は、見積書と領収書に宛名と内訳があるかです。

空き家特例を使うなら、片付けの間の使い方にも要件があります
空き家の3,000万円特別控除には、家の使い方の要件があります。
売却は令和9年12月31日まで、かつ相続から3年を経過する日の年の年末までです(No.3306)。
要件の一つは、相続の時から売るまで、事業・貸付け・居住に使っていないことです。
家を取り壊して敷地を売るなら、取り壊した後に建物などの敷地に使っていないことも必要です。
一時的な利用も対象です。
一時的に利用されていた場合であっても、事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたこととなることに留意する。
(租税特別措置法関係通達35-16)
片付けの間に家族が住んだり、物置として人に貸したりすると、一時的でも使った扱いです。
同じ通達は、無償の貸付けも含まれるとしています。
親が老人ホームに入っていた場合は、別の要件もあります(No.3307)。
入所から亡くなるまで、家が「被相続人の物品の保管その他の用」に使われていたことです。
入所中に家財を処分するときは、この要件との関係を先に確かめます。
要件の全体は、相続した家の売却と空き家特例の記事にまとめています。
売る時期の考え方は、相続した不動産の売却期限の記事をご覧ください。

相続税では、亡くなった後の遺品整理の代金は債務になりません
相続税で差し引ける債務は、亡くなった時点で被相続人が負っていたものです。
被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
(相続税法13条1項1号)
亡くなった後に相続人が頼んだ遺品整理の代金は、被相続人の債務ではありません。
遺言執行の費用も、相続人が負うもので被相続人の債務ではないとされました(平成元年12月27日裁決)。
反対に、平成30年7月9日裁決は、生前に解除した借地契約による建物の収去義務を控除の対象としました。
葬式費用(相続税法基本通達13-4)は、埋葬・火葬・納骨や通常葬式に伴う出費などです。
この列挙に、遺品整理は挙げられていません。
注意
相続税で差し引けるかと、譲渡費用になるかは、別々の物差しで判断します。相続税で差し引けないことを理由に、譲渡費用へ入れられるわけではありません。
誰が払ったか:共有で売るなら、持分と負担をそろえます
相続した家を共有で売ると、譲渡所得は所有割合に応じて各人が申告します(国税庁 質疑応答事例)。
たとえば、長男が費用を全額立て替え、持分は兄弟で2分の1ずつという場合です。
兄弟それぞれが同じ費用を差し引くと、合計が実際に払った額を超えてしまいます。
誰が払い、誰とどう精算したかを書面に残し、全員の申告で金額をそろえます。
立て替えたまま精算しない場合は、扱いを個別に確かめます。
指摘を受けるおそれがある4つの場面
- 売却と関係のない時期の支出を入れる ― 売るための費用と言えません
- 領収書の宛名や内訳がない ― 誰の何の費用か示せません
- 持分と負担者が合わない ― 同じ費用を重ねて差し引きます
- 遺品整理の代金を相続税の債務に入れる ― 被相続人の債務ではありません
売却の6年以上前の対応への対価は、譲渡費用と認められませんでした(平成26年6月4日裁決)。
計算例
例:長期譲渡で、片付け費用50万円を譲渡費用に入れられるかどうか
前提 譲渡価額3,000万円、取得費900万円、仲介手数料と取壊し費用300万円 入れられる場合 1,750万円 × 20.315% = 3,555,125円 入れられない場合 1,800万円 × 20.315% = 3,656,700円 差額 101,575円20.315%は、所得税15%・復興特別所得税・住民税5%の合計です(No.3208)。
令和9年分以後は、所得税額の1.1%の復興特別所得税と1%の防衛特別所得税で、合計は同じです。
数値は一定の前提を置いた目安で、端数処理を省いています。
空き家特例で3,000万円を控除できるなら、この例ではどちらも税額は0円です。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
支払いの整理はご自身でできますが、譲渡費用に入れるかの判断は個別です。
- 片付け・清掃・取壊しの支払いを、日付順に並べる
- 売ると決めた日、売買契約日、引渡しの日と見比べる
- 見積書と領収書の宛名・物件・内訳を確かめる
- 誰が払い、誰と精算したかを書き出す
家財の撤去が売るために必要だったか、持分と負担がずれたときの扱い、空き家特例の要件は個別判断です。

税理士が入ると変わるのは、根拠の残し方と申告への反映です
ひとつめは、売買契約書と見積書・領収書を照らし、譲渡費用に入れる根拠を残すことです。
ふたつめは、取壊し費用と建物の損失額を確かめ、譲渡所得の内訳書に反映することです。
みっつめは、片付けや取壊しを頼む前に、空き家特例の要件との関係を確認することです。
よっつめは、相続税で差し引ける葬式費用と、差し引けない支出を分けることです。
いつつめは、共有者全員の申告で、費用の配分と金額をそろえることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、資料の整理から譲渡所得の申告書の作成まで担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 遺品整理の業者に払った代金は、譲渡費用になりますか?
通達やタックスアンサーに名前はなく、個別判断です。物差しは売るために直接かかったか、譲渡価額を増やすため売る際の支出かです(所得税基本通達33-7)。契約で家財の撤去を定めたか、払った時期、領収書の内訳で検討します。形見を自宅へ運ぶ費用は、売るための支出かを分けて考えます。
Q2. 建物を取り壊して土地を売りました。取壊し費用はどうなりますか?
土地を売るための取壊し費用は譲渡費用です(通達33-7(2)、No.3255)。売るための取壊しであることが明らかなら、建物の損失額も譲渡費用です(通達33-8)。空き家特例を使うなら、取り壊した後に建物などの敷地に使わないことも要件です。
Q3. 遺品整理の代金は、相続税の申告で差し引けますか?
差し引ける債務は、被相続人の債務で相続開始の際に現にあるものです(相続税法13条1項1号)。亡くなった後に相続人が頼んだ遺品整理の代金は、これに当たりません。葬式費用の範囲を定めた相続税法基本通達13-4にも、遺品整理は挙げられていません。
Q4. 兄が片付け費用を全額立て替えました。兄の譲渡費用にできますか?
共有で売ると、譲渡所得は所有割合に応じて各人が申告します。費用も、誰の売却のための支出で誰が負担したかを、全員の申告でそろえる必要があります。兄弟が同じ費用を重ねて差し引くと、合計が実際の支出を超えます。精算の有無を書面に残し、個別に確かめます。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法33条3項、所得税基本通達33-7・33-8、国税庁タックスアンサーNo.3208・No.3255・No.3306・No.3307、租税特別措置法関係通達35-16、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)、相続税法13条、相続税法基本通達13-4、国税庁質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」、国税不服審判所の公表裁決(平成元年12月27日、平成16年6月3日、平成26年6月4日、平成27年9月30日、平成30年7月9日)の内容を扱っています。遺品整理・家財の撤去・ハウスクリーニングの費用が譲渡費用に当たるかの個別の結論、建物の損失額の具体的な計算方法、空き家特例の要件全般と添付書類、相続人が3人以上の場合の控除額、取得費加算の特例との選択、相続税の課税価格の計算全体、費用を立て替えたまま精算しない場合の課税関係、住民税の課税時期は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、端数処理を省いています。実際の税額は、取得費・譲渡費用・所有期間・使える特例によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3255 譲渡費用となるものhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-7・33-8)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 相続税法基本通達 第13条《債務控除》関係(13-4 葬式費用)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/03.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨 譲渡費用(立退料、離作料、農地転用決済金)平成27年9月30日裁決ほかhttps://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0406020200.html
相続した実家の片付け費用、譲渡費用に入れる前に根拠を確かめませんか
遺品整理や家財の撤去、清掃の費用は、通達に名前がありません。払った時期と目的、契約の定め、領収書の内訳で扱いが分かれます。代表税理士が、売買契約書と見積書・領収書を照らして譲渡費用に入れる根拠を整えます。取壊し費用、空き家特例の要件、相続人ごとの費用の配分まで確認し、申告書に反映します。片付けや取壊しを業者に頼む前の段階から、ご相談ください。
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