不動産譲渡所得

時効取得した土地を売るときの税金
一時所得と取得費・取得の日を解説

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 時効取得した土地は、時効を援用した年の一時所得です。時価が収入になります
  • 売るときの取得費を援用時の時価とした裁決があります。取得の日も援用の時です
  • 取得の日は登記の日付や使い始めた日では決まりません。売った年の1月1日で援用から5年以下なら短期
  • 家と一体の敷地を家とともに売るなら3,000万円控除の余地。軽減税率は家と敷地とも10年超の部分だけ

まず結論:一時所得も売るときの計算も、援用の時が基準です

時効で土地を手に入れると、時効を援用した年の一時所得として課税の対象になります。

他人の土地でも、自分のものとして平穏・公然と20年使い続けると、所有権を取得できます。

使い始めに他人の土地と知らず、落ち度もなければ10年です(民法162条)。これを時効取得といいます。

ただし、時効の利益を受けるには「援用」が必要です(民法145条)。

援用とは、時効の利益を受けるという意思を示すことです。

一時所得とは、懸賞金のように、一度きりで対価のない利益です。

売るときの取得費(手に入れたときの金額)や、長期・短期の判定も、援用の時が基準とされています。

隣の土地の一部を長年使ってきた家では、時効取得の税金が問題になることがあります
隣の土地の一部を長年使ってきた家では、時効取得の税金が問題になることがあります

時効取得したとき:時価から計算し、2分の1が課税対象になります

一時所得は、時価(援用した時の土地の値段)をもとに計算します。

国税庁は、次のように説明しています。

土地等の財産を時効の援用により取得した場合には、取得した土地等の財産の価額(時価)が経済的利益となり、取得した日の属する年分(時効を援用したとき)の一時所得として、所得税の課税対象となります。

(国税庁 タックスアンサー No.1493)

計算は、時価から、時効取得のために直接要した金額と特別控除(最高50万円)を引きます。

税金の計算に入るのは、この一時所得の金額の2分の1です。

ポイント

援用した年に売れば、一時所得と短期譲渡所得が同じ年分に並びます(措置法32条1項)。

登記の日付や、使い始めた日では決まりません

一時所得が生じるのは援用の時で、登記の日付や使い始めた日ではありません。

民法144条は「時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」と定めています。

起算日は、時効を数え始める日です。

これを根拠に昔の年分だと主張した裁判で、静岡地裁平成8年7月18日判決は主張を退けました。

和解で定めた登記の原因は、昭和26年7月31日の時効取得でした。

それでも一時所得は、訴えを起こして援用した平成元年分とされています。

登記をした日でもないと、平成25年7月24日裁決は述べています。

不動産の登記は、不動産に関する物権の得喪及び変更の第三者への対抗要件にすぎず

(国税不服審判所 平成25年7月24日裁決)

登記は、ほかの人に権利を主張するための手段という意味です。

時効取得の課税は、登記の日付ではなく、援用した時が基準です
時効取得の課税は、登記の日付ではなく、援用した時が基準です

売るとき:取得費と取得の日は、援用の時が基準です

売るときの取得費は援用時の時価、取得の日は援用の時とされています。

平成25年7月24日裁決は、昔の国有地(水路)を時効取得し、同じ年に売った事案です。

取得費については、次のように述べています。

分離短期譲渡所得を算出する際の取得費は、請求人が本件各旧国有地を時効取得した時の価額(すなわち、請求人の一時所得の収入金額)となる

(国税不服審判所 平成25年7月24日裁決)

一時所得の収入にした時価が、取得費になるという意味です。

タックスアンサーNo.1493は、取得した日の属する年分を「時効を援用したとき」と説明しています。

所有期間は、取得をした日の翌日から数えます(措置法31条2項)。

売った年の1月1日で5年を超えれば長期、5年以下なら短期です。

裁決は、明治31年から占有していた土地でも、援用した年に売った部分を短期としました。

詳しくは短期と長期の判定の記事をご覧ください。

計算例

例:令和5年6月に隣地30㎡の時効を援用、令和8年に計150㎡を2,400万円で売却(自宅以外)

令和5年分の一時所得 300万円(30㎡×10万円)-0円-50万円=250万円 総所得金額に入るのは、その2分の1の125万円 売値の按分 2,400万円×30㎡÷150㎡=480万円 譲渡費用80万円の按分 80万円×480万円÷2,400万円=16万円 譲渡所得 480万円-300万円-16万円=164万円 令和8年1月1日の所有期間は5年以下 → 短期(所得税30%で49万2,000円) 長期(所得税15%)になるのは、令和11年以後の売却です

援用時の時価は1㎡10万円、直接要した金額は0円、ほかの一時所得はないとしました。一定の前提を置いた目安です。

売値は裁決と同じく、1㎡あたりの単価を同じとみて面積で分けました。住民税などは含めていません。

もとの土地の取得費が分からないときは取得費が分からないときの記事をご覧ください。

自宅の敷地の一部なら:3,000万円控除と軽減税率は分けて考えます

家とともに売る敷地なら、時効取得した部分も3,000万円控除の対象になり得ます。

3,000万円控除は、マイホームを売ったもうけから最高3,000万円を引ける特例です。

所有期間の長短は問いません(タックスアンサーNo.3302)。

敷地かどうかは、家と一体で使っていたかで判定します(措置法通達31の3-12・35-6)。

時効取得した部分が短期なら、3,000万円はその短期の部分から先に引きます(措置法35条1項)。

売る相手が親子や夫婦などでないことなど、ほかの要件も確かめます。

軽減税率(税率を下げる特例)では、家と敷地がともに10年超であることも要件です。

10年は、売った年の1月1日で数えます(タックスアンサーNo.3305)。

敷地に10年以下の部分があれば、10年を超える部分だけが対象です(措置法通達31の3-4)。

注意

時効取得した部分だけを、家と別に売るときは注意します。今ある家の敷地の一部を家と同時に売らないときは、3,000万円控除も軽減税率も対象外です。根拠は措置法通達31の3-18と35-6です。

敷地の範囲は敷地はどこまでかの記事をご覧ください。

自宅の敷地として使ってきた部分は、3,000万円控除と軽減税率を分けて確かめます
自宅の敷地として使ってきた部分は、3,000万円控除と軽減税率を分けて確かめます

失敗パターン:裁決・判決で認められなかった5つの主張

次の5つは、税務署の更正(税額の訂正)などを争い、主張が認められなかった例です。

過少申告加算税は、申告不足に加わる税です。

  • 係争中だとして、援用の年に申告しなかった ― 過少申告加算税も適法でした(平成13年5月8日裁決)
  • 時効取得した部分まで長期で申告した ― 短期とする更正が適法でした(平成25年7月24日裁決)
  • 契約で、時効取得の手続は買主が行うとしていた ― 援用した売主に課税されました(同裁決)
  • 弁護士費用等を一時所得から差し引くよう主張した ― 認められませんでした(平成24年2月8日裁決)
  • 親が昔、名義の移転を頼んだ日を援用の日とした ― 援用とは認められませんでした(静岡地裁判決)

反対に、取得費を0円にする誤りもあります。

計算例では譲渡所得が300万円多くなり、税金を払いすぎます。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

書類を集めるところまではご自身でできますが、援用の日と時価は個別判断です。

  1. 援用した書類(訴状、調停の申立書、財務局への確認申請書など)をそろえる
  2. 援用した年の確定申告書の控えで、一時所得を申告したかを確かめる
  3. 測量図や登記事項証明書で、時効取得した部分の面積を確かめる
  4. 売買契約書で、時効取得した部分が売買に含まれるかを確かめる

申告漏れの直し方も、資料で結論が変わります。

補足

時価の出し方は、土地の形や使われ方で変わります。判決は近くの売買実例をもとに評価し、裁決は昔の国有地を国有財産評価基準に準じて評価しました。判決は、訴訟で時効が否定されたときは更正の請求ができると述べています(国税通則法23条2項1号)。更正の請求は、税額を減らすよう求める手続です。申告期限から5年を過ぎた後は、判決の確定から2か月以内です。

援用した日と時価を示す書類を、年分ごとに整理しておきます
援用した日と時価を示す書類を、年分ごとに整理しておきます

税理士が入ると変わるのは、援用の日と時価の根拠づけです

税理士が入ると、次の5つを資料にもとづいて進めます。

  • 訴状や申立書から援用の日を特定し、根拠を残す
  • 売買実例などから援用時の時価を算定し、説明資料にする
  • 援用した年の申告を確かめ、修正申告などの要否を検討する
  • 売値と譲渡費用を部分ごとに分け、短期と長期を別に計算する
  • 3,000万円控除と軽減税率の要件を確かめ、申告書と内訳書に反映する

小松公認会計士・税理士事務所では、資料の確認から適正申告までを担当します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. 時効取得の一時所得は、いつの年分で申告しますか?

タックスアンサーNo.1493は、時効を援用したときの年分の一時所得としています。係争中でも変わりません。係争中を理由に申告せず、過少申告加算税が適法とされた裁決があります(平成13年5月8日)。

Q2. 弁護士費用は、一時所得から差し引けますか?

差し引けるのは、時効取得のために直接要した金額だけです。平成24年2月8日裁決は、登記を求める訴訟の弁護士費用等を認めませんでした。静岡地裁平成8年7月18日判決も、訴状の印紙代と郵便切手代は認め、弁護士費用は認めていません。

Q3. 登記の原因日付が昔の日付なら、長期譲渡所得になりますか?

登記の日付では決まりません。判決の事案では、登記の原因が昭和26年の日付でも、一時所得は援用した平成元年分でした。裁決は、明治から占有していた土地でも、援用した年に売った部分を短期としています。

Q4. 自宅の敷地の一部を時効取得していました。3,000万円控除は使えますか?

家とともに売り、家と一体で使っていた敷地なら対象になり得ます。親子や夫婦などに売らないことなど、ほかの要件も必要です。軽減税率は、家と敷地がともに10年超の部分だけです。今ある家と同時でない、敷地の一部だけの売却は対象外とされています。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。民法144条・145条・162条、所得税法22条・34条・36条、租税特別措置法31条・32条・35条、国税通則法23条2項1号、措置法通達31の3-4・31の3-12・31の3-18・35-6、国税庁タックスアンサーNo.1493・No.3302・No.3305、国税不服審判所の平成13年5月8日・平成24年2月8日・平成25年7月24日の各裁決、静岡地裁平成8年7月18日判決の内容を扱っています。時効取得の要件の当てはめ(占有の態様と期間)、援用の方法と援用の日の決め方、時価の具体的な評価方法、時効取得のために直接要した金額の範囲の細目、援用した年に一時所得を申告していなかった場合の手続と期間、時効で土地を失った側の課税、法人が時効取得した場合の課税、相続税・贈与税の扱い、住民税と復興特別所得税、3,000万円控除と軽減税率のその他の要件、家屋を取り壊した後の敷地の譲渡、譲渡所得の内訳書の書き方は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は援用時の時価・売値・譲渡費用・所有期間によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

時効取得した土地を売る前に、援用の日と時価の根拠を確かめませんか

時効取得した土地には、援用した年の一時所得と、売った年の譲渡所得の2つが関係します。援用の日をいつとみるか、援用時の時価をどう出すかで、税額も取得費も変わります。代表税理士が、訴状や申立書、売買契約書から事実を整理します。一時所得と譲渡所得の申告まで一貫して担当します。売買契約の前にご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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