この記事のポイント
- 建物の取得費は、住んでいた期間と貸していた期間で計算を分けます
- 住んでいた期間は耐用年数の1.5倍・旧定額法で減価の額を出します
- 貸していた期間は賃貸に出した日の未償却残高から償却を続けます
- 貸していた期間に経費にし忘れた償却費も、取得費からは差し引かれます
まず結論:住んでいた期間と貸していた期間で、償却の計算を分けます
自宅を賃貸に出してから売ると、建物の取得費は2段階で計算します。
買った金額から、使用や期間の経過で減った価値を差し引きます(タックスアンサー No.3261)。
差し引く額の計算は、住んでいた期間と貸していた期間で違います。
| 期間 | 差し引く額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 住んでいた期間 | 耐用年数の1.5倍の年数で、旧定額法により計算した減価の額 | 所得税法38条2項2号、所得税法施行令85条 |
| 貸していた期間 | 不動産所得の必要経費に算入される償却費の累積額 | 所得税法38条2項1号 |
3,000万円控除は譲渡所得から差し引く特例なので、取得費の計算は必要です(No.3302)。
期限などの要件は空き家にした自宅の3年の期限の記事をご覧ください。

住んでいた期間は、耐用年数の1.5倍で計算します
住んでいた期間は、耐用年数を1.5倍した年数の旧定額法で減価の額を出します。
減価の額は、住んでいた間に建物の価値が減った分です。
旧定額法は、毎年同じ額ずつ価値が減ったとみなす計算方法です。
1.5倍した年数の1年未満は切り捨てます(所得税法施行令85条)。
住んでいた年数は、6か月以上の端数を1年とし、6か月未満は切り捨てます。
国税庁は、建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数という算式を示しています(No.3261)。
0.9を掛けるのは、取得価額の10%を残存価額として除くためです(国税庁 質疑応答事例)。
| 構造(住宅用) | 住んでいた期間の償却率 | 貸していた期間の償却率 |
|---|---|---|
| 木造 | 22年×1.5=33年 → 0.031 | 22年 → 0.046 |
| 鉄筋コンクリート造 | 47年×1.5=70.5年 → 70年 → 0.015 | 47年 → 0.022 |
数値は耐用年数省令の別表によります。
貸していた期間の率は、平成19年4月1日以後に取得した建物を住宅として貸す場合です。
住んでいた期間の減価の額は、建物の取得価額の95%が限度です(No.3261)。
貸していた期間は、賃貸に出した日の未償却残高から始めます
賃貸に出した日の未償却残高が、貸していた期間の償却のスタート地点です。
未償却残高とは、まだ償却していない建物の残りの金額です。
国税庁は、順番を次のように説明しています。
まず、非業務用資産として使用していた期間における「減価の額」の計算を行い、この「減価の額」をその資産の取得価額から控除した金額をその業務の用に供した日におけるその資産の未償却残高とします。
(国税庁 タックスアンサー No.2109、所得税法施行令135条)
非業務用資産は住まいなど業務に使わない資産、業務の用に供した日は賃貸に出した日(転用日)です。
ポイント
償却の方法は、賃貸に出した日ではなく建物を取得した日で決まります(No.2109)。平成19年4月1日以後に取得した建物は、定額法(取得価額×償却率)です。平成10年4月1日〜平成19年3月31日に取得した建物は、旧定額法(取得価額×0.9×償却率)です。
賃貸に出した年は、貸し始めた日から12月31日までの月数で按分します。
1か月未満の端数は1か月と数えます(所得税法施行令132条)。

計算例:木造の自宅に5年住んでから貸し、令和8年に売った場合
この例の建物の取得費は、13,760,000円です。
計算例
例:平成29年4月1日に取得した新築の木造住宅(建物の取得価額2,000万円)。令和4年4月1日から住宅として貸し、令和8年に売却
① 住んでいた期間 平成29年4月1日〜令和4年3月31日 = 5年 ② 減価の額 20,000,000円 × 0.9 × 0.031 × 5年 = 2,790,000円 ③ 賃貸に出した日の未償却残高 20,000,000円 − 2,790,000円 = 17,210,000円 ④ 令和4年(4月〜12月)の償却費 20,000,000円 × 0.046 × 9/12 = 690,000円 ⑤ 令和5年〜令和7年の償却費 20,000,000円 × 0.046 × 3年 = 2,760,000円 ⑥ 建物の取得費 17,210,000円 − 690,000円 − 2,760,000円 = 13,760,000円数値は一定の前提を置いた目安です。この例は住まなくなってから3年の期限を過ぎており、3,000万円控除は使えません。
売った年の償却費は、不動産所得の必要経費に入れない前提にしています。
入れる場合は、その金額を取得費に含めません(所得税基本通達49-54)。
くわしくは賃貸物件を売った年の不動産所得の記事をご覧ください。
この例では1年あたり、住んでいた期間に558,000円、貸していた期間に920,000円減ります。
住んでいた期間は1.5倍の年数で計算するので、貸していた期間のほうが取得費は速く減ります。
賃貸から自宅に戻して売るときも、期間ごとに分けます
順番が逆でも、期間ごとに計算方法を分ける考え方は同じです。
貸していた期間は、不動産所得の償却費の累積額を差し引きます。
自宅に戻した後の期間は、1.5倍・旧定額法で減価の額を出します(所得税法38条2項)。
この減価の額も、取得価額をもとに計算します(所得税法施行令85条1項)。
自宅に戻した年の償却費は、1月1日から戻した日までの月数で計算します(同令132条)。
補足
自宅に戻してから売るときは、差し引く額の合計は取得価額等の95%が限度です。償却費の累積額が95%を超えるときは、累積額だけを差し引きます(所得税基本通達38-9の2)。

取得費がずれる4つの失敗パターン
取得費が多すぎると譲渡所得が少なく計算され、申告漏れにつながります。
- 住んでいた期間の減価を引き忘れる ― 計算例では取得費が2,790,000円多くなります
- 貸していた期間まで1.5倍の計算で通す ― 差し引く額が小さくなり、取得費が多すぎます
- 償却の方法を賃貸に出した日で選ぶ ― 建物を取得した日で決まります
- 経費にしていない年の償却費を、取得費の計算から外す ― 外せません
経費にし忘れた償却費も、取得費からは差し引かれます。
国税庁は、事業に使われていた建物について次のように示しています。
仮に毎年の減価償却費の額を必要経費としていない部分があったとしても、毎年の減価償却費の額を合計することに変わりはありません。
(国税庁 タックスアンサー No.3261(注1))
注意
計算例で償却費を一度も経費にしていなくても、建物の取得費は13,760,000円です。不動産所得で経費にできたはずの3,450,000円は、過去の申告を直さない限り所得から引かれません。過去の申告の扱いは、個別に確かめる必要があります。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
日付と金額の確認はご自身でできますが、計算の当てはめは個別です。
- 購入時の売買契約書や請負契約書で、建物の取得価額と取得日を確かめる
- 登記事項証明書で、建物の構造(木造・鉄筋コンクリート造など)を確かめる
- 賃貸借契約書で、貸し始めた日と貸すのをやめた日を確かめる
- 収支内訳書や青色申告決算書の控えで、減価償却費の計算欄を書き写す
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
土地と建物の内訳がない契約、リフォーム、一部だけ貸した家、中古の家、空き期間などです。
賃貸物件として売る場合の全体像は賃貸用マンション・アパートの売却の記事にまとめています。

税理士が入ると変わるのは、期間の確定と申告書への反映です
ひとつめは、取得日・賃貸開始日・売却日を資料で確定することです。
ふたつめは、構造と取得日から、2つの期間の率と償却方法を当てはめることです。
みっつめは、過去の申告書の償却費と、本来の償却費を年ごとに突き合わせることです。
よっつめは、売った年の償却費の扱いと、3,000万円控除などの特例の要件の確認です。
いつつめは、取得費の計算を譲渡所得の内訳書と申告書に反映することです。
小松公認会計士・税理士事務所では、資料の読み取りから取得費の計算、適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 住んでいた期間の償却率は、どう決まりますか?
耐用年数に1.5を掛け、1年未満を切り捨てた年数の旧定額法の償却率です(所得税法施行令85条)。木造の住宅は33年で0.031、鉄筋コンクリート造の住宅は70年で0.015です。住んでいた年数は、6か月以上の端数を1年とし、6か月未満は切り捨てます。
Q2. 貸していた間、減価償却費を経費にしていませんでした。取得費は買った金額のままですか?
いいえ。経費にしていない部分があっても、毎年の減価償却費の額を合計します(タックスアンサー No.3261)。経費にしていない償却費も、取得費から差し引かれます。過去の申告の扱いは、個別に確かめます。
Q3. 3,000万円控除を使うときも、この計算は必要ですか?
必要です。3,000万円控除は譲渡所得から差し引く特例です(タックスアンサー No.3302)。譲渡所得を出すには、先に取得費の計算が要ります。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るなどの要件があります。
Q4. 賃貸をやめて自宅に戻してから売った場合は、どう計算しますか?
貸していた期間は、不動産所得の償却費の累積額を差し引きます。戻ってから住んだ期間は、1.5倍・旧定額法の減価の額を差し引きます(所得税法38条2項)。合計は取得価額等の95%が限度です。ただし、累積額が95%を超えるときは、累積額だけを差し引きます(所得税基本通達38-9の2)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法38条・49条、所得税法施行令85条・120条・120条の2・132条・135条、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一・第七・第八・第十一、所得税基本通達38-9の2・49-54、国税庁タックスアンサー No.3261・No.2109・No.3302、国税庁質疑応答事例「非業務用資産を業務の用に供した場合」の内容を扱っています。中古で取得した建物、平成10年3月31日以前に取得した建物の償却方法、平成19年3月31日以前に取得した建物の償却費の累積額が95%に達した後の計算、用途の変更で耐用年数が変わる場合、建物の一部だけを貸していた場合、住まなくなってから貸し始めるまでの空き期間の扱い、住む・貸すを2回以上繰り返した場合の年数の数え方、リフォーム費用(設備費・改良費・資本的支出)の扱い、土地と建物の取得価額の分け方、売った年の不動産所得と事業税の扱い、3,000万円控除などの特例の要件、譲渡所得の税額の計算、過去の申告の訂正の手続は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は建物の取得価額・構造・取得日・賃貸に出した日・売却日によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3261 建物の取得費の計算https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2109.htm
- 国税庁 質疑応答事例 非業務用資産を業務の用に供した場合https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/17.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/18.htm
- e-Gov法令検索 所得税法施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
自宅を貸してから売るときは、取得費を期間ごとに確かめませんか
住んでいた期間と貸していた期間で、建物の償却の計算は変わります。賃貸に出した日の未償却残高、本来の償却費、売った年の償却費の扱いで、取得費は動きます。代表税理士が、購入時の契約書と過去の申告書の控えから取得費を組み立てます。譲渡所得の内訳書と申告書まで、一貫して作成します。売却が決まった段階でご相談ください。
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