この記事のポイント
- 3つとも退職所得(共済金は一括受取)で、期間が重なり年が近いと重なった年数分の控除が減ります
- 原則は前年以前4年内。iDeCo・企業型DCの一時金を後に受け取るなら19年内です
- 令和8年以後にiDeCo・企業型DCを先に受け取ると、9年内の退職金なども調整されます
- 調整の対象となる前の受け取りは申告書に記載します。漏れると源泉徴収が不足することがあります
まず結論:近い年に受け取ると、重なった期間の控除が差し引かれます
引退前後の社長は、役員退職金と小規模企業共済の共済金、iDeCoの一時金を受け取ることがあります。
3つとも退職所得です(共済金は一括の場合)。期間が重なる受け取りが近い年に続くと、後の方の退職所得控除額が減ります。
退職所得控除額は、退職金などの収入から差し引ける控除の額です。
何年以内の受け取りが調整されるかは、受け取る順番で変わります。
原則は前年以前4年内で、iDeCo・企業型DCの一時金が絡むと条件により9年内・19年内です。

3つの受け取りは、どれも退職所得として計算します
次の2つの一時金は退職手当等とみなされ、役員退職金と同じ計算に入ります(所得税法31条)。
- 小規模企業共済の共済金を一括で受け取るもの(所得税法施行令72条3項3号)
- iDeCo・企業型DC(いずれも確定拠出年金)の老齢給付金を一時金で受け取るもの(同項7号)
受け取り方の違いは、小規模企業共済の受け取り方の記事にあります。
退職所得は、収入金額から退職所得控除額を引いた残りの2分の1です(所得税法30条2項)。
役員の勤続が5年以下の退職金などは、2分の1にしない場合があります。
控除額は、勤続年数で決まります(同条3項)。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
勤続年数は、役員退職金なら原則としてその会社に勤めた期間です(所得税法施行令69条1項1号)。
共済金や一時金は額の計算の基礎となった期間、iDeCoは原則として掛金を納めた期間です(同項2号)。
1年未満の端数は1年に切り上げます(同条2項)。
期間が重なる部分は、課税の公平の観点から控除を調整します。
何年以内の受け取りが調整されるかは、順番で変わります
対象は、受け取る年の前年以前○年内の受け取りです(所得税法施行令70条1項2号)。
たとえば令和15年に受け取るなら、4年内は令和11年から令和14年までです。
| 先に受け取るもの | 後に受け取るもの | 調整の対象 |
|---|---|---|
| 役員退職金・共済金だけ | 役員退職金・共済金 | 前年以前4年内 |
| iDeCo・企業型DCの一時金(令和8年1月1日以後) | 役員退職金・共済金 | 前年以前9年内 |
| 役員退職金・共済金 | iDeCo・企業型DCの一時金 | 前年以前19年内 |
9年内が働くときは、令和8年以後に受け取った退職金や共済金も9年内が対象です。令和8年1月1日より前の受け取りは、4年内のものだけです。
9年内は令和7年度の改正で加わり、令和8年分以後の所得税に適用されます。
令和8年以後にiDeCoなどを先に受け取っても、9年内の退職金は調整されます。
注意
9年・19年は、確定拠出年金の一時金(所得税法施行令72条3項7号)が絡む場合です。共済金は同項3号なので、共済金と退職金だけなら4年内です。iDeCo等も受け取るときは、9年内・19年内の共済金も対象になることがあります。

差し引くのは、重なった年数で計算した控除額です
調整後の控除額は、本来の控除額から、重なった期間で計算した控除額を引いた額です。
その重複している部分の期間を法第三十条第三項の勤続年数とみなして同項の規定を適用して計算した金額
(所得税法施行令70条1項2号)
重なった期間の1年未満の端数は切り捨てます(同条3項)。
引いた残りが80万円に満たないときは、80万円です(所得税法30条6項2号)。
計算例
前提:役員30年・退職金4,000万円。iDeCoは掛金を納めた期間15年(すべて在任中)・一時金900万円
退職金の本来の控除額 800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円 iDeCoの本来の控除額=重なった15年で計算した額 40万円×15年=600万円例1:iDeCoを令和9年、退職金を令和15年に受け取る(9年内)
退職金の控除額 1,500万円-600万円=900万円 退職金の退職所得 (4,000万円-900万円)×1/2=1,550万円例2:退職金を令和9年、iDeCoを令和15年に受け取る(19年内)
iDeCoの控除額 600万円-600万円=0円 → 80万円 iDeCoの退職所得 (900万円-80万円)×1/2=410万円金額は一定の前提を置いた目安です。
補足
前の受取額が本来の控除額より少ないときは、重なりを数え直します(所得税法施行令70条2項)。前の期間は、初日から「受取額÷40万円」年分(端数切捨て。800万円超は別の式)とみなします。
同じ年にまとめて受け取ると、控除は1つの勤続年数で計算します
同じ年に2つ以上受け取るときは、収入を合計し、1つの勤続年数で控除額を計算します。
勤続年数は最も長い期間に、重ならない期間だけを足します(所得税法施行令69条1項3号)。
上の例を受け取り方ごとに並べます(先の受け取りは令和9年)。
| 受け取り方 | 控除額の合計 | 退職所得の合計 |
|---|---|---|
| 同じ年にまとめる | 1,500万円 | 1,700万円 |
| iDeCoの6年後に退職金 | 1,500万円 | 1,700万円 |
| 退職金の6年後にiDeCo | 1,580万円 | 1,660万円 |
| iDeCoの10年後に退職金 | 2,100万円 | 1,400万円 |
| 退職金の10年後にiDeCo | 1,580万円 | 1,660万円 |
重なった期間の控除は、同じ年でも調整の範囲内でも、二重には使えません。
差が出るのは、80万円の最低額が働く場合などです。
同じ10年の間隔でも、退職金が先なら19年内として調整されます。
税額の比較には、年ごとの試算が必要です。

失敗パターン:この5つで控除額や源泉徴収税額がずれます
退職所得の受給に関する申告書では、調整の対象になる前年以前の受け取りをC欄・E欄に書きます。
同じ年に先に受け取ったものはB欄に書き、源泉徴収票を添付します(所得税法203条1項)。
- 共済金と退職金だけなのに19年を当てはめる。19年は、その年にiDeCo・企業型DCを受け取る場合です。
- 令和8年以後にiDeCoを先に受け取り、5年あければよいと考える。9年内なら調整されます。
- 重なった期間の端数を切り上げる。正しくは切捨てで、80万円の最低額もあります。
- 申告書に前の受け取りを書かない。源泉徴収が不足すると、支払者は誤りを知りしだい不足分を徴収します(所得税基本通達203-3)。
- 申告書を出さずに受け取る。支払額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します(タックスアンサー No.2732)。
自分の会社が払う退職金でも、社長本人が申告書を出します。
出し忘れたときの精算は、退職金の確定申告の記事をご覧ください。
ポイント
令和8年以後に支払う退職手当等は、全員分の源泉徴収票が税務署へ提出されます(源泉徴収のあらまし)。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で整理できるのは、次の4点です。
- 入社の日(役員なら就任した日も)と、退任する予定の日を確かめる
- 共済・iDeCo・企業型DCの加入期間と、掛金を納めた期間を確かめる
- 過去に受け取った退職金や一時金の源泉徴収票を集め、受け取った年を並べる
- 受け取る予定の年を並べ、4年内・9年内・19年内に入るかを見る
重なった期間の月数と、受け取る年の組み合わせの比較は個別判断です。
前の受取額が少ない場合や、退職金の決議の日と受け取る年の関係も確かめが要ります。

税理士が入ると変わるのは、受け取る年の比較と申告書の正確さです
小松公認会計士・税理士事務所では、受け取る前に次の作業を行います。
- 退職金・共済金・一時金の期間を、1枚の時系列表にまとめる
- 受け取る年の組み合わせごとに、控除額・退職所得・税額を試算する
- 役員退職金の決議と支払の時期を、議事録とあわせて確かめる
- 申告書のB欄・C欄・E欄を、過去の源泉徴収票と照らして確かめる
- 源泉徴収税額を検算し、確定申告が必要かを判断する
報酬との配分は、役員報酬と退職金の組み立て方の記事で扱っています。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 役員退職金と小規模企業共済を同じ年に受け取ると、控除は2回使えますか?
使えません。同じ年に2つ以上受け取ると、収入を合計して1つの勤続年数で控除額を計算します。勤続年数は最も長い期間に、重ならない期間を足します(所得税法施行令69条1項3号)。共済の期間が会社の勤続期間に収まっていれば、控除は勤続期間の分だけです。
Q2. iDeCoを先に受け取れば、後の役員退職金とは調整されませんか?
調整されることがあります。iDeCoなどの一時金を令和8年1月1日以後に受け取った場合が対象です。その一時金が退職金の年の前年以前9年内なら調整されます(所得税法施行令70条1項2号ロ)。同日より前の受け取りなら、従来どおり4年内で判定します。
Q3. 小規模企業共済にも「19年」は当てはまりますか?
共済金と退職金の2つだけなら当てはまりません。19年内は、その年に確定拠出年金の一時金を受け取る場合です(所得税法施行令70条1項2号ハ)。共済金と退職金の2つだけなら前年以前4年内で判定します。退職金と同じ年にiDeCo等も受け取るなら、19年内の共済金も対象です。
Q4. 退職所得の受給に関する申告書には、過去の受け取りも書くのですか?
書きます。調整の対象になる前年以前の受け取りは、申告書のC欄・E欄に勤続期間や収入金額などを書きます。同じ年に先に受け取ったものは、源泉徴収票を添付します(所得税法203条1項)。申告書を出さないと20.42%で源泉徴収されます。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法30条2項・3項・6項、31条、201条3項、203条1項、所得税法施行令69条1項・2項、70条1項2号・2項・3項、72条3項3号・7号、所得税基本通達203-3、国税庁タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」・No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」・No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」、退職所得の受給に関する申告書の様式、国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」、財務省「令和7年度 税制改正の解説」の内容を扱っています。特定役員退職手当等・短期退職手当等の計算、前に勤務した期間を通算して支払う退職金の控除(所得税法施行令70条1項1号)、障害者になったことによる退職の100万円加算、小規模企業共済・iDeCo・企業型DCの加入要件・受給要件・受取開始年齢・掛金の上限・分割受取の課税、退職所得の収入の時期、所得税・復興特別所得税・防衛特別所得税・住民税の税率と税額、死亡退職金と相続税、役員退職金の損金算入の限度額は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の控除額は期間の月数や受取額によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(30条・31条・203条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(69条・70条・72条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
- 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」税制改正等の内容https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2026/pdf/01.pdf
- 財務省「令和7年度 税制改正の解説」所得税法等の改正https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/explanation/PDF/p0077-0136.pdf
退職金と共済・iDeCoを受け取る前に、受け取る年の組み合わせを試算しませんか
役員退職金・共済金・iDeCoの一時金を近い年に受け取ると、控除が減ることがあります。期間が重なる部分の退職所得控除額が、後の受け取りから差し引かれるためです。対象は原則4年内で、iDeCoなどの一時金が絡むと条件により9年内・19年内です。代表税理士が、期間の時系列表と、受け取る年の組み合わせごとの試算を作ります。退職金の決議の時期、申告書の記載、源泉徴収税額の検算まで通して確認します。受け取る年を決める前にご相談ください。
無料相談を申し込む 法人顧問サービスの詳細を見る 約60秒で料金を自動見積り決算と申告だけのご依頼は、決算申告のみのプランをご覧ください。