この記事のポイント
- 売掛金を担保に借りるABL保証という公的な制度があります
- 保証料率は年0.68パーセント、保証限度額は2億円です
- ファクタリングは貸金業に該当するおそれがある形があります
- 金融庁は買戻しの定めなど、3つの形に注意を促しています
まず結論:公的な制度が先にあります
売上は立っているのに、入金は2か月先。
この間を埋める方法は、売掛金を担保にして借りるか、売掛金を売る(ファクタリング)かに分かれます。
前者には、信用保証協会の公的な制度があります。
全国信用保証協会連合会は、次のように説明しています。
流動資産担保融資保証制度(ABL保証)とは、中小企業・小規模事業者の方が自ら有する売掛債権や棚卸資産を担保として金融機関から借入を行う際に、保証を行う保証制度です。

ABL保証の条件は、公表されています
金額も料率も、数字で出ています。
全国信用保証協会連合会が公表する内容は、次のとおりです。
- 保証限度額 ― 2億円(金融機関からの借入限度額は2億5千万円)、保証割合80パーセントの部分保証
- 保証期間 ― 根保証は1年間、個別保証は1年以内
- 保証人 ― 不要
- 担保 ― 流動資産(売掛債権および棚卸資産)のみ
- 保証料率 ― 借入極度額・借入金額に対し年0.68パーセント
保証人が要らず、料率が年0.68パーセントと公表されています。
東京信用保証協会は、掛目も示しています。
掛目は売掛債権の場合70~100%(上限)、棚卸資産の場合は原則として30%(70%を上限として引き上げ可能)となります。
ポイント
対象になる売掛債権は幅があります。東京信用保証協会は「物品の販売債権だけではなくサービスの提供による売掛債権も対象になります」とし、例として売掛金債権・運送料債権・工事請負代金債権・診療報酬債権を挙げています。棚卸資産を担保にする場合は法人に限られます。
売掛先に知られるのか、という問題
ここが、実務でいちばん気にされる点です。
東京信用保証協会は、次のように説明しています。
売掛債権や棚卸資産を担保とするには、保証決定後・借入前に「対抗要件の具備」と呼ばれる、法律(民法または動産・債権譲渡特例法)が定める手続が必要になります。
方法は、売掛先の承諾、売掛先への通知、法務局への登記の3つです。
登記の効力について、法務省はこう書いています。
債権譲渡登記をしても、債務者に対しては、債権譲渡の事実を主張することはできません。
登記だけなら、売掛先に通知は届きません。
ただし、これは「ずっと知られない」という意味ではありません。
注意
東京信用保証協会は、留意点として次の2つを挙げています。「債権譲渡登記をした場合で、金融機関が必要と判断したとき、金融機関は売掛先に対して債権譲渡通知(登記通知)を行うことがあります」「動産債権譲渡登記や売掛先への通知によって、お取引の中止、その他お取引先とのトラブル等が発生した場合、当協会は責任を負いません」。取引先との関係への影響は、自社で引き受ける前提になります。

ファクタリングについて、金融庁が注意を促しています
売掛金を「売る」方法には、別の注意点があります。
金融庁は、ファクタリングをこう定義しています。
一般に「ファクタリング」とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。
そのうえで、次のように述べています。
ファクタリングとして行われ、契約書に「債権譲渡契約(売買契約)」であることが定められた取引であっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものについては、貸金業に該当するおそれがあります。
契約書の題名では決まりません。
金融庁が挙げる具体例は、次の2つです。
○ 売主が債権を買い戻すこととされている ○ 売主自身の資金によりファクタリング業者に支払をしなければならないこととされている
いずれも、回収できなかった負担が売主に戻る形です。
契約書で確かめる3点
金融庁・警察庁・中小企業庁などは、連名のリーフレットで「被害が疑われる事例」を3つ挙げています。
- 債権の買取代金が、債権額に比べて著しく低額であったり、高額な手数料が差し引かれる
- 契約書に「売買契約」であることが定められていない
- 譲渡した債権の回収(集金)が売主に委託されており、回収することができなかった場合に、売主による債権の買戻しや買主による償還請求が行われることになっている
この3つは、契約書を読めば自分で確かめられます。
金融庁は、貸金業の規制についても次のように述べています。
貸金業を行うには、財務局又は都道府県の登録を受ける必要があります(無登録営業は刑事罰の対象)。
さらに、年109.5%を超える利息の契約をした場合、消費貸借契約自体が無効です。
個人の給与を対象とする取引については、最高裁が判断を示しています。
本件取引に基づく金銭の交付は、貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たる。
数字で見る:手数料を年率に直すと
手数料は、率だけ見ても比べられません。
期間に直すと、負担の大きさが見えます。
計算例
額面1,000万円・入金まで60日の売掛金を、仮に手数料10パーセントで売った場合
手数料 10,000,000円 × 10% = 1,000,000円 手取り 10,000,000円 - 1,000,000円 = 9,000,000円 年率換算 1,000,000円 ÷ 9,000,000円 × 365日 ÷ 60日 = 約67.6%同じ2,000万円をABL保証付きで借りた場合の保証料
20,000,000円 × 0.68% = 136,000円(年)手数料率は業者ごとに異なります。ここでは年率に直す計算のしかたを示すため、仮に10パーセントとして当事務所が試算しました。ABL保証は保証料のほかに借入利息がかかります。
同じ手数料率でも、期間が短いほど年率は跳ね上がります。

資金繰りが悪くなる典型は、この5つです
相談を受けていて、繰り返し出てくる形です。
- 公的な制度を調べずに売る ― ABL保証は保証料率が年0.68パーセントと公表されています
- 年率に直していない ― 期間が短いほど、同じ手数料率でも負担は重くなります
- 買戻しの定めに気づいていない ― 金融庁が貸金業該当のおそれの例として挙げている形です
- 繰り返してしまう ― 金融庁は「かえって資金繰りが悪化し、多重債務に陥る危険性があります」としています
いちばん多いのは、公的な制度を知らないまま急いで売ってしまうことです。
補足
支払サイトそのものを短くできる場合もあります。令和8年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(かつての下請代金支払遅延等防止法)について、公正取引委員会は「電子記録債権やファクタリングを使用する場合にも、支払期日(最長で、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内)までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものは違反になります」としています。手形の廃止と支払サイトは約束手形が使えなくなりますで扱っています。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で確認できるのは、次の4点です。
- 売掛金の一覧を作り、入金までの日数と金額を並べる
- 取引金融機関に「ABL保証が使えるか」を聞く
- 提示された手数料を、入金までの日数で年率に直す
- 契約書に買戻しや償還請求の定めがないかを読む
ここから先は個別判断です。
担保にできる売掛債権の範囲、対抗要件の取り方、取引先への影響は、会社ごとに違います。
保証の可否と条件は、最終的に信用保証協会と金融機関の判断です。
個別の契約が貸金業に該当するかどうかの判断は、弁護士など法律の専門家の領域になります。
税理士が入ると変わるのは、必要額の特定と資料の整え方です
ひとつめは、売掛金の年齢表の作成です。入金までの日数ごとに残高を並べます。
ふたつめは、必要額の特定です。資金繰り表を作り、いくら・いつまで足りないかを出します。
みっつめは、手数料の年率換算です。複数の提示を、同じものさしで並べます。
よっつめは、報告資料の整備です。ABL保証の根保証型では、担保の残高等を3か月に1回以上、金融機関へ報告することになります。
急いで売る前に、借りられるかを確かめる価値があります。
小松公認会計士・税理士事務所では、月次決算から資金繰り表、金融機関への説明まで続けて担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 売掛金を担保に借りられる公的な制度はありますか?
流動資産担保融資保証制度(ABL保証)があります。全国信用保証協会連合会は「売掛債権や棚卸資産を担保として金融機関から借入を行う際に、保証を行う保証制度」と説明しています。保証限度額は2億円、保証割合80パーセントの部分保証、保証人は不要、保証料率は年0.68パーセントと公表されています。
Q2. ファクタリングは違法なのですか?
ファクタリング自体は債権の売買です。ただし金融庁は「ファクタリングとして行われ、契約書に『債権譲渡契約(売買契約)』であることが定められた取引であっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものについては、貸金業に該当するおそれがあります」としています。売主が債権を買い戻す定めなどがある形は注意が必要です。
Q3. 売掛先に知られずに資金化できますか?
対抗要件の取り方によります。法務省は債権譲渡登記について「債権譲渡登記をしても、債務者に対しては、債権譲渡の事実を主張することはできません」としています。ただし東京信用保証協会は「金融機関が必要と判断したとき、金融機関は売掛先に対して債権譲渡通知(登記通知)を行うことがあります」としています。
Q4. 提示された手数料が高いかどうか、どう判断しますか?
入金までの日数で年率に直して比べてください。額面1,000万円・入金まで60日の売掛金を仮に手数料10パーセントで売ると、手数料100万円・手取り900万円で、年率に直すと約67.6パーセントになります。同じ手数料率でも、期間が短いほど負担は重くなります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点で公表されている資料に基づく一般的な解説です。金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」、金融庁・警察庁・中小企業庁ほか連名リーフレット「その資金調達 大丈夫ですか?」、全国信用保証協会連合会「さまざまな保証制度」、東京信用保証協会「流動資産担保融資保証制度(ABL保証)」、法務省「債権譲渡登記制度」、公正取引委員会「トリテキ法の確認ポイント ― 代金編 ―」の内容を扱っています。信用保証制度の限度額・保証割合・保証料率・掛目・保証人の取扱いは信用保証協会ごとに異なり、本記事に記載した内容は全国信用保証協会連合会および東京信用保証協会が公表しているものです。必ずお住まいの地域の信用保証協会および取引金融機関にご確認ください。ファクタリングの手数料の相場・入金までの日数・取引の類型については公的資料で確認できないため記載していません。記事中の年率換算の計算例は、比較のしかたを示すために手数料率を仮に置いて当事務所が試算したもので、特定の取引の条件を示すものではありません。個別の契約が貸金業に該当するかどうか、契約が有効かどうかの判断は法律の専門家の領域であり、本記事はその判断を行うものではありません。具体的な判断は必ず税理士または弁護士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」https://www.fsa.go.jp/user/factoring.html
- 金融庁ほか「その資金調達 大丈夫ですか?」https://www.fsa.go.jp/user/factaringomote.pdf
- 全国信用保証協会連合会「さまざまな保証制度」https://www.zenshinhoren.or.jp/guarantee-system/hoshoseido/
- 東京信用保証協会「流動資産担保融資保証制度(ABL保証)」https://www.cgc-tokyo.or.jp/institution/needs.files/cgc_abl_leaf_2024-4.pdf
- 法務省「債権譲渡登記制度」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00172.html
- 公正取引委員会「トリテキ法の確認ポイント ― 代金編 ―」https://www.jftc.go.jp/toriteki_pointleaflet2.pdf
売掛金を売る前に、借りられるかどうかを確かめませんか
売掛金の資金化には、保証料率が年0.68パーセントと公表されている公的な制度があります。急いで売る前に、いくら・いつまで足りないのかを数字で特定することが先です。代表税理士が、売掛金の年齢表の作成、資金繰り表による必要額の特定、提示された手数料の年率換算、根保証型で求められる報告資料の整備、金融機関への説明まで、通して対応します。契約書に買戻しや償還請求の定めがある場合は、その意味もあわせてご説明します。
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