この記事のポイント
- 資金使途は運転資金と設備資金の2つ。どちらも事業に必要な資金に限られます
- 同じ金額でも使いみちで限度額・返済期間・据置期間が変わります
- 設備資金の申込みでは見積書の提出が公式に求められています
- 資金使途の制限は中小企業信用保険法第3条第4項という法律に根拠があります
まず結論:融資は「いくら借りるか」より先に「何に使うか」で決まります
融資の申込みで最初に固めるのは金額ではなく、お金の使いみち(資金使途)です。
日本政策金融公庫も信用保証協会も、対象を「事業に必要な資金」に限っています。
その中身は、運転資金と設備資金の2つです。
同じ1,000万円でも、運転資金か設備資金かで限度額も返済期間も変わります。
設備資金なら、申込みの段階で見積書の提出を求められます。

運転資金と設備資金は、公式に定義が示されています
どちらも公式ページに定義があります。
公庫は運転資金を「商品仕入や手形決済などのための運転資金」としています。
設備資金は「店舗の新築・増改築、機械や車両の購入などの設備資金」です。
全国信用保証協会連合会は、運転資金を仕入資金や人件費などと説明しています。
保証の対象は「事業経営に必要な資金(運転資金および設備資金)に限られています」。
注意
同連合会は「生活費や住宅購入資金・投機のための資金等は対象外です」と明記しています。公庫も、店舗付き住宅の住宅部分や法人設立の資本金は対象外です。対象外の申込みは融資が通らないときに見直す点をご覧ください。
資金使途が変われば、限度額も返済期間も据置期間も変わります
公庫の「一般貸付」は、使いみち別に限度額と期間を分けています。
| 資金使途 | 融資限度額 | 返済期間 | うち据置期間 |
|---|---|---|---|
| 運転資金 | 4,800万円 | 5年以内(特に必要な場合7年以内) | 1年以内 |
| 設備資金 | 4,800万円 | 10年以内 | 2年以内 |
| 特定設備資金 | 7,200万円 | 20年以内 | 2年以内 |
計算例
例:借入1,000万円・元金均等・据置なしの、月々の元金部分
運転資金5年(60回) 10,000,000 ÷ 60 = 166,666円 設備資金10年(120回) 10,000,000 ÷ 120 = 83,333円 特定設備資金20年(240回) 10,000,000 ÷ 240 = 41,666円 差 166,666 - 41,666 = 125,000円(およそ4倍)一定の前提を置いた目安です。利息は含めていません。利率は公庫の金利情報ページでご確認ください。
同じ1,000万円でも、資金使途が違えば月々の元金返済は4倍まで差がつきます。
据置期間の意味や返済方法は、据置期間と返済計画で扱っています。

設備資金には見積書が要ります
公庫の手続きの流れには「設備資金のお申込の場合は見積書」と明記されています。
東京都の制度融資も、必要書類に「見積書又は契約書の写し」を挙げています。
設備資金は、金額の根拠を外部の書類で示すことが前提になっています。
公庫の「創業の手引」は、設備に次のチェックポイントを挙げています。
- 複数社から見積を取得し金額を吟味しているか
- 購入だけでなく、リースやレンタルを検討しているか
- 考慮すべき設備(什器・備品、看板、レジなど)に不足はないか
創業計画書の記入例の欄外には「金額は一致します」とあります。
必要な資金の合計と調達方法の合計は一致します。
計算例
例:公庫の創業計画書(記入例・洋風居酒屋)の数字を突き合わせる
設備資金 500+150+200+120 = 970万円 必要な資金 970 + 運転資金290 = 1,260万円 調達方法 自己資金360+親族200+公庫700 = 1,260万円 → 一致公庫の記入例の数値を再計算したものです。
書き方は、創業計画書の書き方で扱っています。
運転資金は「いつまで足りないか」から見積もります
運転資金の見積り方にも、公庫が示すチェックポイントがあります。
ひとつは、黒字化し資金繰りが安定化するまでの運転資金を見積っているかです。
もうひとつは、販売先からの入金条件と仕入・外注先への出金条件です。
売上が立つ時期ではなく、お金が入る時期で考えます。
公庫の調査では、黒字化にかかった期間は平均6.4ヵ月とされています。
ポイント
月々の経費支払が50万円なら、6.4ヵ月分はおよそ320万円です(50万円×6.4)。一定の前提を置いた目安です。公庫が示すのは調査上の平均であり、「6.4ヵ月分を借りるべき」という基準ではありません。

使いみちが変わりそうなときは、実行前に相談します
資金使途の制限は、運用ではなく法律に根拠があります。
中小企業信用保険法は、保険の対象となる借入金をこう定めます。
第一項の保険関係が成立する保証をした借入金(手形の割引の場合は手形の割引により融通を受けた資金、電子記録債権の割引の場合は電子記録債権の割引により融通を受けた資金)は、中小企業者の行う事業の振興に必要なものに限る。
(中小企業信用保険法第3条第4項)
「事業の振興に必要なものに限る」と、法律の条文に書かれています。
ほかに2つの事実があります。
ひとつは旧債振替の制限です。
金融機関が新規貸付で自行の既存債権を回収することをいいます。
違反すると、信用保証協会は保証債務の履行責任を負いません。
この免責は、金融機関に対するものです。
もうひとつは信用保証委託契約書の定めです。
東京信用保証協会の契約書第5条1項(8)は、提出書類に重大な虚偽の内容があった場合等の定めです。
その場合、協会は代位弁済の前に求償権を行使することができます。
注意
公的機関のページに「資金使途と違う使い方をすれば一括返済になる」と書かれた記述は見当たりません。確認できたのは上の3点だけです。それでも結論は同じです。約束した使いみち以外には使わない。使いみちが変わりそうなときは、実行する前に金融機関と信用保証協会へ相談することです。
失敗パターンは「資金使途を説明する資料がない」ことに集まります
否決や減額の理由は公表されていません。
東京都のページによれば、保証協会は「経営者の人物、資金使途、返済能力等」を総合的に判断します。
そのうえで、保証の諾否や保証金額を決定します。
東京信用保証協会は、利用できない例として次を挙げています。
「事業実態・内容、資金使途、返済能力等を判断する資料の提示がない方」です。
資金使途でつまずく申込みは、たいてい資料の側に穴があります。
- 設備資金なのに見積書がない:金額の根拠を示せない
- 見積書の合計と申込額が合わない:どちらが正しいか説明できない
- 運転資金と設備資金が混ざっている:内訳を答えられない
- 「とりあえず多めに運転資金」:積み上げの根拠がない
- 設備の拾い漏れ:什器・看板・レジが抜けている
- 既往融資の返済に充てるつもり:借換えに使える使途は限定されています
公庫も「審査の結果、お客さまのご希望に沿えないことがございます」と明記しています。
説明できる状態にすることが出発点です。

ここまではご自身で、ここからは個別判断です
申込みの前に、ご自身で進められるのは次の4点です。
- 必要な資金を設備資金と運転資金に分け、それぞれの金額と根拠を書き出す
- 設備は取得予定のものを一覧にし、見積書を取り寄せる(什器・看板・レジの漏れも確認)
- 販売先からの入金条件と、仕入先・外注先への出金条件を書き出す
- 申込先の制度ページで、その資金使途の限度額・返済期間・据置期間の上限を確認する
ここから先は個別判断です。
運転資金と設備資金をどう配分するかは、事業の入出金の周期で変わります。
返済期間を上限いっぱいにするか短くするかも、資金繰りしだいです。
税理士が入ると変わるのは、資金使途の裏づけと資料のそろえ方です
やることは具体的です。
ひとつめは資金繰り表の作成です。入金と出金の条件を月ごとに並べ、資金が底を打つ月を出します。
ふたつめは、設備の見積りと返済期間の対応づけです。見積書を集計し、使える返済期間の上限と突き合わせます。
みっつめは試算表の作成です。公庫は決算を終えていない場合に「試算表など営業の内容・状況が分かる資料」を求めます。
よっつめは必要資料の指示です。確定申告書は原則直近2期分、納税の確認ができる書類も必要です。
いつつめは、必要な資金と調達方法の合計が一致しているかの突合です。
見積書の合計、計画書の記載額、申込額の3つを申込前に照合します。
小松公認会計士・税理士事務所では、資金使途の整理から融資後の記帳・申告まで担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 運転資金と設備資金は、どう区別すればよいですか?
公庫は運転資金を「商品仕入や手形決済などのための運転資金」、設備資金を「店舗の新築・増改築、機械や車両の購入などの設備資金」と説明しています。信用保証協会も、対象を事業経営に必要な運転資金と設備資金に限っています。
Q2. 設備資金の申込みに見積書は必ず必要ですか?
公庫の手続きの流れには「設備資金のお申込の場合は見積書」と明記されています。東京都の制度融資も、必要書類に「見積書又は契約書の写し(設備資金の場合のみ必要)」を挙げています。金額の根拠を書類で示すことが前提です。
Q3. 資金使途によって借りられる期間は変わりますか?
変わります。公庫の一般貸付では、返済期間が運転資金5年以内(特に必要な場合7年以内)、設備資金10年以内、特定設備資金20年以内です。限度額も特定設備資金だけ7,200万円と別に定められています。
Q4. 借りた後に使いみちが変わったらどうすればよいですか?
実行する前に、金融機関と信用保証協会へ相談してください。資金使途は中小企業信用保険法第3条第4項で「事業の振興に必要なものに限る」とされ、旧債振替も制限されています。自己判断で使いみちを変えないことが原則です。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。中小企業信用保険法第3条第4項、日本政策金融公庫 国民生活事業の「一般貸付」「よくあるご質問(個人・小規模企業の方)」「お手続きの流れ(創業予定の方)」「創業の手引」「創業計画書(記入例)」、全国信用保証協会連合会の「よくあるご質問」「ご利用条件」「信用保証協会用語(旧債振替)」、東京信用保証協会の「ご利用いただけない中小企業とは」「信用保証委託契約について」、東京都中小企業制度融資の「必要書類」「要項」の内容を扱っています。金利や信用保証料率の数値、審査の基準・所要日数・承諾率、東京都以外の自治体の制度融資の内容、公庫の中小企業事業・農林水産事業の制度、借入金・支払利息・信用保証料の税務上の取扱い、資金使途どおりに使わなかった場合に個別の契約でどのような措置がとられるかは扱っていません。記事中の計算例は制度の理解のための仮の設例であり、一定の前提を置いた目安です。実際の返済額や融資の可否を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 日本政策金融公庫「一般貸付」https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/jiyusij_m.html
- 日本政策金融公庫「よくあるご質問 個人・小規模企業の方(国民生活事業)」https://www.jfc.go.jp/n/faq/jigyoqj_m.html
- 日本政策金融公庫「創業の手引」https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/pdf/sougyou_tebiki202605.pdf
- 全国信用保証協会連合会「よくあるご質問」https://www.zenshinhoren.or.jp/question/
- 中小企業信用保険法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000264
資金使途の内訳は、申し込む前に一緒に組み立てましょう
運転資金と設備資金をどう分け、それぞれいくらにするか。見積書の合計と申込額が合っているか。返済期間と据置期間を、その資金使途で使える上限のどこに置くか。ここが固まっていないと、面談で金額の根拠を聞かれたときに答えられません。代表税理士が資金繰り表と必要資料の準備から伺い、融資後の記帳・申告まで通して対応します。
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