融資・資金調達

約束手形が使えなくなります
令和8年9月末の最終振出期限と、支払サイト短縮への備え

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 多くの銀行で令和8年9月30日が手形・小切手の最終振出期限です
  • 令和9年3月31日に電子交換所での交換が廃止されます
  • 下請取引では令和8年1月1日以後の発注分から手形で払えません
  • 振込に変えると支払いが前倒しになり、運転資金が要ります

まず結論:多くの銀行で、もう振り出せなくなります

紙の約束手形と小切手は、使えなくなる方向で動いています。

中小企業庁のミラサポplusは、次のように書いています。

多くの金融機関が令和8年9月30日を手形・小切手の最終振出期限に設定しています

本日(令和8年9月18日)から数えて、残りはわずかです。

すでに手元の手形帳が使えなくなっている会社もあります。

これは資金繰りの話です。税金の話より先に、支払いの方法を決める必要があります。

多くの金融機関が令和8年9月30日を手形・小切手の最終振出期限に設定しています
手形をやめる期限は迫っています。まず自社の支払方法を確認してください

期限は1つではなく、4つ並んでいます

混乱の原因は、期限が複数あることです。

時期何が起きるか出典
令和8年1月1日中小受託取引適正化法が施行され、同日以後の発注に係る製造委託等代金の支払に手形を交付することが禁止中小企業庁 ミラサポplus
令和8年9月30日多くの金融機関が設定している手形・小切手の最終振出期限同上
令和9年3月31日電子交換所における手形・小切手の利用交換が廃止同上
令和9年4月1日独占禁止法上の「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」が施行同上

会社が最初にぶつかるのは、いちばん手前の令和8年9月30日です。

全国銀行協会も「今すぐ、でんさい等の電子記録債権やインターネットバンキングによる振込等への切替えをご検討ください。」と呼びかけています。

下請取引では、すでに手形で払えません

取引の相手によっては、期限を待つまでもありません。

ミラサポplusは、令和8年1月1日に施行された中小受託取引適正化法について、こう説明しています。

令和8年1月1日以後の発注に係る製造委託等代金の支払に手形を交付することが禁止されている

製造委託などで下請事業者に発注している会社は、すでに手形払いができません。

注意

令和9年4月1日からは、独占禁止法上の「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」が施行されます。自社が発注者の立場にあるかどうかで、守るべきルールが変わります。「うちは下請ではない」と考えていた会社が、発注者として規制の対象になっている例があります。

切替え先は、振込か「でんさい」です

手形をやめた後の支払方法は、大きく2つです。

  • インターネットバンキング等による振込 ― もっとも単純です
  • でんさい(電子記録債権) ― 手形に近い使い方ができます

でんさいネットは、電子記録債権を次のように説明しています。

電子記録債権は、手形・指名債権(売掛債権等)の問題点を克服した金銭債権です。

法務省も、電子記録債権法の趣旨を「事業者の資金調達の円滑化等を図るため」と説明しています。

ただし、でんさいは相手も利用していなければ使えません。

取引先が対応していなければ、結局は振込になります。

ポイント

紙の手形は印紙税の課税文書です。国税庁によれば手形金額が10万円未満なら非課税、10万円以上100万円以下は200円、100万円を超え200万円以下は400円の印紙税がかかります。でんさいや振込では紙の文書を作らないため、この負担はなくなります。枚数の多い会社ほど、切替えの効果が出ます。

約束手形をやめて振込やでんさいに切り替えると支払いの期日が前倒しになります
切替えでいちばん効くのは、印紙税より「支払日が早まること」です

本当の問題は、支払いが前倒しになることです

手形をやめると、お金が出ていく日が早まります。

手形は、振り出してから支払期日まで現金が出ません。

振込に変えると、その猶予がなくなります。

計算例

毎月の仕入代金500万円を、これまで120日後に支払う約束手形で払っていた場合

手形のとき 支払いまでの猶予 120日 振込(締め翌月末)に変更 支払いまでの猶予 約30日 前倒しになる日数 120日 − 30日 = 90日(約3か月) 追加で必要になる資金 5,000,000円 × 3か月 = 15,000,000円

切替えの月に、3か月分の仕入代金をまとめて用意することになります。

この1,500万円を持っていない会社が、資金ショートを起こします。

逆に、手形を受け取る側だった会社は資金繰りが楽になります。

自社が「払う側」か「受け取る側」かで、影響は正反対です。

手形割引という資金調達が、1つ減ります

受取手形を銀行で割り引いて資金化していた会社は、その手段を失います。

代わりの資金調達を用意する必要があります。

なお、日本政策金融公庫(中小企業事業)は、もともと手形割引を扱っていません。

公式のよくあるご質問には、短期の借入れや手形割引について「できません。当事業の融資は、長期資金のみの取扱となっております」と書かれています。

つまり、公庫に相談しても手形割引の代わりにはなりません。

民間金融機関の運転資金の融資や、でんさいを使った資金化を検討することになります。

資金使途の考え方は融資の資金使途、返済の組み方は据置期間と返済計画をご覧ください。

手形割引が使えなくなる分の資金調達を融資などで手当てする必要があります
手形割引をあてにしていた会社ほど、早めに資金調達の相談が必要です

つまずく典型は、この5つです

実務で問題になるのは、期限そのものより準備の抜けです。

  • 前倒しになる分の運転資金を用意していない ― いちばん多い失敗です
  • 取引先に事前相談をしていない ― 支払条件の一方的な変更はトラブルになります
  • でんさいは相手の利用契約が要ると知らなかった ― 自社だけでは始まりません
  • 受取手形の期日が令和9年3月31日より後に残っている ― 取立ての方法を確認してください
  • 手形割引を前提にした資金繰りを続けている ― 代わりの調達先が要ります

補足

全国銀行協会は、電子交換所での交換が廃止された後も、手形・小切手そのものが法律上ただちに使えなくなるわけではないとしています。ただし電子交換所を介さない決済になるため、実務上は取り扱える範囲が大きく狭まります。「まだ使える」と受け取らず、切替えを進めてください。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

ご自身で進められるのは、次の4点です。

  1. 取引銀行に、自社の手形・小切手の最終振出期限を確認する
  2. 支払手形と受取手形の残高、期日、相手先を一覧にする
  3. 支払手形のサイト(振出から期日までの日数)を数える
  4. 主要な取引先に、切替えの相談を始める

ここから先は個別判断です。

前倒しになる分をどう手当てするかは、会社ごとに答えが違います。

自己資金で吸収するのか、運転資金の融資を組むのか、支払条件そのものを見直すのかで、金額も時期も変わります。

融資を受けられるかどうかは、金融機関の審査で決まります。

税理士が入ると変わるのは、必要額の特定と申込時期です

ひとつめは、月ごとの資金繰り表です。切替え後の支払日で組み直し、不足する月を特定します。

ふたつめは、必要な運転資金の金額です。前倒しになる日数から、追加で要る額を計算します。

みっつめは、融資の申込時期の逆算です。不足月から逆算して、いつ相談すべきかを決めます。

よっつめは、金融機関への説明です。支払条件の変更が一時的な資金需要であることを、数字で示します。

いつつめは、決算への反映です。支払手形・受取手形の残高を電子記録債務・電子記録債権へ整理し、印紙税の減る効果も把握します。

手形の廃止は、黒字の会社にも資金の穴を作ります。

決算書の見せ方は融資を受けるための決算書の見え方をご覧ください。

小松公認会計士・税理士事務所では、資金繰り表の作成から融資の申込準備、決算・申告まで続けて担当します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. いつまで約束手形を振り出せますか?

中小企業庁のミラサポplusは「多くの金融機関が令和8年9月30日を手形・小切手の最終振出期限に設定しています」としています。期限は金融機関ごとに異なりますので、取引銀行にご確認ください。令和9年3月31日には電子交換所における手形・小切手の利用交換が廃止されます。

Q2. 下請取引では、もう手形で支払えないのですか?

はい。ミラサポplusは、令和8年1月1日に施行された中小受託取引適正化法により「令和8年1月1日以後の発注に係る製造委託等代金の支払に手形を交付することが禁止されている」としています。令和9年4月1日からは、独占禁止法上の特定の不公正な取引方法も施行されます。

Q3. 振込に変えると、何がいちばん困りますか?

支払日が前倒しになることです。120日サイトの手形を締め翌月末の振込に変えると、支払いが約90日早まります。毎月の仕入が500万円なら、切替えの時期に1,500万円を追加で用意する計算になります。資金繰り表で不足する月を先に特定してください。

Q4. 受取手形を割り引いて資金にしていました。代わりは何ですか?

民間金融機関の運転資金の融資や、でんさい(電子記録債権)を使った資金化が候補になります。日本政策金融公庫(中小企業事業)は、公式のよくあるご質問で短期の借入れや手形割引について「できません。当事業の融資は、長期資金のみの取扱となっております」としています。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の公表資料に基づく一般的な解説です。中小企業庁 ミラサポplus(手形・小切手の廃止に関する記事)、全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ」、株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)、法務省「電子記録債権法の概要」、日本政策金融公庫(中小企業事業)のよくあるご質問、国税庁タックスアンサーNo.7140の内容を扱っています。手形・小切手の最終振出期限は金融機関ごとに異なり、本記事の日付はミラサポplusが「多くの金融機関」について記載しているものです。必ず取引金融機関にご確認ください。中小受託取引適正化法および独占禁止法上の規制の適用範囲、でんさいの利用手続・手数料、個別の金融機関の商品内容は扱っていません。記事中の計算例は資金繰りの理解のための設例であり、一定の前提を置いた目安です。融資の可否・金額・条件は金融機関の審査で決まるものであり、本記事はその結果を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

手形をやめた後の資金繰りを、一緒に組み直しませんか

多くの金融機関で令和8年9月30日が手形・小切手の最終振出期限とされ、令和9年3月31日には電子交換所での交換も廃止されます。振込やでんさいに切り替えると支払日が前倒しになり、手形のサイトの分だけ運転資金が一度に必要になります。手形割引をあてにしていた会社は、資金調達の手段そのものを組み直すことになります。代表税理士が、支払手形の残高とサイトの洗い出し、切替え後の資金繰り表の作成、追加で必要になる運転資金の計算、融資の申込時期の逆算、決算・申告への反映まで、通して対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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