この記事のポイント
- 届け出なければ最終仕入原価法による原価法で計算します
- 選べるのは原価法6種類と低価法の組み合わせだけです
- 届出期限は設立第1期の確定申告書の提出期限までです
- 変更は事業年度開始の日の前日までに承認申請が必要です
まず結論:届け出なければ、最終仕入原価法になります
期末の在庫をいくらで評価するかは会社が選べますが、税務署への届出が要ります。
法第二十九条第一項(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)に規定する評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した方法により評価しなかつた場合における政令で定める方法は、第二十八条第一項第一号ホ(棚卸資産の評価の方法)に掲げる最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法とする。
(法人税法施行令31条1項)
最終仕入原価法とは、期末に最も近い時期に仕入れた単価で在庫全部を評価する方法です。

選べるのは、原価法6種類と低価法だけです
好きな方法を作ることはできません。
法人税法29条1項が政令に委ね、法人税法施行令28条1項が方法を並べています。
| 方法 | 期末在庫の単価の決め方 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 個別法 | 個々の取得価額そのもの | 一点ものを扱う会社 |
| 先入先出法 | 期末に近い時期の仕入から順に | 古い順に売る会社 |
| 総平均法 | 期首在庫と期中仕入の平均単価 | 単価が動く会社 |
| 移動平均法 | 仕入のつど改定した平均単価 | 在庫を随時管理する会社 |
| 最終仕入原価法 | 期末に最も近い仕入の単価 | 届出をしない会社 |
| 売価還元法 | 期末の売価に原価の率を掛ける | 品目が多い小売業 |
この6つが原価法で、原価法の価額と期末の時価のうち低いほうをとる低価法も選べます。
注意
個別法は、どの会社でも選べません。法人税法施行令28条2項は、通常一の取引によつて大量に取得され、かつ、規格に応じて価額が定められているものには選定できないとしています。
同じ仕入でも、方法が変わると利益が変わります
方法が違えば、所得も違ってきます。
計算例
例1:3回の仕入で3,000個、うち1,500個が期末在庫
仕入1回目 1,000個 × 1,000円 = 1,000,000円 仕入2回目 1,000個 × 1,200円 = 1,200,000円 仕入3回目 1,000個 × 1,400円 = 1,400,000円 仕入の合計 3,000個 = 3,600,000円 最終仕入原価法 1,500個 × 1,400円 = 2,100,000円 総平均法 3,600,000円 ÷ 3,000個 = 1,200円 1,500個 × 1,200円 = 1,800,000円 先入先出法 1,000個 × 1,400円 + 500個 × 1,200円 = 2,000,000円 所得の差(最終仕入原価法 - 総平均法) 300,000円期末の評価額が30万円大きいと、その期の所得も30万円大きくなります。
決算前の手当ては決算対策の記事にまとめています。
補足
1か月ごとに総平均法や移動平均法で計算し、翌月に繰り越す方法も認められます(法人税基本通達5-2-3)。ただし6月ごと移動平均法は、移動平均法に該当しません(同5-2-3の2の注)。

低価法なら、値下がりした分を評価額に反映できます
低価法は、期末の時価が下がったときに効きます。
計算例
例2:例1の在庫1,500個が、期末に1個800円まで値下がりした場合
原価法(総平均法)の価額 1,500個 × 1,200円 = 1,800,000円 期末の時価 1,500個 × 800円 = 1,200,000円 低価法の評価額 低いほうをとって 1,200,000円 原価法との差 1,800,000円 - 1,200,000円 = 600,000円低価法を届け出ていれば、この60万円だけ所得が小さくなります。
時価は、通常は正味売却価額によります(法人税基本通達5-2-11の注)。
注意
低価法は届け出ていなければ使えません。届出のない会社が期末に在庫を値下げしても、その差額は損金になりません。売れ残りの評価損は要件が別です(棚卸資産の評価損の記事)。
届出の期限は、設立第1期の確定申告書の提出期限までです
国税庁の案内です。
普通法人を設立した場合は、設立第1期の確定申告書の提出期限(法人税法第72条又は第144条の4に規定する仮決算をした場合の中間申告書を提出するときは、その中間申告書の提出期限)まで
(国税庁「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」)
確定申告書の提出期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内です(法人税法74条1項)。
計算例
例3:令和8年5月1日に設立し、4月末が決算の会社
第1期 令和8年5月1日 〜 令和9年4月30日 確定申告書の提出期限 終了の日の翌日から2か月 = 令和9年6月30日 届出の期限 令和9年6月30日第1期の決算を組むときに出せば間に合います。
様式は「棚卸資産の評価方法の届出書」で、所轄税務署長に提出します。
選ぶ単位も決まっています。
第二十八条第一項(棚卸資産の評価の方法)に規定する棚卸資産の評価の方法は、内国法人の行う事業の種類ごとに、かつ、商品又は製品(副産物及び作業くずを除く。)、半製品、仕掛品(半成工事を含む。)、主要原材料及び補助原材料その他の棚卸資産の区分ごとに選定しなければならない。
(法人税法施行令29条1項)
ポイント
申告期限の延長の承認を受けている会社は、延長された期限が届出の期限になります(国税庁 質疑応答事例「申告期限の延長の承認を受けている場合の棚卸資産の評価方法の届出期限」)。青色申告の承認申請は別の期限です(法人の青色申告の記事)。

一度決めた方法は、3年たたないと変えにくくなります
変更は届出ではなく、税務署長の承認が必要です。
期限は、新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までです(法人税法施行令30条2項)。
令和9年5月1日開始の期から変えるなら、令和9年4月30日までに出します。
期が始まってから「今期は総平均法にします」とは言えません。
申請すれば必ず通るとも限りません。
その現によっている評価の方法を採用してから3年を経過していないときは、その変更が合併や分割に伴うものである等その変更することについて特別な理由があるときを除き、同条第3項の相当期間を経過していないときに該当するものとする。
(法人税基本通達5-2-13)
補足
申請に対して、その事業年度終了の日までに承認も却下もなかったときは、その日に承認があったものとみなされます(法人税法施行令30条5項)。
指摘を受けるのは、だいたいこの5つです
現場でよく見る形です。
- 届出をしていないのに、決算書だけ総平均法で組んでいる ― 最終仕入原価法に直されます
- 規格品の大量仕入に個別法を使っている ― 法人税法施行令28条2項で選定できません
- 届出なしで、期末に在庫を時価まで下げている ― 低価法は届け出てはじめて使えます
- 資産の区分ごとに選定していない ― 製品だけ届け出て、原材料を落としている例です
- 変更の承認申請を、期が始まってから出している ― その期は従来の方法のままです
法人税法施行令31条2項は、会社が行った評価方法が同令28条1項のいずれかに当たり、所得の計算を適正に行えると認めるときに限り、その方法で更正・決定ができるとしています。
裏返せば、認められなければ最終仕入原価法で計算し直されます。
期末在庫の数量がずれる論点は、売上の計上時期の記事で扱っています。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
確認できるのは4点です。
- 登記事項証明書で、設立の日と第1期の事業年度を確かめる
- 過去の「棚卸資産の評価方法の届出書」の控えを探す
- 期末棚卸高がどの方法で計算されたかを、経理の担当者に聞く
- 商品・製品・半製品・仕掛品・原材料の区分ごとに在庫を書き出す
どの方法が自社に合うかは、ここから先の個別判断になります。
事業所別や種類ごとに細分して、別の方法を選ぶこともできます(法人税基本通達5-2-12)。
在庫か経費かの線引きは、消耗品と貯蔵品の記事をご覧ください。
税理士が入ると変わるのは、届出の有無の確認と方法の設計です
ひとつめは、届出書の控えと申告書を照合し、届出の有無を確かめること。
ふたつめは、届け出た方法どおりに期末棚卸高が計算されているかの突合。
みっつめは、仕入単価の推移と在庫の実態からの方法の設計と試算。
よっつめは、低価法を選ぶかの判断と、時価の算定資料の残し方の指示。
いつつめは、届出書と変更承認申請書の作成と提出。
棚卸資産の評価方法は、届け出た会社だけが自分で選べる仕組みです。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 設立してから何年もたっていますが、届出をした記憶がありません。今から出せますか?
設立第1期の確定申告書の提出期限を過ぎていれば、法人税法施行令29条2項の届出はできません。その場合は最終仕入原価法による原価法で計算することになります(同令31条1項)。別の方法にしたいときは、変更の承認申請という形で、新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに申請します。
Q2. 総平均法から移動平均法に変えたいのですが、決算で変えても構いませんか?
決算の段階では変えられません。法人税法施行令30条2項は、新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を提出するよう求めています。さらに法人税基本通達5-2-13は、現によっている方法を採用してから3年を経過していないときは、原則として相当期間を経過していないものとして扱うとしています。
Q3. 低価法を選ぶと、必ず税金が安くなりますか?
そうとは限りません。低価法は、原価法で計算した価額と期末の時価のうち低いほうを評価額とする方法です(法人税法施行令28条1項2号)。時価が原価を下回っていなければ、原価法と同じ金額になります。値下がりが起きやすい商品を扱う会社ほど効きやすい、という性格の方法です。
Q4. 事業の種類ごとに違う方法を選んでもよいのですか?
選べます。法人税法施行令29条1項は、事業の種類ごとに、かつ商品または製品・半製品・仕掛品・主要原材料および補助原材料その他の区分ごとに選定しなければならないとしています。法人税基本通達5-2-12は、事業所別に、または種類の異なるごとなど合理的な区分ごとに、さらに細分して選定することも認めています。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法29条・74条、法人税法施行令28条・29条・30条・31条、法人税基本通達5-2-3・5-2-3の2・5-2-11・5-2-12・5-2-13、国税庁「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」「C1-29 棚卸資産の評価方法・短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出方法・特定譲渡制限付暗号資産の評価方法・有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の変更の承認の申請」、質疑応答事例「申告期限の延長の承認を受けている場合の棚卸資産の評価方法の届出期限」の内容を扱っています。棚卸資産の評価損(法人税法33条2項、法人税法施行令68条)、特別な評価の方法の承認(法人税法施行令28条の2、国税庁「C1-26 棚卸資産の特別な評価方法の承認の申請」)、棚卸資産の取得価額(同令32条)、売価還元法の原価の率の具体的な計算、原価差額の調整、適格合併・適格分割型分割による引継ぎがあった場合の取扱い(同令28条3項)、消費税の税込経理と税抜経理による取得価額の違い、公益法人等・人格のない社団等に固有の取扱い、個人事業者の棚卸資産の評価方法(所得税法施行令99条・100条)、会計基準における取扱い、地方税における影響は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は仕入の時期・数量・単価によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(29条・74条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(28条・29条・30条・31条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_16.htm
- 国税庁「C1-29 棚卸資産の評価方法・短期売買商品等の一単位当たりの帳簿価額の算出方法・特定譲渡制限付暗号資産の評価方法・有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の変更の承認の申請」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_19.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第5章第2節第1款「原価法」(5-2-3・5-2-3の2)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_02_01.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第5章第2節第2款「低価法」(5-2-11)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_02_02.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第5章第2節第3款「評価の方法の選定及び変更」(5-2-12・5-2-13)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_02_04.htm
- 国税庁 質疑応答事例「申告期限の延長の承認を受けている場合の棚卸資産の評価方法の届出期限」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/03/01.htm
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