この記事のポイント
- 転勤・入社の転居の旅費は、通常必要な範囲なら所得税がかかりません
- 通常必要な範囲を超える部分は、転勤なら給与所得、入社なら雑所得です
- 通常の赴任旅費とは別に払う着後滞在費は、旅費規程に基づいても給与所得とされます
- 単身赴任の帰宅旅費は、出張に付随する帰宅で主に職務の旅行と認められる場合などに非課税です
まず結論:転勤・入社の引越し費用は、通常必要な範囲なら所得税がかかりません
転勤・入社で、会社が運賃・宿泊料・移転料などに充てて支給する金品は、通常必要な範囲なら非課税です。根拠は所得税法9条1項4号です。
会社が払う手当は、原則として給与所得です。転勤などの旅費のうち通常必要なものが、その例外です(タックスアンサーNo.2508)。
通常必要な範囲かどうかで、社員の課税と、会社の源泉徴収・消費税の処理が変わります。

非課税になるのは、転居のための旅行に通常必要な金品です
所得税法は、出張と転居の旅費を同じ号で定め、通常必要と認められるものを非課税にしています。転勤と入社に関わる部分は次のとおりです。
転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
(所得税法9条1項4号)
転勤は条文の「転任」、入社は「就職」の場面です。
中身は所得税基本通達9-3が示し、「運賃、宿泊料、移転料等」に充てる金品が対象です。
範囲は、旅行の目的・目的地・行路・期間の長短・宿泊の要否・職務内容と地位などで判断します。
ポイント
判定では2つの点を勘案します(所得税基本通達9-3)。1つめは、役員と社員の全体でバランスの取れた基準かです。2つめは、同業種・同規模の会社が一般に払う額に照らして相当かです。
通達には「いくらまで」という金額は書かれていません。
出張の旅費や日当の決め方は、出張日当と旅費規程の記事で扱っています。
超える部分は、転勤なら給与所得、入社なら雑所得です
通常必要な範囲を超えて払った部分は、転居のきっかけに応じて課税されます(所得税基本通達9-4)。
| 転居のきっかけ | 通常必要な範囲を超える部分 |
|---|---|
| 転勤(転任) | 給与所得 |
| 入社(就職) | 雑所得 |
質疑応答事例(国税庁が公表する質問と回答)に、社宅が確保できず単身赴任させた社員の例があります。
旅費規程で、着後滞在費(赴任旅費とは別の、滞在費の名目の手当)を当分の間、月額5万円払う例です。回答は次のとおりです。
着後滞在費は一種の別居手当又は住宅手当と考えられ、給与等として課税することとなります。
(国税庁 質疑応答事例「単身赴任者等に支給するいわゆる着後滞在費」)
注意
令和8年版の源泉徴収のあらましも、家族の同伴ができない転勤者の例を挙げています。同居までの日数などに応じて払う着後滞在費などは、旅費規程に基づいていても給与所得とされます。
計算例
例:転勤者に転居の費用として300,000円、着後滞在費を月50,000円で4か月払った場合
通常必要と認められる額(仮定) 220,000円 → 非課税 超える部分 300,000円 - 220,000円 = 80,000円 → 給与所得 着後滞在費 50,000円 × 4か月 = 200,000円 → 給与所得 源泉徴収の対象になる給与 80,000円 + 200,000円 = 280,000円入社に伴う転居なら、超える80,000円は雑所得です。金額は一定の前提を置いた目安で、通常必要な額は個々の事実で決まります。
転勤の場合、超えた部分と着後滞在費は、給与として源泉徴収の対象になります。
転勤先の住まいを会社が用意する場合は、従業員の社宅の記事をご覧ください。

単身赴任の帰宅旅費は、出張に付随する帰宅に限って非課税の扱いがあります
単身赴任者の帰宅旅費を非課税とする扱いは、職務の旅行に付随する帰宅が対象です。
根拠は昭和60年11月8日付の国税庁の通達です。対象は、配偶者か扶養親族がいて、転居を伴う異動で単身赴任した人です。
これらの旅行が主として職務遂行上必要な旅行と認められ、かつ、当該旅費の額が所得税基本通達9-3に定める非課税とされる旅費の範囲を著しく逸脱しない限り、非課税として取り扱って差し支えない。
(直法6-7「単身赴任者が職務上の旅行等を行った場合に支給される旅費の取扱いについて」)
「これらの旅行」は、職務に必要な旅行と、それに付随する帰宅の旅行です。
国税庁の質疑応答事例は、対象を会議などの出張に付随する帰宅の旅費に限っています。「月1回などの定量的な基準で非課税の取扱いをするということにはなじまない」ともしています。
毎月一定額の単身赴任手当や、月・年単位の帰宅旅費は、給与に当たるとされています。
消費税の質疑応答事例「単身赴任手当等」が、所得税の扱いとして述べています。
国税不服審判所は、別居手当の一部として払った帰郷交通費を給与所得としました。平成10年1月29日の裁決です。
会社側では、源泉徴収と消費税の処理が分かれます
会社は、給与になる部分を支払の際に源泉徴収します(所得税法183条1項)。
国内の転勤の旅費のうち通常必要な部分は、課税仕入れ(支払った消費税を差し引ける仕入れ)です。海外への転勤の旅費は、原則として課税仕入れになりません(タックスアンサーNo.6459)。
通常必要な部分は、一定の事項を書いた帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。就職に伴う転居の旅行も対象です(消費税法施行規則15条の4第2号・消費税法基本通達11-6-4)。
| 支払の中身 | 所得税(受け取る人) | 消費税(会社) |
|---|---|---|
| 転居の旅費のうち通常必要な部分 | かからない | 課税仕入れ(国内)。帳簿のみの保存で控除できる |
| 通常必要な範囲を超える部分 | 転勤は給与所得、入社は雑所得 | 帳簿のみの保存の特例は使えない |
| 単身赴任手当・月や年単位の帰宅旅費 | 給与所得 | 課税仕入れに当たらない |
補足
引越し業者などへ会社が直接払う費用は、社員への支給ではありません。この場合は、原則として適格請求書等と帳簿の保存が必要です(出張旅費等の質疑応答事例の注)。
誰に払うかで、仕入税額控除に必要な書類が変わります。

失敗パターン:給与課税や仕入税額控除の誤りにつながる5つの形
次の5つは、源泉徴収の漏れや仕入税額控除の誤りにつながる形です。
- 実費とかけ離れた一律の額 ― 通常必要な範囲を超えた部分は、転勤なら給与所得です。
- 赴任旅費とは別の着後滞在費を非課税で処理 ― 旅費規程に基づいても給与所得とされ、源泉徴収が要ります。
- 月1回の帰宅旅費を非課税で処理 ― 定量的な基準での非課税にはなじまないとされています。
- 引越し業者への支払を帳簿だけで控除 ― 直接払うものは、原則として適格請求書等が要ります。
- 役員だけ手厚い基準で支給 ― 9-3は役員と社員を通じたバランスを勘案します。法人税の役員給与(法人税法34条)の論点も加わります。
旅費規程に書いてあっても、課税は支給の中身で決まります。
役員給与と損金の関係は、役員への経済的利益の記事で扱っています。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
転勤や入社の前に、ご自身で整えられるのは次の4点です。
- 旅費規程に、転勤と入社の転居の項目を設ける
- 運賃・宿泊料・移転料の内訳を分け、領収書や見積書を残す
- 着後滞在費や単身赴任手当は、給与として源泉徴収する
- 帳簿に、帳簿のみの保存で控除する仕入れである旨を書く
どこまでが通常必要かは、社内の基準と同業の水準を踏まえた個別判断です。
役員の転居、海外への転勤、会議に付随する帰宅の日程の組み方も、事実に応じて判断が分かれます。

税理士が入ると変わるのは、規程の線引きと給与計算・消費税への反映です
小松公認会計士・税理士事務所では、転勤や採用の前から次の作業を行います。
ひとつめは、旅費規程の転任・就職の条項づくりです。運賃・宿泊料・移転料と手当を分けて定めます。
ふたつめは、支給額の検討です。役員と社員のバランスと、同業の水準で説明できる額を探ります。
みっつめは、給与計算への反映です。給与になる部分を切り分け、源泉徴収に組み込みます。
よっつめは、消費税の確認です。帳簿のみで控除できる支払と、適格請求書等が要る支払を分けます。
いつつめは、役員の転居と税務調査への備えです。役員給与への影響を検討し、規程・内訳・領収書をそろえます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 転勤の引越し代を会社が全額負担すると、社員の給与になりますか?
転居の旅行に充てて支給する金品は、通常必要な範囲なら所得税はかかりません(所得税法9条1項4号)。範囲は、旅行の目的や職務内容などで判断します。社内のバランスと同業の水準も勘案します(所得税基本通達9-3)。超える部分は給与所得です(同9-4)。
Q2. 入社する人の引越し費用を会社が出しても、課税されませんか?
就職に伴う転居のための旅行も、通常必要な範囲は非課税です(所得税法9条1項4号)。超える部分は、給与所得ではなく雑所得になります(所得税基本通達9-4)。消費税の帳簿のみの保存の特例も、就職に伴う転居を含みます(消費税法基本通達11-6-4)。
Q3. 単身赴任者に毎月の帰宅旅費を払うと、非課税になりますか?
非課税の扱いは、会議などの出張に付随して帰宅する場合のものです。主として職務の旅行と認められ、旅費が非課税の範囲を著しく逸脱しないことが条件です。月1回などの定量的な基準での非課税にはなじまないとされています(国税庁 質疑応答事例)。
Q4. 会社が引越し代を一部しか出さないとき、社員側で差し引けるものはありますか?
転勤に伴う転居費や単身赴任の帰宅旅費は、特定支出控除の対象です。特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1相当額を超える部分を、確定申告で差し引けます。給与の支払者の証明が要ります。会社から非課税で補てんされた部分は含みません(タックスアンサーNo.1415)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法9条1項4号・57条の2第1項・183条1項、所得税基本通達9-3・9-4、昭和60年11月8日付の個別通達(直法6-7・直所3-9)、国税庁の質疑応答事例「単身赴任者が会議等に併せて帰宅する場合に支給される旅費」「単身赴任者等に支給するいわゆる着後滞在費」「単身赴任手当等」「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」、令和8年版 源泉徴収のあらまし、消費税法施行規則15条の4第2号、消費税法基本通達11-6-4、タックスアンサーNo.1415・No.2508・No.6459、法人税法34条、国税不服審判所の平成10年1月29日裁決(要旨)の内容を扱っています。質疑応答事例は令和7年8月1日現在、源泉徴収のあらましは令和7年9月1日現在の法令等に基づいて作成されたものです。通常必要と認められる具体的な金額の水準、家族の旅費の扱い、家具の購入費や支度金の扱い、退職者と死亡退職者の遺族の転居の旅費、海外への転勤に伴う所得税と非居住者の課税、会社が引越し業者へ直接払った場合の所得税の扱い、着後滞在費の消費税の扱い、雑所得の申告の要否、役員給与が損金になる要件の細目、源泉徴収税額の計算と納付期限、特定支出控除の計算と添付書類、会議に付随する帰宅の日程の当てはめ、社会保険料と住民税、出張旅費・日当・通勤手当・社宅の詳細は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、通常必要と認められる額は会社と旅行ごとの事実によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(9条1項4号)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁 所得税基本通達 法第9条《非課税所得》関係(9-3・9-4〔旅費(第4号関係)〕)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm
- 国税庁「単身赴任者が職務上の旅行等を行った場合に支給される旅費の取扱いについて」(昭和60年11月8日 直法6-7)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/gensen/851108/01.htm
- 国税庁 質疑応答事例「単身赴任者等に支給するいわゆる着後滞在費」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/25.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.6459「出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm
転勤や入社の引越し費用を払う前に、旅費規程の線引きを確かめませんか
転勤や入社に伴う引越し費用は、転居のための旅行に通常必要な範囲なら所得税がかかりません。通常必要な範囲を超える部分は、転勤なら給与所得、入社なら雑所得になります。通常の赴任旅費とは別に払う着後滞在費は、旅費規程に基づいても給与所得とされます。単身赴任の帰宅旅費の非課税は、会議などの出張に付随する帰宅が対象です。主として職務の旅行と認められることなどが条件です。代表税理士が、旅費規程の条項づくり、支給額の検討、源泉徴収、消費税の帳簿の記載まで通して対応します。役員の転居は、法人税の役員給与への影響も確認します。辞令や内定を出す前の段階でご相談ください。
無料相談を申し込む 法人顧問サービスの詳細を見る 約60秒で料金を自動見積り決算と申告だけのご依頼は、決算申告のみのプランをご覧ください。