この記事のポイント
- 社長個人の支出を会社が払うと役員給与として扱われます
- 毎月おおむね一定でなければ定期同額給与に当たらず損金不算入です
- 社長個人にも給与として所得税がかかり、会社は源泉徴収します
- 業務のためと示す証憑と精算の記録が、経費と説明する土台です
まず結論:社長個人の支出を会社が払うと、役員給与になります
家族旅行や私的な飲食を会社のカードで払う。中小企業でよく見かける光景です。
法人税では、こうした支出は経費ではなく、社長への給与として扱われます。
前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。
(法人税法34条4項)
経済的な利益とは、お金を渡していなくても、社長が得をした分のことです。
会社が社長個人の費用を払えば、その額は役員給与として扱われます。
役員給与は、決まった形に当たらないと損金(税金の計算で差し引ける費用)になりません。
さらに社長個人にも、給与として所得税がかかります。会社と社長の両方に影響が出ます。

通達は「経済的な利益」を12の形で例示しています
何が経済的な利益に当たるかは、法人税基本通達9-2-9に例が並んでいます。
共通するのは、次の考え方です。
法人がこれらの行為をしたことにより実質的にその役員等(役員及び同条に規定する特殊の関係のある使用人をいう。以下9-2-10までにおいて同じ。)に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの
(法人税基本通達9-2-9)
社長個人の支出に関係が深いのは、次の号です。
- (1) 社長に物品などの資産を贈与した
- (4) 社長への貸付金を放棄・免除した(貸倒れに当たる場合を除く)
- (9) 交際費や旅費などの名目で渡し、業務に使ったことが明らかでない
- (10) 社長の個人的な費用を会社が負担した
- (11) 社交団体の入会金や会費で、社長が負担すべきものを会社が払った
- (12) 社長を被保険者と保険金受取人にした生命保険の保険料を会社が払った
中心になるのは(10)です。
役員等のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の額に相当する金額
(法人税基本通達9-2-9(10))
家族旅行、私的な飲食、自宅の修繕や家具は、この「個人的費用」の典型です。
毎月おおむね一定なら定期同額給与、そうでなければ損金になりません
経済的な利益が損金になるかは、定期同額給与に当たるかで分かれます。
定期同額給与とは、毎月同じ額を払う役員報酬のことです(法人税法34条1項1号)。
政令は、経済的な利益もこれに含めています。
継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの
(法人税法施行令69条1項2号)
国税庁も、次のように説明しています。
役員に対して継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し、損金の額に算入されますが、その他のものは定期同額給与に該当せず、損金の額に算入されません。
(国税庁 タックスアンサー No.5202)
ポイント
通達9-2-11は、定期同額給与の例に毎月負担する住宅の光熱費や家事使用人の給料を挙げます。額が毎月著しく変動するものは除かれます。
単発の旅行や飲食は毎月一定ではないため、損金になりません。
計算例
例:会社が1年間に社長個人の次の費用を払った場合
家族旅行 480,000円 不定期の私的な会食 15,000円 × 12回 = 180,000円 単発の分 480,000円 + 180,000円 = 660,000円(損金不算入) 自宅の光熱費 毎月20,000円 × 12か月 = 240,000円(定期同額給与に当たり得る) 社長の給与の収入金額に加わる額 660,000円 + 240,000円 = 900,000円金額は一定の前提を置いた目安です。光熱費が損金になり得ても、社長の給与になる点は変わりません。

社長個人にも、給与として所得税がかかります
会社が払った社長個人の費用は、社長の給与の収入金額にも入ります。
所得税法は、お金以外で受けた利益も収入金額に含めています。
その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
(所得税法36条1項)
所得税基本通達36-15(5)も、自分の債務を他人が負担した利益を経済的利益に挙げています。
給与を払う会社には、源泉徴収(給与から所得税を差し引いて納める手続)の義務があります。
居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
(所得税法183条1項)
単発の支出なら、会社は損金にできず、社長は給与として課税され、源泉徴収の漏れも問われます。
補足
所得税で課税されない経済的な利益に限った扱いがあります。その利益を会社が給与として経理しなければ、給与として取り扱いません(法人税基本通達9-2-10)。社長の私的な支出は所得税で課税されるので、これに当たりません。病気見舞や災害見舞のような純然たる贈与も、9-2-9の対象から除かれています。
税務調査で指摘を受けやすいのは、この6つの形です
指摘を受けやすいのは、科目名と中身が合っていない支出です。
- 家族旅行を旅費交通費や福利厚生費にした ― 業務の予定表や参加者の記録がありません
- 休日の家族の外食を会議費や交際費にした ― 相手先と目的が書かれていません
- 自宅の修繕や家具を会社の修繕費・備品にした ― 置き場所が会社ではありません
- 社長個人が契約した保険料を会社の口座から払った ― 契約者と受取人が個人です
- 交際費を概算で渡し、精算していない ― 使い道の記録がなく、次の9-2-9(9)に当たり得ます
- 社長個人のゴルフ会員権の年会費を会社で払った ― 社長個人が負担すべき費用で、9-2-9(10)の個人的費用に当たり得ます
役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
(法人税基本通達9-2-9(9))
名目が交際費や旅費でも、業務に使ったと示せなければ給与と扱われます。
注意
事実を隠蔽し、または仮装して経理し、役員に払った給与があるとします。その給与は全額が損金になりません(法人税法34条3項)。私的な支出を、架空の取引先との会議費に見せかけるような処理がこれに当たり得ます。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
会社の経費と説明できる形は、日々の精算の仕方で決まります。
ご自身で今日から始められるのは、次の4点です。
- 会社のカードと個人のカードを分け、私的な支払いに会社のカードを使わない
- 社長が立て替えた経費は、領収書に相手先と目的を書き添えて精算する
- 会社のカードで私的な支払いをしたら、その月のうちに社長へ請求して戻してもらう
- 出張や交際費の社内規程を作り、規程どおりに精算した記録を残す
戻さずに残した分を社長への貸付金とすると、利息の扱いが別の論点になります。
業務と私用が混ざる支出の按分や、過去分をどう直すかは個別判断です。
社長が同行する接待の線引きは、交際費の損金算入の記事もあわせてご覧ください。

税理士が入ると変わるのは、仕訳の中身と精算の仕組みです
小松公認会計士・税理士事務所では、決算の前から次の作業を行います。
ひとつめは、会社のカード・口座の明細の点検です。社長個人の支出が混ざっていないかを1件ずつ見ます。
ふたつめは、見つかった支出の振り分けです。立替精算で戻すか、貸付金か、役員給与かを決めます。
みっつめは、毎月一定の経済的な利益の整理です。定期同額給与に当たるかを確かめます。
よっつめは、源泉徴収の確認です。給与に当たる分を、源泉徴収簿と法定調書に反映させます。
いつつめは、旅費・交際費の社内規程の作成です。精算書の様式と保存のルールも決めます。
むっつめは、申告書への反映です。損金不算入額を別表で加算し、税務調査で説明できる資料を残します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 社長の家族旅行代を会社で払いました。経費になりますか?
業務のためと示せない家族旅行は、社長の個人的費用を会社が負担したものとして役員給与に当たります(法人税基本通達9-2-9(10))。毎月一定の利益ではないため定期同額給与に当たらず、損金になりません(法人税法34条1項・4項)。
Q2. 毎月払っている社長の自宅の光熱費も、損金になりませんか?
毎月負担する住宅の光熱費で、額が毎月著しく変動しないものは、定期同額給与に当たる例として通達に挙げられています(法人税基本通達9-2-11(4))。損金になり得ますが、社長の給与であることは変わらず、源泉徴収の対象になります。
Q3. 役員給与とされたら、社長個人にも税金がかかりますか?
かかります。所得税法はお金以外で受けた経済的な利益も収入金額に含め(36条1項)、国税庁も個人的債務の負担を現物給与に挙げています(タックスアンサー No.2508)。会社は給与を払う者として源泉徴収の義務を負います(所得税法183条1項)。
Q4. 会社のカードで私的な支払いをしてしまったら、どうすればよいですか?
早いうちに社長へ請求して戻してもらうのが基本です。戻さない分は、貸付金か役員給与として扱いを決める必要があります。すでに決算を終えた期の分をどう直すかは、金額と状況で変わるため個別に判断します。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法34条1項・3項・4項、法人税法施行令69条1項2号、法人税基本通達9-2-9・9-2-10・9-2-11、所得税法36条1項・183条1項、所得税基本通達36-15、国税庁タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」・No.2508「給与所得となるもの」・No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」の内容を扱っています。法人税・所得税・住民税の具体的な税額、源泉徴収税額の計算と経済的利益の源泉徴収の時期、加算税・延滞税、消費税の仕入税額控除への影響、不相当に高額な役員給与の判定基準、使用人兼務役員と特殊関係使用人の扱い、役員社宅の賃貸料相当額の計算、役員貸付金の適正な利率、交際費等の損金不算入額の計算、出張旅費の非課税の要件、裁決・判例は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の扱いは支出の中身・証憑・経理の方法によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(69条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第2款 経済的な利益の供与(9-2-9〜9-2-11)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_02.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5202 役員等に対する経済的利益https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5202.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2508 給与所得となるものhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm
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