この記事のポイント
- 定期同額給与などの形で払っても、職務に比べ高すぎる部分は損金になりません
- 判定は実質基準と形式基準で行い、いずれか多い金額が損金になりません
- 総会で決めた額どおりでも、実質基準で否認された裁決があります
- 大きく上げる前に、理由・総会の限度額・改定の時期を確かめます
まず結論:社長本人の報酬でも、高すぎる部分は損金になりません
役員報酬は、決まった形で払えば損金(税金の計算で差し引ける費用)になります。
国税庁は、損金になる形として3つを挙げています。
定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与です。定期同額給与は、1か月以下の一定の期間ごとに同じ額を払う給与です。
そのうえで、こう続けています。
ただし、次に掲げる給与のいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。
(国税庁タックスアンサー No.5211)
形を守った報酬でも、職務に見合わない高すぎる部分は損金になりません。
社長本人の報酬も、この判定の対象です。株主総会で決めた額どおりに払っていても、否認された裁決があります。
この記事では、判定の2つの基準と、報酬を大きく上げる前の確認点を説明します。

判定は「実質基準」と「形式基準」の2つで、多いほうをとります
結論として、中身で測る基準と、決めた枠で測る基準の2つがあります。根拠の条文は次のとおりです。
内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
(法人税法34条2項)
政令は、ひとつめの実質基準をこう定めています。
当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額
(法人税法施行令70条1号イ)
同業類似法人(同じ業種で事業規模が近い会社)の役員給与も、比べる材料に入ります。
条文は4つの材料を挙げたうえで、「等に照らし」としています。
| 基準 | 比べるもの | 根拠 |
|---|---|---|
| 実質基準 | 職務の内容・会社の収益・使用人の給与・同業類似法人の役員給与などに照らした、職務の対価として相当な額 | 施行令70条1号イ |
| 形式基準 | 定款や株主総会などの決議で定めた限度額など。対象の役員に払った給与の合計額で比べます | 同号ロ |
実質基準は役員ごとに超えた額を出し、2人以上なら合計します(同号イ)。
2つの基準で出た金額のうち、いずれか多い金額が損金になりません(同号)。
補足
役員退職給与の過大判定は、同条2号の別の基準です。この記事では扱いません。決まった3つの形の全体像は、役員報酬の設計の記事にまとめています。
計算例:社長の報酬を大きく上げた年の、損金にならない額
結論として、総会の枠を広げても、実質基準の確認は残ります。
計算例
例1:社長の報酬を月150万円から月250万円に上げた場合
前提 取締役は社長と専務の2人、総会で決めた限度額は2人合計で年3,000万円 社長 250万円 × 12か月 = 3,000万円 専務 50万円 × 12か月 = 600万円(合計3,600万円) 形式基準 3,600万円 - 3,000万円 = 600万円 実質基準 社長の相当な額を年2,700万円と仮定 3,000万円 - 2,700万円 = 300万円 損金にならない額 多いほうの 600万円例2:先に総会で限度額を年4,000万円へ上げていた場合
形式基準 0円、実質基準 300万円 → 損金にならない額 300万円金額は一定の前提を置いた目安です。改定後の額で1年間払い、専務は相当な額の範囲内と仮定しています。
枠を広げても、職務に見合う額を超える部分は損金になりません。
相当な額は会社ごとの事実で決まります。例の2,700万円は仮の数字です。

否認された例:職務も収益も変わらず、報酬だけが大きく伸びた
結論として、職務や収益の裏づけがない大幅な増額が、否認された例があります。
平成29年4月25日の裁決は、中古自動車の輸出などを営む会社の代表取締役の事案です。
- 報酬は平成22年7月期と比べ、約2.3倍から約4.3倍に伸びていました
- 代表者の職務の内容に、特段の変化はありませんでした
- 売上総利益と使用人の平均給与は、おおむね一定と認定されました
報酬は定時株主総会で決議した額と同額で、形式基準は超えていませんでした。
それでも、同業類似法人の代表者の報酬の最高額を超える部分が否認されました。
比べる会社は、業種と、近隣の税務署の管内にあることで絞られました。さらに、売上金額が2分の1以上2倍以下などの基準で、9社が選ばれています。
ただし、業種の違う1社を外して計算し直し、後半の2期分は処分の一部が取り消されました。
ポイント
代表者の職務が事業全般に及ぶという主張も、代表取締役として「一般的に想定される範囲内」とされました。上げる理由は、職務や収益の具体的な変化で説明できるようにしておきます。
大きく上げる前に確かめる3つのこと
結論として、理由・枠・時期の3つを、改定の前にそろえます。
- 理由:職務の内容の変化や収益の伸びを、使用人の給与とあわせて説明できるか
- 枠:限度額の対象となる役員の年額の合計が、定款や総会で定めた限度額に収まるか
- 時期:毎月同額の報酬の改定は、原則として会計期間の開始から3か月以内か
時期の細かな決まりは、期の途中で役員報酬を変える記事で扱っています。
形式基準で比べる枠は、定款や総会などの決議で定めた限度額などです(施行令70条1号ロ)。
注意
令和4年7月1日の裁決の事案では、総会で取締役の報酬を年額50,000,000円以内としていました。各取締役の配分は、代表取締役に一任されていました。処分では、代表取締役の決定書の金額が限度額とされました。審判所は、その金額を「積算根拠にすぎない」と判断しました。支給の合計額は総会の枠内とされ、処分は全部または一部が取り消されています。
ご家族を非常勤の役員にする場合は、家族の非常勤役員の報酬の記事をご覧ください。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身でできるのは、手元の書類と数字を並べるところまでです。
- 定款と総会の議事録で、役員報酬の限度額を確かめる
- 限度額の対象となる役員の年額を合計し、限度額と比べる
- 過去数年の売上総利益・使用人の平均給与・役員報酬を並べる
- 社長の職務で、増えたこと・変わったことを書き出す
同業類似法人と比べた相当な額は、ご自身では決めきれない個別判断です。
比べる会社の選び方で結論が動くことは、平成29年の裁決の一部取消しにも表れています。
改定の時期や、使用人を兼ねる役員の扱いも、事実に応じて判断が分かれます。

税理士が入ると変わるのは、改定前の試算と説明資料です
小松公認会計士・税理士事務所では、報酬を改定する前に次の作業を行います。
- 改定後の報酬で、形式基準と実質基準の両方から超える額を試算します
- 定款と総会・取締役会の議事録を読み、限度額と支給総額を照合します
- 売上総利益・使用人の給与・役員報酬の推移を表にし、改定理由の資料を作ります
- 改定の時期と議事録の日付を管理し、毎月同額の形を保ちます
- 会社の法人税と社長個人の所得税・住民税をあわせ、手取りで比べます
- 税務調査で問われたときの想定問答と、職務の記録をそろえます
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 株主総会で決めた額どおりに払えば、高すぎるとはされませんか?
総会で決めた額と同額でも、実質基準で否認された裁決があります(平成29年4月25日裁決)。職務の内容・会社の収益・使用人の給与・同業類似法人の役員給与などが判断の材料です。これらに照らし、相当な額を超える部分は損金になりません(施行令70条1号イ)。
Q2. 実質基準と形式基準の両方で超えたら、両方の合計が損金になりませんか?
いいえ。施行令70条1号は、2つの基準で出た金額の「いずれか多い金額」を損金にならない額としています。両方で超えても、合計はしません。形式基準で600万円、実質基準で300万円なら、600万円です。なお、役員退職給与の過大判定は同条2号の別の基準です。
Q3. 利益が大きく増えた年は、社長の報酬を大きく上げてもよいですか?
会社の収益は、実質基準で考える材料の一つです。ただし、職務の内容・使用人の給与・同業類似法人の水準もあわせて見られます。毎月同額の報酬は、改定できる時期にも決まりがあります(タックスアンサーNo.5211)。上げる前に、試算と議事録の確認を行います。
Q4. 総会では取締役全員の報酬の総額だけを決めています。形式基準はどう比べますか?
限度額の対象となる役員に払った給与の合計額と、決議した限度額を比べます(施行令70条1号ロ)。令和4年7月1日裁決では、代表取締役の決定書の金額は限度額と認められませんでした。合計額は総会の枠内とされ、処分の全部または一部が取り消されています。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法34条1項・2項、法人税法施行令70条1号、タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」、国税不服審判所の平成29年4月25日・令和4年7月1日の各裁決の内容を扱っています。紹介した裁決は、いずれも当時の規定による事案です(令和4年7月1日裁決は、令和3年政令第39号による改正前の施行令70条による事案です)。定期同額給与の改定時期と臨時改定事由・業績悪化改定事由の細目、事前確定届出給与と業績連動給与の要件、使用人兼務役員の範囲と使用人分の給与の扱い、役員退職給与の過大判定(施行令70条2号)、家族の非常勤役員の報酬、隠蔽・仮装経理による役員給与(法人税法34条3項)、経済的な利益の扱い(同条4項)、同業類似法人の役員給与の具体的な水準、否認による法人税額の増加額と加算税・延滞税、社長個人の所得税・住民税・社会保険料の額、会社法上の報酬決議の手続は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、職務に対して相当な報酬額は会社ごとの事実によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(70条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平成29年4月25日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/JP/107/06/index.html
- 国税不服審判所 公表裁決事例(令和4年7月1日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/JP/128/04/index.html
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