法人税・節税

役員退職金で赤字になった期の欠損金
繰越控除・繰戻し還付と支給時期

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 欠損金が出るのは退職金が損金になる期です(決議等で額が確定した期か、払って損金経理した期)
  • 繰越控除は青色申告の年の欠損金が対象で、その後の毎期の申告と帳簿の保存が要件です
  • 前期の法人税の繰戻し還付は、中小企業者等が続けた青色申告と期限内の申告・同時の請求で使えます
  • 退職金の不相当に高額な部分は損金にならず、欠損金額も小さくなります

まず結論:退職金で出た赤字は、繰越控除か繰戻し還付で使います

役員の退任の期に退職金を払うと、決算が赤字になることがあります。

相当な額の役員退職金は、損金(税金の計算で差し引ける費用)になるためです。

損金が益金(税金の計算での収益)を上回った部分は、欠損金額として残ります(法人税法2条19号)。

使い道は、翌期以降の所得から引く繰越控除と、前期の法人税が戻る繰戻し還付の2つです。

繰戻し還付を使えるのは、原則として中小企業者等です(租税特別措置法66条の12)。

どちらにも青色申告などの要件があり、欠けると使えません。

退任の期は、退職金で決算が赤字になることがあります
退任の期は、退職金で決算が赤字になることがあります

欠損金が出るのは、退職金が損金になる事業年度です

どの期に赤字が出るかは、退職金を損金にする時期で決まります。

退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

(法人税基本通達9-2-28)

損金経理とは、決算書で費用として処理することです。

3月決算の会社が6月の株主総会で額を決めれば、原則は6月を含む新しい期の損金です。

タックスアンサーNo.5208は、取締役会の内定額の未払計上を、その時点の損金と認めていません。

決議の日や支払の日がどの期に入るかで、赤字の出る期が変わります。

決議と規程の整え方は、役員退職金規程の記事で扱っています。

繰越控除:青色申告の年の欠損金は、翌期以降10年の所得から引けます

欠損金額は、その後の事業年度の所得から差し引けます(法人税法57条1項)。

差し引く期の開始の日前10年以内に始まった事業年度の欠損金額が対象です。

平成30年4月1日前に開始した事業年度の分は、繰越期間が9年です(タックスアンサーNo.5762)。

会社の区分各期に差し引ける上限
中小法人等(資本金1億円以下の法人など)その期の所得の金額まで
それ以外の法人(一定の例外あり)その期の所得の金額の50%まで

資本金5億円以上の法人などの100%子法人等は、中小法人等に入りません(No.5762)。

要件は次の3つです(57条10項・58条1項、No.5762)。

  • 欠損金が出た年に、青色申告書である確定申告書を出している
  • その後の各事業年度も、続けて確定申告書を出している
  • 欠損金が出た年の帳簿書類を保存している

青色申告でない年の欠損金額は、災害による損失の部分を除き、ないものとされます(58条1項)。

後の年は白色の申告でも構いませんが、申告しない年があると使えません。

青色申告の年の欠損金は、翌期以降の所得から差し引けます
青色申告の年の欠損金は、翌期以降の所得から差し引けます

繰戻し還付:中小企業者等は、前期の法人税を取り戻せます

欠損金を前の事業年度に繰り戻し、納めた法人税の還付を請求する制度です(法人税法80条1項)。

繰り戻す先は、欠損の期の開始の日前1年以内に始まった事業年度(以下、前期)です。

ポイント

還付金額=前期の法人税額×繰り戻す欠損金額÷前期の所得金額(タックスアンサーNo.5763)

繰り戻す欠損金額は、還付請求書に書いた額と、前期の所得金額が限度です。

請求には、次の3つがすべて必要です(80条1項・3項)。

  • 前期から欠損の期の前の期まで、続けて青色申告書である確定申告書を出している
  • 欠損の期の青色申告書である確定申告書を、提出期限までに出している
  • その確定申告書と同時に、還付請求書を出している

確定申告書が期限後でも、税務署長がやむを得ない事情を認めれば対象になります(80条3項)。

注意

中小企業者等は、資本金1億円以下の法人など(100%子法人等を除く)です。それ以外の法人は、令和10年3月31日までに終了する事業年度の欠損金に、繰戻し還付を使えません。清算中や解散などの場合の欠損金には、この制限がありません(措置法66条の12)。

繰り戻した欠損金は、翌期以降に繰り越す欠損金から除かれます(57条1項)。

全体像は、欠損金の繰越控除と繰戻し還付の記事にまとめています。

計算例:退職金の一部が高すぎると、還付や繰越が小さくなります

一部が損金にならないと、欠損金額が減り、還付や繰越の額が小さくなります。

計算例

前提(仮定):前期の所得2,000万円・法人税額400万円、当期の退職金を引く前の所得1,000万円

例1:退職金4,000万円の全額が、相当な額とされる場合

当期の所得 1,000万円 - 4,000万円 = △3,000万円(欠損金額3,000万円) 繰り戻す欠損金額 前期の所得2,000万円が限度 → 2,000万円 還付金額 400万円 × 2,000万円 ÷ 2,000万円 = 400万円 翌期以降に繰り越す欠損金額 3,000万円 - 2,000万円 = 1,000万円

例2:同じ退職金のうち1,500万円が、不相当に高額とされる場合

損金になる退職金 4,000万円 - 1,500万円 = 2,500万円 当期の所得 1,000万円 - 2,500万円 = △1,500万円(欠損金額1,500万円) 還付金額 400万円 × 1,500万円 ÷ 2,000万円 = 300万円 翌期以降に繰り越す欠損金額 0円

金額は一定の前提を置いた目安です(中小企業者等で要件を満たし、法人税のみ)。

不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項・施行令70条2号)。

還付に回す分と、翌期以降に繰り越す分を分けて考えます
還付に回す分と、翌期以降に繰り越す分を分けて考えます

欠損金が使えなくなる形は、高すぎる額・期限・申告の空白です

欠損金が思ったとおりに使えない主な形は、次の5つです。

  • 退職金の一部が不相当に高額とされる ― 欠損金額が小さくなります(例2)。
  • 内定額を前の期に未払計上する ― その期の損金にならず、赤字の出る期がずれます(No.5208)。
  • 欠損の期の申告書が期限に遅れる ― 原則として、繰戻し還付を使えません(80条3項)。
  • 後の期に申告しない年がある ― 繰越控除の要件を欠きます(57条10項)。
  • 10年のうちに所得が出ない ― 10年を過ぎた欠損金額は差し引けません(57条1項)。

補足

国税不服審判所の裁決を2件挙げます。平成6年6月24日裁決では、欠損の期の申告書に欠損金額の記載がなく、還付請求書も期限後でした。後の更正で欠損金額が認められても、還付請求は要件を満たさないとされました。平成20年3月14日裁決は、連続した申告かを、繰越控除を使う年の申告時点で見るとしました。その時点で無申告の年があれば、後から出しても要件を欠きます。

退職金の期の赤字は、その期の申告書の出し方まで含めて考えます。

支給の時期は、前期の法人税と翌期以降の所得の見込みで考えます

どの期の損金にするかで、欠損金の使われ方が変わります。

繰戻し還付で戻るのは、前期の法人税額までです。

繰越控除は、翌期以降10年のうちに所得が出た期に差し引かれます。

会社をたたむなら、繰り越した欠損金を使う所得が出ないこともあります。

自社株の評価への影響は、退職金を払った期の自社株の評価の記事で扱っています。

退任の時期は、前後の期の所得を並べてから決めます。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

退任の前に、ご自身で確かめられるのは次の4点です。

  1. 前期の申告書で、所得金額と法人税額を確かめる
  2. 青色申告の承認を受け、毎期続けて申告しているかを確かめる
  3. 決算月・退任の予定日・株主総会を開く時期を書き出す
  4. 翌期以降の利益の見込みを、試算表をもとに並べる

ここから先は、会社ごとの事実で判断が分かれます。

退職金の相当な額、決議と支払の時期、繰り戻す額の決め方などです。

退任の時期と前後の期の所得を並べて検討します
退任の時期と前後の期の所得を並べて検討します

税理士が入ると変わるのは、退職金の期と欠損金の使い道の見通しです

小松公認会計士・税理士事務所では、退任の前から次の作業を行います。

  • 損金にする期ごとに、前後の期の所得と欠損金額・還付額を試算する
  • 業務に従事した期間などの事情に照らし、退職金の額の説明資料を作る
  • 株主総会議事録・支払日・損金経理を、損金にする事業年度とそろえる
  • 欠損の期の確定申告書と還付請求書を、提出期限までに同時に出す
  • 繰り越した欠損金額の残高を、毎期の申告で管理する

設計は会社ごとに違います。弊所で組み立てます。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 役員退職金で赤字になったら、その赤字はどうなりますか?

欠損金額として残ります(法人税法2条19号)。青色申告の年の欠損金額は、翌期以降10年の所得から差し引けます(57条・58条)。その後も毎期申告し、帳簿を保存していることが要件です。中小企業者等は、要件を満たせば前期の法人税の繰戻し還付も請求できます(80条)。

Q2. 繰戻し還付は、いつまでに請求すればよいですか?

原則として、欠損の期の青色の確定申告書を提出期限までに出します。それと同時に、還付請求書を出します(法人税法80条1項・3項)。前期から続けて青色申告であることも要件です。欠損金額の記載がない申告書と期限後の請求で、還付を否定した裁決があります(平成6年6月24日裁決)。

Q3. 決算月に退任した役員の退職金を、翌期の株主総会で決めました。どの期の損金ですか?

原則は、決議等で額が具体的に確定した日の事業年度、つまり翌期です(法人税基本通達9-2-28)。支払った期に損金経理をすれば、その期の損金にもできます。取締役会の内定額を前の期に未払計上しても、その期の損金になりません(No.5208)。

Q4. 退職金に高すぎる部分があると、欠損金はどうなりますか?

不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項・施行令70条2号)。欠損金額は損金が益金を超える部分なので(2条19号)、欠損金額も小さくなります。繰越控除や繰戻し還付の額は欠損金額をもとに計算するため、変わることがあります。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法2条19号・34条2項・57条1項・10項・11項1号・58条1項・66条5項2号・80条1項・3項・9項、法人税法施行令70条2号、租税特別措置法66条の12、法人税基本通達9-2-28、国税庁タックスアンサーNo.5208「役員の退職金の損金算入時期」・No.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」・No.5763「欠損金の繰戻しによる還付」(いずれも令和8年4月1日現在法令等)、国税不服審判所の平成6年6月24日・平成20年3月14日の各裁決の内容を扱っています。役員退職給与の相当な額の算定方法(功績倍率法など)、分掌変更・分割支給・退職年金の扱い、解散・清算中・事業の全部の譲渡があった場合の繰戻し還付の手続、災害損失欠損金額、更生手続・再生手続中の法人や設立後間もない法人の損金算入限度額の特例、欠損等法人の制限、グループ通算制度、地方法人税・住民税・事業税など法人税以外の税の扱い、還付加算金、自社株の評価、受け取る役員の退職所得の課税、更正があった場合の手続と加算税・延滞税は扱っていません。紹介した裁決は当時の規定による事案です(当時の法人税法81条は、見出しが現在の80条と同じ「欠損金の繰戻しによる還付」です)。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の欠損金額と還付額は会社ごとの事実によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

役員退職金を払う期の赤字、使い道を決算の前に確かめませんか

役員退職金を損金にした期に赤字が出ると、その欠損金は翌期以降10年の繰越控除に使えます。中小企業者等なら、前期の法人税の繰戻し還付も請求できます。ただし、欠損の期の青色申告と、その後の毎期の申告と帳簿の保存が要件です。繰戻し還付には、前期から続く青色申告と、期限内の申告と同時の請求も要ります。不相当に高額な部分は損金にならず、欠損金も小さくなります。代表税理士が、損金にする期ごとの試算と、議事録・支払日の整理を行います。申告書と還付請求書の提出まで、通して対応します。退任の時期を決める前の段階でご相談ください。

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公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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