この記事のポイント
- 損金になるのは相当であると認められる金額まで。規程は「相当」を説明する材料です
- 計算方法は功績倍率法と1年当たり平均額法の2つ。どちらも比較法人が要ります
- 損金算入の時期は株主総会の決議等で額が確定した日の事業年度です
- 規程があっても決議がない・算定根拠がないと、否認の材料になります
まず結論:規程は「相当な額」を説明する材料です。規程だけでは決まりません
役員退職金規程を作れば、それだけで損金算入が認められるわけではありません。
損金になるのは、退職給与として「相当であると認められる金額」までです。
規程は、その「相当」を税務署に説明するための材料です。
ただし、規程がなく算定根拠もない会社は、争いになると不利に働きます。
令和5年12月14日の国税不服審判所の裁決がその例です。
その会社には退職金給付規定がなく、金額は個別に決めていました。
算定根拠を尋ねられても回答はなく、支給額は相当額の7倍超と認定されました。
功績倍率法の基本は、役員退職金の損金算入の考え方で先に押さえてください。

損金の枠組みは法人税法34条2項と施行令70条2号です
役員退職金は、不相当に高額な部分だけが損金になりません。
法人税法34条2項は、役員給与のうち「不相当に高額な部分の金額」を損金不算入と定めています。
施行令70条2号は、3つの事情に照らして「相当」な金額を超える部分と定めています。
ポイント
①その役員が会社の業務に従事した期間
②その退職の事情
③同種の事業を営み、事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給の状況
(法人税法施行令70条2号)
③が要るため、自社の規程だけで「相当」を証明することはできません。
だからこそ、規程の倍率や単価には「なぜその数字か」の説明が要ります。
計算方法① 功績倍率法 ― 最終報酬月額×在任年数×倍率
功績倍率法は、退職直前の給与を基礎に、在任期間と職責に応じた倍率を掛ける方法です。
通達の定義は次のとおりです。
本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法をいう。
(法人税基本通達9-2-27の3 注)
この方法で支給する退職給与は、業績連動給与には当たりません。
審判所は、同業類似法人の功績倍率の平均値を使う「平均功績倍率法」を用います。
令和5年12月14日裁決は、この方法を法の趣旨に最も合致する合理的な方法と述べました。
比較法人は、同じ国税局管内・同じ業種で、売上が10分の1から10倍の範囲などで抽出されました。
4社の平均功績倍率は1.09倍でした。
一方、昭和59年12月25日裁決では、倍率3倍の計算に不合理はないとされています。
平成19年11月15日裁決では、3社の平均値1.9が採用されました。
注意
1.09倍・1.9倍・3倍は、いずれも個別事案の認定です。一律の相場があるわけではありません。平成19年裁決も、他の裁決例と違うだけで平均功績倍率が不相当に低率とはいえない、と述べています。倍率は御社の同業類似法人次第です。
課税実務では、売上などが自社の2分の1以上2倍以下の法人を選ぶ「倍半基準」が一般的です。
税務大学校の論叢が、そう紹介しています。

計算方法② 1年当たり平均額法 ― 最終報酬月額を使わない方法
1年当たり平均額法は、比較法人の「退職給与÷在任年数」の平均に、自社役員の在任年数を掛ける方法です。
最終報酬月額を使わない点が、功績倍率法との違いです。
昭和61年9月1日裁決が、この方法を採用した事例です。
原処分庁は、最終報酬月額を考慮しない方法は合理性を欠くと主張しましたが、退けられました。
最終報酬月額が貢献を反映せず低額である特段の事情があれば、この方法がより合理的とされました。
退任前に業績悪化で報酬を大きく下げていた場合などが、この場面に当たります。
補足
「業務に従事した期間」は、原則として役員の在任期間です。令和5年裁決では、実質的に経営に従事していた期間も通算するとされました。一方、平成19年裁決では、別の法人での在任期間は加算できないとされています。
同じ前提で3つの数字が出ます ― 計算例
方法と倍率が変わると、同じ役員でも金額が大きく動きます。
計算例
例:最終報酬月額80万円・役員在任20年(仮の前提)
功績倍率法(規程の倍率3.0):80万円 × 3.0 × 20年 = 4,800万円 1年当たり平均額法(比較法人の平均が仮に年200万円):200万円 × 20年 = 4,000万円 平均功績倍率1.09倍(令和5年裁決):80万円 × 1.09 × 20年 = 1,744万円いずれも仮に置いた数値による目安です。倍率や平均額は個社ごとに異なります。
この3つの差が、そのまま「不相当に高額な部分」と判定されるリスクの幅です。
規程で3.0と決めても、比較法人の平均が1.09なら差額が争点になります。
なお、支給は自社株の評価にも影響します。

損金算入の時期は「株主総会の決議等で額が確定した日」です
規程があっても、損金にできる時期は決議で決まります。
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。
(法人税基本通達9-2-28)
取締役会で内定した金額を未払金に計上しても、損金にはなりません。
国税庁タックスアンサーNo.5208も、この点を明記しています。
平成13年11月13日裁決は、規定が「社員総会の承認を得て支給する」と定めていた事案です。
理事会の承認だけでは、退職慰労金の債務は確定しないとされました。
規程に「株主総会の決議による」と書いた以上、決議を省略することはできません。
規程に書く項目は次の表です。
| 項目 | 書く内容 | 税務上の意味 |
|---|---|---|
| 支給対象・退任の事情 | 任期満了・辞任・死亡など | 施行令70条2号の「退職の事情」 |
| 計算方法 | 功績倍率法か1年当たり平均額法か | 9-2-27の3注の「倍率」の根拠 |
| 基礎となる給与と期間 | 最終報酬月額・在任年数の数え方 | 「業務に従事した期間」の確定 |
| 決定機関 | 株主総会の決議で額を確定する旨 | 9-2-28の損金算入時期 |
| 支給方法・時期 | 一時金か分割か・支給日 | 支払日基準の損金経理との整合 |
よくある失敗は「決議がない」「倍率だけが根拠」「時期のずれ」です
否認や指摘を受ける会社には、共通する型があります。
- 規程はあるが決議がない。取締役会の内定だけで未払計上し、損金算入の時期を誤ります。
- 功績倍率だけを根拠にする。規程の3.0に比較法人の裏づけがなく、差額が不相当に高額な部分になります。
- 退任と支給の時期がずれる。平成19年裁決では、死亡退任から1年以上後の支給決議が不自然と評価されました。
3つに共通するのは、「相当な額」と「確定した日」を説明する資料がないことです。
在職中に一部を払う打切支給の退職金は、別の記事で整理しています。

ここまではご自身で、ここからは個別判断です
ご自身でできるのは、規程の骨組みと社内資料の整理までです。
用意するのは、定款、役員の就任日が分かる登記事項、役員報酬の推移、退任予定の時期の4点です。
前の表の5項目について、御社の方針を書き出してください。
ここから先は個別判断です。
倍率を何倍にするか、どちらの計算方法を採るかは、比較法人の抽出次第で結論が変わります。
税理士が入ると何が変わるか
変わるのは、「相当な額」と「確定した日」を裏づける資料が残ることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、次の作業を行います。
- 役員報酬の推移と在任期間を整理し、功績倍率法と1年当たり平均額法の両方で試算します。
- 規程の倍率・単価について、施行令70条2号の3つの事情に沿った説明文書を作成します。
- 株主総会の議事録と支給日を、損金算入の事業年度と整合させます。
- 支給年度の決算書と申告書に反映し、自社株評価への影響も同時に確認します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員退職金規程を作れば、損金算入は認められますか?
規程だけでは決まりません。損金になるのは、業務に従事した期間・退職の事情・同業類似法人の支給状況に照らして相当であると認められる金額までです(法人税法施行令70条2号)。規程はその説明材料です。
Q2. 功績倍率は何倍までなら大丈夫ですか?
一律の基準はありません。昭和59年裁決では3倍が不合理でないとされ、平成19年裁決では平均1.9、令和5年裁決では平均1.09が用いられました。いずれも個別事案の認定で、御社の同業類似法人次第で変わります。
Q3. 1年当たり平均額法はどんなときに使いますか?
最終報酬月額が在職中の貢献を反映せず低額であるなどの特段の事情があるときです。昭和61年9月1日裁決は、そのような場合には最終報酬月額を基礎としない1年当たり平均額法がより合理的としました。
Q4. 取締役会で金額を決めて未払計上すれば、その期の損金になりますか?
なりません。損金算入の時期は株主総会の決議等により額が具体的に確定した日の属する事業年度です(法人税基本通達9-2-28)。支払った日の事業年度に損金経理した場合は、それも認められます。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法34条1項・2項、法人税法施行令70条2号、法人税基本通達9-2-27の3、9-2-28、国税庁タックスアンサーNo.5208「役員の退職金の損金算入時期」、国税不服審判所の令和5年12月14日裁決、平成19年11月15日裁決、昭和61年9月1日裁決、昭和59年12月25日裁決、平成13年11月13日裁決、税務大学校論叢第111号の内容を扱っています。役員の分掌変更による退職給与の要件(法人税基本通達9-2-32)、退職所得の所得税・住民税の計算、役職別の具体的な功績倍率、同業類似法人の具体的な抽出手順、死亡退職金や弔慰金の取扱い、法人税率を用いた税額の試算は扱っていません。記事中の計算例は制度の理解のための仮の設例であり、一定の前提を置いた目安です。実際の適正額を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5208「役員の退職金の損金算入時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第7款「退職給与」(9-2-27の3・9-2-28)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
- 国税不服審判所 令和5年12月14日裁決https://www.kfs.go.jp/service/JP/133/09/index.html
- 税務大学校論叢 第111号「過大役員給与の損金不算入額算定に関する一考察―役員退職給与を中心に―」https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/111/04/index.htm
- e-Gov法令検索 法人税法施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
退職金規程は、退任の数年前に作るのが説明しやすくなります
役員退職金の適正額は、規程の倍率だけでは決まりません。同業類似法人の支給状況、最終報酬月額の妥当性、在任期間の数え方が組み合わさって決まります。規程を作る段階で功績倍率法と1年当たり平均額法の両方を試算し、株主総会の決議と支給日を損金算入の事業年度に合わせておくと、退任時に慌てずに済みます。代表税理士が御社の役員報酬の推移から伺い、規程の設計から申告書への反映まで通して対応します。
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