この記事のポイント
- 自社株の評価は会社規模の区分から始まります。大会社は類似業種比準方式です
- 類似業種比準方式は配当・利益・簿価純資産の3つで比べ、大会社は0.7を掛けます
- 1株当たりの利益金額は負数のときは0とします(評価通達183(2))
- 純資産価額方式では引当金は負債に含まれません。確定した退職手当金等は含まれます
まず結論:役員退職金は「評価の計算のどこに入るか」で効き方が変わります
役員退職金の支給は、自社株の評価に関係します。
ただし「払えば評価が下がる」と一言で言える話ではありません。
取引相場のない株式の評価は、会社の規模によって使う方式が決まります。
大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用です。
退職金はこのうち、類似業種比準方式の「1株当たりの利益金額」に関係します。
純資産価額方式では、負債にどう入るかという論点になります。
どちらも、支給の時期と評価の基準日との前後関係で結論が変わります。
この記事では評価の仕組みを先に見てから、退職金がどこに効くのかを追います。
退職金そのものを損金にできるかどうかは別の論点です。役員退職金の損金算入と功績倍率で扱っています。

自社株の評価は「会社の規模」を決めるところから始まります
評価は、株を取得した人が誰かと、会社の規模を判定するところから始まります。
同族株主等が取得した株式は、原則的評価方式で評価します。
会社は、総資産価額、従業員数および取引金額により、大会社・中会社・小会社に区分されます。
区分が決まると、原則として使う方式も決まります。
| 会社の区分 | 原則的な評価方式 | 考え方 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 類似業種の株価に、自社の3つの数字の比を反映させて計算します |
| 中会社 | 大会社と小会社の評価方法を併用 | 2つの方式を組み合わせて計算します |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 会社の資産と負債を原則として相続税の評価に洗い替えて計算します |
同族株主以外の株主が取得した株式は、配当還元方式で評価します。
これは一定の利率(10パーセント)で配当を割り戻す方法です。
根拠は財産評価基本通達178から189-6までです(国税庁タックスアンサーNo.4638)。
方式そのものの全体像は取引相場のない株式の3つの評価方式にまとめています。
類似業種比準方式は「配当・利益・簿価純資産」の3つで比べます
類似業種比準方式は、自社の3つの数字を類似業種の数字と比べる方法です。
比べるのは、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額(帳簿価額)です。
それぞれの中身は財産評価基本通達183に定めがあります。
ポイント
配当金額は、直前期末以前2年間の剰余金の配当金額の合計額の2分の1です。特別配当、記念配当等の名称による配当金額のうち、将来毎期継続することが予想できない金額は除きます。
利益金額は、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額が基になります。ここから非経常的な利益の金額を除きます。そのうえで、益金に算入されなかった剰余金の配当等の金額を加算します。損金に算入された繰越欠損金の控除額も加算します。その金額が負数のときは0とします。
純資産価額(帳簿価額)は、直前期末における資本金等の額と利益積立金額に相当する金額の合計額です。
3つとも「直前期末」を基準に計算します。相続や贈与があった日の数字ではありません。
利益金額は、納税義務者の選択により直前期末以前2年間の平均とすることもできます。
最後に一定の割合を掛けます。大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5です(評価通達180(2))。

数値例:1株当たりの利益金額が0になるとどう動くか
3つの要素を平均する仕組みなので、1つが0になれば平均が下がります。
どのくらい動くのかを、仮の数字で追ってみます。
計算例
例:大会社・1株当たりの資本金等の額50円・発行済株式数(50円換算)20万株
類似業種の株価A=300円・配当金額B=5円・利益金額C=25円・純資産価額D=250円(いずれも仮に置いた数値) 評価会社=配当金額2円・利益金額150円(課税所得3,000万円 ÷ 20万株)・簿価純資産価額300円 (2 ÷ 5 + 150 ÷ 25 + 300 ÷ 250)÷ 3 = (0.4 + 6 + 1.2)÷ 3 = 2.5333… 2.5333… × 300円 × 0.7 = 532円同じ会社が直前期に役員退職金5,000万円を支給し、課税所得が負数になった場合
評価通達183(2)により1株当たりの利益金額は0円 (0.4 + 0 + 1.2)÷ 3 = 0.5333… 0.5333… × 300円 × 0.7 = 112円A・B・C・Dは説明のために仮に置いた数値です。
実際の数値は、国税庁が業種目ごとに別に定めて公表しています。
上の金額は一定の前提を置いた目安であり、実際の評価額を示すものではありません。
注意
この例をもって「退職金を払えば評価は下がる」と考えることはできません。評価通達183(2)の括弧書は「非経常的な利益の金額を除く」と定めています。非経常的な費用を除く旨の定めは、同項には置かれていません。もっとも、金額の大きさ、支給の時期、他の2つの要素の動きは会社ごとに違います。当てはめには個社ごとの判断が必要です。

純資産価額方式では「負債に入るかどうか」が論点です
純資産価額方式では、退職金は負債の範囲の問題になります。
計算は、課税時期における各資産を通達の定めで評価するところから始まります。
課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等は、通常の取引価額によります。
そこから課税時期における各負債の合計額を引きます。
さらに、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を引きます。
評価差額とは、相続税評価額による純資産額と帳簿価額による純資産額との差額です。
その差額に38パーセントを掛けた金額を控除します(評価通達186-2)。
38パーセントは、法人税、事業税、道府県民税および市町村民税の税率の合計に相当する割合です。
最後に発行済株式数で割ります。この株式数は直前期末ではなく課税時期の数です。
負債の範囲は評価通達186に定めがあります。
注意
引当金は負債に含まれません。貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金および準備金に相当する金額は、負債から外れます。退職金の支払いに備えて引当金を積んでも、計算上の負債にはなりません。
一方で、負債に含まれるものも列挙されています。
被相続人の死亡により支給することが確定した退職手当金等は、負債に含まれます。
相続人その他の者に支給する功労金その他これらに準ずる給与も同じです(評価通達186(3))。
ほかに、課税時期の属する事業年度の法人税・消費税・事業税・道府県民税・市町村民税も含まれます。
事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する未払いの金額が対象です。
課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税のうち未払いの金額も同じです。

順番によって結論が変わります
ここまでの話は、すべて「いつの数字か」で結論が変わります。
類似業種比準方式が見るのは直前期末です。
純資産価額方式が見るのは課税時期です。
役員の退任、退職金の支給が確定した日、相続や贈与の日は、それぞれ別の日に起こります。
同じ金額でも、どの日に何が確定していたかで、計算に入るかどうかが変わります。
会社規模の区分が動けば、掛ける割合も0.7・0.6・0.5と変わります。
ご自身でできるのは、ここまでの仕組みを知り、直前期末の数字を並べてみるところまでです。
どの方式でどう動くか、どの順番で進めるかは、そこから先の個別の判断になります。
小松公認会計士・税理士事務所では、決算書と株主名簿を拝見して評価の試算からお手伝いしています。
株の移し方まで含めて考えるときは、事業承継税制の検討も併せて行います。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員退職金を払えば自社株の評価は下がりますか?
一律には言えません。評価通達183(2)の括弧書は課税所得金額から非経常的な利益の金額を除くと定めており、非経常的な費用を除く定めは同項に置かれていません。金額・時期・他の要素の動きで結論が変わるため、個社ごとの判断が必要です。
Q2. 類似業種比準方式は、いつの決算の数字を使いますか?
配当金額は直前期末以前2年間、利益金額は直前期末以前1年間、純資産価額(帳簿価額)は直前期末が基準です。利益金額は納税義務者の選択により、直前期末以前2年間の平均とすることもできます(評価通達183)。
Q3. 退職給与引当金を積めば、純資産価額の計算で負債になりますか?
なりません。評価通達186は、貸倒引当金・退職給与引当金・納税引当金その他の引当金および準備金に相当する金額は負債に含まれないと定めています。被相続人の死亡により支給することが確定した退職手当金等は、負債に含まれます。
Q4. 会社の規模はどうやって決まりますか?
総資産価額、従業員数および取引金額により、大会社・中会社・小会社に区分します(国税庁タックスアンサーNo.4638)。大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用になります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国税庁タックスアンサーNo.4638「取引相場のない株式の評価」(令和8年4月1日現在法令等)と、財産評価基本通達180(類似業種比準価額)、183(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)、185(純資産価額)、186(純資産価額計算上の負債)、186-2(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)の内容を扱っています。類似業種の株価および1株当たりの配当金額・年利益金額・純資産価額の実際の数値、評価会社の事業が該当する業種目の判定、中会社の併用割合、比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社など特定の評価会社に当たるかどうかの判定、同族株主の判定、配当還元方式の具体的な計算、役員退職金の損金算入の可否・功績倍率・分掌変更の取扱い、相続税および贈与税の税率、非上場株式等についての納税猶予(事業承継税制)の要件は扱っていません。記事中の計算例はA・B・C・Dを含めて仮に置いた数値による設例であり、実際の評価額を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 180〜184(類似業種比準価額・評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/03.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 185〜188-6(純資産価額・純資産価額計算上の負債)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 178・179(取引相場のない株式の評価上の区分・評価の原則)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/02.htm
自社株は、動かす前に評価の試算をしておくと判断が変わります
取引相場のない株式の評価は、会社規模の区分、直前期末の数字、課税時期の資産と負債という複数の要素が組み合わさって決まります。役員退職金のように大きな支出があった期は、どの要素がどう動いたのかを一度整理しておく価値があります。代表税理士が決算書と株主名簿を拝見し、評価の試算と、そこから先の進め方の整理まで通して対応します。
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